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370.場所提供

 透と葵の様子が健康的すぎる上に身綺麗すぎた。それが少なくとも衛生面はかなりレベルが違う事をしてここに来たという事を見抜かれる事に繋がったのだ。


「少なくとも高水準過ぎる生活や衛生面などは確認できたからね」


「・・・・・」


 見抜かれてしまった。その事実にシンは無言で答えてしまう。そんなシンに追い打ちをかける様に


「でも、あまり出したくないよね~?」


 と意地悪な口調で言うイヒメ。

 3秒ほど無言の間をおいてから


「・・・ああ、その通りだ。しかも出来れば2人みたいな()()()には見せたくない面も多くある」


 と答えた。

 気になる単語にイヒメは僅かに目を細める。


「・・・なるほど、だからシン君の所ではあまり面倒を見る事が出来ないって事だね?」


「ああ。だけど見過ごす話ではない事も理解している。だから飽く迄も僅かにしか提供ができないからな?」


 イヒメの言葉にうんうんと頷くシンはそう答える。確かにシンの来訪の方法は特殊な事例である。その上似たような世界ではあるが似ていない。だから技術の方向性も違う。技術の方向性も違えば概念も違ってくるわけで、2人に知られてしまっただけで大きな影響もある。魔法は進化する。ならば魔法自体も未知なものでもある。であれば、魔法によっては知ったものを相手に教えてしまう方法もある訳だ。

 そうなれば当然大きな影響を齎すのは間違いない。シンはそれを危惧していると理解したイヒメは


「いいよ、それで。場所は確保できてるし~、生活の面倒も確保してるし~」


 ゆるい口調でそう答えた。その事に少しシンは面食らう。


「衛生面の話が出たが、それらの事で口出すだけでいいのか?」


 少し眉間に皺を寄せながらそう尋ねるとイヒメは小さく頭を横に振る。


「ううん、全面的。ただ、本当に支援だけでいいよ。基本はこの世界の生活は本人がしなければならないからね」


 僅かであるのは間違いないようだが、実際は衛生面だけでなく全面的にしてほしいようだった。


「分かった。だが支援だけでいいのかどうかは状況による。だから・・・」


「いいよいいよ、「手」も出しても」


 シンが言い続けようとした時、遮って先に答えるイヒメの言葉にコクリと頷いた。ただ単に物資や技術を提供するだけでなく場合によっては「手」を出す場合もある。迂闊に手を出せば後々問題になる事もある。そうならないようにここで言質を取ったのだ。

 そしてイヒメは何が言いたいのかを把握していたからすぐに頷いたのだ。


「・・・概ねだが合意って事でいいか?」


「ザックバランだけど十分だよ。細かい事は道中で」


 コクリと頷きながらそう話しつつ、フォークでキノコを突き刺して口に運んでいった。


「道中?」


「場所の確保は出来ているって言ったでしょ?」


 イヒメの言葉に目を細めるシンは何処かへ移動する事を想像ついた。


「ああ、そこまでの案内するからって事か」


 つまりそこまで行くまで詳しい事を説明しながら移動して行くようだ。


「まぁね~。それよりも冷めちゃうよ?」


 間違いなかった事と同時にシンは食が進んでいなかった事に今になって気が付いた。


「あ」


 そう呟くように言って改めてフォークを持った。





「ごちそうさまでした」


 そう言ってシンが手を合わせると同じように手を合わせて挨拶をする透と葵。その様子を言見ていたイヒメは


「それも一緒か・・・」


 と思わずそう呟く。


「お茶でもいかが?」


 その時白いティーポットを持ったセーナが葵と透の間に入ってそう尋ねた。


「あ、ありがとうございます」


「キノコのソテー美味しかったです」


 シンもお茶を頂くという意思表示でコクリと頷いた。

 3人のお茶の承諾を聞いたセーナ。アルバとステラが食後に用意していた白いティーカップを置き始めていた。


「でしょ~?ほとんどお肉と変わらない味だったでしょ~?」


「はい」


 キノコのソテーと言うよりも肉の、味や食感からしてまるで豚肉のソテーだった。味付けはバターとニンニクに似た香りのするユリ科の野菜を風味付けに恐らくは魚醤と思われる調味料で仕上げたソテーだった。

 バターと醤油に似た調味料であるからに日本人ならば馴染みのある味付けだ。だから異国の料理を食べてまんま「味が違う」から美味しいのではなく、食べた事はないが味がどことなく味わっている、けれども「味が違う」から美味しい料理として出来上がっていた。

