34.出発
それぞれの思惑や目的を掲げられてから早1ヶ月。
「え~と、売るものはこれと、これと・・・」
「こっちはどうするんだ?」
「あ、それは私が見る」
シン達はついにこの洞窟の場から旅立つ事になり、今持っている持ち物を探って商人に売るものと買うものをそれぞれが確認し合っていた。
「そういえば、行き先は決めているのか?明確な行き先が無ければ無闇に動くと危険だぞ?」
とギアが最初の行き先についてシンに尋ねてみた。
「ナーモと相談して分かったんだが、ギルドへとりあえず行ってみようかとは思っている」
そう答えたシンの服装はたった1ヶ月で随分と変わった。
赤い筋の入った黒のワークキャップを被り、Vの字に開いた黒いノースリーブのTシャツ。首には例の通信機に膝より下の部分には分離できるようにチャックのついた袴のようなブカブカの黒いカーゴズボン。デザートカーキのタクティカルベスト(軍隊に使われているベスト。自由にポーチなどを付けられるようになっているのが特徴)には胸の部分には「LP」の変えの弾倉・・・ではなく電池は8つのポーチと鳩尾部分の左側には5つのグレネード専用のポーチとグレネード2個分入る大きめのポーチを装着していた。左の腰部分にはホルスターが固定され左手で即座に「LP」を抜く事ができるようになっている。無論「LP」は装着済み。そのベストを覆うように肩の付け根の部分で分離できるようにチャックが付いたカーキのミリタリージャケットを着こみ、「LP」をすぐに取り出せるように前は開いている。そして黒のブーツを履いていた。
「ギルド・・・か。確かに地図も手に入れるし、どの国に属しておらぬから世界中どこへでも行ける・・・」
ギアの答えはほぼ正解だった。
「まぁな、国に属してしまうと必然的に戦争に巻き込まれてしまうからな」
現在世界各国ではすぐにでも争いが起きようとしている。その為、強い者を我が国の軍事力にしようと勧誘や強要してくる。そこでどの国からも干渉を受け付けない巨大な組織に入る必要がある。それがこの「ギルド」だ。
「ギルド」とは行商人や冒険者、傭兵などの世界中自由にどこへでも動くことができる者達が集うこの世界唯一の巨大国際的組織だ。行商人や傭兵は言わずもがな、冒険者とは掲示板等で依頼を受け負う所謂「何でも屋」のような仕事だ。ここまではゲームや小説、漫画でよくあるパターンだが、ナーモから聞いてギルドに入る事にしたのには他にもあった。まず、入会可能年齢は「7歳~」となっている。これは誰でも身分証明を手に入れるために気軽に登録できるように「7歳~」となっている。今ここにいるメンバーの中で一番の年少者はククとココだ。2人とも8歳なので問題なく入会ができる。ある程度自分たちの力で生きて行く事は出来る。
次に依頼料だ。依頼料は平均で銀貨5枚~金貨3枚だそうだ。銀貨1枚は1000円とほぼ同額である。つまり一日に最低でも5000円支払われるという計算になる。屋台で売っている食べ物1食分の値段は平均で銅貨5枚。銅貨1枚につき100円という計算だ。1日生きていくにはほぼ問題はない。
だがどんな事にもデメリットがある。まず福利厚生が無い。また不安定な収入のためあまり生活が安定しない。そのためほとんどのギルドの会員の最終目標は安定した生活だ。それまでの間は行商人、冒険者、傭兵で下積みをする。
だが、その目標に辿り着けず、志半ばで命を落としたり、物乞いや奴隷に身を落とす者も決して少なくない。
だが、ここにいるメンバーはシンの基礎体力と精神力を鍛えるための訓練やギアの模擬戦闘で鍛えて来た者達だ。大きな問題さえなければ最終的に安定した生活になるだろう。
「・・・まぁ、問題無かろう」
「だろ?」
シンとギアはチラリと皆の方へと目を向ける。
確かにここおよそ1ヶ月でここにいる皆は強くなった。奴隷商人に捕まっていた時の様に痩せてみすぼらしい雰囲気はなく、鍛え抜かれ、血色が良い健康体そのものだった。顔や腕に薄い切り傷の跡などがあり、顔つきは何処か逞しくなった様に見える。
今いるメンバー全員はジャージ姿だが奴隷商人の馬車の中から手に入った金貨で新しい服や武具を買う予定だ。
「俺達はこれで用意はできた。お前らは?」
今持っている荷物を確認し、売る物を決めたシン。シンは皆がそれぞれの荷物の確認ができたのか皆の方へ問いを投げかける。
「できた・・・」
「いつでも」
「俺も」
ククとココにも目を向けるとコクリと頷く。
