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43.噂

「どうもありがとうございました」


 そう感謝の言葉を述べているのは大商人パーソだ。今回の買取品がこの世界では高価な物とされている塩とオールスパイスを30kgと35kgずつ手に入って懐が暖かくなってホクホクの満面の笑みを浮かべていた。


「いや、こっちこそかなりの量の物を買い取ってくれてありがとう」


「はっはっは。あれは問題ありませんよ。買い手なんぞいくらでもいますからな」


 パーソは笑いながらそう言った。


「・・・それは何よりだ」


 シンはここの売り手であるが、あんな大量の塩とオールスパイスを買い取って彼の懐が大ダメージを負っているのではと心配していた。いくら金が欲しいからと言って相手の懐の金を完全に失くしてしまうと下手をすればその地での経済が崩壊しかねない、と考えていたからだ。だがそんな事は無く満面の笑みでこちらを微笑みかけるパーソを見て少し安堵する。

 パーソは窓の外を見て少し心配そうに言った。


「そういえば、最近慌しくなってきましたなぁ・・・」


「え?」


「この町ですよ。帝都では軍拡しているそうですが、最近では冒険者が急にギルドをやめて「帝国兵士になる」と言い出しまして・・・」


「・・・・・」


 ネネラが言っていた様にここ最近では冒険者の兵士への転職が急に多くなってきている様だ。


「それに・・・」


「それに?」


「最近では奴隷を戦争で活用できるようにと戦闘訓練をさせているという噂が・・・」


「「「・・・・・」」」


 それを聞いたエリー達。顔が強張ったり、顔色がまた優れなくなったりしていた。エリーに至ってはシンの陰に隠れるようにして身を寄せていた。


「あの・・・?」


 パーソはシン以外の子供達の様子がおかしい事に気付いた。


「・・・大丈夫だ」


「そ、そうですか?」


 シンは取敢えず何でもないように言ったがパーソの目はまだ皆の方へ向いていた。そんなパーソの様子を見ていたシンは話しかけた。


「最後に聞きたい事がある」


「何でしょう?」


「奴隷についてどう思う?」


「「「・・・!?」」」


「・・・・・・」


 シンは神妙な顔つきでパーソに尋ねる。そんな質問したシンに皆の驚愕の視線が突き刺さる。

 シンがこの質問をしたのには理由がある。パーソの目付きだ。パーソの目付きが「どうしたのだろう」という疑問の目ではなく、眉間に皺をよせ、目を細め、まるで心配そうに見ていたからだ。

 シンはさっきの奴隷の話で明らかに様子がおかしくなった皆を見たパーソが赤の他人である皆を心配するのは「奴隷」という単語に何か引っかかりを感じて思わず表情に出たのでは。

 そう考えこの質問をしてみたのだ。




 するとパーソは静かに目を瞑り


「・・・そうですな、確かに大規模農場や鉱山であれば何かと便利ではございますし、多くの買い手がつくきますので大変な需要がありましょう」


「・・・・・・」


 パーソの言葉に何も反論することなく只々黙ってパーソの話に耳を傾けるシンと皆。


「ですが私は利用しようとは思いません」


 意外だった。皆も驚きの表情になる。商人ならタダで労働できる奴隷を活用してもおかしくは無かった。だがパーソは「利用したくない」と言った。


「・・・理由を聞いても?」


 パーソは頷き答える。


「まず、奴隷というのは人間性をまるでございませんので、自益心を失われています。その為、技術等の向上や責任感が全くございません。長い目で見れば全く持って期待ができません」


 シンの目は少しずつ見開かれた。つまり驚いていた。


「・・・続けてくれ」


「人間にはあらゆる可能性がございます。それが商人であったり、兵士であったり、百姓、絵描き・・・。それは自分にとっても他人にとっても良くも悪くも返ってきます。その可能性を踏みにじる事に私は容認できません」


 シンは驚き目を大きく見開く。エリー達も驚き思わず見入っていた。

 シンの世界では歴史上において「奴隷」という単語が活発にあったのはやはり古代だろう。最もも印象深いのは古代ローマや古代ギリシャ、アラブ人の奴隷貿易だろう。

 奴隷は、自分の「労働力」を自分のために利用することができない。自分のために働く事ができない奴隷の「労働力」は、彼或いは彼女を「購入」し、「所有」する者のためだけに利用される。


 少なくとも法律の上では「自由人」の労働が優勢だった帝政期の古代ローマでさえ、奴隷たちの「不自由な」労働を基盤にした社会があった為、奴隷労働は決して無視できない比重を占めていた。


 古代ギリシャ時代では女性の地位が低かった。所謂、良家の子女は表にでず、酒間の取り持ちには出る事は無い。随って、奴隷女がその役目を担い、主人が教育を仕込み、貸したり売ったりした。勿論、肉体もそれに含まれる。


 イスラム圏においては、コーラン出来事章 (クルアーン)10節から24節にて、死後の世界では乳と蜜の流れる天国で70人の美しい処女達を好きに出来るとある(詳しい事は省く)。その為なのかイスラム社会ではアラブ人の奴隷貿易が自然と浸透していた時代があった。


 しかし、奴隷を売買するシステム、所謂奴隷資本には奴隷資本の高コスト体質や奴隷たちの劣悪な倫理性、奴隷を処分する事の難しさ等々の理由により奴隷資本はあっと言う間に消えてしまったのだ。


