369.共同
「久しいな、シンよ。息災で何より!」
ギアはそう言って自分の為に用意された大きな席の方へ向かってそのまま座った。
「久しぶりだね、シン君」
同時にギアの巨体の陰に隠れていたアンリがそう挨拶して空いていた席に座った。
「久しぶりだ。特にギア」
シンはそう返しすと
「「御久しゅうございます、ギア様」」
アルバとステラが同時に挨拶をした。
「うむ、久しいな2人とも・・・あ、という事は・・・」
2人の事を確認した瞬間、脳裏に過ったのは他でもないサクラ。
「久しいな、トカゲェ・・・」
「ひ、久しい、な、サクラよ・・・」
サクラ自身の背後にメラメラとした炎のようなものが揺れ上がっており、ギアを照らしていた。
「サクラちゃん、久しぶり」
手をヒラヒラさせて挨拶するアンリに
「アンリも一緒だったのか」
サクラもそう言いつつ手を振り返す。
「あ、ああ、アンリ1人位なら、抱えれる」
これ見よがしに話題を逸らすギア。だがギアの見え見えな考えにサクラはギロッと睨んでいた。
「上から見ていたのか?」
「うむ」
「(やはり、上から見ていたのはギアだったか・・・。だがアンリも一緒だったのか・・・)アンリも見ていたのか?」
サクラの様子に気に掛けつつ、シンは気になっていた事を聞いた。ギアは間を置かずすんなりと答えた。その様子にシンが危惧していた事に繋がる事を更に尋ねた。
「いや、見てないよ」
安心したが意外な答えに少し驚きの心境になるシン。
正直、ギアとアンリが上空で自分達の事を見ていたのであればまず間違いなく、驚異的である自分に目を向けると思っていた。シン自身の体の大半はBBPになっているからその事をアンリに知られる事には一番拙かった。だから日常会話のように聞いた時のシンの心境はかなり緊迫したものであった。場合によってはアンリをどうにかして口封じせねばならなかった。
だが意外な答えにシンはそれ以外のシンが不利となる理由で動いていないかどうかを尋ねた。
「何で見てなかったんだ?」
「別の方を見ていた」
そう答えたアンリは少し眠いのか小さなあくびをしていた。
「別の方?」
シンがそうオウム返しに言った時
「ボス、さっき確認したがそのチビの言う通り、頭の角度からしてボスの方角とは違う場所を見ていた。その場所は・・・」
「そこの2人の事でね」
「現代世界の2人だ」
「「!」」
アンリはそう答えつつ透と葵の方へ向いた。ほぼ同時に答えた時シンは自分の事ではない事に安どしていたが別の疑念が生まれ、アンリをジッと見ていた。
同じく同時に答えた瞬間に2人も顔が強張って、短く息を吸い込んだ。
一気に緊迫した空気になった時
「先にご飯にしようよ~」
イヒメが気の抜けた声で叫ぶ。その言葉にアンリもコクリと頷いて
「そうだね。僕もお腹がペコペコだ」
「・・・・・」
と言ってアンリも席に着いた。
「いただきます」
シンがそう言って、透と葵も手をすぐに合わせて軽く一礼した。その様子を見たイヒメは
「あ、それは同じなんだ」
と思わず呟く。
「そこらは2人と何ら変わらない」
頷きながらそう答えるシンにイヒメはニヤ~と笑って
「へぇ~興味深いね」
と答えた。その様子にシンは短く鼻から息を吐いて
「俺も興味深い事がある」
と話題を切り替えてアンリの方へ向いた。
「ん?」
首を傾げるアンリにシンは追及するように
「・・・2人の実力でも見ていたとでも?」
言い切った。
「その通り」
すんなり答えるアンリにシンは少し拍子抜けしつつ更に尋ねた。
「俺とイヒメとのは?」
「ギリギリ間に合わなかった。それにメインは飽く迄もそこの2人だからね」
「・・・見たかったのか?」
頭を横に振りながらそう答えるアンリの様子にシンは真意を尋ねる。
「まぁね。タイミングが悪い」
「・・・・・」
本当に見られなくて良かったと安どするシンは相手に悟られないように自然な流れで話を続けた。
「それで感想は?」
そう尋ねた時、アンリは出されたキノコのソテーを頬張っていた。内容物を喉の奥に押し込むまでアンリは言葉をまとめた。
「動けるけど、スタミナ不足と技術が未熟もいい所だね。サトリとイズちゃんが興味なくなるのも無理はないと思うね」
「ありゃりゃ、分かったかい?」
「はっ、青いガキになんざ興味ねぇよ」
飲み込んだアンリは頭の中でまとめた言葉を即座に連ねて、話が振られた事にそのまま話に混じるサトリとイズメク。
「ね~。でも少しくらいなら教える事ができるけどね」
「まぁ、それなりに伸びりゃ、楽しそうだしな」
