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349.先は白かった

 恐ろしい光景。

 この言葉を聞いた時、何を思い浮かべるか。

 仕事が失う。

 金を失う。

 親しい人を失う。

 命を失う。

 とにかく恐ろしい「何か」と出会う。

 恐ろしい光景と言われるととにかく様々だ。悪夢で見たり、死にそうになったり、未知なる出来事に遭遇したり。状況によって「恐ろしい光景」は変わってくる。

 アンリは見た。いや正確には目の当たりにしてない。だがアンリは信じられない光景を見てしまったようだった。


(っ・・・!)


「・・・!?」


 サクラとギアは信じられないものを目に映った。

 今まで冷静だったアンリが初めて見せる顔だった。その顔は恐怖に引きつっていた。アンリが見えた光景は真っ白で()()()()()()のだ。


「全員そのまま5mほど下がって囲んで、待機!」


「「「「っ!」」」」


 サッ!


 トッ…


 冷静さと余裕のない、何かに恐れて慌てて指示をした声である事が伺わせるアンリの声を聞いた全員は指示通りに5m程距離を取ってシンを囲んだ。


「・・・・・」


 シンは何もない地面を僅か「0,」と言う刹那の時間の中で自分のゾーンの様なものを出して


 メキ…


 肩幅が膨らんだ。

 その様子を見たアンリは


「全員シン君に対する攻撃意思をなくしてっ!」


 と今までにないアンリの指示を聞いた一同は殺気を抑えた。


「・・・!」


 意外な言葉を発した事にシンは何か仕掛けようとする行動を一旦抑える。

 アンリの静止の言葉に気が付いたシン以外の一同はアンリの方へ顔を向けた。


「これ以上は、「ない」から・・・」


 その言葉を耳にした瞬間、納得はするものの「こう」あって欲しくなかったと言う期待とは大きく違う現実に全員は静かに受け止めた、そんな様子を出していた。


「・・・やはり「この先」はどうにもか?」


「うん・・・」


「チッ・・・」


「是非もない、か・・・」


 ウルターの問いにアンリは迷わず頷く。その返事に一同は様々な反応をした。イズメクは舌打ちしつつ殺気はおろか攻撃態勢をそっと解いた。

 ウルターもアンリの答えにそっと攻撃意思を一気に引かせた。


 スッ…


 その場にいた全員がシンに対する攻撃意思を無くした。


「・・・・・」


 だが不意打ちもある。

 そう言わんばかりに一切敵意を引かないシン。その様子にサトリとウルターは静かに語りかけた。


「シン殿、もうこれ以上は致しはせん」


「我輩らに攻撃の意思はない」


「・・・まぁ、確かにな」


 改めてその場にいた全員が自分への敵意が一切ない事を確認して自身も敵意を引いた。


「「!」」


 その瞬間にサクラとギアにかかっていた上からの圧力と圧迫が解けた。まるで押さえつけられていた大きな手が、無数の手が一気に消えたかのように。


「サクラちゃーん、ギ~ア~ゴメンね~!」


「・・・・・」


「む、うぅん・・・」


 自身の体の状態を見る為に手首を回したり、背筋を伸ばしたりとして確認するサクラとギア。解いたイヒメは軽い口調でそう謝罪する。


「今度美味しい物でも奢るから~機嫌直して~っ!」


「そう言ってワタシと2人きりで、にするつもりだろう?」


「ギクッ」


「やはりか・・・」


「と言うか、口で申したな・・・」


 デートで遅刻して言い訳するチャラくて軽い男のような口調でサクラを言いくるめようとするも、普段からこうした事をしているせいなのかすぐに看破してすぐ様に断る。

 その証拠にギアが呆れてそう呟いていた。

 そんな様子のやり取りをしている3人にシンにサトリが声を掛けてきた。


「シンさんや、もう戦う事はしないからサクラさんとギアさん連れて庵でお茶でも飲み直そう?ね?」


 普段のように飄々とした口調で庵でお茶を誘うサトリにシンは目元を細めた。


「・・・要は俺を試したって事か?」


 ドスのきいた低い声を聞いたサトリは飄々としながらも


「すまんね。詳しい事は中で、さ」


 申し訳なさそうな声で謝罪した。


「・・・分かったよ」


 聞いたシンは頷き足を動かした。


「ワタシ達も向かう」


 同時にサクラとギアも返事して庵の方へ爪先を向けた。


「大丈夫か?」


「うむ、問題ない」


「ワタシ達を押さえている時、それなりに配慮していたようだったな」


「そうか・・・」


 ちょうど歩き始めた時に尋ねるシンの問いにサクラとギアは大事ない事を伝える。その言葉に安心したシン。

 態度だけは。


(確かに2人の様子を見ると確かに体を痛めるような真似はしていないな・・・。ただ・・・)


 シンは2人を押さえつけられた時の事を思い出していた。その時、イヒメの様子が普段と違っていた。


(この2人を確実に潰す位の殺気を持っていたのは間違いなかったな・・・)


