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389.領民

 ジムとデューリの家に別の年寄りが朝早くから訪問してきた。その年寄りは腰が曲がり、ヨボヨボの老人だった。その老人は腰こそ曲がっていたものの決して足取りが重くなく、杖を突いていなかった。名前は名乗らず、ただ訪問して早々シンに「ついてこい」と言ってきた。

 デューリから塩辛い干し肉と甘ったるいジャムを挟んだホットドックのように挟まれた軽食を受け取り、その老人に案内されながら朝食を摂った。そしてある場所に着いた。老人は着いたと同時に言葉通り煙のようにいなくなった。

 着いた先は集落はずれの鬱蒼とした森の手前だった。鬱蒼とした森だからできる事がある。日中でも暗く奥深いから入れば薄暗い。遠くからでも近くからでも分かりにくい森という当たり前にある自然なものだ。それゆえに身を隠すことができる。また戦闘などを携わる者からすれば待ち伏せや誘い込みなどができる。

 だが今回のことを考えればそれはない。

 何故なら鬱蒼とした森の使い道はそれらだけではない。


「ボス、魔導艦が停泊しているのを確認できた」


 鬱蒼とした森なら魔導艦のような大きな物を隠すことができる。だがこの国の事情という可能性もあるだろう。だがそれはない。

 その証拠に


「久しぶりだな、シン・・・」


 サクラがいたからだ。鬱蒼とした森の手前にサクラが仁王立ちして待っていた。

 背後にメラメラと何が燃え上がる炎のようなものが見える。それを見たシンは


「・・・最近ぶりだな、サクラ」


 と答える。だが僅かに口の中にある生唾を飲み込んでいた。


「ここは他領だ。縛る真似はしない。が・・・」


 声の低さから自分に対しての怒りであることは間違いなかった。だが前の様に拘束するような真似はしなかった。だが、別の手段を講じる事を厭わない、と言おうとしたと判断したシンは話を挟み込んで


「分かった。離れるようなことはしない(少なくとも目的のためまでは)」


 と答え切った。目的や手を組んでいる以上そう易々と離れるようなことはしない。


「・・・フン、まぁ良いだろう」


 鼻を鳴らし、不満げに了承するサクラは付いて来いと顎で支持する。それに従うシンは話題を変えようと考え、周りを見渡すとあることに気が付いた。


「ギアは・・・?」


 シンがそう尋ねるとサクラは歩みを止めた。そこは鬱蒼とした森の中。入って数十m程歩いた位の距離。それなりに開けた場所で魔導艦くらいならすっぽり収まる。だが後ろを振り向くと鬱蒼とした森のせいでもう明るいはずの向こう側の集落の光が僅かなものとなっていた。

 サクラは魔導艦の方へ向いて


「ん」


 顎を動かしてあれを見ろとジェスチャーを送った。


「ん?」


 その方角をシンは視線を向けると


「んおう・・・」


 魔導艦のバウスプリットと呼ばれる船体の一番先にある船首の柱のようなものの先にミノムシのように白い糸でぐるぐる巻きにされたギアが逆さに吊るされていた姿だった。吊るされている当人は起きているのか起きていないのかわからない状態で呻り声をあげていた。


「んん・・・」


 思わず同じく唸り声をあげるシン。


「oh・・・MISESHIME・・・」


 通信から聞こえるアカツキの声は口調は揶揄い気味だが、現状に合った言葉を放つ。


「シン」


 サクラの低い重い言葉がシンの耳に入った時、一気に現実に引き戻されるかのように即座にサクラのほうへ向いた。


「どうした?行くぞ」


「ああ」


 うんうんと頷いたシンにサクラは邸宅に向かった。シンもこれから向かおうと歩み始めた時


「こりゃあ、変に怒らすと犠牲者増えんな」


「・・・・・」


 もし人の姿でいたならば映画のように相棒としてシンの横に立っていて、このセリフを吐いていただろう。耳元で他の誰にも聞かれずに囁くように言ったアカツキにシンは無言で答える。

 そうして歩みを進めると少し奥で待っていたウルターが


「待っていたぞ」


 と腕を組みながら待っていた。ウルターの背後は出口であろう明かりが見えた。


「待たせて申し訳ない」


 一言で謝罪したシンは目の当たりにする光景に改めて目に映した。


「そういえば他の・・・」


「先に部屋に案内されている。だからシンだけだ」


 シンの疑問にサクラが食い気味にそう答えた。


「ああ、そうか」


 その言葉を皮切りに今度こそ目的地に向かう歩みを進み始めた。


「ここまで来るに当たって人と出会ったであろう?」


「どうであった」


「「領民」っているのか?」


「ふ」


「・・・・・」


 納得したシンにそう尋ねるウルターにシンはそう答える。これまでに出会った人間、明らかに只者ではないことは間違いなかった。その上でそう答えたシンにウルターは鼻で笑った。嘲笑うようなものではなく、感心したようなものだった。

 そうしたやり取りをしながら光差す鬱蒼とした森の出口を出た。


「よくぞお越し下さった」


 出迎えがいた。男だった。


「久方ぶりだな。領の景気はどうだ?」


「上々でございます」


 ウルターの挨拶に会釈する男はおそらくこの地の代表に当たる人間なのだろう。

 何故ならその男は来ている服が上等な生地で仕立てられた白のシャツに赤いプールポワン。常に綺麗に整えているだろう茶色のブリーチズ、焦げ茶のブーツを履いていた。そして、似合わないというべきか場違いなのか、それとも・・・と判断が難しい丈夫そうな皮で仕立てられたサーコート、いやアーマーサーコートを今着ている服の上に着ていた。

 そしてその男の風貌は何とも・・・と形容し難いものだった。

 男は140~150cm位で服がパツンパツンになるくらいにデップリと太っていて、顔には雀斑や複数の出来物がありガマガエルと太った男が合わさったような外見だった。その上、目は不機嫌そうに眉間に瘤と皺が大きくできており、整った口髭がより不機嫌な雰囲気を出していた。オールバックに整えられていた髪は脂ぎっていたからか、それともポマードのようなもので整えられているのか判別が難しいくらいのものだった。

 物語や作品に登場してすぐに退場する小物の臭いが強く漂う悪役その者のような外見だった。


「それで、そちらが」


「ああ」


「シンです。初めまして」


 男がジロリとシンの方へ目を向けた時、シンはすぐに挨拶と簡単な自己紹介をした。さっきの言葉からして自分のことは知っていると判断したシンは簡単な自己紹介のみにした。


「ふん、儂はこの地を治める・ヴヴストだ。無粋で下手な敬語はやめんか。耳障りだ」


「甘えて遠慮なく、()()


 不機嫌そうにそう答えるヴヴストにシンはそう答える。


「ふん」


 順応早く不躾な物言いのシンに面白くなさそうに鼻を鳴らすヴヴストは自分の屋敷の案内をするために足を動かし始めた。足を動かし始めたと同時に案内に従うシン達はヴヴストの案内に従った。同時にシンは不躾ついでにと言わんばかりに話を続けた。


「早速だが、伯爵、一つ聞いても?」


「むぅ、なんだ?」


「この国の本命の兵士は「年寄」か?」


 この言葉を聞いた瞬間案内をするために動かしていた足がピタリと止めて


「・・・・・」


 視線をシンに向けた。シンに対して射殺すような鋭さが出ていた。この場に緊張が走り


「「・・・・・」」


 同行していたサクラとウルターは沈黙してシンの方へ注目した。


「何故そう思った?」


 鋭い視線のままそう尋ねるヴヴストはシンの動向に注視していた。

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