37.必要な技術
KSGについて知り合いや本で得た知識ですがあまり自信がありません。ですのでおかしな部分がございましたらご一報ください。
シンはKSGに似たショットガンを左手で持ち構える。
KSGとは12番ゲージに対応したブルパップスタイル(銃器の設計において、グリップと引き金より後方に弾倉や機関部を配置する方式)のポンプアクションショットガンの事である。 コンセプトは“コンパクトかつハイキャパシティ”で、銃身と並行に配された2本のチューブラーマガジンから装弾を行う「デュアルフィードシステム」を採用している。KSGには2本のチューブラーマガジンは銃身下部に位置し、装填はレシーバー後方真下のポートから行う。このポートは装填と排莢を兼用し、内部には装填方法を切り替えるセレクターレバーがある。切り替え位置は右、中心、左と3ポジションで、“左右”が各チューブラーマガジンからの装弾で、“中心”は薬室に手動で1発装填する際に選択する。この構造から、左右のマガジンに異なる弾薬を装填して撃ち分けることもできる。(例えば通常のショットシェルとスラグ弾のセット、ガス弾とキュービックショットのセット等々…)
ストック下部からそれぞれのチューブマガジンに7発ずつのショットシェルが装填できる。つまり装弾数は2 ×7 で合計14発である。更に“中心”は薬室に手動で1発装填する事で1発装填すると合計15発となる。
その上、シンはこのKSGを1ヶ月、皆の訓練の最中に「自動開発」で更に改造を施して特殊な銃になっていた。
本来なら銃身上部にはピカティニー・レール(光学スコープ、特殊スコープ、タクティカルライト等のオプションを取り付けるためのギザギザの台の事である)があるのだが、改造された物はそれが無くなっていた。それ以外はKSGと変わらない。
「キュイーッ!」
1頭のグリフがシンに向かって襲ってくる。グルフは討伐隊の様に難なく殺す事ができると考えていたからか真っすぐ突っ込んでくる。
「フ~」
軽い深呼吸をするように息を吐き引き金を引く。
グッ…
ドンッ!
銃器独特の破裂音がする。1発撃ったら1回ポンプアクションをする。つまり「ドン、シャッコン」といったテンポになるため、通常のポンプアクション式ショットガンと同じ装填だ。
使用済みショットシェル2発がストック下部から排莢されるのだが、予め取り付けておいた排莢ポーチで回収し、後に痕跡を残さないようにしていた。
本来ならショットガンは散弾を使う。しかし、今回使用したのはホローポイント弾(先端部がカルデラ火山の様に窪んでおり、運動エネルギーを効率よく目標に伝達して大きなダメージを与える目的の銃弾)となっている。今発射した銃弾はホローポイント弾だ。
グシャァァ!
ホローポイント弾はグルフの胸の中へ吸い込まれるように被弾した。その瞬間、口から、目から、鼻から、耳から、穴と言う穴から血を吹き出し体は膨れ上がる様な形で死んだ。
そんな死にゆく仲間のグルフを見た他の3頭のグルフはシンを見る。
シャコ!
だが、遅かった。
ドンッ
シャコ、ドンッ
シャコ、ドンッ
シャコ!
聴こえたのはさっきの銃器独特の発射音とショットガン特有の装填の音。
同時に消えてくる・・・
グシャァァ!
ズズン・・・
3頭のグリフが被弾し倒れた。実に数秒にも満たない出来事だった。
(そう言えば、グリフィンを殺したのって久しぶりだな・・・)
シンは「ブレンドウォーズ」の時の事を思い出していた。「ブレンドウォーズ」のサブミッションでモンスターの討伐や要人の警護、救出作戦等で散々グリフォンが登場していた。シンはあらゆる銃器を使って「ブレンドウォーズ」で登場していたモンスターを悉く倒していきその数は最早1000体どころでは無かった。
「アカツキ、これで全部か?」
取敢えず気配はないが念のためにアカツキに周辺の様子を尋ねる。
「ああ、取敢えずはな。ただ・・・」
「ただ?」
「・・・ただ、ここから約1.128km先に人がいる。方角は10時。人数は5人だ。どうする?」
森の中は鬱蒼としており、木々が並び、とてもでは無いが望遠鏡や双眼鏡でも見えない位置に人がいた。シンの世界では1600年にて、たまたま二枚のレンズを組み合わせると遠くにあるものが近くに引き寄せられて見えることに気付き「オランダ式」と呼ばれる望遠鏡が発明された。当時倍率3倍の望遠鏡だ。最初は軍事用に運用されていたが、当時はかなり貴重な代物であったため調査のために使われるという事はまず考えられない。つまり望遠鏡は使われていない可能性が高いが念のためにシンはアカツキに尋ねる。
「・・・そいつら望遠鏡とか遠くの物を確認できる様な道具を持っていた事は?」
「確認した時は使っていないな。ただ、ずっとボスの方へ向いたまま動かない」
「という事は魔法か何かでこっち見ていた、か?」
肉眼ではとてもこちらの様子を窺えるような距離とは思えなかった。だが、この世界には魔法と言うものが存在する。シンはこっちの様子を見ていたと考える。今後の事を考え、アカツキに5人の特徴を聞いてみた。
「・・・そいつらの格好は?」
「とにかく黒っぽいマントを着た5人の連中だ。フードを被って容姿、武装等が不明だ」
「そうか・・・」
正体が分からない相手に少し警戒し考えるシン。
