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351.無礼者は選ぶ

 

「シン」


 庵から出て時刻は18時回った頃だ。辺りは薄暗くなり、徐々に腹を空かせてくる頃だ。シン達は話が付いた後、大きな宿場町にあるイヒメ達が泊まっているこれもまた大きな宿屋にいた。身を乗り出して障子に近い窓から街道の様子を見て、ふわりとほほを撫でる風に当たりながら上の空に近い心境でいたシン。

 そんなシンにサクラは普段の様子で声を掛けた。


「ん?」


「涼しいか?」


 夜の風が涼しく、熱い風呂の湯から上がっての火照った体を覚ますのに丁度良い気温。そんな風に当たっていたシンにサクラは体の事を気遣っていたのかそう声を掛けた。


「ああ、気持ちいい」


 そう答えてシンは再び街道の様子を見た。街道は人々がそれなりに往来して宿々に明かりが灯されて賑やかさがあった。


「ほんとだ」


 サクラはシンの近くまで来た時に当たっていた風を浴びてシンの気持ちよさを共感した。そんなシンの顔を覗くと、シンは遠い眼をしていた事に気が付いた。


「・・・・・」


 シンは外の風に当たりながら今回の参入するかどうかの是非を問われた事を思い出していた。





 自分以外の人間がこの世界に来ているという事はそれなりに何かしらの足跡とか爪痕みたいなものがあると考えてここにやってきた事。

 自分の(ねぐら)に葵と透がやってきていて、訳ありである事。

 葵と透を「星の柱(ここ)」に傘下に入ってもらう事。

 そして自分は勝手にやらせてもらう事。

 その事を伝えきったシンにイヒメは射殺す様な鋭い眼を向けてシンに問い質し始める。


「取り合えず、2人は保護に近い形で傘下に入ってもらう、とするね」


 一先ず、九葵と相沢透の引き受ける事はイヒメ達は承諾した。衣食住は確保された上に、保護下に入っている上にこの世界の生き方を教える事ができるようになった。最初はシン達が引き受ける事になっても問題ないのだが、シン自身はこの世界の常識は知らない。浮世離れした存在である者に教えを受けて、個人での行動となれば世間とのズレが出てしまって後々ややこしい事態に巻き込まれる恐れがある。それならばいっその事最初から現地人から教えを受けた方が良いと考えたのだ。

 これにより、2人の身元をどうにかする問題はこれで何とかなった。

 しかし、問題は残っていた。


「でも、君は何故?」


 問題はシンだった。シン自身がこれからどうするのかについてをまだ口にしていない。自分で勝手にやる話でも星の柱に傘下に入る事とはまた別の話に近いものがある。だからシン自身がどうするかについてはまだ何も答えていないのだ。


「俺はあまり大きな組織(ところ)と関わりたくないんだ」


「それは利用されることが怖いのかな?」


 シンが淡々と答えるとイヒメは静かに尋ねた。


「齎した技術で悪い方向に向かうことが問題視している」


「君以外でもこの世界に齎した技術はいくらでもあるよ。ほとんどは大きな影響は無かった。大きな技術が齎された国は多くの場合は滅んだ事が多いしね」


「そう言えば、金属の塊の乗り物に近い兵器が朽ちておったな」


 静かな問いにシンはコクリと頷いた。その様子を見てイヒメはシンが恐らく想定しているであろう事柄を不安を払拭するべくとして答えた。

 そのイヒメの答えにウルターはふと思い出した事を口にした。

 口から出た単語を聞いたシンは直感で「戦車」と理解した。理解した瞬間に少し苦々しい物が心に沁み始めるのを感じ取った。


「だから、影響が与えない程度に見せれば問題ないんじゃないかい?」


 イヒメの無自覚な無責任な言葉にシンの目元が苦々しい形になる。


「忘れたのか?俺はお前らが知っている場所から来たわけでも転生したわけでも無いんだぞ?」


 問題なさそうに言うイヒメにシンは苦言を口にするかのように言った。


「・・・今までとは違う転生者か来訪者だね」


 シンの言葉にハッと何か気づく様子もなく、普段の様な掴み所のない口調ではなく、淡々として静かな口調で答えるイヒメ。そんな様子にシンは少し違和感を感じつつも答える。


「そうだ。俺がいるだけでも「概念」がこの世界に残ってしまう恐れがあるんだ」


「・・・・・」


 無言でシンの答えを聞くイヒメ。

 実際この世界に来ただけでシンが持っている概念とこの世界の概念は大きく違う。今までは現代社会の人間がこの世界に来てその人間が持つ「概念」で僅かであったり大きくと様々であるが、この世界に概念に齎す事が出来た。その結果がこの世界情勢だ。

 平和な地域は平和だが、争いが多い所はドロドロとしている。しかも現代社会の人間が齎した概念のせいで大きく文明を動かす事を望む者達も多く出る事にもなる。

 大体のそう言った人間が望むものは「戦争」に関わる物だ。

 自分がこの世界に来て、齎した概念どころか技術も提供もしてしまった。これ以上関われば自分の身に何か降りかかる可能性も十分にある。それだけは避けたい。

 だから


「だから、俺は中立だ」


「「「「「!!!」」」」」


 シンは中立を選んだ。


「中立はどういう事かは分かっているのかっ!?」


 誰とも組まず、どこにも所属しない「中立」。「中立」とはどういう事か?

