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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
一の代価から十の結果
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326.会わせない

 サクラが泊っている部屋にいるシンは眉間に皺を寄せていた。


(拙いな・・・日本人と思しき2人に会いたいが・・・)


 シンの耳にはあの2人について届いていた。だがおいそれと簡単に動くわけにはいかなかった。その訳はシンの目の前の人物にあった。


「ん?どうした?」


 首を傾げてそう尋ねてくるサクラ。

 2人は話を聞く限りでは恐らく日本人である可能性が高い。

 もしそうならば2人にとってもサクラにとっても今後について大きく変化を呼び寄せてしまう事になり兼ねない。

 だからなるべくならば出会わせたくない。出会えばこの世界もそうだが、2人とサクラの今後の人生にも大きな影響が変わってしまう事になる。

 2人がサクラの事を知ってしまえば変に警戒するし、最悪の場合超大陸からかなり離れたマザーベースから逃げ出すという事になり兼ねない。そうなれば2人はまた漂流者となる上に場合によってはジンセキの存在も知られてしまう。しかもサクラは王族だ。王族の立場ならば2人を無理にでも取り込もうとする事も十分に考えられる。そうなれば尚更逃げる可能性が高い。

 逆にサクラが2人の事を知ってしまえば一国の王女とも言える身分のサクラがこのマザーベースの事を独占的に知るという事実になる。そうなればサクラはその情報を手に入れようとする者達の手が伸びてくる事になる。それこそ追われる身になるという可能性も十分にある。

 変に関わってしまえばサクラ自身がブレンドウォーズでBBPの件で追われた事がある自分と同じ道に辿り兼ねない。シンはサクラと2人にはその道をたどって欲しくない。その為にはサクラと2人とは出会わせたくはなかった。


「・・・何でもない」


 シンはそう考えてそう答える。

 この後の事はどうにかしてサクラに適当な理由を付けて、一旦別れてそのまま2人の方へ向かう。シンはそう考えて行動に移そうとした時だった。


「何か気になる事があるのか?そっちに行かないのか?」


「・・・・・」


 鋭い。

 女は勘が鋭いというのは本当なのか。

 そう頭に過ってもおかしくない位に的を得た言葉を口にするサクラにシンは思わず短い絶句の間を与えてしまった。


「気になるのはサクラの方だろう。知らないものの方が多くあるから」


 最もらしい事言って話を逸らすシン。


「確かに。だがそれについてお前は見せない様にしているだろ?」


「・・・・・」


 だがサクラは鋭く指摘する。確かに言う通りだった。サクラが行動する時、必ずと言って良い程、シンやジンセキのスタッフが付き添って行動している事の方が多い。「ここは迷いやすい。だから危険な事もあるから共に行動してほしい」等と言って。

 そうしてサクラを案内する振りをしながら、変に見られて欲しくない箇所を見せない様にしていた。

 サクラはその事に気が付いていた。


「お前が気になる事についても見せない様にしていたのだろう?」


「・・・・・」


 図星だった上に嘘が通らなくなった事に対して別の理由を言って逸らすか、それとも事実を言って納得させるか。

 色々考え始めようとした時、サクラは小さな溜息をついた。


「行け」


「何?」


 意外な言葉が出た様に聞こえたシンは思わず尋ねてしまう。


「行け、と言ったんだ」


「・・・お前は行かないのか?」


 聞き間違えなかった。それ処かシンにそのまま気になる事柄の方へ向かう様に言った。その事にシンは目を真ん丸させる。


「ワタシが行くと言ってもお前は行かさないつもりだろう?ならば無駄と言うものだ。だからここに残る」


「・・・・・」


 確かにサクラにあらゆる理由をどうこう言おうともサクラはどうにかしてでもその2人の元まで行くだろう。だったら残っているのはどうにかしてサクラに納得してもらうしか方法はなかった。