 少なくとも奴隷がまだ当たり前だというこの世界の、この時代にパーソは何となくではあるが奴隷資本と言うものに疑念と違和感を持ち、それなりの答えを持っていたのだ。つまりパーソは勘とは言え、これからの資本についての先見の明を持っていた。


 シンはパーソのその能力に驚いていた。エリー達、皆はパーソの実力と人間性の公平さの理解があり、これからの世界の事について、思わず聞き入っていた。


 パーソは皆が自分の方へ注目を集めていることに気が付くと


「あ、あの、そんな大した話じゃないので」


 とはにかむ様な照れくささが出て来たのかモジモジしていた。恰幅の良い50代のおじさんがそんな様子にククとココが


「あははははははは!」


 と笑う。


「ぷっは」


 今度はニックが噴き出す。


「「「あはははははははははははははははははは!」」」


 遂には釣られるかのように笑い始めた皆。パーソは少し顔が赤くなり何か複雑な気持ちになり頭をかく。そんな中シンはパーソに声を掛けた。


「パーソさんの意見は良いと思うよ」


 素直にパーソの意見を評価する。その言葉を聞いたパーソは


「それは良かったです」


 とにこやかになる。


「では、俺達は行く所があるからここで」


「そうですか、では玄関までお見送り致します。」


 階段を下り、パーソ商会の商館から出る。


「じゃあ」


「はい、それから・・・」


「?」


 急に神妙な顔をしたパーソ。パーソは皆の方へ視線を向けてシンにこう言った。


()()()()()()()()()でくださいね」


 パーソは何が言いたいのか、シンは何となくわかり


「ああ」


 と力強い返事をした。それを聞いたパーソは再びにこやかになり


「お気をつけて」


 とパーソはシン達を見送った。

 町の中に出て今度はナーモ達に服と武器を買い与えるべく市場へ向かった。




 市場は賑わっており、さっきの通りの様に奴隷の荷車や奴隷の売買は無く、食べ物や服、魔法に関する書物やアイテム、武器が売っていた。そんな通りだからなのか皆の表情は明るい。あらゆる物が売っているため目移りする皆。

 そんな中シンはパーソの事を考えていた。


(パーソという男は本当に一介の商人なのか・・・?)


 シンはパーソのこの世界ではとんでもない程の先見の明を持っている事にパーソが商人ではなく実は経済学者か経済に関わる政治家何かかと考えていた。


「シン兄、シン兄!」


 ココの呼び声で我に返るシン。


「見るのは良いが、はぐれるなよ?」


「「「「はーい」」」」


 シンはまるで修学旅行で引率する先生の様だった。


「・・・シン兄、まず何を買うの?」


「取敢えずは服かな?地味な色にしてるとは言えそれは目立つからな・・・」


 エリー達の服は着心地の良いジャージだった。色は目立たないように寒色系にしているがやはりこの世界の子供が着るには目立ってしまう。そのためまず先に向かうのは服屋だった。

 色合いが気に食わなかった女子組は「やっとこの服から解放される」と心の中では安堵する。

 そんなシン達の存在に気が付いて声を掛けて来た。


「あ、シンさん」


 声を掛けて来たのはリースだった。


「ああ、確かリースさん・・・だったか?」


「はい」


 エリーはこの前の護衛してくれた事を思い出しお礼を言った。


「あ、この前の護衛ありがとうございました」


「いえいえ、あれは私達の不注意からのお詫びで行った事です。決して感謝されるような事は・・・」


 リースはグリフの一件で今でも申し訳ないとシン達には頭が上がらないようだった。シンはリースが騎士だった事を思い出し気になる事を聞いてみた。


「最近帝国の軍隊で冒険者から上がったやつが多いと聞いたがホントなのか?」


 シンのその言葉を聞いたリースは冷静に答える。


「不安を煽る様な事を申し上げてしまいますが、事実です」


 帝国が軍拡しているのは本当の事だったようだ。


「騎士である私にとって兵士になろうとしている人がたくさんいらっしゃるのは嬉しいのですが・・・」


 リースは続けて何か言いたそうにしていた。他に何かあるのかとシンは


「どうした?」


 と訊ねる。


「・・・実は最近入ってくる元冒険者の方々が「素晴らしき帝国の繁栄の為に入りました」って言う人が多いのです」


「それのどこが変なのですか?」


 とシーナが尋ねる。横でニックがうんうんと頷く。


「この国出身の人が帝国の為に入るのならわかりますが、他所から来た方々がそう言うんですよ?それも急に」


 帝国領に入ってすぐに軍に入る。いくら何でも急すぎる。確かにこれは変だ。


「・・・そうか、教えてくれてありがとう」


「いえいえ、お役に立てるかどうか分からないものですが・・・」


 そう言ってリースと分かれるシン達。

 シンはこの場から去るリースの後ろ姿を見ながら、さっき聞いてきた事について考えていた。


(・・・考えている以上にヤバイとこに入ったかもしれないな)


 シンはなるべく早くこの帝国領から離れようと考え、皆の服を買いに行った。


実はこの次の話の上手くまとまっていません。ですので次話が投稿されるのがだいぶ先になると思います。楽しみで待って下さっている方々には大変申し訳ありませんがどうか気長に待って下さると作者の私としては大変うれしいです。


こんな小説ではございますが今後ともよろしくお願いします。

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