333.手の平
昇り切った太陽は己の丸さを誇示するかのように光っていた。周りの風景が見えて来て、爽やかな風が頬を撫でる。
その朝日の光を浴びたサクラはシンの方を見た。
(隣に誰かいて一緒に見るってのも・・・)
そう考えていた時
「お嬢様~!」
聞き覚えのある女性の声、しかも自分の身分を知っているかの様に叫んでいた。
「ん?」
「え?」
何だろうと思って、思わず声を上げてそちらの方を向くシンとサクラ。
「お嬢様~!」
森の奥からサクラの事を呼んでいたのはステラだった。ステラは手を振ってこちらに向かって走って来た。
「ステラ!アルバ!」
「何!?」
更に森の奥から見えたのはアンリとサトリの姿が見えた。その姿を見た時シンの脳裏に過ったのはフリューの存在を見てしまったのではないのかと言う可能性だった。
「お嬢様!お怪我は!?」
「大事ない。すまない、心配をかけた」
「然様で・・・」
「ご無事で何より」
駆け寄って来たステラとアルバの心配の言葉にサクラは問題ない事を伝える。その言葉を聞いた2人はホッと胸を撫で下ろして安堵の笑みを浮かべた。
その様子にシンは目を大きくして残りの2人、アンリとサトリの事を見ていた。
(早い・・・!何でこんな早く駆け付けたんだ?)
シンが信じられないと言わんばかりの顔になっていたのは4人がここまで来た事に対する事だ。フリューの存在は誰にも知られていない・・・はずだ。サクラがうっかり口を滑らすような真似さえしなければこうした状況にはならない。
だから疑いの目が2人を宥めるサクラの方を向けてしまった。
その視線に気が付いたサクラはアンリの方を向いた。
「良くここが分かったな?」
そう尋ねると
「アンリ様の言う通りに動いた結果でございます」
ステラが代わりに答えた。
「アンリが?」
「サクラちゃん、3日ぶり」
目を細めるサクラにアンリは普段と変わらない平然とした態度でそう言う。
「アンリ、よく分かったな」
サクラがそう尋ねるとアンリはニコリと笑って
「よく分かるよ。だって・・・」
そう言いながらシンの方を向いて
「別の場所にいたから、でしょ?」
と答えた。
「「っ・・・!」」
思わず目を大きく見開いて絶句するシンとサクラ。
「・・・アンリさん」
目元が鋭くなったシンにアンリは表情変える事無く
「な~に?シン君」
と平然とした声でそう答える。
「どうしてそう思ったのですか?」
シンの問いにアンリは
「・・・服やサクラちゃんの身体を見ればすぐに分かったよ。2人は少なくとも別の場所で治療を受けていたんでしょ?」
「「・・・・・」」
即答した。しかも的確で筋が通っている。
絶句すると同時にどう誤魔化すか、どう切り抜けるかと考えるが、今の自分達の格好が妙に小綺麗な所を見せた事によってどう説明しても無理な気がしてならない。
だからなのかサクラは小さな溜息を吐いて
「・・・アンリには敵わないな」
と呟いた。
その呟きを聞いたシンは
「・・・サクラ」
と声を掛ける。
バラすのか、と言わんばかりの強めの口調だった。だがサクラは妙に冷静な口調で
「もうここまで見抜かれている所であれば最早どうする事も出来ん」
と答えた。
まるで観念したかのような物言いだった。
と言うよりも言い逃れや誤魔化し等の切り抜ける言葉の案が浮かばない。数秒も経つ。
これ以上引き延ばしても最早肯定と捉えかねない状況。
「・・・分かった。だがここでは言えない事の方が多い。場所を変えよう」
「うん、わかった」
観念したようにそう答えるシンの言葉にアンリはコクリと頷いた。
「取敢えず見つかった事だ。戻らないか?」
「そうだね。落ち着いた所で話そうか?サクラちゃんの事とか。シン君の事とか。別の場所の事とか」
「そうだな・・・」
サトリの提案にシンとアンリは頷いた。
半日かけてオオキミのコウジョウの来賓室まで戻ったシン達。サクラ、ステラ、アルバ、サトリは廊下等を自分達以外誰もいない事を確認してそのまま来賓室に入った。
入って用意された座布団の上に座った一同。