売る物と持つ物とで分け、売る物はブルーシートの上に乗せ、持つ物はそれぞれが持っていくようにした。ブルーシートの上に乗せた売るものはシンの「収納スペース」に保管した。するとギアがそれを見て疑問を投げかけて来た。
「シンよ、それは何だ?」
シンは少し目を大きく見開き「しまった」と思った。
(ああそうか、ギアには「収納スペース」を見せてなかったな)
ギアに見せた、というか見せざるを得なかったのは「ショップ」であり、「収納スペース」は見せていなかったのだ。いきなり目の前にある物が急に消えてしまった事にギアの顔にも驚きの色が出ていた。シンは数秒、間を置いてからギアに説明した。
「ああ、これは・・・俺にしか使えない異空間で収納できる魔法だ」
「異空間?」
「ああ。出来れば他言無用で」
「・・・そうだな。今や戦時の一歩手前だからな」
「助かる」
ギアは小さな溜息を付く。
「時々見当たらない物があるとは思っていたがそう言う事だったのか」
「ああ、あまり使わない物はそうしてる」
シンの「収納スペース」は今でこそあまり目立たなかったが実際はとんでもない技術だ。戦争において武器や食糧等の補給は欠かせないものだ。軍隊で動けばそれなりに必要となる補給物資も多くなる。そうなればそれを運ぶためにそれに費用となる補給部隊の様な人手が必要になってくる。そんな所にシンの様な「収納スペース」があれば人手に回さなくともたった一人で補給係として済む上、今まで補給部隊だった兵士は一般兵として扱える。結果として軍備増強に繋がる。そうなれば戦力が拡大し集中できる。
また、前線と後方の兵站基地とを結ぶ、兵員・弾薬・食糧などの補給のための交通路の事を補給線と言う。誰がどこにいるかと言った情報を秘匿さえすれば敵による補給線を断絶しにくくなる。
そうなれば戦況が有利になる。
シンの「収納スペース」の価値を見出しシンにすり寄ってくる連中と言ったら「国」だろう。シンは面倒事に巻き込まれたくはない。「収納スペース」を人前に見せれば瞬く間に自分の事が広がってしまう。
そのためギアに他言無用を頼んだのだ。ギアはその事を知っているのかすんなりと承諾した。
「皆もこの事は誰にも言わないでくれ」
「分かった」
「うん」
シンは皆にも他言無用に言った。皆は「この事を言いふらせば少なくとも自分達もただでは済まない」とでも思ったのか割とすんなりと承諾する。
「助かる」
シンは少しホッとした。
一息ついてから皆が旅立つ用意ができたのを確認し、
「では行くか」
と号令をかける。キャンピングカーは「収納スペース」に保管し徒歩で移動する事に・・・
「待って!」
そう制止の声を挙げたのはニック。
「何だ?」
「あの荷車で移動しないの?」
「荷車?・・・ああ、アレか」
あの荷車とは「キャンピングカー」の事だ。キャンピングカーのタイヤを見てどうにかして移動ができる、或いはギアかシンが引っ張って移動すると考えていたのかニックは荷車で移動ができると考えていた。
しかし、そんなニックの考えはシンの言葉によってあっさりと崩れる。
「野宿する時はなるべく出すようにするが、基本は徒歩だ。頻繁に盗賊なんかとは出会いたくはないだろ?」
「う・・・」
シンの言う通りキャンピングカーで移動するにはかなり目立つのだ。移動では早いかもしれないが目立つし噂で広まってしまう。また、盗賊が夜襲をしてくる、勘のいい者であれば移動中に大木等のある程度巨大な物を倒して道を塞いでその隙に襲ってくるなんて事も決してあり得えなくはない。
「そういうわけで暫くは徒歩で移動する。それから、移動中も訓練することもあるからな」
そこまで言うとメンバー全員の顔が急に冷え込んできた。「また、地獄の訓練かよ・・・」と言わんばかりの顔になっていた。
「じゃあ行くか」
何とも締まらない雰囲気で旅立ったシン一行。
シンは振り返り洞窟方へと目を向ける。
「・・・・・」
フッと目を閉じ改めて前を向き、先へ進む。
何を思い、何を感じて洞窟を見たのかはシンだけにしか分からなかった。
色々前回の話に続いて次話を考えたのですが何も思いつかず取敢えず第1章の様な形で区切る様な形になりました。次からの話は新しい章と言う形になります。つまりこれが最終話という事ではありませんので楽しみにしていた方は安心してください。もし1ヶ月の中での出来事を話として思い付いて投稿する時は閑話と言う形になるかと思います。こんな行き当たりばったりな小説ですが今後ともよろしくお願いします。