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345.年齢

 

「あ~面白かった~!」


 そう言って背伸びするイヒメ。声色からして本当にのびのびとできるようなゲームをした事による楽しんでいた事が伺える。


「俺も久ぶりにこうしたゲームを楽しめた」


 シンのこの感想も包み隠さず確かなものだった。シン自身も久しぶりにトランプによるカードゲームで楽しんだ事に素直に口にしたのだ。シンが最後にトランプで楽しんだのは本当の「多忙」になる前の時だった。

 その口振りにイヒメは笑顔で細めた目をカマかける時のジロリとした眼光と飛ばしながら


「へ~・・・普段は忙しいのかな?」


 と尋ねた。


「・・・・・」


 その言葉にシンは本当の「多忙」になった時の事を思い返した。

 砂埃塗れになってHK416を構えながら静かに日陰にいる暑い夕方。

 白い絨毯に赤を彩らせる事をしていた寒い正午。

 機能停止させられた戦車の隙間から覗く荒れ果てた市街地。

 怪異と呼ぶべき存在の首を片手に持って味方テントに戻る静かな朝。


「まぁ・・・忙しかったな」


 静かに目を閉じてそう答えるシンにイヒメは


「ふ~ん・・・」


 と穏やかで静かに目を細めて聞いていた。


「そっかそっか、忙しかったんだね」


「・・・まぁ、ね」


「「・・・・・」」


 再び目を開いた時、どことなく遠くて思い耽ているとも言えるシンの目にイヒメとサクラはその様子に静かに見守っていた。


「・・・君、来訪者だよね?」


 数秒程間をおいてから先に沈黙を破ったのはイヒメだった。イヒメは純粋にシンの存在についてを尋ねてみた。

 その問いにシンは少し間を置いてから答え始めた。


「・・・どういったらいいのか分からないから、とりあえず言えるのは「そう」とも言えるし違うとも言える、としか言えない」


 どうも曖昧な答え。だが実際に本当の話だ。転生とも言えるし、来訪者とも言える体だ。事実をここで言うのも最初は憚れたが、ここは正直に話そうと考えたシン。

 その答えに逆に聞き返してきたのは


「ふむ、転生者という事か?」


「いや、そうとも言えない」


 ウルターだった。

 否定するシンは平然としていた。嘘は言っていない。一同はそう考えた。


「?」


「どういうことだ?」


 聞き返すウルターとイズメク。その2人に面と向かうように座り直したシンの様子にサクラが待ったを掛ける。


「シン、いいのか?それ以上言っても・・・」


 シン自身の過去の事を言うのだ。しかもそれ程いい話ではない事が多くある上に、今までの様子の事を考えればシンの事情については言いたくない雰囲気を持っていた。

 それを察していたサクラは言ってもいいのかどうかを確認したのだ。


「これは流石に正直に言おうかと考えていたんだ」


「・・・そうか」


 シンが本当の事を口にする事に決心した様子を見たサクラはコクリと頷いてそれ以上言わなかった。


「何の話?」


「・・・・・」


 イヒメの疑問の言葉にシンは改めて一同に面と向かって自身の事情を話した。





「なるほど、確かにその理を考えればお主は転生者とも来訪者とも言えない存在になるな」


「ああ(よし、飽く迄も自分は2つの世界の存在が融合して出来上がった存在という事にしておけば、ある程度納得できるものがある。そうなれば・・・)」


 シンは飽く迄もゲームの話やノルンの事は言わない方向で進める事にした。早い話、現代世界と現代世界とよく似た魔法が使えるパラレルワールドの2つの世界があり、2つの世界に自分がいたのだがどういうわけか、融合してこの世界に飛ばされた・・・という事で話を進めた。

 実際嘘は言っていないし、間違っていない。

 今回も言わない部分は言わない方向で進めたのだ。

 この事に気になって食いつくのはこの世界の住人の強い好奇心だろう。


「2つの世界という事はどちらかの世界に魔法はあったの?」


「あるにはある。でも使える人とそうでない人がいる(これも嘘じゃない。俺も使えるのと使えないのとの差が大きいしな・・・)」


 いきなりグイグイとのめり込むようにしてまず話に入ってきたのはアンリだった。それを機にと言わんばかりに今度はウルターが質問を始めた。


「・・・我輩達の世界の技術とお主の世界と比べれば優劣は?」


「正直な話、現状では自分の世界と言えるけど、この世界の事をあまり知らないから簡単に答えが出ない」


「ほぅ・・・なるほど」


 これは事実だ。

 正直な所、現状は現代技術が中心の現代世界と魔法が混ぜこぜになってしまった「ブレンドウォーズ」の別の分岐点にへ向かっていった技術の世界の方がこの世界よりも遥かに進んでいるように見える。

 その事をについては暈し気味に答えるシンは流石にこちらばかりが答えるのは拙いと考えた。


「なぁ、俺からもいいか?」


「何だ?」


「俺以外の人間にも出会った事があるんだろう?その時、同じのを聞いたのか?」


「いや、魔法云々は聞かんな」


「ほとんどが魔法が存在していないからね。概念はあったけど」


 ほぼ想定通りの答えが聞けた。今の所、自分以外の特殊な形でこの世界に来た来訪者と言うのはほとんどの場合はシンの・・・いや()の世界、若しくはよく似た世界から来たのだろう。

