364.追い込み
「・・・・・!」
「ほぅ」
葵はパラパラと落ちてくる石を握り、その手を目掛けて突き出していた。
「ぅあああああああああああああ!」
腹の底から吐き出すように叫んで魔法を行使する葵。
バァンッ…!
強烈な破裂音。
共に
チリ…
「おぉ・・・!」
ウルターの後方にある木の幹に被弾したようで、木そのものが弾け飛ぶように抉れて倒れていた。今までで考えられない位の威力に感心の声を思わず漏らしてしまうウルターはすぐ様に今の葵を分析する。
(だが制御はできておらんな)
明らかに我武者羅で制御できない位のヤケクソに力をそのまま行使している。だから狙い目が雑であることは明白に分かり切っている事からウルターは何のアクションを取らなかった。
だが次の攻撃は葵がすぐさま移っている事にウルターの目の青白い光が揺らぐ。
「「散り星」を返すよ」
葵が握っていたのは近くにあった無数の小石を拾って握っていた。どうやら、今までの戦闘で拾い集めていたようだ。
そう宣言する葵にウルターは
「それはただの石であろう」
呆れながらそう答える。
その瞬間に
バァンッ!
強烈な破裂音再び。
と同時にウルター側では
パッキィン…
金属が強く始める時の甲高い音が聞こえて
カカカッ
ドドドッ
木や地面に飛んできた無数の小石が突き刺さっていた。
「硬い・・・!」
ウルターの前に薄い青く光る球体を思わせる丸みを帯びた障壁が出ており、それが罅が入っているだけで、本体であるウルターはダメージはおろか掠り傷一つも付けられていた無かった。
余裕でいるウルターは展開した魔法の様子に少し驚いていた。
「む(割れそうになっておるな、かなり威力があると見た)」
想像以上の威力に驚くウルターに葵は更に拾っていた石を握って前に突き出し
「っ・・・!」
「!」
魔法を行使する。その瞬間をウルターは魔法で対抗して行使した。
バァンッ!
ガシャーンッ!
「・・・!」
ドッ!
強烈な破裂音と共に聞こえてきたのはガラスが割れる音だった。
割れる音の正体はウルターが張った魔法の障壁だった。
障壁を割って飛んで行った石の行方はウルターの後方奥にある木の幹に被弾していた。いや、被弾どころか貫通して更に奥へと消えていった。
撃ったと同時に
ゴロゴロ
転げ回って
バッ
地面に落ちている拳大の石を手に取って
「次は当てる」
狙いを定めた。定める標的は無論ウルターだ。
「見事なり」
ウルターがそう口にした瞬間
バァンッ!
強烈な破裂音と共に放った。
バリバリーン!
ピシ…
ガラス割れる音が二つ。
ガラスに罅が入る音が一つ
「!」
ウルターはさっきの魔法の障壁を3枚重ねにして防ごうとした。だが結果は
(3枚でも怪しいのか・・・。見事な火力を誇っておるな)
内2枚は完全に割れて、一つは飛んできた石を突き刺さる形で止めていたくらいだ。あれ以上に威力を持つ魔法が来れば3枚はおろか、それ以上の魔法が必要になってしまう。
かなりの威力だ。
「だが、もはやここまでだ」
だがそれはその魔法の威力の話だ。しかも現状を見れば一点集中で行うタイプの方法だ。
つまり多方面からの攻撃は苦手である。
だから
「猛獣の鎖」
ポゥ…
葵の左右に上下に人の頭サイズの黄色の光球で現れた。その光球から
ジャラジャラジャラジャラジャラ…
黄色の光を帯びた枷の付いた鎖が葵の四肢目掛けて飛んできた。
そして
ガチガチガチガチン…!
葵の両手足首に繋がれてしまった。
「ぅっ・・・!」
大の字に拘束されて動けなくなる葵。
「っ・・・ぁぉぃ・・・」
掠り傷と疲労で思う用意動けないから小さな声で叫ぶ透。その透にもウルターは攻撃・・・ではないが容赦なく魔法を仕掛けた。
「囚人の蔦」
地面に伏せ気味になっている透がいる付近の地面に生えている草が
シュルシュルシュルッ!
