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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
一の代価から十の結果
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324.向き合っていく

 20分経った時。

 シンとサクラはお互いの事をチラチラと見ながら施設内へ戻っていく。


「シン・・・すまなかったな・・・」


 普段のサクラの事を知っているシンはしおらしくするサクラに少し戸惑っていた。


「いや気にするな」


 2人に共通していたのは耳が赤かった事だ。


「・・・・・」


「・・・・・」


 そして気まずい空気の中で2人は黙ったままでいた。

 そんな空気の中で


「シン」


 先に口を開いたのはサクラだった。彼女の口から自分の名前がが飛んできた事に反応してサクラの方を視線をやる。


「・・・・・」


 地面に視線をやり、俯き気味にいるサクラの顔は紅潮していた。


「どうした?」


 そう尋ねるシンは顔こそ赤くなかったものの、少しだが耳は赤かった。


「その・・・色々とすまなかったな・・・」


 シュンとしているサクラの言葉には申し訳なさを感じさせる。実際日本人であるどころかそれ以上の謎を隠しているシンの正体を知ろうと土足で踏み込むような真似に近い形で組み手を望んだ。


「いや、俺も怖がらせる様な事をしてしまってゴメン」


 だが、かく言うシンも腹心を持ってサクラからの組み手に乗ったのだ。しかもサクラが変に正体知って大きな影響だけでなくサクラ自身の事を守る為にBBPを見せて怖がらせて距離を置こうとした。


「あ、いや、そうではなく・・・その・・・向き合う為とは言え・・・」


 だが、サクラはそれを踏み越えてシンに抱きついた。

 あの時のサクラの表情の事を考えれば自分の事でいっぱいいっぱいであったはずなのに、サクラはシンが抱えている何かとの向き合う事を選んだのだ。


「・・・ああ、いや気にしないでくれ。俺も頭が冷えた」


 シンは少し慌て気味にそう答える。


「そ、そうか・・・?ならいいのだが・・・」


 少し慌て気味に答えるシンの言葉に素直に受け止めるサクラ。シンは慌てていたものの、サクラの口から放った単語


(向き合うか・・・)


 引っ掛かりを覚えた。

 と言うよりもこれからどうするべきなのかを考えるキーワードとして感じたのだ。


(俺もあの時、向き合う様に動かなければならなかったんだな・・・)


 電車の車窓の様に、映写機のフィルムの様に過去の事を思い出していた。その記憶はブレンドウォーズの、それも最悪のED(エンディング)、「 HAっぴィエNど」の直前の事を思い出していた。

 シンは人々を助ける為に動いていた。だが、非情な判断、圧し掛かる重圧、常に戦い続ける環境、そして大事な人々を助けられなかった事によってあの黒い人型の巨大な怪物が生まれた。

 本来ならば向き合わなければならない事柄に向き合っていなかった。自分に対しても言える事で他人にも言える事だった。

 それが出来なかったからあの怪物が生まれた。


(サクラは俺の事について向き合う事を選んだ・・・)


 あの怪物の片鱗、BBP。

 他者を寄せ付けない圧倒的な力を持っている。それ故に勘の鋭いものならばこの力に恐怖する。

 サクラもその力を見て恐怖した。

 だがそれでも。

 それでもだ。

 彼女はシンと向き合って、対等にいる事を選んだ。

 あんな目に、あの恐怖を受けたというのに。


(自分の事についても向き合わなければならないな・・・)


 シンはサクラのあの姿勢に目を細めた。同時に自分の記憶から出てきたのは自分の家族。シンではなく真の家族だった。

 だからなのか


「家族」


「・・・・・」


 思わずこの単語を呟いてしまった。

 そしてその呟きをサクラは聞き逃さなかった。


(そう言えば、この世界来る時、さよならも言えなかったんだよな・・・)


 ブレンドウォーズのプレイヤーと融合してこの世界にやって来た。夢だからとそう考えてそう望んでここに来るまでに家族に挨拶はおろか、一言も言わずにこの世界に来たのだ。


(父さん、母さん、どうしてんかな・・・)


 これが心残りかと感覚でそう感じていたシンは更に目を細める。

 その時、通信が入った。


「ボス、そのまま聞いてくれ」


「・・・!」


 突然のアカツキの通信にシンの目元は一気に鋭くなった。


「11時の方角にて、ここから7.68km。漂流者2名を発見した」


(漂流者・・・?)


