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346.即発

 

「「戦車」?」


「うむ」


「馬車を利用した・・・」


「その戦車ではない。我輩が言っておるのはお主が見知った「戦車」だ」


「・・・全部が金属製のか?」


「うむ」


 眉をひそめてそう尋ねるシンにウルターは真直ぐな印象を感じさせる返事する。

 その様子に本当に「戦車」を必要としている事を感じたシンは鋭く目を細めて改めて現代戦車を欲しがっているのかを尋ねる。


「何故知りたがる?」


「興味があってな」


「・・・・・」


「・・・・・」


「「「・・・・・」」」


 この組織が興味本位で現代戦車を欲しがっているようには思えなかった。明らかに軍事転用に使うつもりと判断したシンは小さな溜息をついて答え始めた。


「知ってもどうする事もできないよ」


 手をヒラヒラとさせながら諦めるように促す答えを出すシン。


「どういう事だ?」


「色々足りないからだ」


 シンの即答する態度にウルターは青白い眼の光が揺らいだ。


「具体的には?」


「あれは生き物ではないし、金属の塊をそのまま動かすとなれば相当な力量のある何かが必要になるだろ?」


 嘘は言っていない。実際、戦車の総重量は軽く見積もっても40t未満。平均で50t位だ。アフリカゾウの重さが5~10t程だ。この世界では石油による原動機関はおろか、蒸気機関すらもない。アフリカゾウ程度の物ならばレールを利用した車両ならともかくとして、ウルターの言う戦車の原動機関が確実なものでなければ無理がある。人力以外ならば水力、風力、馬力くらいしかない。

 馬力くらいならばできそうだが、馬を外に出さなければ無理であるし、ウルターが求めている物は馬は使わない。

 正直な話、専門知識や技術、道具等々が揃わなければ無理な話が多い。


「ふむ、確かにな」


「しかも、この世界にはない武器も造る必要があるからどうする事も出来ない、というのが結論だ」


 しかも、この世界にはない銃器や砲による兵器発達はシンが知る限り、全くない。という事は例えキャタピラー付きの乗り物ができたとしても、精々酷く重たい物を運びながら軽い悪路程度なら走行できる乗り物、トラクター程度の扱いになるだろう。

 とてもウルターが求める戦車とは言えない。


「そうか・・・」


「そうだ」


 静かに答えるウルターの様子にシンは内心ホッとしていた。正直な話、アスカールラ王国に銃器のヒントとなる物を教えた時でも、かなりギリギリだ。

 ここでまともに戦車の事を伝えてしまうのは、大きな影響を与えてしまう事になる。下手すればアスカールラ王国以上の影響を与えかねない。それだけは避けたいと考えるシンは今の熟考する彼らがそのまま諦めてくれる事を願っていた。正直な話、戦車の存在をかなりの事を知っている事を考えれば、恐らく見た事があるのだろう。だが、シンが提言した事には信憑性がある説得力があった。

 諦める可能性は十分にあった。

 そう期待を膨らませていたシンだった。


「ふむ、ならばシンよ」


「ん?」


「表に出てはくれんか?」


「は?」


 そう言って庵から外へ出た一同の中でシンは少し嫌な予感がした。





 外に出たシ一同はシンを取り囲むようにして立っており、シンの前にはど真ん中にはウルター、左にはギア、右にはイヒメ、その隣にはサクラがいた。シンの真後ろにはセーナとイズメクがいた。サトリとステラとアルバ、アンリは庵に残っていた。


