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357.暗闇への目

あけましておめでとうございます!

 時間は夜中の3:30だった。

 その日は風が強かった。

 こんな状況でも離陸して目的地まで飛び立つ事になったシン達は機内でシートベルトをしてじっと座っていた。ビジネスはおろかエコノミーでもありえないような硬くて座り心地はあまり良くない椅子が着ない側面にズラリ一列に並んでいた。そのうちのいくつかは座席として座り、騒がしい外の音に傾けたくもない耳は自然と音を拾っていた。


 ゴォォォォォ…


 最早エンジン音なのか風の音なのかが分からなくなっていた。


 ガタガタガタガタ…!


 グラッ…


「・・・!」


「ゎっ…!」


 吹き荒れる風圧のせいで不穏な音ばかりか、不安になる揺れを感じる。だから思わず声を出してしまうのは必然的なのだろう。


「結構風が強いな」


「およそだが、風速180mだ」


 結構な風速だ。上空、およそ1万メートル付近では、毎秒およそ100メートルという強い風が、西から東に向かって、ほとんど1年中吹いている。今回の風速は1.8倍だ。かなりの風量で簡単に航空機の類を飛ばすわけにはいかないレベルだ。一般的には、追い風(機体の後方から吹く風)成分が15ノット(約8m/s)を超えれば離着陸は禁止で横風(機体の真横に吹く風)成分が35ノット(約20m/s)未満でも滑走路面が濡れていたり、自動着陸を行う場合は不可となるケースが多い。

 だが、今回のように飛ばす事が出来たのはフリュー自体が通常の航空機の機体としているわけではないからだ。構造強度や機体表面の強度が高いから通常では飛ばす事が困難な環境でも飛ばす事ができる。だから今回のように飛ばす事が出来たのだ。


 グラッ…


「ぃっ・・・」


 だが、それでも長時間飛ばす事は相当負担になる。彼是3時間ほどになる。可能な限り、過酷な風量とならない空路で飛んでいるのだが、今のような風速が多い。過酷な旅路となっているのだ。本来ならある程度は低空飛行の方が良いのだが、あまり低空飛行だと、地上から見えてしまうことになる。それは避けたい。可能な限り空高く、夜遅い時間帯に飛んで誰にも気づかぬように行動していた。

 そしてその行動もそろそろのころだった。


 ジリリリリリリリリリ…!


「うわっ!」


「っ!」


 つんざくようなけたたましい消化ベルのような音に思わず耳を塞ぐ2人。


「降下地点だ!」


 シンがそう言ってシートベルトを外して側面にあるボタンを押して扉を開けた。


 グオォォォォォォォォ…


「「・・・・・」」


 大きな音を立てて開く扉の下を見る2人は静かになっていた。


「・・・こっから降りるの?」


「高・・・」


 高さは約15m程。訓練等受けてない者にとっては足が竦んでしまう高さだ。小さな声で弱音を吐く2人の声を聴きつつも、もう決めた事である事にシンは決して揺らぐ事が起きないようにと降下する方法を説明し始めた。


「ロープのここにこれを引っ掛ける。それを確認したら、そのまま降りてくれ。早く降りるんじゃなくて、ゆっくりと降りるための装置だと思ってくれ」


 手に持っているフックのような装置を見せつつ、予め体に装着しているハーネスのあるいくつもあるリングうちの一つ、腰のリングに手を当てて説明する。その装置を見つつ説明を聞いた2人は不安が心に残りつつも頷き返した。


「・・・分かった」


「・・・・・」


 そのままフックを手に取って


 カチャッ


 腰の所にフックを引っ掛けていつでも降りられるように準備をした2人は生唾を飲み込んだ。


「怖ぇー・・・」


 透は高所恐怖症なのか未だに小さな声で弱音を吐いていた。シンは2人を自分の方へ体を寄せる。心なしか自分達を安心させるかのように強めに寄せてくる事に2人は気が付き、思わずシンの顔を見た。


「行くぞ」


 シンがそう言って一思いにドアの外へ跳んだ。


 バッ!


「っ!」


「ゥッ」


 一気に跳んだ事に思わず小さな声を上げる2人は思わず一瞬強く目を閉じてしまった。


 キチッ!


