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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
一の代価から十の結果
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321.読み合い

 コクリと頷くリーチェリカの視線の先にはピンクの患者服を着たサクラがベッドの上に座っていた。


「ほとんどが安定しとうさかい、激しい運動も問題あらへんわ~」


 ニッコリと笑いながらそう答えるリーチェリカの言葉をずっと待っていた心境で聞いていたサクラはニヤリと笑った。


「じゃあ、戻っても問題ないのだな?」


「そや~。せやけど~体力は落ちとぉさかいに、休む事に専念してな~」


「わかった」


 期待していた事とは少し違っていたが然程問題ない事柄だ。正直体力は落ちているのはリーチェリカとの手合わせで実感していた。

 だからこれから戻していけば問題ない話だ。

 そんな2人の会話にシンは気になっていた事を口にする。


「出発はいつ頃が良いと思っているんだ?」


 その問いを聞いたリーチェリカはサクラの方を改めて見て今のバイタリティの状態を見てすぐに


「せやな~3日位が妥当ちゃうかな~?」


 と答える。

 リーチェリカの言葉にサクラはコクリと頷いて、納得した。サクラの体力低下の回復の事を考えれば3日程あれば問題ないのだろう、と考えた。シンは元より、リーチェリカの推測や分析は非常に信頼できるから疑いの念は微塵もなかった。


「3日か・・・わかった。それ位の時間があれば体力もそれなりに回復できる。後は体を適度に動かすのがいいのだが・・・シン」


「・・・何だ?」


 サクラの言葉にいやな予感を感じたシンは渋々に反応した。


「組み手を願いたい」


「・・・・・」


 ああ、やっぱり。

 そう言わんばかりの無言にサクラはシンの態度に眉間に皺を寄せた。


「何だ?自身が無いのか?以前ワタシとの事が引き摺っているのか?」


「・・・まぁ軽くなら」


 軽く挑発してくるサクラ。シンは正直応じる気はなかったが、サクラと手合わせする事で何か得られるものがあると考えたシンはそう答えた。


「決まりね」


 サクラはニヤリと笑ってベッドから降りた。





 リーチェリカとの組み手を行った場所まで来た2人はお互い距離を取って対面で向き合う構図で立っていた。


「さて始めよう」


 サクラはそう言って合気道特有の構え方に入った。


「ああ・・・」


 シンは両手をダランとぶら下げて脱力していつでも仕掛けられるようにしていた。

 その様子にサクラは臨戦するシンに不敵な笑みを浮かべた。


「いつでもいいが?」


「・・・そうだな、始めよう」


 シンがそう返答して互いに向き合った。


「・・・・・」


「・・・・・」


 互いが互いにどう動くのかと言う腹の探り合いが始まっていた。この時、冷汗を掻いていたのはサクラだった。


(正直な所・・・あのリカと言う娘と戦った時でもそうだったが、読めるには読める。だからある程度は対処できる)


 リーチェリカとの組み手の時はリーチェリカの構えが単純で酷く読みやすい物だったからだ。だからリーチェリカは搦め手でガスなどを使って対処していたのだ。

 だが今回の、いや今回も違っていた。


(でも・・・)


 シンはダランとしている両手の方を目をやるサクラ。


シン(こいつ)と対峙する時は読もうにも読めない。暗い・・・暗い虚穴の様なものを感じてどうしようもない・・・)


 シンと対峙している時、動きを読むのが酷く難しい、と言うより、分からないといった方が良いかもしれない。

 実際、シンと対峙していると見えてくるビジョンがどうしてもこちら側が不利になる事の方が多いのだ。


(だから、仕掛けた。糸を使って、父から教えてもらった合気道・・・使えるもの全て使うつもりで・・・!)


