33.それぞれの思惑
ギアが「厳しくいく」と宣言してから10日経った。10日も経てば厳しい訓練は最早日常茶飯事の様なものになってくる。
キィンッ!
ガキャッ!
バコッ!
金属と金属が勝ち合う音。その後に聞こえるのは金属を強く当てたような音。頑丈ではあるが金属のようなものではない何かに当たるような音。
「はぁはぁはぁはぁはぁ・・・」
「ふーふーふーふーふーふー・・・」
「ひゅーひゅーひゅーひゅー・・・」
激しい運動をしたのか肩で息をし色んな荒い息継ぎが聞こえてくる。
「まだ、踏み込みが足りんぞっ!」
荒い息継ぎをする者達に大きな怒声を投げてくるのはギアだった。無論そんなギアに挑んでいるのは、ナーモ、シーナ、ニック、エリー、クク、ココの皆だった。
ククとココが訓練に参加したのは3日前ナイフの扱いが上達した上に基本的な体力が高かった。取敢えず訓練に参加させてみて様子を見る事にした。実際訓練に参加させてみれば驚きの連続だった。
一方シンはというと「ショップ」で手に入ったあらゆる本を読み漁りオリジナルの技を開発中だった。
「ふーん・・・。このエビ良いな、参考になる・・・。それとこの方法良いなこれも・・・」
生き物や武術の技を学びながらどんどん取り入れていくシン。
「ボス、ちょっといいか?」
いきなりアカツキに声を掛けられた。
シンは周りに誰もいない事を確認するとそのまま本を読むふりをしてアカツキに返答する。
「何だ?」
「ボス、前に言っていたギアがどこから来たのかについて何だが・・・」
「ああ、そういえば」
アカツキは無数のカメラの内の一つからギアがサクラの屋敷の門から出てきたことを確認しそのまま追跡したのだ。ギアが最後にたどり着いたのがシンの所だった。そこまでの映像を録画し、シンのタブレットに送信したのだ。
シンはその映像を見ていくつかの疑問を持った。ギアがここに着く事に対して疑問はない。ただ問題なのは屋敷だ。シンはこの屋敷の所有者は一体誰なのかが分からないままなのだ。他にも疑問になっていることがある。それは屋敷に関係している人間の人数だ。この屋敷はかなり大きくて広い庭がある。管理するにしても一人ではできない。つまり、複数だ。そして何より大きな疑問を持ったのは屋敷の風貌だった。遥か上空からその屋敷を見るとシンはある物を連想した。
それは日本の家屋だ。それも武家屋敷か城を連想させるような。何故ここにこんなものがと分からない事が多かった。
「この世界に、こんな所に日本のモノがあるとはな・・・」
「まだ断定はできないが、この地域の家屋の屋根は茶や赤、黄色が多いが黒色は無い。おまけに鯱のようなものがある」
日本家屋こそではないものの武家屋敷か城を連想する建物がある。という事はモデルになった建物を参考にしていなければこんなものは作れない。つまり、日本の文化を持ってきた者。
「・・・まさか、俺やエリーの他にも日本人がいるのか?」
「可能性ありだ」
色々と考察し一つの考えにまとまった。
「アカツキ、この訓練が終わり次第この屋敷へ向かう。ナビを頼む」
「了解、ボス。しかし、だいぶ遠いぞ?」
アカツキの言う通り今いる地点からサクラの屋敷までは相当遠い。徒歩で行くとなると下手をすれば月単位になるだろう。
「まぁ、それは追々考えよう。それに道中色々寄る事があるだろうし・・・」
「了解、ボス。通信終了」
「おう」
今の今まで訓練に明け暮れていて明確な行き先を考えていなかったシンはここで漸く決めた。
(ここに何があるのか・・・)
シンはタブレットに映し出された例の画像を数秒見てそっと閉じた。
ギアは皆と訓練をしている中サクラが言った事を思い出していた。
その日はギアの「用事」でサクラの屋敷の応接室の中での出来事だった。
「ギア、そのシンという奴をここまでさり気無く連れてこい」
サクラはビシッと右手の人差し指をギアに突き付ける。
