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381.オフロード

「「コクヨウ」か・・・」


 意外にも日本語と思しきネーミングに少し意外そうな顔をしたシンにコクヨウは小首を傾げる。


「気に入りませんか?」


「いや、ジンセキのスタッフは()()としているな、と思った」


 そう答えるシンは少し動かす形で首を横に振った。


「なるほど、クロハバキ様でございますね」


「ああ」


 コクヨウもクロハバキもどちらも黒色を連想するネーミングだった事にシンはそう答えてしまったのだ。その事にコクヨウも納得した言葉を返した。


「まるで「甲斐の黒駒」でございますね」


「「甲斐の黒駒」?・・・ああ、確か「日本書紀」の」


「はい」


「詳しくないけど、その時に出てきた馬が黒くて速かったんだよな」


 奈良時代に成立した日本の歴史書、「日本書紀」の「雄略記」にて9月条の歌物語にて登場する。雄略は不実を働いた木工・韋那部真根(こだくみいなべのまね)を処刑しようとするが思い直し、彼を赦免する際に刑場に駿馬を使わした。この時の駿馬が「甲斐の黒駒」であると言われている。

 この記紀に記される「甲斐の黒駒」の特徴は「青鹿毛」、つまり黒い馬だそうだ。

 だからシンの言葉通りで


「黒が2つか・・・」


 文字通り、「黒々」としている。


「はい。それよりも正規で走りますか?」


 正規な道と言うのはあるのか?この世界の文明レベルが中世であるから街道でもかなり舗装が悪い。オフロードと言っても過言ではない。それなのにコクヨウが言った「正規」と言う言葉にシンは気になって思わず


「正規でって?」


 と尋ねてしまった。


()で走りますか?」


「・・・道じゃない道も走れるのか?」


 何と道じゃない道を走れるのか、と思わずそう言いたくなるシンはそう尋ねてしまった。そしてその問いにコクヨウは


「はい」


 即答でYesと返答した。


「・・・・・」


 これには思わず黙ってしまうシン。確かにコクヨウは生身の馬ではない。アンドロイドで非常に丈夫だ。それ故に馬では無茶な走行を可能にしてくれるだろう。

 しかし、それは乗っている搭乗者も丈夫でなければ無理な話でもある。つまりコクヨウはシン専用の馬と言う事になる。


「どう進むつもりだ?」


「空を飛ぶことはできませんが、明らかに無茶であろう場所は進む事が出来ます」


 そこまで聞いたシンはまさかと思って


「泳げるのか?」


 と聞いてしまった。


「泳げますよ。馬よりも早く泳げます。魚には負けますが」


 泳げるようだ。馬よりも早くと言っている。性能は馬以上だからだろう、特化しているわけではないが得意なようだ。こうした事から恐らくは無茶な場所と言うのはこれだけでないと分かった。だから再び聞いた。


「・・・無茶な場所とは?」


「試しに走ってみますか?百聞は一見に如かずでございますし」


 百聞は一見に如かず。


「・・・そうだな。ただお手柔らかに」


「畏まりました」


 そう言ったコクヨウは馬のように走り出した。


 ドドッ…ドドッ…ドドッ…ドドッ…ドドッ…ドドッ…ドドッ…ドドッ…ドドッ…ドドッ…ドドッ…ドドッ…ドドッ…


 初めての乗馬。馬鞍と言った乗馬器具もない。その上客観ではなく主観でした分からないが恐らく走り方は馬そのものだろう。

 ただ傍から見れば違和感はあるだろう。


「如何でございますか?」


「初めて馬に乗った・・・と言っていいのか分からないけど」


 風を切る感触。揺れがあまりない安定した走り。高い所から居ながらの高速の移動。乗馬だからこその走る風景。

 こうした事柄により思っていた事をそのまま口にした。


「最高だ」


「それは何より!」


 そう言ったコクヨウは突然道を外れた。


「!?」


「ここからは私、コクヨウの本領発揮を道すがらお見せいたします。どうかご照覧あれ!」


 そう突然道を外れた理由を答えたコクヨウに耳を傾けながら前を確認をしていた時


「!」


 目の前に崖が見えた。


「飛び越えます!」


「何!?」


 とんでもない事を言った。崖の奥の先にはまた崖があった。そこからそこまでの距離が相当距離がある様に見える。少なくとも人間が、車などで猛スピードで思い切り飛び越える事が出来るような距離ではない。そこをコクヨウが飛び越えると言っているのだ。


 ドッ!


「おっ・・・!」


 飛んだ。いや()()()のだろう。躊躇いの無い跳躍。力強く軽やかな走りと同じようにとんだコクヨウの体は軽くてまるで浮いているようだ。


 ドドッ!


「・・・!」


 着地と同時にシンはすぐに後ろを振り返る。その様子にコクヨウは踵を返して跳んだであろう崖の方角へ向いた。


「・・・飛び越えた」


 思わずそう呟いた。確かにシンが見ている方角に自分達が跳んだであろう崖があった。


「ここ何mあるんだ?」


 シンの問いの言葉に答えたのはコクヨウではなく


「その崖からがけまでは約22m程だ。かなり距離がある」


 アカツキだった。しかもかなりある距離だ。


「マジかよ・・・」


 かなりの距離を跳んでいる事実に驚きの言葉をかみしめていたシンに


「では今度は()()()()()


 と言ってすぐに行動に移るコクヨウ。


「え」


 シンが疑問の声を出した時には今いる場所のすぐ先に急斜面があった。とてもではないがよじ登るのがやっとの絶壁に近い岩壁をコクヨウの跳躍力で


「おぉっ・・・」


 バッ…


 一気に跳んだ。


「・・・!」


 一気に跳んだ事で一瞬見えるノイズの光景からすぐに映った光景は岩山の頂の上からだった。


 ドドッ


 一瞬の空中浮遊の後に着地して一気に跳んだ時の光景を改めて目に映した。


「・・・凄い」


「素晴らしいでしょう?」


「ああ・・・」


 その光景は絶景とまではいかない。

 岩山の頂上から見た景色は魔導艦から見た光景を低く見た光景と変わらない。周りは樹海で青々として、険しそうな山々がある。よく見れば川がうねって流れて太陽の光によってキラキラと輝いていた。こうした光景は自分の足で登った時も同じだろう。決して特別ではない。

 だが馬に・・・コクヨウに乗り、一気に頂上まで来た上で見る光景は自分の足で立って見るとは違う感覚だった。

 何と言うべきか、自分の足で登ってみた光景を見た時の感動と言うべきか、その感覚がコクヨウに乗って見た光景とは大きく違っていた。


「・・・・・」


 自分が背が更に高くなったからか。初めて馬・・・らしい存在に乗った故の感動と共に来るものからなのか。

 上手く表現ができない。

 そんな感動に似た感覚が胸に染み渡った。


「・・・・・」


 一味違う感覚に浸るシンはこれをどう表現すれいいのかと考えつつ僅かながらも長い時の間に光景を見続けていた。

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