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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
一の代価から十の結果
324/396

322.本当に出来る事

 

「致命的な初撃を受ける・・・な」


 カナラはシンの致命的な初撃が飛んできたとしても対処できる。だが、自分以外の者がそれを対処できるかと問われれば至難の業どころの話ではない。「絶対」と言う単語が付く程に即死の道に向かう事になる。


「到底不可能か・・・」


(拙者は兎も角、ナオが対処できるかどうかと問われれば・・・)


 無理な話。

 心の中でそう呟きそうになるのを止めるカナラ。正直認めたくなかった。だが、どう考えても対処は出来ない。

 少なくとも必ず傷を負う事になる。





「・・・それなら、ワタシの魔法がある前提で動いても良いという事か?」


 シンの問いにサクラは不敵な笑みを浮かべつつそう尋ねる。だが内心は穏やかではなかった。


「そのつもりでいたんだが?」


 変わらない普段の声が不気味な唸り声の様に聞こえて仕方がなかった。虚穴の奥から何かがいる。

 分からない物に対する恐れが沸々を湧き上って来る。

 だがここで何かする必要がある。しなければ何も進展しない。そう感じたサクラは


「なら・・・」


 手に白い球体が出来て


「これはっ!」


 そのまま手を突き出した。その瞬間サクラの手には白い球体のようなものが出来上がっていた。


「!」


 パシュッ!


 飛んできたのは


 サッ


(糸のボール!?)


 そう、糸のボール。大きさはピンポン玉位でプロの野球選手の投球位の速さでシンの顔面目掛けて飛んできた。


 パシュッ!


 サッ


 当然だがシンはこの程度の速さではあまりにも遅すぎる。


 パシュッ!


 サッ


 パシュッ!


 サッ


 一発撃つ毎にシンは即座に避けていく。悠々と避けるシンを見ていたサクラは落ち着いていた。


(それで避けたつもり?甘く見ない事ね)


 サクラの狙いは糸のボールをシンに当てる事では無かった。避けたボールはシンの四方の位置に落ちていた。そのボールが


 パッ…!


 シン目掛けて生きているかのように飛んで網という形で開いた・・・!

 真の目的はシンを捕える事だった。


「っ・・・!」


 だがシンは


「・・っと!」


 飛んでくる網を下に潜り込む様に掻い潜って避けた。


(それを避けるか・・・!)


 サクラにとっては確実に相手に甚大な被害を受ける事が出来る初撃の技だった。網状になった糸のボールはかなりの速さだ。不意打ちを狙っている上に、シンとの距離はかなり近いから体感速度自体がかなり早い様に感じる。ほとんどの場合は避ける事が出来ない。何故なら目で追えても体そのものが追い付いていなければいけないからだ。だがそれを瞬時に判断して避けた。この間僅か1秒の事だ。

 シンの事を侮っていたつもりは無いが、掠りもしない事に驚きを隠せずにいたサクラは僅か1秒未満の間唖然としていた。


「次は?」


 作業を終えて次の作業を探すかのように言うシン。まるでこれ自体が当たり前の事であるかのように。


「・・・一応、褒めておく。お見事ね」


 内心穏やかではないサクラは静かにそう評価する。その言葉にシンは


「どうも」


 素気ない返事であるが素直に受け取る。

 その瞬間だった。


 ギュリィッ!


「っ!」


 サクラの手に白い縄のような物を手に取っていて振り被っていた。


 ヒュンッ!


 その事に気が付いたシンは少し動く程度に避けた。


(今度は糸のメイスか!)


 縄の先にはバレーボールサイズの糸のボールが取り付けられていた。形状からして鎖付きのモーニングスターだった。振り被っていたから、そのままクルリと回転して即座に手元に糸のボールを手繰って


「ふっ!」


 ヒュオッ!


 掛け声と共に糸のボールを投げ飛ばした。


(また顔面・・・!)


 またかと言わんばかりに目を細めるシン。


 バッ!


 顔面狙いに疑問を浮かぶか浮かばないかの時、その糸のボールも開いて網が展開した。


「網ッ!?」


 また網と言わんばかりに短く小さく叫ぶシンはサクラの狙いを探っていた。


(俺を捕えるつもりか!?)


 そう考えた時


 ピンッ!


(脚っ!)


 足元に細くて長い圧力を感じた。それを感じたシンの右手が


 ピャゥッ!


