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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
一の代価から十の結果
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329.参加理由

 

「どうする?」


 少し意地悪そうな印象のある言葉を口にするサクラ。


「・・・・・」


 明らかに何かあると思わせる様な態度のサクラにシンは数秒程考え込んだ。

 そして出した答えは


「行く」


 これに尽きた様に答えた。


「そうか、やはり行く気はない・・・何?」


「「行く」って言ったんだ」


「・・・意外」


 本当に意外だったから用意していた台詞を口にして事を進めようとしていたサクラ。だから思わずシンに対して率直な感想を口にしてしまった。


「必要な事だと思ったからな」


 シンの答えにサクラは目を細める。


「具体的には?」


 少し低い声でそう尋ねるサクラにシンは簡単に説明を始めた。


「・・・俺以外の人間がこの世界に来ているという事はそれなりに何かしらの足跡とか爪痕みたいなものがあると思ったんだ。その足跡が大きなものだったらそれを管理する組織が存在するんじゃないかと思ったんだ」


「なるほど。それで関わろうと考えたのか」


「まぁな」


 シンの簡単な説明に納得できた。サクラはコクリと頷いた。


「いいだろう。お前を歓迎する」


「・・・よろしく頼む」


 ニヤリと笑って歓迎の言葉を送るサクラにシンは普段の様に答えた。





 一応これから先の事について決める事が出来たシンとサクラは一先ずその場で別れた。シンは2人がいる所へ向かい、サクラは自室としている部屋まで向かって行った。

 サクラが自室まで行く最中シンとの会話でその様子を思い出していた。


「・・・いやにすんなりと承諾したな」


 予想以上に躊躇いも無く承諾したシンの事を思い出しているサクラは眉間に皺を寄せて目を細めた。慎重なシンがすんなりと承諾した事に何か裏があるのではないかと思ってしまう。


(短い付き合いだけど、シンの事はある程度は分かっている。ワタシが所属している組織は来訪者や転生者と関わりがある事を知ったら、本来なら訝しむ)


 サクラの屋敷の時から親しむ様にいたシンとの生活。そこから短いながらもシンの事について知っている。普段のシンならばこういった話ならば簡単に首を振らない。何故ならシンは大戦と言えるくらいの過酷な環境で過ごしてきた。だから慎重になる癖がある。

 サクラは王族だ。吸血族としては短い人生だがあらゆる人間を見てきた。だから何となく分かるのだ。

 シンはまず頷かない。


(だが、シンは2つ返事に行くといった。ワタシがシンとの付き合いで心を許したからか?それとも来訪者や転生者の情報が欲しかったからか?)


 そう考えても別に変な話ではない。

 付き合った期間は短いとは言え、心を許せる面があってもおかしくない長さだ。だから一緒に行ってもいいと考えても変でもない。

 またここに居る2人以外の転生者と来訪者についての情報欲しさに参加しようと考えてもおかしくない。

 こうした事から参加しても良いと考えた可能性がある。

 だが何か引っ掛かりを覚える。


「或いは」


 そう呟き、自室へ向かう歩みの足をその場に止めた。

 同時にサクラの頭の中に答えが過った。


(「その程度」にしか思っていないからか・・・?)


「その程度」。つい先程サクラはシンの実力を目の当たりにした。だから自分達の力量は「その程度」で片づけられる位の事柄故に()()()()()()()()()()と考えた故か。

 もしそうだとすればそれは良くない方向への前兆かもしれない。そう考えたサクラは


「念の為に・・・」


 と呟いて鋭く目を細める。


「シン・・・お前はどう動く?」


 サクラは考えている通りであれば何かすると踏んで念の為に策を講じた。その策にシンが嵌れば封じる事が出来る。

 だからサクラはそう呟いてしまった。





「ボス、どういうつもりなんだ?」


 サクラの疑問はアカツキも同じだった。サクラと同じくシンも自室まで向かう途中だった。

 歩いている最中アカツキから連絡が入ったのだ。


「サクラが所属している組織ならば、問題無いはず。だから接触しても問題ない。それからサクラの組織と大きく関わらせていこうと考えている」


「関わらせる?」


「スタンをその組織に入れる」


 人物・・・と言うよりスタッフが挙げられた事にアカツキは納得した。


「それで向こうの動向を探るという事か・・・」


「ああ」


 アカツキが考えていた納得の理由を口にするとシンは頷いた。間違いなかった。


「スタンとは連絡は付かないよな?」


「ああ、恐らくだが西方の国辺りの商会との商談をしている最中だろうな」


 スタンことスタンチク・・・この世界では「アダム・ワース」として行動しており、現在資金調達の旅に出ている。方法は合法違法問わず、他人に迷惑が掛からない方法で手に入れている。簡単に言えばならず者の集団や汚職している人物から一気に金を巻き上げるといった手段が主だ。


