380.「足」の確保
「おお、デカいな・・・」
・・・・・
思わずそう言うシンの目の前にいる黒い馬はシンの方をじっと見ていた。
「!」
「もしかして、「足」ってこれの事か?」
「正解だ」
「確かに馬ならこの世界では一般的で怪しまれないな。ただ・・・」
シンは徐に見上げる。
「大きすぎないか?ほら、あの・・・タイトル忘れたけど劇画タッチの漫画で出てくるデカくて厳つい黒い馬位ないか?」
「漫画の事は知らんが、少なくとも農耕馬とかばんえい競馬でいるような馬がモデルであるのは間違いないな」
シンとアカツキが言っている馬はサラブレット言った一般的な馬ではなく、それ以上に大きい馬の事だ。
平地競走で一般的なサラブレッド種に比べて2倍以上の大きさで、走行スピードよりも、パワーやスタミナが発達しているのが特徴のベルシュロン種だ。体高は1.6〜1.7mまでとなっているが、多くは1.5〜1.6mである。732年、ポアチエでイスラム教徒を打ち破ったカール・マルテルの軍団が乗っていたのは、ペルシュロンの祖先とされている。長い歴史のなかで、ペルシュロンは軍用、馬車用、農用、重砲兵用、そして乗用に用いられてきた。現在のペルシュロンは非常に力強く丈夫で多才である。この馬は重種のなかでも独特な気取った歩き方をする。すなわち、歩幅が広く自在で姿勢の低い歩様を示す。世界で最も大きい馬は、ドクトゥール・ル・ジェアという名のペルシュロンだった。この馬は牡で体高は2.1m、体重は1372kgあった。
それとほぼ同じ位なのは間違いない。しかもオオキミで出会った馬と比べても少し大きく、非常に筋肉質だった。
「モデルって・・・本物じゃないのか?」
「偽物って言やぁ、聞こえが悪りぃが、確かに生きた馬じゃねぇよ」
確かに良く見れば本当に生きている馬なのかと問われればわ確かに疑問が浮かぶ個所は多い。
体高2m近くあり、足も太くスラリとした印象ではなく筋肉質でガッシリとしていた。人に例えればアスリートのようなスマートさを感じではなく、軍人の様な無骨で無駄のない美しさを感じさせるものだった。ペルシュロンとしてはそうあってもおかしくない特徴だが、馬にしては変わっていた部分が多い。
例えば目が青と赤のオッドアイで鬣が白い。しかも尾の毛が太く心なしか先端が少し太い。少し揺らすと錘が付いている紐の独特の動きを見せる。それに筋肉質な体はあまりにも筋肉質であるが故に「馬にしては・・・」と表現しても変ではない。
大きな違和感こそないがこうした僅かな違和感を感じた時、この馬は本当に馬かと感じさせるようなどことなく胡乱な感覚を持たせてしまう馬だった。
「ドローン・・・アンドロイドか?」
「そうだ、アンドロイドだ」
顰め気味の細い眼でそう尋ねるシンの言葉にアカツキは即答した。その即答に納得して細い眼は消え、顔に出す。
「まぁ、臆病な馬が俺に近づくって事はそうそうないから、まさかとは思ったけどここまで似ているとは」
正直な話、現れたのは馬とは思えなかった。馬と対峙するとシンに対して怯えるか、警戒心を持っている様子が多かった。唯一、問題なく接していたオオキミでの馬との関わり位だ。だがそれでもオオキミの馬はシンに対して警戒していた。
同時に馬に乗ろうとするとシン自身が重すぎて馬がバランスを崩してよろめいた。
これらはBBPの影響と考えている。
だからシンは自身の秘密に繋がる可能性があると思い、馬との関わりを持たないようにしていた。だが今回来た馬はそれらをカバーできるフェイクの材料になりえるものだった。
「驚くのはまだ早ぇぜ?」
アカツキがそう言った時
「この姿ではお初にお目にかかりますね」
と馬から声が漏れていた。
「・・・喋るのか」
一瞬驚きで目を大きく開くが、そう言う事でもおかしくないと判断して通常の目つきになってそう答えるシン。
馬自身は口を閉じているが明らかに口元から聞こえる。
「はい、以前はグーグス・ダーダ様としてお控えになっておりましたが、この度は私がお控えさせて頂きます事、よろしくお願いいたします」
「・・・・・まさか」
その言葉でシンは頭に過った。
「ああ、グーグスのシステムや構築面で大きな無駄や大っぴらに動けねぇ事から総合面で分解して新しい要素と概念を追加して新しく登場ってわけだ」
「・・・つまり、これがあのグーグスって事か?」
「まぁ簡単に言やぁな。但し、前と比べりゃ全然違うがな」
どうやら以前スタッフの特性の長所と短所を鑑みて、改善しようとした結果がこれのようだ。実際場合によっては以前のスタッフは廃止にするという旨も言っていた。
こうした結果になっているのであれば受け入れるというものだ。とは言え、人型で怪しまれない形と考えていた所があったのか、こうした結果にシンは少し驚いていた。
「グーグスの特性・・・数による特性は?」
「こいつが一応担当している。無論人型もある」
「・・・・・」
その上、グーグスとしての特性も引き継がれている上に他の能力もあるようだ。
「ああ、それから別の個体でもう一つの人型で数の特性のスタッフが用意しているからな」
「え」
「これは俺達の独断に近い判断だが、人手は必要と考えたのは九葵と相沢透の存在だ」
それを馬の件のついでに言われてもと考えたが2人の名前を聞いた途端に切り替わった。
「他にもいる可能性があるからって事か?」
「ああ」
「確かにあの二人だけしかこの世界に来ていないって事は考えにくいよな。発見に人手や世話等の支援も人手がいる」
星の柱との約定に近い約束事で彼らを保護する事は必要になる。となれば人出はどうであれ必要になってくる。この判断は多分当たっている。
「それに敵対者としてもいる可能性も軍団として動いている可能性も十分にある」
「って事は人型じゃないタイプもいるのか?」
アカツキの口振りからして敵対の可能性も十分にある。ブレンドウォーズの時でも、世界が一丸となって事に当たった、という事は一度もなかった。それぞれの事情によって動けなかったり、協力したり、敵対した。同じ国だから、同じ現代人だから、同じ人間だからと言って決して仲間になるとは考えられない。
事情はどうあれ敵対する者は敵対する。だから武装する必要はあるし、人型だけじゃないスタッフも必要になるだろう。
だがそれらはかなり詳しい説明が必要になる。
「ああ。詳しくはボスが戻ってからで、な」
「ああ、分かった。一先ず移動だな」
今はその時ではない。話は後にして行動に移った。
「恐らくは初めてでございましょうから私はしゃがみますので」
そう言ってしゃがんだ馬は紳士的、執事的に感じた。この接し方がどことなくグーグスを連想する。
「あ、ああ、ありがとう・・・」
「ではゆっくりと立ち上がります」
馬がそう言ってしゃがんだ体を徐に起こした。
「・・・!」
慣れない乗馬にシンは少し体が揺れたから、バランスを取り持ち、乗馬した者だけの世界を目の当たりにした。
「想像していたが、高いな」
想像と現実は実際に違う。だから今の光景が初めて見る時の感動が胸に感じる。
「壮観でございますか?」
「ああ」
数秒程感動に感じていたシンはそうだと思い出した事があった。
「名前は?」
確かに名前は聞いていない。物語ならここで名前を付ける事が多いがこの馬は、前のグーグスだから名前はある。だから尋ねた。
そして名前は勿論とあった。
「私は「コクヨウ」と言います」