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35.暫しの別れ

 獣道を歩いて洞窟から2時間ほどの所で街道らしき道が見えた。7人と1頭(?)のドラゴンが街道の手前まで歩いた。


「ふむ、恐らくあれは街道だろう」


「そうか、ついにか・・・」


 ギアがそう呟くと歩みを止まる。そんなギアの様子に気が付いたシンは


「・・・もしかして、ここから先は別行動か?」


 と止まった理由をギアに尋ねる。


「うむ、我が人里に出れば混乱が起きよう・・・。ならば、ここで別れよう」


「そうか・・・」


 ギアがここで別れる事を選択した事には大して驚きはしなかった。寧ろ至極当然と言って良い程の選択だろう。人間は群れて行動する生き物だ。その人間の群れの中で明らかに異質な存在がいれば間違いなく混乱は起きてしまう。

 ドラゴンであるギアが人間野村か町に出れば間違いなく騒ぎを起こすだろう。


「・・・・・」


 シンは自分の右の掌を見た。少し目を細め、頭を少し落とすように視線を下げる。


(正体がばれてしまえば混乱、か・・・)


 ギアが選択した事に対して微かな不安が頭に過る。シンの存在は明らかに異質だ。下手すればギアよりも異質だろう。その事を考えればそう言った不安が付き纏ってくる。

 さっきのやり取りを聞き、ズイッと前に出て来たのはナーモだった。


「あ、あの・・・!」


「?」


 ギアはナーモの方へ向く。


「・・・また、会えますか?」


 ナーモの目は真っ直ぐギアを見ていた。

 ギアはナーモの顔を見て暫し黙り込み


「この先の山を越えればまた会える。それまでの間は暫しの別れよ」


 安心するように声を掛けたギア。目を細め口を大きく開いた。その顔はどこかニカッと笑っているようにも見える。

 この約1か月間ここにいるメンバーとギアとの関係は深くなっていた。ギアの事を師と仰ぎ、教えに付いて行く弟子達の様に。またギアの人懐こさにも大きな要因になっているのだろう。ニックとククとココが今にも泣きだしそうになっている。


「今生の別れではないぞ・・・。そのような顔をするでない」


 今にも泣きだしそうな3人を宥めるギア。フイッとシンの方を向き


「其方にも世話になったな。また「ピザ」を食わせてもらうからな!」


 シンはギアの顔見て少し呆然とする。


「・・・ああ、それまで我慢できるか?」


 ギアは胸を張り


「・・・無論だ!」


 と宣言する。しかし、よく見れば目はやや泳いでおり、微かに涎が零れていた。その様子から見るとどことなく必死に我慢する子供のように見える。


(・・・マジで大丈夫なんだろうな?)


 少し不安に感じるシン。その様子は初めてのおつかいをさせる子供を心配する親の様だった。だがそのおかげなのかシン自信の存在についての不安は少し和らいだ。


 ・・・・・・・ただ別の不安が発生してしまったが。


 心配するシンの後ろからククとココがトテトテとギアに近寄り


「約束だよ・・・」


 それは再び会う事に対するものだった。ウルウルと目に涙を含ませながらギアを見ていた。それを見たギアは


「うむ、それまで強くなっている様にな!」


 と屈託のない大きな声で2人に言う。


「「うん!」」


 力強い返事をするククとココ。それを見たギアは


 グググ…


 バッサァッ…!


 背中に閉じていた巨大な銀翼を大きく広げる。


「また、会おう!」


「おう、またな」


 その翼を大きくゆっくりと羽ばたかせる。


 バサッ…!


 バサッ…!


 バサッ…!



 バサッ…!




 バサッ…!





 バサッ…!


 大空へ飛び立った。そのギアを見送るシン達。



「行ったな・・・」


 静かに言うシン。


「うん」


 ポツリと答えるエリー。そんなエリーにシンはそっと肩に手を乗せる。


「あいつの言う通り、また会えるからな」


 大切な事なので2度も3度も言い聞かせるように言うシン。エリーは涙がこぼれない無い様に堪えながら


「うん・・・!」


 と力強く答える。そして皆も不安な顔をせずニッコリと笑って


 コクリ・・・!