 だからこの答えに関しては想定内だった。


「じゃあ、魔法が存在していないが文明が進んでいる世界から来ている事が多いのか?」


「更に言えば、同じ時代から来ている事の方が多いな」


 この答えにシンは眉間に少し皺を寄せる。


「多い・・・って、そうじゃない事もあるのか?」


「中にはそうでない者もいた。そのものは魔法以外の技術があまり進んでおらんだな」


 その答えに目を細めるシン。この答えは少し想定外だった。

 魔法以外の技術がそれ程進んでいなかった。という事は現代世界よりも更に前の時代。それ程進んでいないという事を考えれば、おそらく中世から一つ先の時代にあたる近世だろう。ヨーロッパ 西洋史上では、東ローマ帝国の滅亡及び、ルネサンス・宗教改革・大航海時代あたりから市民革命・産業革命の時代の前あたりまでを指す。早い話、15世紀~19世紀初頭までだ。


「その人物は今も生きているのか?」


「いや、生きていないな」


 時代がバラバラでこの世界に来ていた可能性も十分にあったが、生きていない事、今来訪者と転生者が元現代社会にいた事を考えるとおそらく現時点では来訪者と転生者が元居た世界はシンと同じで現代だろう。だが、何故そうなのかは分からない。


「我々が未生よりも更に前の話だ」


 未生。

 自分達が生まれる前の話。

 それは相当前の話だ。

 サクラはおろか、おそらく現代に生きる者はそういないだろう。


「そうか・・・。いや待って、サクラは知っているけど・・・何歳なんだ?」


 そう考えて納得しかけた時、「未生」と言う言葉に引っ掛かりを覚えた。ここなら「何百年」とか「先祖」と言う単語を使って年の数を表す。だがそうではなく「未生」と言った。つまり寿命が100以上可能性が高いという事だ。


「我は200は越えておる!・・・多分」


 シンの問いに真っ先に答えたのはギアだった。我先にと答えたのはいいが、自分の歳についてそれ程無頓着であるからか曖昧な答えだった。だがそれでも自分よりもはるかに年上であるのは間違いなかった。それを機に続いて


「私は256歳」


「オレは80超えている」


 アンリ、イズメクが答えていく。2人ともシンよりも年上だ。今の所自分の歳に近いはずのイズメクでも80超えている。しかも見た目が妙齢の女性であるにも関わらず、口から出たその年齢。

 シンの常識からして異常であるのは間違いない。


「アタシはヒ・ミ・ツ・・・って言っても納得しないと思うから手掛かりとしては・・・そうね、アタシは多分、貴方がいた世界と変わらない人間でぇ、見た通りよりも少し年上かしらね~」


 恐らくセーナが今の所聞いた中では()()が一番近いのだろう。40手前の女性(男性)だろう。そう言う意味では最も親近感がある。


「我輩は600を超えてから数えておらん」


「僕は475歳だよ~」


「わっしは287歳だ」


「・・・・・」


 一気に非現実的な事を口にする3人、ウルター、イヒメ、サトリに思わず黙ってしまうシン。

 特にイヒメは掴み処の無さが異様さを感じさせ、ウルターに至っては年齢に対しての気にしなさからしてギアやイズメクの様な無頓着さを感じさせなかった。その様子からミステリアスを強く醸し出して、より一層不気味さがウルターから渦巻いていた。

 黙ってしまった事に対してなのか、それとも各々が自身の年齢を公表している事に対してなのかアルバとステラも年齢を口にした。


「私は62でございます」


「私は24歳です」


「そうか」


 淡泊な答えだが、2人が最も親近感があった。確かにまだ近いはずのセーナがいるのだが、正直彼女自身、色物であるのは明白だから親近感は思うように出なかった。

 懐かしいという感覚はあるが。


「普人族は基本的に50~70程まで生きるから。中には40も生きれない地域もあるらしいけど。獣人族は60まで」


「それ以外の種族は100どころか、200を超えるのが当たり前だからねぇ」


「確か、わっしの覚え違いじゃなかったら巨人族は1000を超していたんじゃなかったかぇ?」


「それはほんと。確か、墓標が本国にあったと思うよ」


「へぇ・・・」


 アンリの捕捉を皮切りに思い出して口にする面々。最後のイヒメの答えにシンは少し興味を持った。機会があれば確認してみようと考えていた時、ウルターから声がかかった。


「聞きたいのはそれだけか?」


「・・・今聞きたい事はそれくらいだ」


 頷いたシンの様子を見たウルターの目の光が揺らいだ。


「そうか。ならば我輩からも聞きたい事がある」


 そっと目の前まで近づきウルターは


「お主、「戦車」と言う物を知っているか?」


「・・・・・」


 目の光が大きく揺らいでジッと伸を見ていた。

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