 イヒメの目は酷く冷たかった。そのつもりでいれば、そのまま引き金を引くように2人を殺していたであろう殺気を出していた。当の本人はシンに態と出していたのだろう。

 だが、本気で殺すつもりだったのは間違いなかった。多分サクラとギアがあのまま脱出できるかできそうになった時は殺していただろう。

 そう思い返しながらも庵の奥へと消えていった。





「・・・・・」


 カラン…


 ウルターは折られたとも斬られたとも言える自身が用意していた剣の破片を拾い上げた。持っている剣の破片をジッと見ているウルター。


「それは・・・オリハルコン製の剣だよね?」


 その様子を見ていたイヒメは声を掛ける。どうやら持っていた剣は伝説の金属とされているオリハルコンだった。


「・・・・・」


 ジッと見ていたウルターは何を思ったのかそっと折れた剣を元に戻すように繋ぎ合わせる様に引っ付けた。


 ピタッ…


「「「「・・・!?」」」」


 繋ぎ合わせる様に引っ付けた剣は切れ目が一切なく、元通りになったかのような見た目で引っ付きようだった。


「これは・・・!?」


 ピッタリとしたくっ付き様に思わず、イヒメは驚きの声を小さく叫んだ。


「・・・うむ。どうやら我輩らが想像している以上に鋭い剣のようだ」


「シャレになんねーぞ・・・」


 あまりのシンの刀の鋭さに思わず生唾を飲み込む音を出すイヒメ、悪態をついてしまうイズメク。そんな中、セーナはふと思い出した事を口にする。


「そういえば、アタシのキノコの壁って相手が持っている武器に付いて邪魔する魔法なんだけどぉ・・・」


「ああ、確かに。普通ならかなり生えて、武器そのものが重くなったり、本来の威力を発揮させなかったりする、あれだね?」


「そうなのよぉ。あまり生えてなかったわ~ん」


 どうやら生えてきた白いキノコの壁は防御目的だけでなく、薙ぎ払う為に近接武器で斬撃等を加えるとその近接武器に白いキノコの胞子が付いてキノコが生えてきて武器そのもの自体を重くさせる効果があるようだった。

 セーナがそう答えるとイズメクもふと思い当る節を口にする。


「・・・そーいやさ、あの野郎に思い切り踵落とし決め込んだ時でも、必ずギリギリ躱してオレの背後に回る様に動いていやがったな」


 実の所、イズメクは正面衝突による勝負では負けるビジョンしか見えなかった。だからここぞという時に大技で決めるつもりでいたのだ。

 だがそれですらも常人ではほとんどの場合避ける術は無い技ですらも、シンは瞬時に対応してイズメクの命に王手をかけた。

 イズメクがその事を口にすると続いてイヒメも口を開いた。


「僕の「手」も掴もうにも掴めなかったな・・・」


 自分の手を目の前まで持ってきてギュッと握った。


「先程からかなりの数の「手」を飛ばしていたが、途中で消えておったな」


「うん、どんなに近づいても触れる前に消えてしまうんだ」


 実際イヒメはウルターが仕掛ける前から大量の魔素で作られた手でシンに仕掛けていたのだが、ほとんどが消されて無力されていた。その様子を目に映っていたのは当の本人だけでなくウルターも同じだった。どうやらウルターも魔素で形成された魔法を見る事ができるようだ。


「恐らくではあるが、魔力の塊として出したものに関しては吸収されるのであろうな」


「吸収・・・?」


「多分だけど吸収してしまう事で相手の魔法を無効かか効果を半減させる事ができるんだろうね」


「うむ、我輩が出した氷の床(ルッド・ポルドガ)の時は諸とも凍らすつもりだったが、足元しか凍っておらん」


 分析するウルターの言葉にオウム返しするイズメク。ウルターの分析の言葉にイヒメは目元を細めて簡単にまとめた答えを言うとウルターは確実な答えを口にした。

 実際ウルターは氷の床(ルッド・ポルドガ)は足元に氷の魔法を張らして相手の全身諸共凍らせる魔法のようだった。

 だがシンに使った時は思うような効果が得られなかった。どうやら本来の魔法の効果の半減以下になってしまうようだ。


「と言うことは物質的な魔法は効くのねぇ」


「ただ、吸収したらどうなるのかが分からないけどね」


 だが、逆に言ってみればこうした物質的な魔法はシンには効くようだ。だが、その為に本来使用する魔法の魔素の量が倍になるようだ。

 おまけにシンに魔法を使うと吸収されるようだ。使用すればするほどシンへの魔素を提供する形になってしまう。もしシンとの戦闘時の場合、魔法は慎重に使用せねばならないようだ。しかも吸収された魔素は一体どうなるのかが分からない。そうした何に使われているのか分からない故に漠然とした怖さを醸し出す。


「手その自体が変形していたな・・・」


「魔力で形を変えていると?」


「じゃねーと説明付くか?」


 考えられる事で真っ先に思い起こしたのはシンの手が刀に変形していた事だ。元の形から変形するという事は何か条件があって起動している事になる。

 という事はシンの変形の条件は魔素によるものではないかと考えたのだ。だが、今までの様子からして正直な話それではないようにも感じる。その事についてを口にしたのはセーナだった。


「他にもあるんじゃないのかしらん?」


「他とは?」


「そうねぇ・・・例えば魔力が大きくいるシンちゃんにしか扱えない魔法、とかかしらん?」


「なるほどね。僕は吸収自体は魔法として使っているようにも見える」


「変形は別だと?」


「かもしれないって位しか言えないんじゃないかな?」


 アレコレ出るも決定打となるような答えが出ない。真実に近づいているが、決定打になるような答えが出ない。

 だからウルターが今までの話をまとめる。


「うむ。それに吸収が必要という事は普段から異様なまでに魔素を必要としている、若しくはセーナの申す通り、莫大な魔力を必要としている魔法をシン殿が持っているやもしれん」


「あれだけヤベェってのに魔法もあり得ねぇもん持ってるってか?ざけんなよっ」


「言えてるね。・・・笑えない冗談のような存在だよね」


「むぅ・・・」


 ウルターの纏めた言葉にイズメクは苦虫を嚙み潰したような顔になり、イヒメは眼を鋭く細める。

 そうした感想を聞いたウルターは小さく唸った。

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