 と力強く頷く。

 シンはそんな皆の顔を見て


「そうか・・・」


 いつもと変わらない無表情のままで返事をする。しかし、言い放った言葉にはどこか穏やかさが感じ取れた。



 そんな雰囲気に浸っていた皆にシンは切り替えるように今後の行動について説明する。


「これからの事何だが、このまま道沿いに進んでいくと町があるそうだ。まずそこまで行こうか」


「「町!?」」


 とニックとシーナが思わず叫ぶ。さっきまでのやり取りの後とは思えない位顔が明るくなっていた。


「久しぶりの町か~」


「美味しいものがあるといいよね~」


 ニックとシーナは久方ぶりの人間の町に行ける事に対して心が踊っていた。そんな中エリーが気になっていた事を訊ねる。


「町に行って必要のないものは売るの?」


「ああ、あとギルドがあるならそこへ寄って登録する」


 シンの考えでは皆が使っていた武器とこの世界で売れそうな物は売って皆と一緒にギルドへ向かうつもりだった。


「・・・シン、兄も?」


 何気なく聞いてきたエリー。


「・・・・・」


 シンは答えを渋るかのように黙っていた。


 実はシンはギルドで登録するか否か迷っていた。

 エリーとギアの解析系魔法でシンの事を見ると「アンノウン」と出た。と言う事はギルドで身分を示す時に「アンノウン」と出れば少なからずシンは只者ではない事を知られてしまう。

 なるべくなら厄介事には関わりたくないシンは自分の情報を明かしたくは無かった。

 しかし、身分を確定しなくては、街の出入りにも事欠く。国から国へと自由に行き来できる「冒険者」という職業はあまりにも魅力的だった。無論、登録せずに無断で国境を超えて旅をするのも一つの手だとも考えたが、コソコソと国から国へと出入りすれば見つかって顔を知られてしまうと下手すれば手配書が出回る事態になりかねない。つまり結局厄介事になってしまう事になる。どうしたものかと考えていた。


「俺は・・・」


 エリーの問いにシンが答えようした時だった。



 キュイー・・・


「ん?」


 シンの耳に鳶か鷹の様な猛禽類の鳥が高らかな鳴き声が聞こえた。鳴き声がする方へ向く。向いた光景は木々が生い茂って小さな木の様な茂みが所狭しとあった。


「どうかしたの?」


 エリーはシンの様子が急に変わった事に頭の上に疑問符を浮かべる。


「いや、鳶のような鳴き声が森の中で・・・」


 シンは鳴き声がした森の中へジッと目を凝らしながら見る。


「?別に珍しくもないんじゃない?」


 そう答えたのはエリーではなくシーナだった。シーナの言う通り鳴き声がするからと言ってここは森の中だ。鳶が巣をして何かの拍子に鳴いたとしか思えない状況ではあった。別におかしなところ等は無かった。

 しかし、おかしな所は確かにあった。


「いや、珍しくは無いんだが、その鳴き声と幾つかの足音ががこっちに近づいて・・・」


 シンがそこまで言った瞬間だった――――


 ガサガサッ!


 ガバッ!


 シンの視線の中にあった茂みの中から出てきたのは2人の人間。オレンジ色の短髪の女性だった。その女性は革のベストのような鎧にポーチが付いており、白いシャツ、灰色のズボン、革製のブーツを履き、片手には剣を握っていた。見るからにいかにも「私は冒険者ですよ」と言わんばかりのお手本のような格好だった。


 もう一人は・・・中性的な(男性とも女性ともつかない)人物で髪は同じく短髪で淡い茶色。白いプレートアーマーに白く美しく飾られたメイスを右手に、上半身が隠れるほどの丸い盾を左手に持っている。外見から見れば通常の人であれば騎士のように見えるが、RPG等のゲームで遊んだ事がある人であれば神職に携わり回復や攻撃等の魔法が使える、所謂「聖騎士」と言われるような恰好の人物だった。


 ドゴォッ!


「!?」


 音のする方へ見ると、木を薙ぎ倒しいきなり出てきたのはグリフィンそっくりのモンスターの「グリフ」。

 どうやらこの2人によってここまで連れられて来たようだ。


「チッ・・・」


 シンの目の前で厄介事を連れて来たこの2人に対するイラつきの舌打ちを送る。

 だがそんな事には気づかず、グリフに武器を構える2人。しかし、この2人は気づくべき事に気が付かなかった。それは、シン達の前にこのグリフを連れてきた事に。


「・・・こいつら!」


 小さな声で怒声を発したシン。


「皆はここにいろ・・・」


 怒りが絶頂に達したシンはグリフの所へ向かった。


 グリフはシンの存在に気付く。


 キュッ――――イ!


 雄叫びを上げる。まるで新しい獲物がこれから手に入る喜びを表現するかのように。


 しかし、このグリフ僅か10秒後に獲物は自分である事を死ぬという形で思い知らされる事になる――――


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