「で、どうするんだ、ボス」
シンのBBP化による足で5人組と遭遇、最悪捕縛もできる。だがシンは取敢えず保留にする事にした。
「・・・取敢えず放っておけ。向こうから何かしたわけでも無いし、見られても作れる技術はないだろう」
さっきの様にとてもこちらの様子を窺えるような距離とは思えなかった。万が一魔法でこちらの様子を見ていた場合でもKSGはシンの世界にとっては現代兵器。それなりの知識と構造を理解し技術と材料さえあれば作れる事も可能であろう。しかし、この世界の文明レベルは中世程度。シンが他人に明確な銃の情報を漏らせさえしなければ問題ない。
「そうだといいが・・・」
アカツキが何を懸念しているのか、シンは分かってはいた。500年先の技術がこの世界にとってどんな影響を及ぼすのか。火を見るよりも明らかだろう。また5人組によってシンが持っているKSGを奪おうとする事に対してもアカツキは心配していた。
「・・・もし、これを奪いに来るというなら」
シンは静かに且つ明確な殺気を出し、低くドスのきいた声で
「殺す」
冷たい言葉を放った。
「・・・・・分かった。取敢えずは様子見って事でいいか?」
それを聞いたアカツキは機械ではあるが、シンの口調や声量を聞いて覚悟の上で改造KSGを使ったのだと判断した。
「ああ」
そこまで話したシンは10時の方角からは見えない様に2人分ほどの太い木の後ろに背中を木に預ける様にして隠れる。そっと改造KSGを「収納スペース」へ戻す。するとアカツキが何気なく気になっていた事を尋ねる。
「そういやボス、その武器の名前は何だ?」
「んー、そういや考えてなかったな。試射してから考えようかと・・・」
腕を組み少し考え込む。
「・・・G」
「ん?」
「取敢えず”改造KSG”と言うのはどうだ?」
「・・・・・」
いくら思いつかなかったからと言ってあまりにも捻りが無く安直な名前。
「”改造KSG”・・・。俺は銃には詳しくないがボスがいいならそれでいいんじゃないか?」
こちらもあまりにもサッパリとした答えを出したアカツキ。それにシンは
「(あ、そう)じゃあ、決まりだな」
少しだけ間が空き、あっけらかんとした返事をする。
「・・・・・・・ボス、最初の間は何だ?」
「別に?」
「・・・・・」
アカツキは「自分から振ったけれどもその答えは無いんじゃないか」と言った無言であった。シンとアカツキのそんなやり取りしていると
「ぉーぃ」
蚊が鳴くような小さな声がした。
「ん?」
シンは声がした方角へ向く。
「おーい」
大きな声を掛けて来たのはニニラだ。
「案外早かったな」
「うん・・・って、うわ!まだいたのこいつら?」
「ああ、俺のk・・・魔法でどうにかできたから問題ない」
一瞬「KSG」の事を言ってしまう所だった。取敢えずこの世界ではメジャーな手段の「魔法」という単語一つで片づけた。
「・・・え?」
ニニラが信じられないような事を聞いた様な返事をする。丁度ニニラが連れて来た複数の冒険者達と騎士達が後からゾロゾロと来た。するとリースと同じような聖騎士風の鎧を着た年齢40手前の男がシンに近づいて
「此度は迷惑をかけた上に、グリフ討伐に感謝をする」
と感謝の言葉を述べた。丁寧な対応の上あまりにも騎士らしい言葉遣いと振る舞いにどう返したらいいのか少し分からなかったシンは
「ご丁寧にどうも・・・」
とやや素気ない言葉で取敢えず返してみる。
「今回の一件は我々が何とかしなくてはならないのに、申し訳なかった・・・!」
「ああ、いや。とにかくこれ以上被害が無くて良かったよ」
騎士の男とシンが感謝の言葉を受け取っている傍で応援に来た冒険者や騎士が死んでいる4頭のグルフを調べていた。
「うわ、何だこれ?」
「ひでぇな、メタメタじゃあねぇか・・・」
見た事もない死に方をしていたグルフの体。その体にそっと触れたり、突いたりする冒険者。内側から破壊されブニブニした感触になっていたため
「おおっ!」
ギョッと驚く。
「うわぁぁ・・・」
「一体何をしたこうなるんだ?」
冒険者や騎士たちは経験上こんな死体を見たのは初めてであった。不思議に思い、シンの方へ見る。一方のシンは別の誰かと話していた。
「シン殿はこれからどうなされるのですか?」
声を掛けて来たのは皆を連れてここまでやってきリースだった。そしてそのリースと共についてきたニニラ。
「この近くに町はあるか?」
「ええ、ヨルグという町です」
「そうか。俺たちはギルドに登録しに来たんだ」
「ギルドに?」
疑問を投げて来たのはニニラだった。
「ああ、俺は勿論、そこにいる子供ら全員な」
「へぇ・・・」
ニニラは皆の方へ見る。
「ただ一つ問題がある」
「問題?」
「・・・解体の仕方が分からないんだよ」
そう、シンは1ヶ月の間悩みに悩んでいた事があった。ギルドの冒険者として生きていくのに必要な事。それは、魔物から解体して素材をはぎ取る技術だった。鶏やイノシシ等は「ショップ」で本を購入さえすれば問題は無いがモンスターの解体で何が食べられ何が使え、そして何がダメなのかはサッパリ分からなかったのである。
「もし良ければ魔物の解体の仕方を教えてはくれないか?」
「え?」
この場にいたニニラ、リースを含めて冒険者達や騎士達がポカンとしていた。