 超大陸が中心で諸島の様な島は余りないこの世界では船を使っての交通手段はそれ程多くない。だから漂流者が現れるのは少し意外だった。

 シンは漁師なのかと考えた時、それを否定するかのようにアカツキからの連絡がきた。


「問題なのはここからだ。2名とも黒髪だ」


「は?」


 アカツキの言葉に思わずそう答えてしまった。

 その声に


「・・・ん?」


 サクラは聞き逃さなかった。


「あ、いや、何でもない」


 首を傾げてこちらを見ていたサクラにシンは慌てて否定した。


「・・・そうか」


 明らかに慌てている様子にサクラは少し怪しんだものの何かシンとしての事情があると考えてそう答えてそれ以上追及はしなかった。

 お陰でアカツキの通信に集中できた。


「黒髪で1名は男、もう1名は女。歳は10~20代だ」


 その報告にシンは鋭い目は細める。


(随分若いな・・・)


 日本人が若い人間である可能性。自分と同じ境遇なのだが、漂流と言うのは穏やかではない。そう感じたシンはアカツキの言葉に耳を傾ける。


「これからフリューとグーグスによる救出活動に入る」


(入院は必要か・・・)


 漂流であれば、栄養失調や脱水症状等がある可能性が高い。だから入院する必要がある。


「報告は以上だ。一方的な通信で悪ぃな。通信終了」


「・・・ふん」


 アカツキの報告が一方的で終わって鼻で笑い形で返事をするシン。

 その様子にサクラは


「どうかしたのか?」


 流石に気になって訊ねた。


「いや、何でもない」


 流石に冷静に答えようと考えたシンは静かにそう答えた。





 キィィィン…


 海面との高さ約20m程の所、フリューがホバリングしていた。その場所はジンセキから7時の方角、79.46kmにいた。

 フリューの機内には漂流者2名が担架に乗せられていた。

 乗せられていた2人はグッタリしていた。髪は軋んでボサボサ、何日も清潔な環境出なかったせいか体中が黒ずみ、垢による汚れが目立っていた。服装はこの世界の物で地味な装いではあるがしっかりした生地だった。だがそれでも破けた個所の方が多くあり、見える肢と脛は酷く痩せていた。この事から栄養失調である事が窺える。

 少年は破けた服装のせいで半袖短パンの様に見えるし、少女の方はシャツがはだけて見える下着がスポーツブラジャーである事が分かる位までになっていた。

 唇が渇き切って皺が酷くあり、目元にはクマがあり、身体には傷跡だらけだった。明らかに憔悴しきっていた。

 そんな状態の少年少女は丸太の筏の上に横たわっていた。


「その子らなん~?」


 フリューにはリーチェリカがいた。漂流者の存在に気が付いたジンセキのスタッフ達は即座に行動に移した。シンに報告と同時にスタッフ全員に通達されて真っ先に動いてフリューに乗ったのがリーチェリカだった。

 無論その狙いはその漂流者だった。


「はい。大分衰弱しておられます」


 そう答えるのはグーグスだった。頭部をゆっくりと回転しながらそう答えるグーグスは担架から出ている腕に点滴を打てるようにアルコール消毒を施していた。

 そんな様子のグーグスにリーチェリカは漂流した少年少女を見た。


「栄養失調、脱水症状がみられるな~」


 目を細めて更にジロジロと見る。


「感染症はあらへんな~」


 顔色や呼吸の様子。

 そうした事から少年少女は感染症には罹っていなかったと判断した。


「骨格、肌、皮膚の状態、髪質・・・そこから見て考えられるのは・・・」


 更に少年少女の様子を見て探る。骨格や肌のハリやツヤ、髪質等々の事柄でこの少年少女は


「この子ら~10代の日本人やな~」


「日本人ですか?」


 日本人と判断した。

 肌と髪質は年齢と健康状態、骨格は性別と年齢を判断する為に観察したのだ。


「そや~。声掛けてみてん~?」


 リーチェリカが日本語でそう答えると


「日本・・・帰れ、たの・・・?」


「・・・!」


 漂流した少女は日本語でそう答えた。どうやらリーチェリカの日本語に反応した様だ。


「!もう大丈夫です!もう少しの辛抱です!」


 気が付いたグーグスはすかさず日本語で声掛けをした。

 グーグスが声を掛けて点滴を打っている様子を見ていたリーチェリカはジッとその様子を見ていた。


(この子らぁが学生という事も気になるけど・・・)


 少年少女が乗っていた筏の事を思い出した。


(筏の丸太は薬品塗られとったな~。態々切って作ったんやのうて、元々作られたものから・・・例えば山小屋の一部から切り取ったような物やったな~)


 リーチェリカは漂流した少年少女の腕や足にある傷跡を改めて見た。


(明らかに漂流で出来たとは思えない傷跡があるのも気になるな~)


 漂流した少年少女達。その2人は妙な傷跡がある。この事から何かあると考えたリーチェリカはジンセキのスタッフとして、シンの立場としてどう向き合っていくのかがこの先の未来が決まるとすぐに判断した。

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