触手のようにうねり動き
パシッ
透の体を捕らえて
ギュゥッ…
強めに拘束。
同時に
「くっ・・・!」
ドサッ
完全に地面に伏せた透。
「手荒な事を致した、許せ」
ガシャン…
「「・・・・・!」」
そう謝罪しながら2人の近くまで寄るウルターに睨みつける透と葵。
「見事なり、トオルとキオよ」
そんな2人に素直に感服の言葉を贈るウルターだが、葵の名前を間違えていた。その事に中々に閉まらない状況に葵は少し呆れながら
「・・・キオ、じゃ、ないって」
訂正の言葉を贈る。
その事にウルターは少し焦り
「おお、すまんすまん。キオシタ・・・アオイ、で良いか?」
まだ間違う。
「「き、のし、た・あ、おい」。「きぃ・のぉ・しぃ・たぁ」」
強調して訂正の言葉を贈るも
「うむ、分かり申した、キノウシタよ」
何となく酷くなっていた。
「・・・葵、で、いい、です」
疲れのせいか、もう呆れてしまって自分の事をそう呼ぶように言った。
「む・・・すまん。甘えさせて頂くとする」
現状の事を考えて葵の言葉に甘える事にしたウルターは話の路線を戻した。
「アオイとトオルよ見事なものであった。そして、此度の戦闘に無理やり参加させた事に謝罪の意を申す。許せ」
「・・・何で、こんな、事を?」
僅かに話の合間合間にヒュ~ヒュ~と言う小さな呼吸音が聞こえてくる。かなり疲れているのが窺える。その様子を見ていたウルターは僅かに頷き
「訳を申す前に、あちらが終わってからとしよう。それに・・・」
そっと屈んで
「疲れと怪我を癒した方がよかろう?」
と囁くように言った。その言葉に
「「・・・・・」」
2人は顔を見合わせていた。
ドォォォン…
ゴォォォォォン…
打って変わって更に激しい戦闘音が森の奥から聞こえていた。その場にいたのは
「・・・!」
土煙に目を向けつつ周囲に警戒して、その網にかかってそちらの方へ目を向けるイヒメと
「・・・・・」
ビュォッ!
「っ!」
土煙から出てきて、いつ目の前に来たのか分からない位に瞬時に距離を詰めてイヒメの喉元を手刀で突こうとするシンだった。イヒメは直前に気取って頭を動かして避けるが、余裕等なかった。
「・・・・・」
次の攻撃手段に移ろうとするシンの様子を見たイヒメはゾワリと背筋に総毛立を感じた。
「やばっ・・・!」
咄嗟に距離を空けようとした時、シンは突き出した手刀をそのまま横薙ぎを仕掛けた。
ボッ!
「ひぃ~・・・」
すぐさま屈んでシンの横薙ぎを避ける事が出来たが、想像以上に即座に攻撃手段の移り変わりにイヒメはここで漸く離れる事が出来た。
トッ…
「・・・・・」
ジッとイヒメの様子を見ているシンにイヒメの蟀谷にツツーッと冷たい汗が流れていく。
(怖っ!こいつ怖っ!)
イヒメは小さく息を整う為に深い呼吸のリズム確認した。
「ふ~…」
呼吸を整ってから改めて今の状況を整理するイヒメは瞬時に
(多分、このペースだと僕一人じゃ厳しいな・・・)
と判断した。
「仕方ないっか」
小さな溜息を付いたイヒメの様子に
「・・・?」
シンは少し困惑していた。
何をするつもりなのかと言う疑問と共に、余裕があるような態度からして恐らく何か隠し持っている様子だ。
だから警戒は怠らなかった。
決して怠らなかった。
けれども
「ゴメン、シン君」
「!」
イヒメの目つきが変わった。
「ちょっと本気を出すよ」
「っ!」
シンは本気を出すかどうかについて真剣に向き合わなければならない時がやってきた。