 だがここに来て案外アッサリとシンが気になる事、2人の件について自分は追わず、そのまま向かう様に言ってきたのだ。


「分かった。ここに残ってくれ」


 念の為にと言わんばかりに「この部屋に残る」事を少し強調する形で頷いた。


「ああ」


 ここでもサクラはすんなりと頷いた。

 何か納得が出来きたのかと判断したシンは踵を返して


「・・・・・」


 細めた目でサクラの事を見ながらそのまま部屋を後にした。


「・・・・・」


 シンの事を見送ったサクラはスクッと立ち上がった。


「さて・・・」


 サクラはニヤリと笑ってそう呟き、部屋の扉の前まで近づいてドアノブに手を掛けた。


 ガチャリ…





「ボス」


「何だ?」


 少し心配気味に通信を入れるアカツキ。その様子にシンは小さな声で普段の様に答える。


「嬢ちゃんの事だが・・・」


「大丈夫だ。付けられていない」


 アカツキが不安の全てを言い切る前に現状問題ない事を言葉を被せた。


「そうか・・・。ならいいんだが・・・」


 アカツキのカメラからは四角になっていて分からない。しかもここのマザーベースは作られて間もないから監視カメラの数が少ない。

 漂流者の少年少女らが余り不安に思わないようにする為に監視カメラの数が少ない所まで輸送させている。だから後を付けられていても分からない。

 つまりシン頼みになる。

 だがシンは気配の察知能力が非常に高い。だからもし後を付けれたとしてもすぐに気が付くから問題ない。


「正直な話、俺達の考えもしない方法で来てもおかしくないから「大丈夫」とは言い切れないな・・・」


 サクラの動きを注視しつつここまで来たのだが、別の方法でこちらにやってくる可能性も十分にある。相手の気配を誤魔化す魔法があってもおかしくないし、透明人間に慣れる魔法も十分にある。


「とにかく、用心してくれ。嬢ちゃんの為にも」


「ああ」


 アカツキも理解していた。だから念には念を、と言わんばかりにシンに言ったのだ。シンも当然この件については深く理解していた。だから用心を重ねていた。

 そんな話をしている内にシンは2人が収容している部屋の前まで来ていた。


「・・・ここだな?」


「ああ、その部屋だ」


 コンコンコン


 部屋の前まで来たシンは3回ノックをした。


「はーい」


 向こうから少年の声が聞こえた。相沢透だろう。


「あ、ちょっと待って下さい!」


 次に聞こえてきたのは九葵だろう、少女の声がした。扉の奥から衣擦れの音が聞こえた。


「ああ、ゴメン!きがえ・・・」


「黙ってて!」


「ご、ゴメン!」


 透のデリカシーの無い発言のお陰でドア向こうで一体何をしているのかはすぐに分かった。恐らくだが、九が一旦服を脱ぐ様な事があったからカーテンを閉めて服を脱いだのだろう。その事については一言透に断る必要がある。一言断って一旦服を脱いで再び服を着る事になっていたから、シンがドアをノックした時に待ったを掛けたのだろう。


「すぐに用意しますので・・・あっ、ちょっ!」


 シャーッ!


「アッ何!?」


 バタバタバタ!


「うわぁっ!」


「キャッ!」


 ドシャン!


 明らかに何か変な音が聞こえてきた。


「・・・何やってんだ?」


「さぁな。用心の為に男女別々にしなかった弊害が出てんのは間違いねぇよな」


 音からして慌てた九がカーテンを掴んでそのまま透の所へ倒れ込んでしまったのだろう。

 そこまで想像が出来たシンは最初は開けないで待っておこうかと考えた。

 だが万が一の事もあるからと考えたシンはドアノブに手を掛けた。


「音がしたから失礼するぞ」


 ガチャリ…


 一応一言だけ声を掛けてそのまま部屋に入った。


「・・・・・」


「「・・・・・」」


 シンの目に映ったのは服が開けた葵が透を押し倒している様子だった。カーテンはレールから外れてしまって透の身体に絡んでいた。

 まるで葵が()()()()()()()そのまま押し倒してしまっている絵図になっていた。

 そんな絵図を見たシンは小さな溜息をついて頷いた。


「ここはそう言う場所じゃないが、20分後にまた来るとするよ」


「「ちょっと待って!」」


 2人のハモった声が部屋の中で響いた。


 ガチャン…


 シンはそのまま部屋の外に出て行った。部屋の中ではギャイギャイと騒いでいたが2秒後に静かになった。


「やはり分けるべきだったな」


「ああ。でも仕方がないしな」


 シンがその部屋に改めて入ったのは3分程経った時の事だった。

 部屋の方から入っても良いという返事が来てシンは言葉通りに入った。その時2人の顔は赤かった。

 酷く気まずかった。

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