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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
一の代価から十の結果
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339.戦が近づいてくる

 面白くなさそうに鼻で「フン」と笑っている中肉中背の男がいた。


「税収が少ないな・・・」


 不満そうに言う男の服装は小国しては妙に着飾っていた。その男が目に通していた書類には国内の財政報告書や総裁生産と言えるような量の書類が机の上に山積みになっていた。それらを一通り目を通して眉間に深い皺を作っていた。


「ええ、奴隷どもを使っても、できる農作物や工芸品が限られておられます」


 そう答えるのはこの国の宰相なのか、着飾っている男とは違って地味だが着ている物が生地からして高価な物であるというのがわかる。身なりが整って、着こなしている事、目の上の人間に対してのこの対応からして補佐に当たる人物であるのは間違いなかった。


「しかも出来が悪くて買い叩かれるどころか、買いもせんとは・・・」


 面白くなさそうに言った後に、軽くだが乱暴に書類を叩きつける。その様子に補佐に当たる人物は気遣いのある口調で諌めるように


「やはり限界がございます、アイトス王。下民どもは長期にわたる重税に不満が溜まっています」


 と進言した。

 どうやらこの男はこの国の王だったようだ。しかもアスカールラ王国と敵対しているアイトス帝国の最高責任者だ。


「となれば、何処かに宛がなければならんな、なぁ?宰相よ」


 こちらもこの国(アイトス帝国)の宰相のようだった。


「戦でございますか?」


 やはりこれしかないのかと少し呆れと同時に心にまた栄えさせる方法があると期待が膨らませていた。


「ああ。だが周辺国で簡単に攻め込める国はほぼない・・・」


 だがアイトス王の言葉に一瞬ガクンと肩を落とすも、すぐに頭に過ったのはアスカールラ王国の魔眼族達だった。現状アイトス帝国の奴隷の半分はアスカールラ王国の国民、魔眼族だ。そこから連想してまだ何かあるのではと考えた。宰相は


「ですが、アスカールラ王国に・・・魔眼族に何か要求できる事は出来るでしょう」


 と進言した。

 その言葉に「お前はいったい何を射追っているのか」と言わんばかりに鼻を鳴らすアイトス王。


「要求するにしても、奴らが作れる物といえば鉄細工であろう?奴らに金属を触らせると密かに武器を作る。であるからして他の細工にさせたら二束三文。その上大して魔法も使えない上にできもしない事の方が多い、何とも使えにくい役立たずの種族に何を要求する?」


 実際、魔眼族は金属加工が得意とする種族だ。だから変に金属を与えてしまえば武器を作って反乱を起こす事になりかねない。一応奴隷の反乱を抑える魔法といったものは存在しているが、普及が進んでいない面の方が多い上に、抜け道も多い。その為、こうした事については身分の高い人物を奴隷にして行動などを制限する為にしか使わない。

 つまり数百人程度であれば魔法のかかった首輪のようなものを付ける事は可能だが、数千数万レベルとなればこれが通用しない。

 だから現状では魔眼族に与えられている作業内容は金属に関わりのある事柄以外に留めている。そうした事から魔眼族が金属加工しかできない魔法が使えない役に立たない種族と考えられてもおかしくないのだ。


「要求は奴らが匿っているエーデル公国では何やら井戸汲みでそれ程人手が必要のない物を作っているとの報告がございます。しかも我が国が潰した集落代表の娘が独特の農作物を作って食糧難を乗り越えることができたとの話もございます」


 その報告を耳にしたアイトス王は欲深な目になった。

 しかも以前自軍によって攻め滅ぼした集落に一次産業が栄える方法を知っている人間がいるとは思ってもみなかった。

 これは吉報と言わんばかりに


「なるほど、勝った側として当然の権利として要求するという事か・・・」


 食いつき、小さな声で唸って数秒程考え込んだ。

 その様子を見ていた宰相は更にこの件でどう進めていくのかについての段取りの説明に入る。


「その通りでございます。エーデル公国には飽く迄もアスカールラ王国と交渉の場を設けて戴きたいと言えば大して問題はございません」


 宰相の説明にアイトス王は目元を細めた。


「だが、仮にアスカールラ王国と手を組んでいるとなればどうする?」


 アスカールラ王国の国土侵略された時、その時匿ったのはエーデル公国だ。そのエーデル公国を通してアスカールラ王国の魔眼族に干渉する事になる。

 それは下手をすれば他国干渉に当たる。その為、変に手を出すわけにはいかないという面がある。

 しかし、それだけでなくエーデル側に何か密約のようなものを交わしていれば手を組んでアイトス帝国に大きな打撃を与える事を目論んでいるかもしれないと考えた。

 だが宰相は首を横に振った。


「だとしても、巨人族の男連中の移動は歩く事しか能がございません。という事は長期の移動となればエーデル公国は大きく武力を下げる事になります」


 軍事面でも詳しいのか巨人族がそれ程介入してこない事について、進言する宰相の言葉にアイトス王は目がギラついた。


「ほう。という事は巨人族の男連中は残ると?」


 巨人族の脅威はその体の大きさにある。体が大きければ大きい程身体能力が単純に大きい。特に身体的巨大さの事を考えれば巨人族の男が明らかに脅威になる。

 だが巨人族の男は数が少ない上に走るという行為はあまりしない。その為、国を守るという点においては間違いないが、攻め込むという点ではその逆になる。

 つまり連れて行かないという事になるだろう、と考えたアイトス王。


「僅かな男だけしか連れていく事だけしかできないかと」


 連れて行くとしてもそれ程の数ではない。多くても6体くらいだろう。このやり取りで以心伝心するようにこの言葉でお互い理解できる。


「それならばこちら側とほぼ互角になるな。・・・いや、こちらが勝つな」


「何故ですか?」


 意外な言葉を口にしたアイトス王に宰相は目を大きくした。


「飽く迄も我が国とアスカールラどもとの問題だ。戦闘には参加する事はない。するとしてもアスカールラどもが惨めに負けて逃げた時に再び匿う為に戦うだけになるだろう」


「それならば向こうは変に手出しはしませんな」


 確かにいくら同盟国でアスカールラ王国を匿っているとは言え、それでも変に干渉するという事はしない。変に干渉すれば、戦時中や戦後の利益面で複雑に絡んでしまう事になるからだ。下手をすれば内輪揉めになり兼ねない。

 ましてやアスカールラ王国は国土を失っている。エーデル公国はそれを助けているとは言え、アスカールラ王国の国土や資源を簡単に口出しできる立場ではない。こうした面から恐らくは干渉はしてこないだろう。むしろ戦争に加担するかどうかも怪しい所もある。


「ああ。あとはこちらが無理な要求してから、少し格下げの要求として例の技術と娘を我が物とすれば良し。無理な要求は尚良しとすれば良い」


 交渉において最初に「大きな要求」をして断られた後で、本命の「小さな要求」をすると、相手に承諾しやすくなる。人間は、要求を一度断ると、「断ってしまった」という罪悪感から、「次の要求はなるべく飲んであげたい」と思うからだ。これは心理学に基づいた交渉術であり、「ドアインザフェイス」と言われている。


「さすれば再びアイトス帝国の金回りも良くなりましょう」


 宰相も納得できた事にアイトス王はコクリと頷いた。


「うむ。早速だが、例の技術について具体的に探れ」


「は!」


 宰相はアイトス王の命令を実行に移すべくその部屋を後にした。


「フフフ・・・」


 一人残ったアイトス王は笑いながら窓側に立ち、持っていた銀の盃のワインをグイッと飲み干した。


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