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382.よろこんでっ!

 胡坐に近い形で甲板の上に座っているのだがどことなく姿勢が良くてきっちりした印象のある座り方でいるギアは後悔していた。


「ふ~ん・・・つまり、貴様のせいでシンを落としてのにも拘らず、シンと話して別行動をする事を許して・・・」


「・・・・・」


 満面の笑みでいるサクラの細い眼。よく見れば普段の赤い眼がより赤く、まるで燃え上がっている様にメラメラと燃え上がっていた。その目を目の当たりにしていたからかギアは甲板の上に地べたに縮こまる様な形で小さく纏まった様な座り方をしていた。視線をなるべくサクラの顔に合わせず地面の方を見ていた。

 この様子に星の柱のメンバーはそそくさと立ち去っていた。ギアとサクラの件で逃げていくメンバーのケアと言うべきか、気を悪くさせないようにする為か、アルバとステラもその場を後にしていた。だから逃げ遅れてこの場に残ってしまったのは透と葵の2人だけだった。おかげで2人とも逃げ遅れた時キョロキョロと見まわして逃げ遅れてしまった事とメンバー素早い対応に青ざめた顔で驚きを隠せずにいた。


「おめおめとここまで戻ってきたという訳か・・・?」


 サクラがそう言い切った時、背後に燃え上がる炎の様な赤いオーラが見えてきた。そのおかげで同じく船に乗っていた星の柱のメンバーや葵と透は話を入る事も挟む事も出来なかった。


「サクラよ、これは確かに我が悪い。だが落下したシンは当然無事で、我はこれも当然、これから上る事を提案したのだ。だが、シンはそれを拒否して・・・」


「それでもぉ、貴様がぁ、何としてでもぉ、この船にぃ、乗せるべきだろうぅ?」


 身振り手振りでそう説明と言う名の言い訳の前にサクラはニッコリと笑いながら話すたびに近づく。


「・・・だ、だからな、其方にこうして面と向かうこの姿勢を、だな」


「縮こまって座ってぇ、許しや深い願いを聞き届けさせる礼儀作法ぉ、所謂「土下座」を行っているとぉぅ?」


 ついにはギアの顔の前近くまで近づいたサクラ。その様子にギアは小さく「ヒュッ…」と短い息を吸う音を鳴らし、サクラのにこやかな細い眼の奥を覗いて冷や汗が滝のように流す。


「そ、そうだ!我の体の都合上、こうした姿勢しかできない。故にこうした事をだな・・・」


 改めて自分が誠意を込めている事だけでも言明しようとするが


「透、葵」


 遮って2人の名前を唱えるサクラの声には酷く寒気を覚える。


「「ひゃいっ!」」


 そのせいで2人は変な返事をしてしまった。


「お前達は「土下座」と言うのを知っているのか?」


「・・・はい」


「勿論、です・・・」


 この問いに嫌な予感がしつつも正直に答える2人。返答にサクラはコクリと頷き


「恥ずかしいかもしれないが、この場でやってもらってもいいか?」


「「・・・・・」」


 ニッコリと笑いながらそう尋ねるサクラの様子に2人は顔を青ざめながらお互いを見合う。


「ん?」


 サクラのこの声に


「・・・わ、分かりました」


 透がそう言って葵の方を向いてコクリと頷き前に出て甲板の上に土下座の姿勢を取ろうとした。


「すまないが、2人共、でだ」


 静かに手を前に出して静止を掛けてそう言う。


「「・・・はい」」


 渋々2人とも土下座を行った。その様子を静かに見守るように見るサクラ。

 何故、何も悪い事もしていないのに土下座をする羽目になったのか。こんな恥ずかしい真似をせねばならないのか。

 そんな疑問が浮かぶ事よりも勝ったのは「サクラに逆らわないようにする」。ただそれだけだった。


「2人とも、もういいぞ。それから許せ。後で詫びとして施すから後でワタシの所まで来てくれないか?」


 冷静にそう答えるサクラ。


「「はい・・・」」


 クルリとギアの方へ向いた。2人とも恐る恐る土下座の姿勢から徐に立ち上がってその場に再び立ち尽くす。サクラはニッコリと笑いながらギアに


「確かにお前の言う通り、身体の、貴様の足の都合でできないのは分かった」


 と語り掛ける様に話した。

 サクラが納得できて自分の事を許されるのではと考えたギアは


「であろう!そうであろう!ならば・・・」


 更に弁解をしようとした。しかし


「だが」


 浅はかだった。サクラが発したこの一言が酷い冷気を帯びていた。


「・・・!?」


 ギョッとっするギアにサクラはユラユラとギアに近づいていく。


「謝る姿勢が足りていないように見えるなっ・・・!」


「な、何をっ!?」


 切り出すサクラの顔は最早笑顔などはなく、烈火の炎と言うべき真っ赤な怒気のオーラが纏い、顔は無表情に近い怒りの顔でギアに迫る。

 たじろいでいたのは何もギアだけではなかった。透と葵も同じだった。


「足は仕方がない。だからそのように座る他ない。しかし、床に頭をこれでもかと言う位に下げていない」


「!?」


 再び笑顔になるサクラの声は未だに冷たい。その言葉にギアはビクリと体を震わせる。


「しかしここは船、ウルターの所有物だ。壊すような真似は出来ん」


「ならば、せめてもう少し下げる暇を・・・」


 少し弁解の余地を見つけたギアは口を挟もうとするも


「少しではない」


「へ?」


 許さなかった。


「貴様の身体は()()()に近いかったな、ギア?なら体を内側に折り曲げる事ならできるな?」


 笑顔が冷たい。


「シャ・・・シャキュラ、よ・・・」


 呂律が回る様な余裕がなくなったギアはすぐにでも逃げようとするがもう遅かった。


 クンッ


 ピンッと張った細くて白い糸がギアの周りに張り巡らされて、そのうちの一本がギアの体を強く拘束した。そのせいで


「あべしっ!」


 何処かで聞いたような叫び声をあげてしまう。


「本来なら頭を地面に、である所を貴様の体の内側に、である事を許す。だから・・・」


 クンッ


 セリフと共に動かした糸によってギアは胡坐に近い姿勢で再び頭を伏せる事になったがそれだけではなかった。


 ミシミシミシ…


 ギアの頭が甲板にめり込み、胡坐に近い姿勢は徐々に縮こまっていく。まさかと気が付いたギアは顔を上げようとしたが全てが遅かった。


「その身を持って地面よりも深く詫びている事を示せぇっ!!!」


 ビンッ!


「くあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!」


 今まで聞いた事のないギアの情けない声が木霊して


 ビンッ!


 姿勢を極めた。そのせいで


「ひでぶっ!」


 これもまたどこかで聞いた事があるような叫び声を上げながら遂にはギアの口から音すらも聞こえなくなってしまった。


「「・・・・・」」


 その様子に透と葵は身体をカタカタと震わせていた。


「さて・・・」


 そんな2人に何か用でもあるのかサクラは終わったギアを一瞥もせずクルリと2人の方へ向いた。


「「ひっ!」」


 思わず叫んでしまう2人はお互い思わず手を取り合っていた。


「待たせて済まない。恐らくだがこちらの世界でしか味わえない菓子と茶を用意する。来てくれるか?」


 申し訳なさそうに言うサクラは穏やかな笑顔を2人に送る。その顔は先程の恐ろしい何かとは打って変わったものだった。だからこそ酷くそれが怖く感じた。

 だからサクラのこの言葉に


「「よろこんでっ!」」


 今までで一番2人が息の合った瞬間だった。


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