座って早々口を開いたのは
「さて・・・」
アンリだった。
アンリの視線がジロッとシンの方を向いていた。その視線は何から聞こうかなと言わんばかりの好奇心からくるものでシンはその視線を睨み返す様に見ていた。
「・・・シン」
その様子にサクラは心配そうに声を掛けた。
「大丈夫だ」
心配そうに声を掛けるサクラにシンはその顔を見てそう答えた。その言葉を聞いたサクラは少しだけ安堵した。
その様子にサトリは
「・・・な~んかお前さんらって」
「何だ?」
「夫婦か?」
「なっ・・・!」
何となくシンとサクラの様子からしてそう感想を述べる様にして答える。
その答えにサクラは顔が紅潮した。
「冷やかしか?」
「いやいや、すまんすまん。お前さん達の様子を見ているとそう言う風に見えていてな・・・?」
眉間に皺を寄せてそう尋ねるシンにサトリはカラカラと笑いながらそう答えた。この場に居る人間がサトリの茶化しだと判断しそうになった時、アンリが横槍を入れる。
「そういう風に見えてもおかしくないよ」
「ん?どういう事だい?」
「この2人には共通の秘密を持っている・・・か、若しくはどちら・・・いや、シン君の秘密をサクラちゃんも知っていて共有しているかのどっちか何だと思う」
「「!」」
アンリがズバリと言わんばかりに言い切ったその言葉を耳にしたシンとサクラは思わず短く強く息を吸いこんでしまう。
その様子を見ていたアンリとサトリはアンリの推測通りだった事を理解した。
「・・・さっきのサクラちゃんの様子の事を考えればシン君の秘密を後から知って共有しているじゃないかな?」
「・・・・・本当にアンリには敵わないな」
さっきというのはサクラがシンに心配そうに声を掛けていた時の事だ。
その事を言われたサクラは観念した様に言った。
「私にとってはサクラちゃんが分かりやすいから、としか言えないね」
「そうか・・・王族としては今後の大きな課題だな」
「私だから言える話だから大丈夫だよ」
「そう」
冷静に言うアンリの言葉にサクラは静かに認めるサクラ。そんな様子にシンは観念してこの件についてどこまで知っているのかを探る方向へ固めた。
「アンリさん」
「アンリで良い。何?」
「改めて」と「畏まって」がくっついたような物言いでアンリの名前を呼ぶシンにアンリは冷静にシンの方を向いた。シンの目には妙に座っていた。その様子にアンリは僅かに目を細める。
「どこまで?」
「と言うと?」
「アンリ・・・の推測」
シンの言葉にアンリはニッコリと笑って
「そうだね、シン君がこの世界のどこでも無い所から来た、とか?」
と答える。
その他絵を聞いたシンは目元が鋭くなり
「その推測、ここの人達意外に誰か言ったか?」
と訊ねた。同時に
チリ…
「「「っ!?」」」
一気に殺気を放出した。
ザワリとくる寒くないはずの悪寒に、一瞬ながら心臓を握られたかの様な感覚をその場にいた全員が覚える。
サトリはすぐにでも刀をいつでも抜ける様に脱力して、ステラとアルバはサクラを守る体勢に入っていた。そんな中で、アンリは脂汗を掻きつつも冷静な口調で
「・・・い~や?誰にも?」
と答えた。
「・・・・・」
アンリの言葉を疑っているのか不気味な沈黙になるシンにアンリはシンの瞳を真っすぐ見ていた。その様子にサトリは
「アンリの言葉にはわっしが証言するよ」
と脱力してシンに集中している状態の中でそうフォローに入る。
「・・・・・」
「・・・・・」
お互いに異様なまでに沈黙の間に入り、その場の空気が息苦しく、チリチリと張り詰めた。そんな2人の様子にサクラはそっとシンの方に近付いて
「・・・シン」
と声を掛けた。
その声にシンは小さな溜息をついて
「分かった」
と答えた。
同時に出していた殺気を収めた。その様子を見た一同はホッと胸を撫で下ろして構えや厳戒態勢を解いた。
アンリも掻いていた脂汗がピタリと止まってスゥと引いた。
「・・・・・」
小さく息を整えたアンリにシンは口を開いた。
「当たっているよ」