 一瞬消えた。空気を切る音が聞こえた。

 そしてまた右手が見える。そこに存在している。

 同時に展開した網はバラバラに斬られていた。


「・・・!」


 目を大きくして見張る様にしてその光景を見ていたサクラはの表情は驚きに満ちていた。


(糸を使うサクラの事だ。これ以上下がると何かトラップが発動する可能性がある!)


 だから切った。

 BBPの出し惜しみなくそのまま網を斬った。

 実の所シンのこの判断は失敗だった。何故なら


「ふふ、やはりだったか!」


 驚きに満ちていたはずのサクラの顔が満面の笑みになっていたからだ。


「何の話だ?」


 この様子からシンはサクラが何かしたと判断した。


「一瞬だが、手で斬っただろ?」


 サクラの言葉にシンは目を細めた。


「・・・そうだな」


 シンはこれが狙いか、とすぐ理解した。

 本当の狙いはシンをどうにかして勝つ事ではなくシンが誰も見た事も無い能力を持っているという確証を得る為にサクラが動いていたのだ。

 糸の、網のボールによる攻撃やシンが後退した時に足に引っ掛かりを覚えたあの時も何のトラップも無く、ただ単にシンがBBPを使っている様子を自分の目で確かめたかっただけだったのだ。


「その時、指そのもの自体が鋭い刃になっていたな」


 その言葉を聞いた時、シンは目を細めた。

 網を斬った時、常人の目では決して追う事はおろか、微かですらも見せない位の速さで網を斬ったのだ。だが、サクラはあの一瞬で微かとは言え見えたのだ。何故ならサクラの口から「指が鋭い刃になっていた」と言う言葉が出ていたくらいだからだ。


「・・・引き千切ったとは?」


「思わない。私の糸だぞ?」


「・・・・・」


 サクラの糸の強度は縛られた時にいやと言う位に理解していた。常人の力では束はおろか1本の細い糸ですら引き千切る事が出来ない。細さは刺繍糸位だ。それが常人の力では引き千切る事が出来ない位の強度だ。

 となると鋭い刃物ようなものが必要になる。

 サクラの目に映ったシンが繰り出したBBPはてで一気に網を振り払う様に瞬時に薙ぎ払ったのだ。しかもその腕が鞭の様に撓り、伸びていたのだ。

 その光景を見てシンの腕はただの腕ではないという事が確実に分かった。


「まさかと思うが、その黒い部分全てが刃に変わってしまうのか?」


「・・・・・」


 当然と言うべきか、シンの腕は黒い。という事はその黒い部分は形を変える事が出来るのだ。という事は腕だけでなく足もだ。黒い部分であれば形を変える事が出来ると考えた。

 的を射た言葉にシンは目を細めていた。


「変に手加減は必要は無い。出し惜しみするな」


 今の今までその黒い部分を隠してきた。という事は本当の実力を出さずにここまで来たという事だ。

 本当の実力。本当に出来る事。

 それが発揮されないままいたシンにサクラは心に何か沸々と湧き上るものを感じつつそう声に出した。


「・・・・・」


 シンは目を閉じた。

 正直な話今まで隠してきたBBP。だがここまでシンの事情についてサクラは知り過ぎている。変に誤魔化してももはや意味はない。

 やむを得ない。

 そう判断したシンは


 キンッ


 右手を刀に瞬時に変えた。


「!」


 一瞬にしてシンの右手に刀が持っている様子を見たサクラは思わず目を大きく開いた。いつその刀を持ったのかが分からない位にその刀が出現して、シンは握っていたのだ。

 右手の変形できる事を考えていたサクラは予想外の出来事だった。サクラの予想ではシンの腕が瞬間的に自分の手をベースとなった鋭い刃物で登場するモノばかりと考えていたのだ。

 だが実際はいつの間にその黒い刀を持っていたのか分からない状況に立たされていた。

 そんな疑問符ばかり浮かんでいるサクラは黒い刀という点からしてシンが持っているあの刀は実はシンの身体の一部ではないか。

 そう思っていた時の事だった。


「いくぞ」


 シンが開いた口から出た言葉は酷く冷たい物だった。声のトーンからして殺気こそ出してはいない者の確実に殺すつもりでいる様に感じさせる声色だった。

 そう感じたサクラの額や背中では冷たい汗しか出ていなかった。


「・・・!」


 その言葉を聞いたサクラはすぐさまに身構えた。

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