「それよりも、前に言っていた2人の保護は守るのか?」
最後はニヤニヤしながらそう語っていた2人。何となく話が脱線気味になっているように感じたシンは本題に話を繋げた。
「いきなり本題だね。まぁいいか。それは守るよ。ただ・・・」
話を続ける前にソテーに使っていたフォークを一旦置き、1秒ほど目を閉じて改めてシンの方を見つめた。そして
「君も関わってもらいたい」
と真剣な口調で言い切った。
「は?」
思わず疑問の言葉を吐き出すシン。だが今までのイヒメの事を考えれば間違いなく何か真剣な理由であると考えたシンは文句を言わず静かに耳を傾けた。
「全面的とか一部とか言わず、ほんの僅かでいいんだ」
「具体的には?」
「来訪者とか転生者って言うのは君が思っている以上に多い。しかも、団体でこちらに来ることも珍しくもない」
目を鋭く細めて質問をするシン。
「頻度としてはどれくらいだ?」
その質問にイヒメは「ん~」と唸ってからすぐに答えを出した。
「天然と言うべきかな?兎に角人為的でない場合はかなり珍しい。けど人為的の場合はリスクは多いけど簡単らしい」
「簡単でリスク?」
気になる単語をオウム返しするシンにイヒメは頷いた。
「転生自体は不可能に近い事なんだけど、来訪させることは可能だね。特殊な魔法の円陣を書いて、国家が手放したくない程の魔術に秀でた人物が召喚する。でもこれには大きな危険が伴う」
「続けてくれ」
頷いてからシンはそう言った。
「まず、単純に魔素を莫大な量を必要としているから、魔術に秀でても体や精神が耐えられなくって死に至る事が多い。来訪させる事に成功しても、周りの生物等が凶暴化して国に襲ってくることが多い」
「襲ってくる?何故だ?」
身に覚えのない出来事であるからにこの件についてもオウム返しに尋ねてしまう。すると代わりに答えたのはウルターだった。
「分かっておらんが、魔素の影響によるもの、若しくは魔素を感じ取って脅威と考えて襲ってくるのではないかと我輩は見立てておる」
「現に襲ってくるのは主に竜種の類が多いしね」
「・・・・・」
説明し切ったウルターに捕捉を入れるイヒメ。仮説とは言え、的確に近い適切な簡素な説明にシンは納得の無言になる。
確かにこちらの世界に呼び寄せた人物に心当たりもあるし、聞く限りでは人工的と言うべきか自分が召喚された時の事を思い返せば、当てはまらない事も多くある。
という事は「あれ」は自然発生に寄せた人工的な発声であり、「あれ」で来た来訪者は襲われないという事なのか?
そうした疑問が浮かんだ時、イヒメが口を開いた。
「話に戻るけど、リスクの事を踏まえてであれば割と簡単。だけどリスクを冒してまでとなるとやっぱり頻度はそれほどでもないかな」
「しかし我輩らが確認しただけでも1000人以上はいた。その大半は何かしらが原因で亡くなっている事も確認している」
シンの脳裏にある単語が一瞬過って目を一種の大きくしてすぐに目を細めた。
「まさか「病死」とかか?」
その単語を口にしたシンにイヒメはコクリと頷いた。
「話が早いな。まさにその通りだ」
イヒメの頷きの代わりに答えたのはウルターだった。
海外旅行や海外遠征で最も気を付けなければならないのは疫病などである。シンはゲームであるブレンドウォーズの時からその事を知っていた。ブレンドウォーズは可能な限りリアルに近づけたゲームとしても知られており、その中でもこうした疫病事情もあるのだ。
ブレンドウォーズでは異世界から持ち込まれた病原菌によって感染地域が拡大して疲弊した地域もある。また、異世界から来た住人がこの世界の病原菌に感染して多く亡くなり、終息したはずの病原菌が蔓延る事もあった。
そして何よりも世界で人が最も死亡率が高い事象が戦闘に関する死亡ではなく、感染症によるものである。
こうした諸々の事情の事を考えれば、この世界でも十分にあり得ると踏まえていた。となればいきなり異世界からここに来た来訪者が生活レベルが段違いのこの世界の生活する事になり、衛生面でもかなり気を付けなければならなくなる。
そして得体の知れない疫病に罹り、治療の仕方も衛生面も、これらに対する知識もどれだけ見積もっても近世レベルだろう。
それらの事情を向こうから持ち出され、透と葵の今の状態の事を頭に入れた瞬間、シンは深く溜息をした。
「つまり、そう言った事情があるからある程度は関わってほしいって事か?」
「正解っ」
ズビシ!と言わんばかりに人差し指をシンの方へ向けるイヒメは自身ある顔をシンの方へ向けていた。