335.誰かいるの?
その日の夜。
自室に籠り、更に布団を被っているシンはボソボソと何か喋っていた。
「一先ず、参加には成功したな」
話していた相手は当然アカツキだった。
「ああ、後はその場所に行くだけだ」
そう答えるシンは少し体勢を変える為にモゾモゾと布団を動かしたが、声が漏れないように配慮していたから音は一切出さないでいた。
「組織って事は、それなりに多くいるのか?」
「いやそうは思わない」
体勢を変え終えたシンはそう答える。
「何故だ?」
「サクラやサトリ、アンリの実力の事を考えればそんなに人数は多くいないと思う」
「なるほど、ほんの一握りの実力者か才能ある者達しか入れない界隈という訳か・・・」
確かにサクラ、サトリの戦闘力であれば複数にも単体にも向いているスタイルだ。アンリも戦闘面ではまだ分からないが、少なくとも推理力と分析力による推測から考えれば実力はサクラとサトリと同じレベルか、下手をすればそれ以上。
「それから権力者、とかな」
こうした実力を持ちながら、権力ある人物達。
サクラなら王族だし、サトリは少なくとも国家と面識ある人物。恐らく肩書がデカい人物だろう。アンリも同じくそう言った人物の可能性も十分にある。現にオオキミの国家中枢に当たるコウジョウに招かれている点もその可能性も十分にある。
「ん~・・・金持ちのボンボン連中が~・・・とかじゃないしな・・・」
「単純に経団連みたいなもんじゃないとは思う。多分だが国を跨ってと言うレベルの国際的な秘密組織だと思う」
組織の規模自体も分からないが、シンの周りに変な動きをしている連中が居ればアカツキとリーチェリカが分析して、シンに報告する。その事を考えればかなり分からない様に動いているか、若しくは敢えて小規模にとどめて動いている可能性がある。
という事は秘密裏に動いている組織という事が考えれる。
「秘密組織・・・結社とかか?」
「秘密結社」
「秘密結社か・・・可能性は高いな」
似ているようで違う単語、「秘密組織」と「秘密結社」。大きな違いとするならば組織であれば特定の組織の傘下にある可能性があるのだが、その可能性は低い。
何故なら、もし特定の団体ならばサクラやサトリはここに居ない可能性が高い。この2人は国家に大きく関わっている人物だ。立場が違う。国家の傘下によってという可能性は消える。また、今この場に居る人物で権力が大きいのは恐らくサクラだ。
だが今までのこの3人、アルバとステラを含めたら5人の様子を見ていればそうした上下関係はなかった。ほとんど対等に接している事の方が多かった。
その事を考えれば、「結社」の可能性が高い。
共通の目的のため集まってつくった団体である事を指す。つまり組織と結社の大きな違いは一から造られたかどうかの違いだ。この場合であれば組織は「一から作られたとも」言えるが、結社は「一から作られた」のだ。
だから共通の目的のため集まってつくった団体と考えれば「結社」だろう。
「俺らが思っている以上にデカいとは思う」
「だろうな」
こうなってくると問題なのが規模だ。他国の王族や他国の国家を巻き込んでいる時点で間違いなくデカいだろう。
そしてもう一つの問題。
「ボス、もしそうだとすりゃあ、結構ヤバいのが・・・」
それは・・・
と続けようとした時
「待て、アカツキ、誰かくる」
シンが気配を察知した。
「おっと・・・」
その事を察したアカツキはそれ以上発言せずに静かにしていた。シンはそっと布団の中から出て部屋の外を確認する為に障子を開けに立ち上がった。
「・・・・・」
ガラッ…
障子に手を掛けてそのまま引いて開けた時、外の廊下には誰もいなかった。
「・・・・・」
訳では無い。気配はある。
その気配の先がガラリと開けてすぐ下の方に目を向ければその主が分かる。
「!」
シンの眼に映ったのは
「・・・・・」
チャチャだった。
7~8歳位で頭部6cm上に狐の様な耳を生やしており、大人になれば間違いなく気が強くて高飛車にな美人になりそうな可愛らしい顔立ち。今の顔だちを見る限り、やんちゃして周りの人間に迷惑をかけていそうな悪戯好きである事を感じさせる。
赤くて花の模様が入っている女袴に黄色の見た事の無い花の刺繍が入っている白い千早の様な服を着ていた。足袋は履いておらず、裸足のままでここまで来る時にペタペタと小さな音が聞こえていた。
無言で立ってシンの事を見ていた。
「(狐の耳・・・カミコと同じか・・・?)こん・・・ばんは?」
狐の耳を見たシンはカミコとの関係がある人物かと考えつつ、今の状況からして挨拶をするシンはそっとしゃがんだ。
「こんばんわー」
そう答えるチャチャはどことなくシンが言ったからそう答えたような感じがしていた。見た目と反して妙に大人しい印象がある事にシンは少し違和感を覚えた。
「・・・何か用か?」
「・・・・・」
シンが尋ねてもチャチャは黙ってジッとこちらを見ていた。まるで自分の事を観察している・・・いや、何か見透かされているかの様に感じる。その様子に流石に「少し」から「確実」な違和感に変わったシンは
「どうした?」
とチャチャの目を覗き込む様にして訊ねた。
シンの言葉に漸くしてと言ってもいい位に答えたチャチャ。
「ねぇ」
「ん?」
未だにジッと自分を見つつ、声を掛けてくるチャチャの次の言葉にシンは凍り付いた。
「誰かいるの?」
チャチャの言葉に
「・・・っ!」
シンは目を大きくして絶句した。
この言葉に引っ掛かりを覚える所か、確実に身に覚えのある様な頭に何かが過ったシン。今までにない感覚にシンは少し混乱を起こしそうになりつつも、落ち着いてチャチャに
「どうして・・・」
と声を掛けようとした。
だが、チャチャは
タタタッ…
「あっ」
その場を走って後にした。
シンが目で追いかけた時には廊下の奥の暗闇に吸い込まれる様にして姿を消したチャチャ。その様子を見ていたシンは追いかける事はせず、見送った。
「行っちゃったか・・・」
「・・・ああ」
そんな様子にアカツキはそう言う。その言葉にシンはそう答える。
「・・・・・」
シンはチャチャのあの言葉を思い出していた。
誰かいるの?
あの言葉は「シンの部屋に誰かいるのか」ではなく明らかにシンに対して言っていた。何故ならシンとチャチャが対峙した時、チャチャは終始シンの目をジッと見ていた。もし部屋の事を訊ねるとするならば、間違いなく部屋の方を凝視していた。
その事を考えればあの言葉は間違いなく自分に対する言葉だ。
だが正直な話身に覚えのない話だ。寧ろ「何の事?」と首を捻る話だ。
子供の戯言と言える話なのだが、シンの中ではそれだけで片づけられるような話ではない様に感じた。
あの言葉にシンは酷く心に引っ掛かりを覚えていた。
そんな様子のシンにアカツキが
「ボス」
と声を掛ける。
「ん?」
応じるシンの声には低く重く感じる。それを感じ取ったのかアカツキは
「そろそろ寝たらどうだ?」
と提案した。
確かに身に覚えがないのだが、引っ掛かりを覚える事に気にしても答えは出ない。考えるだけ無駄と数秒程の間にそう答えに行きついたシンは
「そうだな」
と答えて布団に戻ってアカツキに
「このまま休むよ。お休み」
と言ってそのまま床に着いた。
「OKボス。通信終了。お休み」
アカツキもこれ以上言葉を交わさずここで通信を終了した。
シンはこのまま目を閉じて眠った。