 跳んで落下する重力によってフックの安全装置が起動した音が聞こえた。そのおかげで


 ギュォォォォォォン…


 ロープが擦れる音があまり激しい音はせず、ゆっくりと降下していった。


 トッ…


 地に足が付いた事を感じた2人はホッと胸を撫で下ろす。


「・・・お、降りれた」


「・・・初めてか?」


「う、うん・・・」


 震え気味に呟く透の声にシンはそっと尋ねた。透はコクリと頷いて答えると


「なら、よくやったな」


 軽く肩にポンと手を当ててフックを外し始めた。


「え?」


 その事に透はキョトンとした顔になるも、カチャカチャと音に気が付いてすぐに自分の腰にあるフックを少し震える手で外し始めた。同じく葵も少し震える手でいそいそとフックを外し始めた。


「初めてならかなり緊張してしまうものだ。だけど、身体が強張っていなかった」


「そうなの?」


 シンの言葉に気が付いた葵はフックを外すと同時にシンの方へ見た。


「分からなかったね」


 同じくフックを外した透もシンの方を向いた。その時、後ろで


 ドサッ!


 ロープに繋がれた大きな黒いバックがあった。


「・・・中身を出して装備したらすぐに移動するぞ」


 そう答えつつ、黒いバッグを開けた。中に入っていたのは中世の世界ではよく見られるような長剣と革鎧が入っていた。


「うん」


「分かった」


 今着ている服の上からそのまま装着できるものばかりだったから即座に着替える事が出来た。着替え終わったと同時に腰に装着していたハーネスとベルトをバッグに入れて、ロープに繋がれた黒いバッグはそのまま吊り上げられてフリューの機内へと入っていった。

 それを見たシンは


「行くぞ」


 そう言って2人を引き連れた。2人は答える事無くシンに黙ってついて行った。





 2日前の晩の事。

 マザーベースの一室を利用してシンと葵と透でミーティングを行っていた。内容は降下時の具体的な話だった。


「2:30に出発ですか・・・」


「ああ。装備は軽装で可能な限り武装は控えめだ」


 時間が深夜であるのはこの世界の人間に見られないようにする為。軽装なのは降下した後、移動時で動きやすくする為だ。


「「・・・・・」」


 無言になっている2人にシンは目を細めて


「不安か?」


 と尋ねた。


「い、いや、そんなんじゃなくて・・・」


 すぐさま頭を横に振る透の様子を見てシンは深く息を吐き


「・・・今回向かう目的は一応話合い目的で行くんだ。変に重武装するのは変な緊張感を持たせてしまう。それは避けたいから、武装は良いが重いレベルのは控えてほしいんだ」


「・・・・・」


 念を押すように言うシンに無言で頷く透。不安な顔を見たシンはコクリと頷き、改めて2人の顔を見て


「万が一、向こうが何かすると判断したら即座に撤退する。その時は何が何でも2人を・・・」


 言うにつれて言葉が徐々に重くなっていくのを感じた2人はシンの顔を見て


「「・・・!」」


 思わず生唾を飲み込んだ。


「助ける」


「「・・・・・」」


 そう言い切った時のシンの目が酷く冷たいものを感じた2人は絶句に近い沈黙を出していた。その沈黙の間がどれくらい続いたのか分からないが、たとえ1秒であったとしても酷く長い間を感じた。その2人に気が付いたシンは


「問題ないか?」


 と声をかけた。

 その声に2人とも我に返ったように気が付き


「・・・うん」


「お願い」


 と答えてそのまま話を進めてミーティングを終えた。





 そして今に至る。


「・・・・・」


 その時の事を思い出していた。一点を集中するかのように目を動かさず、沈黙する透に気が付いた葵は心配そうに


「どうかしたのか?」


 と尋ねた。その声に反応して葵の方を見た透は首を横に振りながら


「何でもない」


 と答えた。

 その様子に葵は心配が拭えない目で透を見ていた。そんなやり取りを見ていた2人に気が付いたシンは


「行けるか?」


 と2人の体を気遣う言葉を短く尋ねる。その問いに透が代表するかのように


「うん」


 と答えた。その答えを聞いたシンは無言で頷いて歩みを止めずに進んだ。

 進んでいるシンの様子に透はジッと見つめ、その透に葵もシンの方を見つめていた。

 その視線は何か得体の知れないものを感じ取って何があるのか分からない暗闇に向ける目だった。


10の終わり位からズルズルと引き延ばして、気が付けば12月が終わって1月・・・。

新年・・・。


楽しみにされていた方々には本当に申し訳ございませんでした。時間を空ける余裕があまりなく、ズルズルと伸ばすだけ伸ばしてやっと書けたこの1話と言う状況・・・。


去年、自分が思い描いていた執筆の1年とは程遠いものになっていてショックを受けています。

今後もこのような形で数か月になるかもしれない不定期更新になりますが、「アンノウン ~その者、大いなる旅人~」をよろしくお願いいたします。

なるべく早く執筆して更新していきます!


本当にすみません!

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