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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
一の代価から十の結果
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325.既知で未知

 

「知らない天井」


 パチクリと目を開くと目に映ったのは知らない白い天井だった。少年と少女は体こそ綺麗になっていたものの髪はボサボサで肌は日焼けしていた。しかもケガを負っていたから治療の跡が見受けられる。

 少年と少女の顔付きは痩せてどちらも同じ様に見える。

 ただ少年は健康的であればムードメーカーで楽しそうに笑うのが似合う人気者の印象がある。

 対して少女は健康的であれば真面目だがどことなく不思議ちゃんを感じさせ、普段は物静かだがしっかり物事を言える芯の強さがある印象だ。

 その天井を見た少女と少年はぼんやりとした眠気眼で辺りを見渡す。


「気が付いたん~?」


 見渡すと一人の少女と赤い箱を被ったスーツ姿が目に入った。少女は白衣を着ていた。独特のイントネーションの事を考えれば彼女は関西圏の人間である事を日本人ならばすぐに理解できる。


「あ・・・」


 自分達の最後の記憶は筏に乗って海に出て漂流していた。そこまでしか覚えておらずそれ以降の経緯は分からない。

 この状況の事を考えれば目に入っている少女と赤い箱の男が助けてくれたのだろうとすぐに理解できた。

 だからすぐにそう考えて体を起こしてすぐに感謝の言葉を述べようとする。


「そのままで。体は回復していませんので」


 だが先に赤い箱の男が制止に入る。そして彼の言葉は正論だった。実際起き上がろうとするが体が疲れているせいか思う様に体が動かない。


「は、はい・・・」


 素直に赤い箱の男の言葉に従ってそのままベッドに横になった少年。少女も少年と同時に体を起こそうとしていたがすぐに体を横になった。


「うちはリーチェリカ~。リカって呼んでぇな~」


 自分の胸に手を当てて軽く自己紹介するリーチェリカは無垢な少女のように笑っていた。


「私はグーグス・ダーダと申します。以後お見知りおきを」


 対して凛とした佇まいに丁寧な口調でそう自己紹介するグーグス。

 自己紹介する2人に少年少女は自分達もとあたふた気味に自己紹介を始めた。


「あ、俺は相沢(あいざわ) (とおる)。こっちは・・・」


 少年、相沢透は手で少女の方を指して


(きのした) (あおい)です」


 ご紹介にあずかりましたと言わんばかりに自己紹介をする少女、九葵はコクリと頷く様に頭を下げた。


「相沢はんに九はんな~。まだしんどいと思うけど、いくつか質問させてな~?」


「はい・・・」


 2人の状態の事を考えて変に長々とした質問はしない方向で話を進めた。リーチェリカはまず気になっていた事


「君らは学生なん~?」


 2人は年相応の身分であるかどうかだった。もし2人が年相応であり、その上シンの故郷である日本であれば尚更だ。


「はい、県立片岡高校の1年です」


「私もです。同級生です」


 日本だった。しかも「県立」や具体的な高校の名前が出てきた。


「ふ~ん、という事は15か16なんやな~?」


 やはり若かった。そう言わんばかりに言うリーチェリカ。


「はい・・・あ、俺達・・・!」


 途中で何か重要な何かを思い出した相沢は慌てて答えようとする。


「落ち着いて、言われた事だけに質問に答えてぇな~」


「は、はぁ・・・」


「まだ回復してへんさかいに、質問は少なめにして切り上げるつもりや~」


 だが先に相沢の身体の回復だ。だからリーチェリカは静止して自分からの質問だけを答える様に言った。

 しかしこれの判断は少しおかしい。この世界の事を考えれば自分達の身体の事よりも自分達がどこから来たとか、何があってこうした漂流者としているのか等々疑問があるはず。

 だがそれよりもと言わんばかりにそう答えるリーチェリカの態度に少し押され気味になる相沢は


「・・・分かりました」


 と承諾してしまった。


