366.感性
(流石に拙いか・・・)
挟み込まれたシンはそう考えて、腕に力を入れた。
ベキンッ!
「!?」
バキバキツ・ガラガラ…
いや正確には触れている腕の、掌の内側に空洞を作ってその内側にバネの様に伸縮したBBPの棘をまるで掘削機の様に一気に放出した。
そのおかげで挟み込んでいた岩が一点に集中して割れて崩れたのだ。
イヒメの視点からでは挟み込んでいた岩が急にガラガラと崩れてしまった事に驚いていた。
(力入れた覚えがないから、あのまま割ったって事かな?)
冷静に推察するイヒメは次の魔法をし変えようと考えていた時
フッ…
(マズ・・・)
瞬時に消えたように動いたシンにイヒメは少し焦りだす。
ヒュッ…
いつの間に自分の目の前にいたのか分からない位にまで接近を許してしまったイヒメは咄嗟に一歩後ろに引く。
同時に
ビュッ…!
不可視の手がシンの顎を狙って思い切りアッパーカットを繰り出そうとしていた。
だが
ギロ…
「!」
視線が不可視の手の方へ向けていた。
スッ
シンは冷静にいつその位置に、と叫びたくなる位に開いた掌を出して
パシッ…
受け止めてしまった。
フッ
不可視の手が消えた。
ドッ…
強く踏み込むシンの一歩の足。
その足音を聞いただけで一気に焦燥感が湧き上ってくる。同時に恐怖心が芽生えそうになる。
けれどもイヒメは冷静に
ビュァッ…
一気に無数の不可視の手を同時に殴りにかからせた。狙う個所は人体において急所となる場所。
ギョロッ!
「っ!」
シンの手があらゆる方向へと動いた。
パンッ…
刹那の間。
シンの手は迷うことなく正確に不可視の手を振り払う。
パンッ…
次も
パンッ…
次も
パンッ…
次も
パンッ…
次も
パンッ…
次も
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパァァァァァァァン…
次々と・・・
刹那の間は
「・・・・・」
瞬間として過ぎる。
余裕を見せていたイヒメも思わず絶句してしまう。
それも当然だ。たった2つの、両腕だけで無数にあった不可視の手、全てを払い落としたのだ。
「・・・っ!」
イヒメは即座に動いた。
ゴォッ!
イヒメの背後上から巨大な、大型を連想する位の大きさで不可視の手がシンに向かった突進した。
ドゴォォ!
間違いなくシンに当たったはず。
だがシンは間違いなく無傷だ。根拠はない。ただ、そんな気がする。
ピャゥッ
巨大な不可視の手が真っ二つに割れた。
パカッ…
いや、斬られた。
ズズン…
地面に伏せられた不可視の手は霧散していく。シンはイヒメの勘の通り、無傷だった。そして同時にシンの手を見た。
(いつの間に剣、いや刀を持って・・・)
シンは右手に刀を持っていた・・・ではなくBBPによって変形していた。
刀の存在はサトリが所持しているから、その違いが分かっていた。だから刀と剣の違いも、刀の脅威も良く知っていた。
ドッ!
シンがまた詰めてきた。
ボゴン!
イヒメは地面から巨大な土と岩でできた手で防いだ。
しかし
「っ!」
サッ…!
ピャッ
イヒメは何となくもっと距離を空けた方がいいと判断して、後ろへ跳んだ。
そしてその判断は間違っていなかった。
ピシッ…
切れ目が浮かんだ巨大な手は
バラバラ…
ズズン…
そのまま崩れていった。
バスッ!
「っ!」
空気が短く勢い良く、小さな穴から放出した音が聞こえたと同時にイヒメは左に体を反らした。
ビシッ!
後ろにあった木が指位の太さの穴が抉る様な形で空いていた。
(投げた・・・いや飛ばしたね・・・!)
シンは左の掌を逆にしてイヒメに突き出していた。手首の少し上、掌の付け根近くに小さな穴があった。そこから何かを飛ばしたと見抜いたイヒメ。
シンは巨大な手を切った時に、破片として落ちてくる小石を左手で受け止めてそれをBBPによって沈み込ませるように取り込んで、空気の放出を利用した空気銃として利用したのだ。
それがイヒメを狙いを定めて射出したのだ。
スゥ…
シンは躊躇わずまたイヒメを狙いそれが分かった瞬間
バスッ…!
