374.懐かしい夢
バラバラバラバラ…
激しい羽音。何か噴出する轟音。その音の主はアメリカ製の軍用ヘリだった。アメリカ製の軍用ヘリ、新装備満載の特殊作戦用UH-80ゴースト・ホークがモデルの新型ヘリ、UH-90 ファントム・ホーク。ファントム・ホークは轟音の様なローター音を鳴らして猛スピードで飛び回っていた。
バッサ・バッサ・バッサ…
後方から聞こえてくる翼を羽ばたかせる音。かなり大きい。それも複数。いたのは巨大な鳥だった。見た目は猛禽類で、背中に馬鞍が載せられ、旗を掲げ、人が乗っていた。その人は全身に甲冑を着込み、手には騎槍を握って、軍用ヘリを追いかけ回していた。ほぼほぼ真後ろにピッタリとくっついていて思うように射線が取れず、発砲しようにも発砲が出来ない。だから追い掛け回されているような状況になっていた。
「奴ら、想像以上に空中戦に慣れてやがる!」
「当たり前だろ!ドラゴンとか箒に跨ってる連中だぞっ!」
「5時の方向にて、接敵!」
5時の方角に急接近してくる騎兵を確認した兵士はミニガンによく似たガトリングガンが搭載されたアーム型の銃座に着いた。
「撃ち落とせ!」
小隊長と思しき人物がそう声を張った。同時に無線から通信が入った。
「救難要請っ、救難要請っ!こちらブラボー4!メインローターに投げ網が絡まって操縦不能っ!」
その後に聞こえてきたのは
ザザザァァァッ!
激しいノイズと後の無音だけだった。その音声を聞いて連想したのは墜落。しかも原始的な武装で来た空飛ぶ騎兵にやられたのだ。撃墜の術は間違いなく「投げ網」。
「4番機がやられたぞ!」
「奴ら、メインローターかテールローターを狙ってくるぞ!」
近接的な攻撃しかないのであれば、すぐに無力化できる術として投げ網を用いてローターの故障を目的とした奇襲。その上、向こうも空中戦の概念を持っているから航空技術も独特だが十二分にある。だから決して侮れない。
実際奇襲を受けて味方の軍用ヘリの軍団を2/3にまで減らされた。これは相手が空中戦に慣れている証拠だ。
「了解、聞いたな?振り落とされるなよ!?」
「ああ!」
こうまでくれば何が何でも現状を凌ぐ他ない。その上これまでに相手からの魔法による攻撃が一度も確認されていない。この点の事を考えれば慎重にならなければ間違いなく全滅もあり得る。
「接敵だ!これよりニューマイクロで対応する!」
「OK、十分な接遇しろ!撃ち落とせ!」
「撃て!撃て!撃て!」
5時の方向と7時の方向に接敵してきた騎兵にマイクロガンによく似た重機関銃、ニューマイクロを回転を始めた。XM222は、GE社製の口径5.56mmの試作ガトリング銃。同社の製品であるM134 ミニガンを更に小型軽量化したXM214を基に、さらに小型軽量化を計画したもので、この開発経緯から「ニューマイクロ」の通称で知られる。M193 5.56x45mm弾を用いる。
バゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…ッ!
回転が速すぎて破裂音が一つの連なる大きな音のように聞こえ、銃口から噴き出す火が常に同じ個所から出ているように見える位に火力の高い掃射で薙ぎ払う。
ギャオォッ!
そのおかげで1体撃墜して落ちていく空飛ぶ騎兵。だがその騎兵を見た他の隊列を組んでいた騎兵達は動きが変わってバラバラのように動き始めた。しかも他の騎兵の隊と合流して増員していた。
「拙い、多いぞ!」
「他の部隊と合流しろ!」
単体で飛行しているこのヘリだけでは対処しきれない。このままでは有利な位置に付かれてしまって投げ網の餌食になる。ならば他のヘリと合流して編隊を組んでお互いの死角をカバーして事に当たる他ない。
すぐに無線を手に取った隊員は呼びかけを行った。
「こちら「ブラボー3」、奇襲に遭った!ほかに部隊がいるなら、すぐに援護を求む、オーバー!」
「こちら「チャーリー2」、こちらも奇襲に遭っている!すぐには向かえない!オーバー!」
「~~~っ!なら、「ブラボー3」はすぐに「チャーリー2」の方へ向かう!現在地を・・・」
「救難要請っ、救難要請っ!こちら「チャーリー2」、テイルローターが破損した!操縦不能っ!」
ザザザァァァッ!
