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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
一の代価から十の結果
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320.確かめる

 当日でも仕事があるギルドの外は晴れていた。

 そのお陰で仄暗い場所が多いはずの資料室は見通しが良くなっていた。


「現場はそのままです」


 今回の場合は事故ではなく事件で、しかも未解決だ。それ故に現場はそのままにしている。だからグランツが一体何を調べようとしているのかがある程度は分かる様になっていた。


「案内ありがとう」


「何かあれば申し付けて下さい」


「うん」


 マリーと案内した職員とはその場で別れ、部屋のドアを閉めた。


「・・・・・」


 ジッと資料室の中を見渡すマリーの目は猛禽類の様に鋭かった。


(地図を見ていたのね・・・)


 最初に目にしたのはグランツが引き出した大陸の地図だった。


「・・・・・」


 その次に何かあるのではないかと考えて別の箇所を探るように見渡すマリーの目に入ったのは


(こっちは争った跡・・・)


 グランツが若い男と争った形跡を見る。


(そして・・・)


 最後に見たのは


(窓から逃げた)


 割れた窓ガラスだった。割れた窓ガラスの近くに小さな傷がある事に気が付いたマリーは


「・・・・・」


 無言でこの部屋で起きた事実についてをシミュレーションをする。そこから分かったのはこの部屋で一体どういう敵と戦ったのかが分かった。


(敵は投げナイフのような物を使っている。でも態々引き抜いている・・・)


 窓ガラスに近くにある小さな傷を見たマリーは敵の武器が投げナイフの類である事を推測した。同時に


「何の為に?」


 投げナイフを引き抜く理由が分からなかった。

 飽く迄も理解できていたのはグランツは何者かと争ってその場から脱出しようと動くも投げナイフで逃がさない様に投げたのだ。

 しかも態々投げたナイフを引き抜いて。


(分からない事だらけね・・・)


 まさか若い男が投げナイフに鎖が付いているとは思ってもみなかった。それ故に投げナイフを投げて態々引き抜いている、と固定概念の様に考えが出来てしまい、視野が狭くなっていた。

 だからこの件については疑問点がでてしまってそこから抜け出せなくなっていた。


(一番分からない事は・・・)


 同時に他にもある疑問で思った事。

 それは


「何故価値ある地図を盗まなかったのかしら・・・?」





「すまんね~、態々オオキミの地図を出させてもらって~」


 人を喰ったようにそう言って丸めていた地図を机の上に広げるサトリ。


「いや何、構わぬよ。持ち出しさえせんであれば」


 首を横に振って良い良いと言わんばかりに言うカナラ。サトリ、アンリ、アルバ、ステラ、カナラ、マエナガがいる場所はコウジョウの施設の資料館とされている施設の中にある部屋にいた。

 この場いる理由はサクラとシンが行くえ不明になった明確な場所を確認する為に地図を見せて欲しいとアンリがカナラに頼んだのだ。

 地図はこの世界にとっては重大な地形情報源だ。だから軍事面では大きな存在に当たる代物だ。それ故においそれと地図を赤の他人はおろか、国民ですら見せる事が出来ない。中々下りない許可を受ける必要があるのだ。

 今回の場合は事が事だから流石に必要と判断されて二つ返事で許可が下りた。だからこうして他国の人間に地図の内容を見せる事になった。


「あ~・・・ここだったか?」


「ここで見失った」


 指を指して訊ねるサトリの言葉にカナラは頷く。指した地点を見たアンリは


「そう・・・」


 と答えて無言の間が生まれる。


「・・・・・」


 明らかに差した地点を見て考え込んでいる。その場にいる全員がそう考えた時


「ここは?」


 とアンリが指した地点から少し離れた場所を指さした。カナラは「んん?」と言いながらその場所を見た。


「そこは何も無いと伺っている」


 そう答えるカナラの言葉にアンリは追及する様に訊ねた。


「具体的には?」


「具体的・・・?」


「例えば、木々も何もない、岩がゴロゴロしているとか」


「・・・確かに木々が無いな」


「他には?」


「岩とかゴロゴロしていない。あるのは野原だけだ」


「ふ~ん・・・」


 ん~・・・と唸りつつも答えるカナラに絞り出す様に訊ねてくるアンリ。それらしい答えを聞いた時、アンリは納得したように声を漏らして地図の場所を確認しつつ無言で見ていた。