「先程、動かす為の何か・・・所謂「原動力となる装置」が必要であろう?」


「ああ、まぁ」


 シンが言う概念が理解できている。という事は現代社会の誰かに吹き込まれたか、実際に見たか。いやこの場合「見た」可能性が高い。

 何故なら「原動力となる装置」という事は人や馬のような生き物ではなく「物」である事を理解していたからだ。

 もし吹き込まれていたとしたら聞きかじりで戦車を知ったとすれば人や動物を用いた移動方法で戦車として運用するだろうからだ。

 それを感じたシンはウルターが外に出た事に「まさか」と感じた時だった。


「これはどうだ?」


 そう言ったウルターの手の平を上に翳すようにして出して、人差し指を空に向けて立てた。


 メキメキ…


「っ!?」


 その瞬間、土人形が現れた。


 グラ…


 しかもその土人形は動いたのだ。所謂ゴーレムという奴なのだろう。おまけに人間の様に直立二足歩行で流暢に歩いていたのだ。


「これが原動力として動かせば、問題なかろう?」


「・・・!」


 一々現代戦車のように複雑な仕組みの装置を態々造らなくとも現代戦車に近い物を製造する事は可能だ。

 簡単な仕組みで走行できるように装置さえ整えれば人力に近いこの魔法を駆使すればほぼ問題ない。

 そう理解したシンの様子を見ていたウルターは改めて迫った。


「では改めて・・・教えてはくれんか?」


「・・・教えられないな」


「ふむ?」


 迫るウルターにシンは一蹴する。その事にウルターの青白い眼は僅かに細くなった。


「これ以上、この世界の文明が大きく変わるような事はしたくない」


「国家の戦力を増大する事によって、戦火が大きくなってしまう事を恐れているようだな?」


「そうだ」


 はっきりと答えうシンにウルターは作り上げた土人形の手元に地面に突き立てた剣を創りあげる。


「もし、我々がそれを望んでいるとすれば如何する?」


「潰す」


「サクラ殿がいたとしてもか?」


「サクラ自身がそれを望んでいるなら、仕方がない。主張の違いで対処する」


「ふむ・・・」


 即とするシンに揺さぶりを掛けるも揺らぎ所か微動だにしない返答を聞いたウルターは両手を脱力する。


「シーンくーん」


 ドンッ!


「「っ!?」」


 イヒメの声がしたと同時にサクラとギアが何か見えない力で押さえ込まれていた。サクラとギアは動こうにも全身に力こそ入れているものの動く気配がない。まるで透明人間が数人がかりで2人の体を無理やり押さえつけられているように見える。


「・・・!」


「こうするとしたら、如何する?」


「ごめんね」


「・・・・・」


 突然の事にシンは驚いていた。恐らく魔法によるものだろうがどういった現象が起きてこうなっているのかが分からない。サクラとギアはシンと交流があり、親しい間柄になっていた。だからシンの心の奥では張った紐がブツリと切れるような音が聞こえた。


()()をするという事は・・・」


 始めに言葉を発してから徐々に重く低く、確実な攻撃性を感じさせる声色が出てきた時


「本気だな?」


 殺気を放った。


「シンちゃん、アタシ達は本気よ?」


 確実な殺気を放ったシンに自分達も本気である事をセーナも敵意をシンにぶつける。迷いのないセーナの答えにシンは何気ない会話で答える様に


「そうか」


 まずはお前からだ、そう言わんばかりにセーナの方を向こうとした瞬間だった。


「っ!」


 ドンッ


 突然横からトラックによる衝突事故の様な衝撃がシンを襲った。


「っ・・・!」


 強烈な衝撃で受け身をとりつつ数m程吹っ飛ばされたシン。


「へぇ(結構強く()()()()()けど、かなり重いね)」


 仕掛けたのはイヒメの魔法によるものだった。イヒメは見えない衝撃を大きく出す()()をシンに食らわした。


「・・・・・」


「・・・・・(おまけに「硬い」と来たか)」


 だが受け身をとってスッと脱力しながら立っているシンの様子を見てイヒメは少し想像外の事に僅かな不安が生まれる。かなりの衝撃、それこそトラックによる人身事故並みの衝撃をシンに与えたのだが、服に汚れさせただけという事実がイヒメの目に映っていたのだ。


(無傷、か・・・)


