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352.静な変化

 泊まった宿はそれなりに良いところだ。 

 戸締りがそれなりにしっかりしている上に壁も厚い。だから個室で宿をとっているシンは傍から見れば独り言に見える通信のやり取りも何の心配する事もなく行えていた。


「さて、最初の関門は終わった」


「次は葵と透・・・を星の柱(向こう)の指定されたところまで連れていく事だな」


 アカツキからそう言われた時、シンはごろんと清潔な白い敷布団の上に寝転がり、目を閉じた。


「ああ。だが問題は・・・」


「彼らの体の状態、メンタル面・・・」


 手を軽く握って自分の額を覆ったシンは少しだけ目を開けた。正直な話、彼らがこの世界に来てそのまま生きていけるかどうか疑問点が多い。

 彼らは何かしらの理由で漂流者としてマザーベースに来た。漂流した理由として考えられるのは無人島にいたから脱出・・・ではない。

 何故なら彼らを発見した時、服装はこの世界の物だった。という事はこの世界に来た時、少なくとも人がいる環境にある状況にいた。そうだとしたら無人島からの脱出は考えにくい。

 つまり、何かから逃げてきたか、追われていたかのどちらかだろう。

 漂流してきた当時の事を思い返してみれば、2人は漂流してそれなりに日が立っているのに入院してそれ程日が立たずにして回復の兆候があった。

 幾ら若いとは言え、痩せ細るくらいのレベルならばそう易々と体力回復までいかないだろう。

 しかしいくら体力があっても、何かから逃げる様にして言うた事を考えると戦闘での技術面や過酷な環境での生存方法等々、知識不足や経験不足であそこまで追い込まれたのだろう。

 その事を考えれば、この先星の柱でやってのけれるかどうかが不安がある。


「それから「信用」できるかどうかだな」


「・・・ああ」


 同時に不安なのは星の柱と言う組織だ。サクラとギアはシンを置いても問題ないと判断しているが、イヒメ達が本当に信用してもいいのかどうかが分からない。特に信用していないのはイヒメ、ウルター、アンリだ。

 イヒメは掴み所のない雰囲気を出しているし、ウルターはどことなく「軍」を連想するような雰囲気がある上に酷く冷静で達観した様子もあった。アンリは恐らく星の柱の中でも大きな頭脳となって動く要因としているのは間違いなかった。

 だからこの3人は特に注意している。


「だが上手くいけばジンセキ(こっち)の経済面が潤う事になる」


 だが上手く事が運べば結果としてジンセキに大きく経済面で潤う事が可能になる。現状、シン側の金銭事情では収納スペース(インベントリ)にある手持ちの金銭とスタンチクが稼いでくる僅かな金銭程度しか手に入らない。