撃った。
チュン!
「!」
イヒメの数十㎝手前で透明な「何か」によって弾かれてしまった。
魔法だ。
また魔法で巨大な不可視の手で守ったようだ。
「・・・・・」
ここまでの攻撃をしてそれらしい被害を受けていないイヒメにシンは、もどかしいものを感じつつ、改めて彼女の脅威を思い知る。
かく言うイヒメもシンがあれだけの攻撃を受けて未だに尽きない戦闘意欲とスタミナ、バイタリティー、戦闘技術・・・。恐ろしいのは何よりも彼の戦闘の「感性」だ。
シンの戦闘の感性は間違いなく正確で的確で不気味だ。
最初の戦闘になった時、シンはイヒメの攻撃を態と食らっているようにも見えた。引き続いての戦闘でもシンが知らないイヒメの攻撃を仕掛けた時、食らっていたが、それも態との様に見える。
態と食らってデータを手に入れて、最適解を出す。しかも食らっても大したものではないと分かればお構いなしに食らいながらも攻撃に転じる。
シン自身が酷く硬い上に速く正確で、その上隠し玉と言える「何か」をまだ持っているように見える。だとすればここでこちらもそれなりの、それなりの本気を出さねばならなくなる。
だから
「いくよ」
掴み所の無い声から一変。
冷たい、恐れなどの印象のある、何よりも「死」を連想する声だった。
来るな。
シンはそう感じて体に
ギリギリ…
力が入る音を出して
スゥ…
「消す」準備が整った。
ゴッ!
イヒメの真上から轟音が聞こえた。その音は鉄砲風の様な勢いがある強い短い大きな音だった。
実際イヒメが繰り出したのはまた不可視の手だった。それも巨大で無数に用意していた。そのうちの一つがシン目掛けて飛ばした。
ドゴンッ!
地面が割れる音がした。
同時にシンは避ける為に直前に跳んで宙に舞う。
その瞬間を狙ってイヒメは巨大な不可視の手を宙に舞うシンを捉えた。
トッ…
シンは飛んできた手を優しく手の甲において
フッ…
それを乗り超える様に避けた。
「・・・・・」
「・・・・・」
避けた時、ほんの一瞬だがイヒメとシンと目が合った。その瞬間未だに解いていないこの殺伐とした空間で相手の様子を確認を取った両者は
ビュォッ…!
ピャウッ
仕掛けた。
イヒメは得意の不可視の手で。シンは右手の刀で。
不可視の手は真っ二つに斬れて分かれる。シンはそのまま宙を舞いながらどんどんイヒメに近づいていく。同時に
スッ…
左手を前に出して
「!」
バスッバスッバスッ!
3発連射した。
ビシッ
ビシッ
チュンッ!
狙いは正確でイヒメの胴体を狙っていた。だが不可視の手で防がれた。しかも
ブォッ!
「!」
防いだ不可視の手でシン目掛けて突進してきた。
それを見たシンは刀で斬った。
その時、シンの左上に何かの力が加わった。
グイッ!
「!?」
左手首を見たらいつの間にか蔦で作られた縄が括られていた。どうやらシンが魔素で構成された魔法は効果がない事への対策のようだ。
イヒメはシンが効果がない事に派手な攻撃を仕掛けつつ、木々に巻き付いていた蔦を魔法の手で引きちぎってそのまま縄を編んで、シンの動きを封じようと、機会を窺っていた。
そしてその瞬間がやってきてその縄をかけたのだ。
「・・・!」
シンがその縄を引っ張ろうとした瞬間、無数の手が縄を持っていた。それを見たシンは
ブツッ…!
左手首に巻かれていた縄を手首の表面を刃を飛び出すように変形して切り裂いた。
そのおかげで左手も自由になって宙に舞うシンは同じく宙に舞う無数の手を
ヒャゥッ
乾いた風切り音を出す。同時に無数の手が切り裂かれて墜落していく。
その瞬間をイヒメの目に移っていたのはシンの両手が複数の触手に変わって、無数の手を切り裂かれていくものだった。