 目に映っていたのは何もイヒメだけでなくウルターとセーナも同じだった。


「ちょっとゴメンね~」


 スゥゥ…と大きく息を吸い込んだセーナはまるで蒲公英の綿毛の種を飛ばすように優しく息を吹きかけた。


「?」


 これだけでは何をしたのか分からない。

 シンが疑問符を浮かべた瞬間―――


 ボンッ


「!?」


 突如シンの目の前に白い大きな柱が地面から現れた。


「これは・・・」


 キノコだった。横幅1m、高さ3mの大きな白いキノコだった。そのキノコはエリンギのように1本の大きさではなく、エノキタケのように無数のキノコの傘が集合していた。

 意外かもしれないが、世界最大の生物はキノコと言われている。

 総重量だけみればシロナガスクジラだが、体積では、現在確認されている世界最大の生き物は、意外な事にキノコなのだ。「世界最大」の秘密は、土壌中に巨大な菌糸体コロニーが存在して、キノコの本体である菌糸体だ。

 実際、世界的に権威のある某科学雑誌に、世界で最大・最長寿の生物としてナラタケ属のキノコが紹介されて話題になった事がある。アメリカ・ミシガン州の広葉樹林で観測されたキノコは、1個体で15万㎡もの範囲に菌糸を張り巡らされ、推定重量は100t、寿命は約1500年と推定されている。

 現れた瞬間に白い胞子のような靄がモワモワと立っていた。


 ピャゥッ!


 キノコと判断したシンは即座に親指を刀身に変えてスッパリと大袈裟(袈裟斬りの事)に切り裂いた。


 ズル…


 倒れる巨大キノコに一瞥もする事なく目の前にいたウルターに切りかかろうとした時、自身の刀身に違和感を感じた。


「!」


 無数の白いキノコが生えていた。あの巨大な白いキノコと同じ種類のものだ。

 それを見ていたシンは驚いていた、即座にウルターを同じく大袈裟にしようとした時、後ろから気配がした。


「!」


 ヒュンッ!


 体を軸に回転する形で後ろにいた気配する何かを本胴(胴体を横一文字に切る事)にした時、何かがずるりとずれて落ちていく物を目に映った。


「またキノコか!」


 ヒュオォォォ…


 シンがそう叫んだ時、後ろから薄ら寒い風が背中を撫でるような感覚を覚えた。即座に振り替える。


「・・・!」


 ヒタ…


 隙を突いたウルターは即座にシンの背中目掛けて掌を当てた。


「・・・っ!」


 スッ…


 手を当てたはいいが何か予想だにしない事に気が付き、音もなく瞬時に数m程距離を置くウルター。


「・・・?」


「・・・・・」


 ガシャガシャと自分の手を握る動作を確認するウルター。


「大丈夫?」


「うむ、大事ない」


 ウルターの異常に気が付いていたイヒメが身を案じる言葉をかける。ウルターは自分の手を握る動作をする事で今の状態を確認して問題なかった。だから、改めてシンに攻撃を仕掛けようと模索した。


「っ・・・!」


「っらあぁぁぁぁっ!」


 ドッ!


 バラバラバラ…


 真上に跳んで大きく体重を乗せた上に硬い地面もろともかち割る様にして踵落としを仕掛けるイズメクに気が付いたシンはすぐに気が付き足を移動する形で僅かに体を反らして直撃を避ける。


「・・・・・」


「マジかよ、避けんのかよ」


 地面は抉れ、衝撃で地面に埋まっていたはずの硬い片手で持てるくらいの大きな石が粉々に砕けていた。砕けた上にパラパラと上から小石となった破片が落ちてきていた。

 シンが避けた事に対する驚くイズメクは獰猛な獣と好奇心旺盛な子供の目が混じったような目でシンを映していた。





「そろそろ、行こうかな」


 外の様子を音でそう判断したアンリはそっと立ち上がり、庵から出ようと動く。


「では私たちも・・・」


 スッ


 アンリの様子にステラとアルバにサトリがそっと刀の柄を向かおうとする2人の前に出して行く手を阻むようにして止めた。

 その事に2人は眉を顰める。

 その様子にアンリは気に留める事無く歩みを進める。


 シンの、ステラとアルバの戦いは始まったばかりに過ぎなかった。

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