 今のところはそれほど問題ないが、今後旅を続けていくに当たっては誰かに大きく頼らざる得ない状態になるのは間違いない。

 となればやはりこの世界の通貨を手に入れて経済面で潤う必要がある。


「もう少しだと思うか?」


「まだまだやなぁ~」


 そろそろ問題なく経済面で潤う事になるかどうかについて聞いたシンの言葉にすぐに答えたのはリーチェリカだった。


「だな。多分だが俺達が思っている以上の事があると踏んだ方が良いぜ」


「「思っている以上」か・・・」


 同意するアカツキの言葉で気にある単語に反応したシンはオウム返しに声を漏らす。


「・・・・・」


 少し考える間を置いたシンは


「「なぁ」」


 同時にお互いが声を掛けた。相手はアカツキだった。


「・・・あ~、どうした?」


 まさかアカツキからも何か切り出そうとしていた事にどっちから言うべきかと迷い、先にアカツキからの話を聞こうとするシン。

 実際アカツキからの意見は大きなものの事の方が多い。


「いや、ボスから言ってくれ」


 だが、即座に頭を横に振った。

 この様子からして少なくとも大きな問題ではない案件のようだ。


「・・・分かった。「思っている以上」の事で前に決めた事で変更したいと考えていたんだが、変えれそうかどうかをミーティングしたいんだが?」


 シンがそう意見すると数秒程間が空いた。


「・・・奇遇だなボス」


「うちらもやで~。というよりも~」


「もうしてる」


「何をしたんだ?」


 自分が変更しようと考えていた事をもう既に、独断専行をしている事にシンは驚きに目を大きく開いた。


「正直な話、かなり「冷たい」話をするんだが」


 アカツキの「冷たい」という単語にシンは目元を細める。どうやら何か冷徹な判断を下さなければならない案件と理解したシンは


「いいぞ。言ってくれ」


 と少し間を置いてからそう答えた。


「・・・そうか。ならボス、スタンチクとディエーグ、グーグス・ダーダの事だが」


「ああ」


「一時停止、場合によっては廃棄する事にした」


「廃棄?」


「ああ、だが何もかも全て廃棄するというわけではない」


 成程、確かに「冷たい」と言ってもおかしくない案件。

 そう理解したシンだったが、実の所はスタンチク、ディエーグ、グーグス・ダーダはこのままこの世界での活動は難しくなってくると考えていた。

 だから「廃棄」という単語に違和感はおろか、己の躊躇いが軽かった。

 とは言え、それで「廃棄します」「はいそうですか」とまでいく話ではない。今の今まで活動して問題なかった。

 更に言えばシンは人間よりの「何か」ともいえる存在だ。

 だからアカツキの「廃棄」は冷たいと言える単語を口にしたが、シンに対してどことなく配慮しているようにも感じる言葉を投げたのだろう。


「・・・「冷たい」と言ったな?人間・・・そう人間として例えるならどういい方になる?」


 シンの質問にアカツキとリーチェリカは少し間を置いてから


「「「生まれ変わる」「やな~」」


 と答えた。


「・・・・・」


 アカツキとリーチェリカの答えに少し考え込むように黙るシン。その言葉の意味を理解しようとするシンに具体的な答えが必要と判断したアカツキは続けた。


「各々の特性や性能を底上げの上に、別々の個体に特性の入れ替えやコピーする。その過程で場合によっては一定の個体を破棄する場合がある」


「そうか」


「その逆に増産する。それも多く」


「多く?」


「「軍隊」やで~」


「なるほど」


 淡々と問答していく内に理解できたシンは少し考える間がこのタイミングで作った。

 数秒程考えた後、


「もう一度顔を合わせる事になった時、問題ないか?」


 誰と顔を合わせるという事ではサクラの事だ。この世界で唯一他のメンバーの事をよく知っているのはサクラくらいだろう。

 もしこの件で進めるとしたらこの件で大きく関わっているグーグス・ダーダが面識あるサクラとの関係にも大きく影響があるだろう。

 その影響が今後において大きな問題になるかもしれない。そう懸念したシンにアカツキは汲み取った。


「ああ。あるとすれば嬢ちゃんと顔を合わせたフリューとグーグス位だな」


 アカツキの答えにシンも同感だった。実際フリューとグーグスの他に出会っているのはリーチェリカだが、リーチェリカはかなり人に寄せたアンドロイドだ。

 だから、概念という点で言えば確実にこの世界に影響があるとするならばフリューとグーグスだろう。

 その点を頭に入れた時点で問題ないと判断したシンは


「その後はどうなる?」


 と尋ねた。


「正直まだ分からへん~。これから実行に移すかどうかまだ決めとうへんねや~」


 リーチェリカの答えにシンは目元を細めて


「俺の「決定」が必要か・・・」


「ああ」


 と呟きアカツキが答える。


「・・・・・」


 この世界はブレンドウォーズではない。だからディエーグはドラゴン相手に負けてしまっている。だったらブレンドウォーズにもない「何か」を作る必要がある。

 そう判断したシンは


「実行してくれ」


 と決定の言葉を口にした。


「分かったで~」


「OKボス、感謝する。それから・・・」


 アカツキとリーチェリカが了承した後、アカツキが言葉を続けた。その様子に小首を傾げるシンは聞く耳に集中した。


「大丈夫か?」


 集中して構えていたが思いの外の事に眼を丸くする心境になったシンは静かに答える。


「ああ、大丈夫だ。いいのを頼むぞ。それから・・・」


 シンも言葉を続ける様子をとった事にアカツキとリーチェリカは聞く耳に焦点を合わせてジッと構える。


「「みんな」、ありがとう」


「「・・・・・」」


 シンの言葉を聞き取ったアカツキとリーチェリカは無言で受け取った。

 その数秒程


「「「「はい」」」」


 恐らくジンセキのスタッフ全員であろうと思われる複数の返事を聞いたシンは


「・・・・・ああ」


 2秒程たってからそう答えた。

 そうしたやり取りで議題も話題もないと判断したシンは


「一先ず通信終了」


 切り上げの言葉を口にした。


「OKボス、お休み」


「若~お休み~」


「ああ」


 同じく切り上げと判断したアカツキとリーチェリカも了承して、寝る挨拶をシンと交わして、これにて本日の通信を終えた。


「・・・・・」


 一人ゴロンと横になったシンは天井を見つめてアカツキが言ったあの言葉を思い出す。


 「大丈夫か?」


 何となく、何となく気になったシンはただ只管ジッと天井を見つめていた。


 「・・・・・」


 だが、何か分かった事もなくそのまま瞼を閉じて床についた。

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