330.そうは見えない
「お・・・自分達もですか?」
「ああ」
目を真ん丸としながらシンに訊ねる相沢は思わず「俺」と言う一人称を使いそうになりつつも恐らく年上と思しきシンに対して言葉を正した。
「あ~その・・・大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫です」
同じく真ん丸としつつもボ~と上の空となっている九の様子にシンは声を掛ける。反応した九はハッと我に返ってすぐに返事をした。
その様子にシンは申し訳なさそうに
「いきなりだから驚くよな?」
と答える。
「シン、貴様は言うタイミングが酷いな」
「・・・そっか」
今から遡る事数分程前の事。シンはサクラから提示されたあの参加の件についてを2人にも聞いてみたのだ。
2人の答えは自ら志願する形で参加する事になった。シンは参加を志望する2人の意思に尊重して頷いた。
シンの答えが意外だったからか、2人はまさか自分達も参加する事が出来るとは思ってもおらず、相沢は飲み込めずオウム返しになり、九は上の空になっていた。
言うタイミングが突拍子もない時に言ったせいもあり、半ばとんとん拍子に他に日本人がいるかどうかを探る事が出来る機会を得た事に驚いていた。
サクラが言うタイミングが酷いと言われても変ではない。正論だろう。
シンの話すタイミングに対して小さな溜息をつき、2人の方を向いたサクラ。
「改めて聞くが、本当にいいのか?」
真剣で自分達に強く向き合う様な眼差しに2人は力強い目で
「はい」
「参加します」
と答えた。
その答えにサクラはジッと2人の目を見ていた。
「・・・・・」
数秒程見つめたサクラはそっと目を閉じてコクリと頷いた。
「分かった。ワタシが責任もって2人の身元を保証しよう」
「「え・・・」」
サクラは参加する2人の身元を守ると宣言した。その事に2人は思わず声を上げてしまう。
「ワタシが保証すれば変な事にはならんだろう。案ずる事なく参加するといい」
「ありがとうございます」
「よろしくお願いいたします」
賛成するサクラの言葉に2人はベッドの上から深々と一礼をした。
「ああ、「一石家に住んだ」と思え」
「いっせき・・・?」
「それはどういう意味ですか?」
当然聞いた事も無い単語に首を傾げるのは当然の事。知らない言葉に戸惑う2人にサクラはどう説明しようかと考えた時、シンはフォローする様に横槍を入れる。
「多分だが「大船に乗った」つもり・・・信頼できるものに任せたり、危険な状況がなくなったりして安心できる状態になる事でって意味じゃないのか?」
まずシンが言っている意味については間違っていなかった。だが2人が気になっている事はそこでは無かった。
「・・・シンさん」
「何だ?」
「「親船に乗る」じゃないのですか?」
知っている単語とは違う事にシンは思わず目を真ん丸になってしまった。
「・・・そ、そうなのか?」
しかも少しどもり気味になる。意外な上にまさか違っている事に思わず焦ってしまうシン。そんなシンにフォローする様に
「どっちも正しいよ」
と答えたのは九だった。
「どっちも正しかったのか」
その言葉を聞いてシンは少しホッとした。
「初めて聞いたよ「親船」なんて・・・もしかして偏差値って高いのか?」
確かに「親船」と言う単語が入っているとは知らなかった上に、どちらも正しいというのは高校でもあまり聞いた事は無い。
ふと過ったのは2人が通っている高校の偏差値のレベルだ。偏差値が高い高校ではこうした国語の単語でも多く知る事の方が多い。だから両方知っていてもおかしくない。
「確か私達の偏差値って・・・」
「69位じゃなかったっけ?」
その事を聞いたシンは目を少し大きくした。
「高いな」
偏差値69と言うのは単純計算すると、全体の成績上位約2.9% に相当する。中学生100人中、上位3人に入っていれば合格する高校と考えていいだろう。中には2時間位勉強時間に当てればいいという人間もいるだろうが少なくとも上位3人と言うのは間違いない。
因みにシンが通っていた偏差値は65だ。
「何だ?そのヘンサチというのは?」
シン達の会話に口を挟んできたのはサクラだった。部外者の上に聞き慣れない単語が飛んでいた事に興味を持ったようだ。
「偏差の度合を表す値の事だ」
「ん・・・?」
まだ聞き慣れない単語があるせいか首を傾げるサクラ。
「え~と・・・偏差値と言うのはデータ・・・数値として出された資料がの値が一定の平均や出された標準の数値の資料に変換した時に示す値の事」
「んんん・・・?」
今度は眉間に皺を寄せる。無理もない。
現代世界の人間が当時の文明の一部を持ち込んでいたとは言え、所詮は一部。物事や概念が完全に浸透していない事もある。
今正に「偏差値」と言う概念の浸透の無さが垣間見える。
「あ~そのね?」
どこがどの単語か分からずどう説明をしたらいいのか分からない九。
そんな九にシンは
「要するに平均となる数字が一般で「5」だとした時に、特定の面での平均となる数字が一般の「5」とはまた違う。その特定の平均の数値を出す時に値が「偏差値」だ」
と分かりやすく具体的でありながら砕けた説明をした。その説明にサクラはコクリと頷いて
「概ねだが理解した」
と答えた。実際納得して胸は腑に落ちていた。
説明したシンに九と相沢は意外そうな顔になっていた。
「説明上手ですね」
シンの説明はサクラの知らない単語を使わず、尚且つそれなりに理解出来る様に砕けた説明をしていた。その事に2人は意外だったのだ。
「敬語は使わないでくれ。タメだから」
「タメって・・・」
まさかシンと同じの都市である事に更に意外な顔をする2人と同じくサクラも意外そうな顔をした。
「正直、とてもそうには・・・」
「「見えない」だろ?」
シンの今の姿はブレンドウォーズのプレイヤーキャラクターと現実世界の姿と融合してできて存在だ。だから年齢も確かなものではない。
だからシンは正直でなおかつ簡潔に答えた。
「ちょっと訳あって今の姿になったんだ。俺の姿を見て何歳に見える?」
シンがそう質問すると2人とサクラは「ん~」と小さな声で唸って
「・・・20歳位に見える」
「俺は18歳位かな」
「ワタシも18から20位に見える」
と答えた。
そんな各々の答えを聞いたシンは少し答え辛そうにして
「・・・俺は16」
と答えた。
すると
「「・・・・・」」
数秒程の沈黙の間が生まれた。
そしてその沈黙が終わった時
「「「えええ~~~~~~~っ!?」」」
一室だけでなくマザーベース全体に響くような驚きの声が響いた。
この驚きの声は言うまでもなくシンの見た目に反して年齢が低かった事に対するものだ。
「俺はそこまで老けて見えるのか・・・?」
シンは少しだけショックを受けていた。