「商談か・・・。現状どれ位の金額なんだ?」


 因みにだが「商談」とあるがまともな「商談」なのかそれとも違う意味の「商談」なのかはスタンしか知らない。


「詳しくは分からないが、少なくとも1つの小国程度なら大きな影響は与える位の金額とは聞いているな」


 それを聞いたシンは目元が細くなった。


「という事は、少なくとも数十億は超えているんだな」


「ああ」


 中世レベルの文明のこの世界。どういった方法で国家としての経済や歳出があったのは分からないが中世と同レベルなのであればある程度の事は予測が出来る。

 まず中世において国家予算というものは存在と言うものは存在していなかった。

 戦争になれば、封建的主従関係により兵力を揃えるか、傭兵を雇い入れる。しかも傭兵は高いから戦闘の時のみとしている。

 また戦争になると、王は議会を召集して臨時の税をかけて資金集めを行う。やりすぎると、都市や部下の領主が反発して資金提供してくれなくなる。

 それから自然災害等は領主が農民等を徴用して行っていた。これは自分の所領の為であり、部下の領地には関知しなかった。

 こうした事により、金よりも権力の力によって国として成り立っていた面が強かった。どうしても経済を回さざる得ない事になった場合では現在の金額にして数十億円程の金が動いていたと考えられている。だが遷り変わりの流れが激しい時代とも言えるからか、後期になればなる程金額も上がっていった。

 日本の戦国時代であれば織田信長の年収はは年貢米だけで255億〜375億円相当を稼いでいたとされており、次期の豊臣秀吉は「黄金太閤」と呼ばれるだけあって直轄領は220万石、その内の取り分は約37万石で555億円も手に入れていたと言われている。最後の徳川家康は豊臣家を滅ぼし、その所領を吸収した後の家康の直轄領は400万石にも上り、その年貢米からの取り分だけでも約67万石、年収1005億円もあったとされている。

 こうした事から年々増加している事から経済の概念や金に対する見方が大きく変わった時代と言えるのだ。

 だから正直な所、数十億円程度がどれ位の影響力があるのかは分からないのが多いのだ。だが少なくとも小国がいざ戦争となった時くらいの金の入用であればこれくらいは動くのは間違いないだろう。


「取り入るという面ではいい条件だろうな」


 アカツキの言葉に頷くシン。


「上手くいけば数百億って事にもなるか・・・」


「そうなるな・・・」


「相手の組織がどれだけの運営資金があるのかってのが気にあるところだが・・・」


 経済調査がまともにないこの世界では日本の戦国時代の様に数百億を持っている事等それ程難しい話ではない。

 寧ろ大国レベルならば持っていても変な話ではないのだ。だからサクラが所属している組織がどれだけの資金額なのかは分からないのだ。

 とは言え数十億でも十分すぎる位の金額を持っているのは違いない。しかも短い期間でここまでの金額を手に入れているから取り入る事は出来る可能性はある。

 だが取り入ってくれる判断材料としては正直弱い。


「数百億となればそれなりになる。少なくとも兵士を雇い入れる所か、一国の軍隊ですらも手に入れられない様な物を持つ事が・・・」


 やはり金額をゼロを増やす事に専念するべきかと考えていた時、シンの脳裏に金では簡単に手に入れられる事が出来ない物が過った。


「ボス、どうした?」


 過ったシンの目は大きく見開き、僅かな間沈黙していた様子にアカツキは声を掛ける。


「アカツキ、やっぱり至急スタンに連絡を取ってくれ」


 何か含みのある様に感じさせられる低い声でそう言うシン。


「何故だ?」


 何か思いついたのだと考えたアカツキはすぐにでも連絡できるように用意した。


「金以上に良い物を土産にサクラの組織に入る事が出来るかもしれない」


 この言葉にアカツキは今一つ分からなかった。

 だが実物の情報を聞いた時アカツキは納得してスタンに連絡を取った。

 そしてスタンは2つ返事で参加する事になった。

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