「クソッタレ!」
激しいノイズ音に悪態をつく隊員は外の方へ目を向けて騎兵がいるであろう後方へ向けて忌々しそうに見ていた。
「レーダーには俺達を含めて半数しかいません!」
「撤退命令だ!撤退しろ!」
全部隊が半数しかない現実を叩きつけられた部隊長は苦虫を嚙み潰したように顔を歪ませ、即座に撤退に踏み切った。
軍事において部隊が半数しかいない状況はかなり拙い状況下にある。言い換えれば軍としての機能が半壊しているといっていい。半分しかいない集団を今後において必要な時が必ず来る。維持しておく必要があるし、迎え撃つ必要な場面もある。という事はほぼほぼ無事な状態で安全な所まで非難する必要がある。つまり半壊していると道義の状況に部隊長は撤退するに至って戦闘が起きる。所謂撤退戦だ。これから撤退戦が展開されると頭に過った部隊長は即座にそう判断して踏み切った。
「拙いですよ!追いつかれそうです!」
だがそれ向こうも理解している。だからすぐに追撃を開始する。かなりの速さで追いかけてきた。
「迎撃は無理かっ!?」
「無理です!また後ろをピッタリとくっついています!」
銃の脅威を見越して射線に出ずに追いかけ回してきた。しかも狙いは網で絡めさせれば間違いなく墜落必至のテイルローター狙いだ。ブラボー4が墜落した時も回るローターを狙っていた。
速さはほぼ互角。だが数や速さ、優勢位置などを考慮して不利なのは明らかにこちらだ。だから進言した。
「なら俺が迎え討つ!その崖の所を曲がってくれ!」
自分が迎え討つと。
「何?」
進言した男は武装や格好は他の隊員と変わらないがフードだけ顔を隠すように深々と被っていた。すぐにでも飛び出せるように銃座の前で待機していた。ハンドレイルを握っている進言した男は指を差して
「その崖を曲がって、俺が崖に張り付く!それで追いかけてくる奴を・・・」
と短く具体的に答える。何を言おうとしているのか汲み取った隊長は
「迎え討つのか・・・。分かった」
その場にいた全員が大きく頷いた。
「聞こえたな!?曲がれ!」
「了解」
それで行こうと全員の意思が固まった瞬間、引き寄せるかのように事態が変わった。近くに崖を確認した後、命令通りヘリをすぐに陰に入った。
「ここで出る!」
「必ず、戻ってこい!」
「了解!」
短いやり取りをした後、確認号令もなく、即座に崖の壁に向かって飛んだ進言の男。飛んだ瞬間フードが捲れてその顔が顕わになる。
目の瞳の色は深紅で髪は銀髪。ツンツン頭の短髪で後ろの髪はくくっている。若くて整った顔に髭はない。その容姿からして自分はまだこの世界で、硝煙と土を被って戦う事に勤しんでいた頃の・・・
「随分、懐かしいものを・・・」
目を開けると知らない木製の天井が目に入った。少し頭がボーとしているシンだが、こうした懐かしい夢を見た事に連想物が浮かんだ。
「懐かしい物を見たのは・・・」
そう呟きながら体を起こし床の方を見て
「久しぶりにこれで眠ったからか・・・?」
自分が寝ている寝床の方を目を向けた。シンが寝ていた寝床はハンモックだった。ハンモックは14世紀〜15世紀に活動していた探検家のコロンブスと言われている。コロンブスが航海の途中で中南米を訪れた際に、現地住民がハンモックを寝具に使用していた光景を見て、船上にハンモックを設置したそうだ。元々のハンモックの発祥は南米のメキシコやコロンビア。 高温多湿の気候で、現地の人々は蒸し暑さや害虫に悩まされていた。 そこで地面ではなく、空中に寝る場所を作ったことがハンモックの始まりりで、虫がモゾモゾと這って入ってくることもなく、布1枚で通気性が良いため暑い中でも快適で眠れるようになった。しっかりとしたハンモックならば200㎏位なら問題ない。
場所さえ確保できれば、容易に設置できるからシンが戦闘に勤しんでいた時もハンモックを活用していた。だからシンは悠々と眠れていた。だが問題なのは初めての人間が寝る時だ。
「あいつら、落ちていなければいいんだが・・・」
実はハンモックで寝るにはコツがいる。ハンモックで寝る時真直ぐな形で寝るとバランスが崩れやすい。ハンモックで寝るには若干斜めに寝ると体のバランスが安定する。その姿勢で寝返りが起きなければいい。
寝返りが多い人にはハンモックはかなり厳しい。だから恐らく初めてであろう透と葵が寝ると床に寝る羽目になっているのではないかと考えていた。それを考えてシンと同室になっている透の様子を見た。
「あ、やっぱり・・・」
やはり床で寝ていた。