「・・・・・」


 視線を別の方へと向けた時、アンリの目が少し大きくなった。


「如何した?アンリ殿」


 その様子に気が付いたマエナガはそう尋ねる。


「ここ」


「?」


「ここで見つかるよ」


 アンリが指差す場所、それは少し開けた場所についてを説明していた場所の所から僅かに離れた所を指さしていた。


「ここでお嬢様とシン様が!?」


 自分達の主が見つかると聞いたアルバ達は豹変するかのようにアンリの方へ前のめりに訊ねる。


「うん」


 冷静に頷くアンリ。

 その答えを聞いたステラはすぐさまに行動に移った。


「ではすぐにでも・・・」


「ううん、あと3日経ってから行こう」


「は?」


 まさかの時間指定が出てくるとは思わなかったステラは眉間に皺を寄せつつ、目を丸くしてそう尋ねた。


「3日経ってから。でないとサクラちゃん達がまともに外に出られないと思うから」


「・・・!それはケガをなさっているという事でございますか!?」


 瞬時に眉間に皺を寄せてそう尋ねるアルバ。


「うん」


 返事を聞いた時、アルバとステラは目を大きく見開いた。


「でしたら・・・!」


「でも、それはこれから行く私達も危険に晒されるという事」


「・・・!」


「その事を考えればあと3日かかるから」


 すぐにでも行きたいから、行動に移すべしと進言しようとするが、アンリの説明に納得せざるを得なかった。何故ならそこまでの道中は勿論、ナマハゲ達の現状の事についてを考えれば相当危険な事だ。だから今すぐに行動に移せるような話では無かった。

 その上、サクラが負傷しているというのであれば尚の事、すぐに向かっても、サクラ自身が動けなかったら運ぶ人数も考える必要がある。しかも負傷者を運んで守りながら行動するとなれば狙う怪物であれば格好のエサになってしまう。

 後3日もあればサクラが回復すると言うのであれば、サクラ自身が歩いて行動が出来るという事だ。という事は運ぶ人間と数は必要なくなる。

 だから今すぐ行動に移す必要がないのだ。

 そう説明を簡潔ながらも説得力のある言葉にほぼ全員が理解できた。


「・・・・・」


 サトリは黙ってアンリの方をジッと聞いていた時、ステラは口をキュッとしまって眉間に深い皺を寄せていた。

 納得は出来るが歯痒い。だから心が納得できない。そんな様子のステラにサトリは


「ステラ殿、アンリの言う通りにすればその通りになる」


 と普段の人を喰ったような物言いではなく穏やかで諭す様な声で説得した。その言葉を聞いたステラは


「・・・承知いたしました。それから取り乱してしまい申し訳ありませんでした」


 とその場にいる全員に深々と頭を下げた。


「大丈夫。気になるよね」


 深々と下げたステラの頭をアンリは撫でながらそう言った。


「・・・はい」


 撫でる手は優しく温もりがあった。それだけで納得が出来るという心境だけでなく、安心感が生まれる。その様子を見ていたマエナガは仕切り直して今後の予定を簡単に言った。


「では3日後で我々が向かうという事で・・・」


 全員が頷きそうになった時、アンリが先に口を挟んだ。


「ああ、それからカナラ殿は向かわないでい欲しい」


「それは何故?」


 アンリの言葉にカナラは首を傾げる。

 アンリはカナラが提案に目を細めて


「理由は貴方が一番よく知っている」


 と心の芯を刺すように言い切った。


「・・・!」


「自分の事に専念しても大丈夫なくらいに私達は弱くはない」


 核を突かれた様な気持ちになるカナラ。そして、それは的を得ていた。正直な話、この件に関わるよりも自分の事について専念したいのだ。だがこの件について誰にも言っていない。だからアンリがこの事について行った事は酷く驚いた。


「・・・忝い。では任せよう」


「うん」


 小さな溜息交じりにアンリの言葉に頷いたカナラはこの件から一時離脱する事になった。


「では3日後」


 マエナガが再度改めてそう言って全員に確認を取った。


「「はい」」


「承知」


「はいはーい」


「うむ」


 全員が頭を縦に振って一時解散した。





「アンリ」


「どうかした?」


 帰る道中、ステラとアルバが前と後ろ交互に立って泊っている部屋まで戻っているとサトリから声が掛かったアンリ。お互いまっすぐ前を向きながら小さな声からして可能なら誰にも聞かれて欲しくない話なのだろう。


「ケガ云々ってのは正直嘘が混じっているだろ?」


 サトリの言葉に目元がピクリと動かし細めるアンリは


「勘のいい」


 と僅かな悪態が窺える声で呟く。


「あの嘘ってどういう事だ?」


「当日に分かる」


 もったいぶるなよ、と言わんばかりに溜息をつくサトリは別の言い方で訊ねる。


「何か気になる事があるのか?」


「うん。シンの事について、ね」


「そっか」


 腑に落ちた返事。というよりも、ああ、やはりか、と言わんばかりの心境だった。確かにシンには誰も知らない顔がある様に見える。いや、正確には浮世離れしている様な異様な感覚がある。

 じっくりと観察しなくとも勘のいい者であればそう感じてしまう。

 それがシンに漂っていた。

 それがシン個人によるものかそれとも別なのか。


「楽しみにしてね」


 そう言うアンリはいつの間にか不敵な笑みを浮かべていた。そしてアンリ自身が気になっている事柄はサトリやカナラが感じているそれとは違い、自分自身が考えている事柄が自分の目で答え合わせの様に見てみたい、という欲求からくるものだった。

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