394.行くしかないか
ステラを見たシンは彼女が魔法が使える人物であり、その魔法は分身できるものであることを明瞭に思い出す。
「ああ、そういうことか・・・ってかなり距離あるだろ?向こうにステラがいるのか?」
「可能であればオオキミ武国のような海を隔てても問題なく活動しております」
「・・・魔法ってすごいな」
「恐れ入ります」
今いる場所とサクラの屋敷までかなり距離がある。そのことを考えればステラの魔法は便利で相当なものである。分身を作ることができるだけでなく、分身と本体とはかなりの距離があっても問題なく分身は動いている。
ステラの魔法に驚くシンにステラはペコリと会釈した。
「ここに持ってこれるってことはできるか?」
分身が遠い場所でも維持できるということはここまで持ってこさせるということもできると考えたシンはステラに尋ねた。
「可能でございますが、時間がかかります」
「1週間は・・・無理か?」
「一月はかかります。その上、時期を読み違えれば普段使う街道も危険な道になってしまいますので正直先ほどの一月もかなり怪しいかと・・・」
返答を聞いたシンは目元を細めて僅かな声で唸った。一月は時間がかかる。しかも交通の便は現代のように安全ではない。分身が何かあればここまでたどり着くことなどできない。それは避けたい。安全を考慮すれば人数が必要になるが・・・
「それにステラの分身は多く行動してこちらに向かうというのは注目に晒されてしまいます」
「・・・ああ、そうか。注目を浴びるということは関わりやすいから」
「はい、狙われやすいといえます」
目立つ。出向いてくれる分身が多くいれば当然目立つ。2人なら双子ってことである程度はどうにかできるが、それでも不安要素がある。3つ子となれば目立ってしまう。目立てば狙われやすくもなる。そのことを考えればやはり
「ってことは、俺から行くしかないのか・・・」
これに尽きる。向こうから出向くには安全や確実性が低い以上、こちらから出向く他ない。
「そういうことだ」
「しょうがない」
大きなため息をついて立ち尽くすシンにサクラは
「座ったらどうだ?」
と軽く促した。
「そうだな」
再びため息をついてからスゴスゴとサクラの対面のソファに座った。その様子を見ていたステラとアルバはシンの分のお茶を用意し始めた。
「・・・貴様はどう思っているんだ?」
「どう、というのはフタバさんのことか?」
「ああ」
「・・・・・」
シンは静かに頷いて口を開いた。
「フタバは間違いなく同郷の人間だ。ただ・・・」
「ただ?」
「俺たちがいた時代とはズレていた」
シンの答えにサクラは目元を細めた。
「時代が違うのか?」
「ああ、具体的な話は省くが持っていた物で身分証があったんだが、明らかに時代が違っていた」
シンの返答に「ふむ」と声をこぼして自分の記憶を頼りに言葉にするサクラ。
「・・・この世界ではフタバ夫人は40歳で亡くなったそうだ。それから20年ほど経っている」
「ああ・・・だが、俺たちの世界の時代からこちらに来ていた時代が同時並行であると考えればフタバさんは今40歳ということになる」
「何?」
シンが言いたい奇妙な点に把握できたサクラは思い返す。これまで出会ってきた日本人。自分の父親のこと。
あの人たちは日本のどういう時代でどこから来たのか。
そうしたふとした疑問が浮かんでいたサクラにシンは話を続けた。
「まだ分からないことが多いから何とも言えないが、こちらに来ている日本人が現代人だけではないのが分かった」
疑問がイメージとなって浮かんだのは
「あの2人はどうだ?」
葵と透だった。
「同じ年代から来ていた。同じ学校・・・学び舎ではないが」
その言葉を耳にしたサクラはシンに
「そういえばシンも16だったな」
ポツリとつぶやくように言った。
「ああ」
そう答えるシンにサクラは目元を細めて視線を下の方へ逸らして
「・・・自国で戦が絶えないのか?」
と尋ねた。
その言葉を口にしていたサクラの声には寂しさを感じさせるものだった。シンは首を横に振る。
「そういうわけではない。ただ・・・」
「ただ・・・?」
シンは徐に葵と透がいると思しき方向へ向いて目を細めた。
「俺はあの2人・・・他の日本人とは違う事情があるってだけだ」
「・・・・・」
静かに語るその声にはその者にしか分かり得ないような酷く重く、寄せ付けないものを感じさせる。
ハッキリ言えば勘だ。だが決して女の勘、というものではない。経験故の直観からくる直感。
こんな風に本人、もしくはその場に居合わせなければ味わうことができない、経験をしてきた者の雰囲気がある。そして覚えがありすぎる。
この世界は争いが絶えない。今日も多くの血が流れている。あちらこちらで少なくとも抗争や紛争のような争い事がある。だから戦争を経験してきた者が多くいる。そこから語られて出てくる言葉には重く苦しい印象のある声が多い。
自分自身もその争いの多い世界の住人だ。自身もその声を発していたことも多くある。
だからなのだろうか、シン のことを気になってしまうのは。
以前からの疑問が浮かんでくる。
この男は16にして、どれだけの修羅場を潜り抜けて来たらこのような雰囲気になってしまうのかと。
シンとサクラはアルバとステラが用意した、ティーカップに入った紅茶を口に運び、話題を変えて次の日の段取りを軽く話し、シンは部屋を後にした。
遅れて投稿になってしまい、申し訳ありません。
現在仕事面でもプライベート面でも酷く忙しいことになってしまい、体調があっという間に崩れてしまって寝込むことが多くなって、終い目には今回のように投稿が遅れてしまいました。
今後の事なのですが、仕事面、プライベート面、体調面の事を考えてしばらくの間、1カ月に1話ずつの投稿になります。
楽しみにされていた方々には大変申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。
今後とも「アンノウン ~その者、大いなる旅人~」をよろしくお願いいたします。
本当にすみません!