 中立とは無関係でも全員の味方でもない。「全員の敵」に他ならない。今回の件で少なくともシンと言う存在は「無視する事ができない」位の認識になった。突然襲われて各個人撃破されるくらいなら、組織や国家を上げて先に消し去る方が確実だ。ならば最も安全な道となるならば「所属」が最もな方法になる。

 だからイズメクは激高し、イヒメ達はシンに入る事を勧めてきたのだ。

 だがそれでもシンは中立を選んだ。


「ああ無論だ。いつでも襲ってきてもいい。だが襲ってきた場合、滅ぼして頂くものはごっそりと。全員に尋ねるけど、ここで改めて俺を叩くか?それとも相互不可侵で共存するか?」


 つらつらと答えるシンの言葉には決して虚仮脅し程度の言葉とは思えなかった。何故なら実戦に近い事をしてシンの脅威を思い知らされたからだ。

 現状この場に居るもの多胎でシンを無力化する事ができない。そればかりか自分達が無力化、落命する未来しか見えない。それ故にシンが言うこの言葉に虚仮脅しではなく確実に決行する事を示唆する警告メッセージだとすぐに理解させられる。

 そこまで想像がついたイヒメ達は小さな溜息をついてシンの方を向いた。


「共存だな」


「共存だね」


 そう最初に切り出したのはサクラだった。続いてその答えを口にしたのはイヒメだ。


「共存」


「共存であるな」


「我輩も共存を選ばせていただく」


「アタシも共存に」


「チッ、共存だ、共存!」


 アンリ、ギア、ウルター、セーナ、そしてイズメク。

 その場にいた全員がシンが言った「共存」を選択した。


「同時にごく限定的な協力関係を提案する。利害一致した場合に限り、俺の戦力を提供する事。その際に情報や支援物資、戦力を提供する等の協力する事を約束してもらいたい。どうだろうか?」


「いいよ」


 随分とあっさりとしていた。シンの更なる提案に少なくとも考慮する時間でも設けるかと考えていたが、そんな様子もなく即決した。一言で済ますその様子に他のメンバーも異論がなかった。

 どうやら最初からこの辺りを落としどころにする気だったのだろう。

 こうした交渉の場においては機転を利かすか、こうした事に慣れてなければもっと不利な条件を飲まされていた可能性がある。一介の高校生程度ではここまでまとめて落し処を用意していたというのはそういない。

 完全ではないがある程度その場を支配する事が出来たシンは


「決着でいいか?」


 と尋ねる。

 全員は


「「「「・・・・・」」」」


 無言で答える。


「異論なし、でいいとお見受けしましたが、よろしいですか?」


「問題なし。今後ともよろしく」


 シンがそう改めて敬語でそう尋ねると、イヒメがそう答えた。その言葉にシンは


「ああ」


 と答えた。


「・・・・・」


 そう答えるシンの様子にサクラはジッと静かに見守る様にしていた。





 今に至る。


「シン」


「うん?」


 静かに街並みを見ていたシンに声を掛けるサクラの方を向く。


「見事だったぞ」


「あ、ああ、ありがと・・・」


 急に褒め言葉が来た事にシンは思わずどもり気味になる。


「限定的とは言え、同盟を結んだ。これを見事と言わずにして何と言おうか」


「・・・最初からそのつもりだったんだろ?」


 ああ、あの時の交渉の事か、と小さな声でそう呟いてからそう尋ねるシン。


「いや、そんな事は無い。確かに落し処としては全員はそこだ。だがイヒメは「星の柱」の長だ。長が求めるべき最もたるものを本気で取りに来ていた」


「・・・・・」


 サクラの言葉からしてイヒメ達のベストは間違いなく、自分を星の柱に完全に所属させるつもりだったようだ。その事を改めて把握したシンにサクラは言葉を続ける。


「お前が戦闘力で主導権に近いものを持っていなければ、本当に・・・」


 そう言いつつ、シンがいる窓辺のまできて


「吹っ飛んでいたぞ?」


 そう低い声で答えるサクラ。

 その言葉にシンは


「・・・そうか」


 そう答えた。

 そんな様子のシンにサクラはふっと笑って


「イズメクならこう言うな。「ケンカはビビりゃ負けだ。引かねぇで突っ込みゃあ生き残れる」とな」


 そう言った。

 その言葉にシンはフッと短い溜息のような鼻で笑って


「度胸だけでは無理だけどな」


 と答える。その言葉にサクラも同じくフッと短い溜息のような鼻で笑って


「確かに」


 と答えるサクラは


「・・・・・」


 ジッとシンの顔を覗いていた。


「どうした?」


「・・・いや、本当に見事だなって」


 視線を感じたシンは思わずサクラの方を見た。サクラは首を小さく振って、シンを改めて褒め言葉を贈った。


「・・・ありがとう」


 どもらずありのままの言葉として素直に受け取ったシンはもう一度街並みを見る様にして風に当たった。その様子をサクラはジッと見ていた。


(同盟を組んだ後、すぐ裏切るは定石。油断しやすい。ほとんどは決まった瞬間、気が緩んで油断が生まれる。そこを見透かして裏切ることが多い。だがシンにはそれすらもない。注意する必要もない・・・)


 さっきの誉め言葉はシンが交渉した後でも決して油断せず、自分達、星の柱の動向に注視している様子に対してのものだった。

 実際国と国との交渉事でも同盟を組んだ後でも何かしらの理由をつけて同盟を破棄する事はしばしばある。だから本当に気を付けなければならないのは、交渉が終わって気が抜ける瞬間の事なのだ。

 だが、シンはこうした事になれていたからか油断する気配もなくそればかりか星の柱の動向を忠司氏ていた事に驚きと感心していたのだ。


(この無礼者は・・・一体この若さでどのような生き方をしてきたらこう仕上がるんだろう・・・)


 そして、こうした交渉事で若い人物等、あっという間に飲み込まれたり、失敗する事が当然なのだが、シンは妙に慣れているように見える。

 彼は一体、どのような生き方をして・・・と思ってしまうのは時間を多く経た者の常なのかもしれない。

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