「おおきに~、質問は以上やで~」


 リーチェリカの言葉に2人は目を丸くした。


「え?あの・・・自分達がどこから来たとか・・・」


 そう言った事が気になっているのではと言わんばかりにそう尋ねる相沢の言葉にリーチェリカはニコニコ笑いながら


「そんなん後や、後~。ゆっくり休んでぇな~」


 と休養するように催促した。言葉節々に動く事は許さないという様な意味合いが取れる様な圧力も感じた。


「・・・ありがとうございます」


「お言葉に甘えて・・・」


 半ばその圧に圧倒されつつ、願ってもない面もあるのも事実。だから2人はリーチェリカの気遣いと言葉に甘える事にした。


「ほなな~」


「お大事になさってください」


 2人をゆっくりと休養できる為なのか、それとも自分達のあずかり知れぬところで何か事が進む様に動く為なのかリーチェリカとグーグスはその部屋を後にした。


「「・・・・・」」


 取り残された2人はお互い顔を見合い沈黙の間が生まれる。

 その間は僅か2秒程で破られる。先に破ったのは九だった。


「どう思う?」


 そう尋ねられた相沢は周りを見た。部屋の中は日本のどこかの病院のような設備。白くて清潔なベッドにベッドテーブルがある。ベッドの隣にはロッカーと引き出し棚とテレビが合わさった家具。それが一人の患者につきセットであった。お互いのプライベートを覗かれない様にカーテンもある。出入り口近くには洗面台の様な水道も完備されていた。

 この事から考えられるのは一つしかない。


「・・・病院みたいな施設にいさせてもらっているから、多分私達と「同じ」だと思う」


「だよな」


 同じ日本人。それもこうした設備を整えられる位の力のある人物。

 さっきのリーチェリカと言う人物がしたのか?

 色々な疑問の中で一番気になっている疑問。

 それを口にしたのは九だった。


「・・・味方だと思う?」


 彼らは自分達に味方に慣れる人物であるかどうか。また利用されているのかどうか。2人は訳アリの身だ。そうでなければ安全なはずの超大陸から海に出て漂流者になる真似等しないからだ。


「・・・何とも言えない、な。利用しようとしている可能性もあるし」


 正直な所同じ日本人であったとしても敵である可能性も十分にある。ここまでの対応が厭にやさしくて丁寧だ。何か裏があるのではと勘繰ってもおかしくない話だ。


「・・・・・」


 あの態度からして何かある様にも見えるが、判断材料が少なすぎて一概に決まらない。それよりも今自分達の体が疲れ切っており、まともに動かせないのは事実だ。


「取敢えず今は体力を回復させる事だけを考えよ」


「うん」


 だから今は本当に休養が必要だ。

 ここで一先ず休んで再び体をまともに動かせれる様にする事にした。

 そう考えた2人は頭を枕に深く鎮めようとした時だった。


 コンコン


「失礼いたします」


「はい」


「あ・・・」


 ノックと共に入って来たのはグーグスだった。一体何だろうと考えそうになった時、先に答えるグーグス。


「申し遅れました。あなた方が回復するまでの間、お世話する様に申し付けられました。私の事はグーグスとお呼びくださいませ」


「グーグス・・・?」


「はい」


 どうやら自分達の身の回りの世話はあの赤い箱の男がする様だった。

 2人がグーグスの姿を見た時思ったのが、何故赤い箱を被っているのか?、と言う疑問だった。


「あ、ありがとうございます」


 何故被っているのか、顔が見えない事に対する、分からない事が恐怖に若干陥っている2人。だから少しどもり気味に答える九。


「こちらはリンゴの磨り潰しの蜂蜜混ぜでございます。水分補給がしやすくする効果がございます」


 そんな2人に対してグーグスはそのまま部屋に張って来たと同時に手に持っていたジャムのようなものが入った瓶を2人の近くに置いた。


「ありがとうございます・・・」


「何から何まで・・・」


 人は見た目じゃないかな、見た目と違って良い人なのかな、と言う心境になってグーグスに対して少しだけ柔らかくなった。

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