 だから初めてシンを一目見た時、本気で動く必要があった。魔法も使ったし、今自分が持っている武術、合気道の知る限り全てを出すつもりで臨んだのだ。

 だが結果としてはシンが何かしら事柄と勝ちを譲歩する形でその場を収めた。サクラはこの時薄々気が付いていた。

 故にここで決着をつけるつもりで臨んだ。


「・・・・・」


 対して対峙しているシンの心境は少し違っていた。


(正直、サクラと組手をするのはありがたい。この世界での対人戦、特に魔法を使う相手との戦闘はデータとしてはかなり少ない)


 逸脱の民程脅威でない生物でもかなり脅威になる。だからそれに対処する戦闘手段やレベルが現代社会とは大きく違っている。下手をすれば銃器を主に扱っている現代の手段では通用しない可能性も十分にある。その事を考えれば数を多く見る必要になる。

 今目の前にいるのはサクラだ。この世界の代表者と言っても過言ではない。

 彼女との組み手は願ってもみない機会だった。


(どれほどのレベルで戦って来るのかどうかも気になる)


 シンの言うレベルと言うのは、この世界では対人戦だけではとても生き残れるような世界ではない。怪物対人間と言う構図で戦闘になる事も多い。だから対人戦が主となる現代戦だけでは通用しない。怪物と戦う事も多いこの世界の人間のレベルがどれほどのものかを知る必要がある。


(だが最も相手したかったのは・・・)





「シン、か・・・」


 そう呟いていたのは自室で正座してシンの事を思い出していたカナラだった。

 初めて手合わせした時、あの場で剣を交える必要は無かった。

 と言うよりももう既に交えていたのだ。

 剣を持つ者、身を武に置く者としてはどう動いてどう切り込みに行くのかくらいイメージする。その時、当然ながら相手もどう動くのかも予測する必要がある。仕掛ける本人の意思を先んじて、事前に読み取る能力、「予知能力」と言っても決して過言ではない。

 しかも、少なくとも武を身に置く者の大半がこれが出来、立ち合いであればこれがお互いにしている。単語として使うならば「読み合い」や「腹の探り合い」と言える事柄をオオキミでは「嗜み」として当然だった。

 そしてカナラはこうした能力がどの者よりも遥かに凌いでいた。


(あれは何だ・・・?)


 シンとの立ち合いの時、面と向かって感じたのは虚穴の前にシンが仁王立ちでいた。しかもシンの腕と脚が酷く暗い。

 と言うよりも黒いのかもしれない。

 シンの四肢が闇に同化して全く見えない。こちらを覗き込む目は深い深い井戸の底に写った己の瞳の様に何も見えない暗さだった。

 読もうにも読めない。

 突いても、切っても、目の前が暗くて分からなかった。更に言えば視覚だけでなく嗅覚、聴覚、触覚すらも分からない様な感じがヒシヒシと受け取ったのだ。


(あれだけの読み合いで・・・)


 だから急遽、「読み合い」を取り止めて、すぐに武具の混じり合いを選んだのだ。

 実の所、今までシンに対してこうして立ち合いを望んだのはこうした理由で動いた事の方が多い。それ以外では単純に剣と剣で混じり合う事に楽しんでいるか、こうした能力がないかのどちらかだ。

 だが交えても分からに事の方が多くあった。シン自身は武器を使って戦っているが、()()()()戦っているか様の様に見えた。どのような理由でそうしているのかは分からないが、酷く手加減していた。その上、シンとの戦闘のビジョンでどう動いても必ず起きる事があった。


(何も分からない上にこちらがどうしかける事になったとしても、必ずと言って良い程に・・・)





(初撃を受けてしまう)


 それは必ずシンからの初撃を受けてしまう事だった。カナラもサクラもシンとの組み手・・・どころか実戦でもどういう動きであっても必ずと言ってもいい程にシンからの初撃を必ず受けてしまう。


(ワタシがどう動いていたとしても必ずと言って良い程に初撃を受けてしまう・・・。それも致命傷か即死の初撃が・・・!)


 それだけでなく少なくとも大きなダメージを被る事になる。下手をすればその初撃自体が即死のレベルで来るのだ。

 サクラとカナラが見えたのはシンが何をどうしたのかは分からないのだが、必ずと言って良い程に自分が落命する、自分に初撃が当たるビジョンしか見えなかった。

 何をしたのか分からない程に早い技なのか、それとも死角から繰り出す技なのかは分からない。ただ一つ言えるのは必ず初撃を受けてしまう未来しか見えなかった。


(どう動いても・・・死は免れないな・・・)


 どう動いても自分が敗北するしかないイメージが見えて仕方がないサクラの額には冷汗の数が増えていく。そんな様子のサクラにシンは


「・・・どうした?仕掛けてこないのか?」


 と普段の会話の様に訊ねる。

 だがサクラの耳から入るその声は虚穴から響く不気味で唸り声の様な音の様にしか聞こえなかった。

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