「興味がわいたのか?」
一瞬ポカンとしたギアは気を取り直して尋ねる。サクラは三日月の様に口角を上げ
「ああ。今まで転生者や来訪者を見てきたがそいつはかなり違うようだしな」
サクラの目がランランと輝きまるで獲物を見つけた狼のような目だった。ギアはそれに水を差すかのように現在のシン達の状況を説明する。
「だが、今は子供らに戦い方を教えておるゆえ、だいぶ時間がかかるぞ?」
不満そうにムッとした表情をしたサクラ。小さく溜息を付きギアに改めて尋ねる。
「そういえばそうだったな。それはどれ位だ?」
「む?」
ギアの間の抜けた様な返答に対してに口調を強めにして再度訊ねる。
「どれ位でその訓練は終わるのかと聞いているのだ」
ギアはハッと気が付きたような顔をする。そのすぐ次には「しまった」というような顔をした。それもそのはず。シンとの打ち合わせでそんなことを話していなかった。そのため詳しい訓練の期間なんか知らなかったのだ。
「む、詳しくは分からんが1年以内だろう」
そんな適当で曖昧な返答をする。すると「このクソトカゲがっ!」と言わんばかりにギラリと睨みつけるサクラ。
「・・・まさか、貴様は訓練の期間を知らずに請け負ったのか?」
サクラの睨み付けてくる目線をフイッとそらすギア。よく見れば顔には冷汗がダラダラと流していた。
サクラはギアを睨み続けながら
(まぁ、そんな曖昧な期間でも請け負ったという事は何か定期的に何かをもらっているという事か・・・)
と推測を打ち立てる。
フ~とため息をついたサクラは
「まぁいい。とにかくどうにかして1年以内にここに連れてこい」
「うむ、しかと承った」
そう返答した後でもギラリと睨むサクラ。ギアは更に多くの冷汗をダラダラと滴り落ちていた。
その事を思い出しブルリと鳥肌を立たせる。
(とりあえずは1ヶ月でこの訓練は終わる事は分かった。後はサクラの所へ誘導するだけだな)
そんな事を思いながら尾で思い切り薙ぎ払う。
バシッ!
「ぐっ!」
「っ!」
それを受け吹っ飛ばされるナーモとシーナ。
ニックが弓矢を構えているのを確認すると矢が放てない程素早く距離を詰める。
「!」
拳で吹っ飛ばす。
ドゴッ!
「がっ!」
そして更にその奥にいたエリーは魔法で炎の弾を作っていたがまた素早く距離を詰める。
「くっ・・・」
同じく張り手で突き飛ばした。
ドッ!
「キャアア!」
吹っ飛ばされたエリー。しかし、ギアはある事に気付く。
(ククとココがいない・・・!?)
そんな事を考えていた瞬間
「うりゃっ!」
いきなり現れて来たギアが尾で軽く薙ぎ払ったつもりだったがククはジャンプして躱す。
「!」
ギアはククが薙ぎ払いを避けた事に気が付き張り手を1発食らわす。
ドンッ!
「っ!」
錐もみしながら軽く吹っ飛んだククはニヤリと笑った。
フッ…
「・・・!」
ギアの後ろから気配を感じ再び尾で薙ぎ払った。
バシッ!
「きゃあ!」
ギアの薙ぎ払いで吹っ飛ばされたのはココだった。ココはギアから距離を取って懐に入る機会をうかがい、ククがギアの張り手を食らった瞬間、気配を消し、一気にギアの後ろを取ったのだ。だが、ギアが気付き反撃を食らったのだ。
(・・・まさか、ここまでできるとはな)
ククとココがここまで連携が取れギアに確実に一撃を入れようとしている位に成長していたのだ。しかし
「クク、ココ、確かに其方達は連携が取れているがまだ詰めが甘いぞ」
そう言って鋭い目線をやる。普通の8歳の子供なら怖さのあまりに泣いてしまう。だが、ククとココの目はしっかりとギアの方へと見据えていた。ギアはその様子を見て少し感心をした。
(妙な幼子だな・・・。ナイフだけ扱い方を教わり、基礎体力を上げただけでここまでできるとは・・・)
そんな事を思いながらククとココを見ていたギア。皆は臨戦態勢を整え訓練の再開をした。
それぞれの思惑や目的を掲げながら日々鍛錬に打ち込んでいった。