 だからシン達現代日本組からしたら馴染みのある料理に近いから食べやすく懐かしみのある異国の料理として印象を持ったのだ。

 だが肉ではなく紛れもないキノコだ。味や食感は豚肉そのものだが、香りはキノコそのものだ。現代であればキノコはカロリーが低く、食物繊維が多い食物であるから、ダイエット食品として見ても何の差し渡しの無い表現だろう。

 だから次に出されたものについても思わず


「・・・何のお茶だ?」


 と聞いてしまったのだ。

 キノコがメインとしてあり続けるセーナの存在。出された料理がキノコ。だったらお茶がキノコ絡みであってもおかしくない。


「もちろんキノコよ~♪」


「・・・・・」


 やはりかと言わんばかりの無言で答えるシンにフォローを入れる様に


「・・・美味しかったよね」


「キノコとは思えなかったな」


 口を挟む透と葵。だが期待の言葉でもある。実際、キノコのソテーが肉のソテーの様な味で非常に美味だった。だからこれから出されるキノコのお茶が美味しいという期待は膨らんで当然だ。


「でしょ~ん?次出すお茶も気に入ると思うわよ」


 そう言ったセーナはアルバとステラにウインクして合図を送った。2人はティーポットを持ち、用意された白いカップに紅い茶を注いでいった。

 トポトポと注がれていくに遵って茶の香りが湯気と共に上がっていく。その香りが全員の鼻を擽る。


「へぇ・・・」


「・・・え」


「あ・・・」


 シイタケ茶とかをイメージしていたシンと透と葵は意外な香りに思わず驚いた。キノコのお茶と言われれば現代日本人であれば、すぐに想像するのはシイタケ茶だろう。

 だが意外にもキノコのお茶は多くある。ロシアのシベリア地方原産のキノコ、「チャーガ」。別名カバノアナタケとも、シベリア霊芝とも呼ばれる。名前の由来は「古い幹にできる黒いきのこ様のコブ」を意味するロシア語の「チャガ」から来ているとされてある。

 それを乾燥してお茶として使用する。また、「チャーガ」は酒に漬けて食用酒として愛されている。

 効能はSOD酵素が活性酸素を撃退することから、体の不調や病気、老化、や生活習慣病などを予防し、若々しさや肌のハリ、ツヤなどアンチエイジング効果も期待されています。 動脈硬化を予防する効果 チャーガに含まれているイノシトールとリグニンには、コレステロール値を下げる働きがある。

 馴染みあるシイタケ茶はたんぱく質やビタミン・ミネラル・食物繊維などの栄養素がたっぷりと含まれており、「エリタデニン」という成分には、血中コレステロール値を下げる効果が期待があり、「ナイアシン」も含まれているため、ダイエット中の栄養補給にも推奨されている。

 つまりキノコのお茶と言うのは意外にも身近にあり、効能が高いものが多いのだ。

 しかし、「チャーガ」は無味無臭で、シイタケ茶は言うまでもなくシイタケの香りだ。

 今回出されたお茶は柑橘類を想像させる爽やかで甘い香りがしてきたのだ。


「召し上がってね~」


 そう言うセーナにシン達はそっと白いカップを手に取り、口をつけた。


「「「!」」」


 甘い。茶葉特有の甘さではなく砂糖の様な甘さがあった。その上柑橘類の様な爽やかな香り。とてもキノコのお茶とは思えない。まるでオレンジピールや柑橘類のジャムを紅茶に多めに入れて飲んでいるかのような甘さだった。


「美味しい!これキノコなの?」


「甘っ!旨っ!」


「すごいな・・・これは何というキノコなんだ?」


 驚く3人で代表して尋ねるシンにセーナはニッコリ笑いながら答えた。


「現地の言葉で「ヒーピトッコ」って言うの。意味は「果物のキノコ」って言うのよ」


「「果物のキノコ」・・・」


 言い得て妙な名前に感心を持ちながらそう呟くシン。


「美味しいでしょ~?シキちゃんも大好きなのよ~」


 この場にいない名前に気が付いた透は思わず


「誰?」


 と首を傾げた。


「あらヤダ、アタシったら。貴方達が知らない事を言っちゃったわ~」


 そう言って手を頬に優しく当てて首を傾げるセーナ。


「誰なんだ?」


 誰かを答えない様子にシンは他の誰かにそう尋ねた時、代表して答えたのはサクラだった。


「ああ、今回の件で大きく関わってくる人物だ。道中で話すし、後に合流する。・・・そうだな名前は「健啖なる」シキテ、シキテ・イペタム・キキリと言う者だ。出会えばすぐ分かる」


 割と具体的に答えたサクラはヒーピトッコ茶をクイッと飲む。対してシンは拭えない疑問の色を帯びつつも


「そうか・・・」


 と納得し答え、ヒーピトッコ茶を口に運んで楽しむ事を続けた。

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