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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
一の代価から十の結果
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316.気づき

 

「う・・・うむ」


 目頭を押さえて眉間に皺を寄せているグランツは唸っていた。


「どうぞ」


 疲れている時に差し出されてくる紅茶。


「うむ、すまんのぅ」


 手に取った紅茶の味は酷く体に沁みる。そんな様子のグランツにマリーは少し心配そうに声を掛けた。


「お疲れが抜けていない様に見えますが?」


 マリーの心配の言葉にグランツは溜息交じりに答える。


「ここの所、周辺の小国が戦や疲弊沙汰が多いのじゃ。それでここギルドとしても国からの人員要請や確保の依頼が多いのじゃ」


 納得と呆れ混じりの「ああ」と声を漏らすマリーはふとふと気が付いた。


「そういえば、今回の城壁都市は逆でしたよね?」


「うむ、此度の依頼は人員の要請だったのじゃが、城壁都市の壊滅の原因が「逸脱の民」である事だったからのぅ。変に動けば「逸脱の民」に目を付けられてしまう」


「安全の為ですか・・・」


「歯痒い話じゃがの・・・」


 手紙の内容をザックリと言うグランツの言葉にはもどかしさを感じさせる。ギルドは元々、弱き民の為に組織された面もある。その為、城壁都市の住民らが途方に暮れている事位容易に想像できる。

 だが、逸脱の民は敵となった人が集結している地域に対して非常に攻撃的だ。そんな所へむざむざ行かせるのは冒険者達を守るギルド側としては認めるわけにはいかない。


「今回の城壁都市の壊滅の原因となったのは一体何だったんですか?」


「・・・その城壁都市の領主の息子が大馬鹿者だったそうだ」


 マリーの問いにグランツは呆れてそう答える。逸脱の民である事はその地に住んでいる者なら周知しているはず。しかも上の立つ人間であれば尚更そんな事知っていて当然の話だ。それなのに手を出してしまったのだ。


「自分達の威光が故に逸脱の民に手を出してしまったのですね・・・」


「うむ・・・」


 呆れてそう言うマリーの言葉にグランツは少し唸る。


「けれども、いくら領主の息子が大馬鹿者だったとは言え、誰も止めなかったのですか?」


「ううむ・・・」


 少し考え込む様に唸るグランツ。その様子にマリーは更に訊ねる。


「冒険者ギルドはあるはずですよね?」


「うむ、あるのじゃが・・・」


「どうかされましたか?」


 歯切れの悪い返答に首を傾げるマリー。


「その冒険者ギルドのギルド長と副ギルド長は不在で残ったのは主任のみだったそうじゃ」


「そうだったのですね・・・」


 その返答に納得はするマリーだが、グランツは何か引っ掛かりを覚えていた。


「うむ、丁度その時、ギルド総本部へ報告をする為に早い段階で出立して数日後の話だったそうじゃ」


 ギルドでの活動報告については書類と本部長との面会という形で報告する必要がある。これはギルドでの活動に当たってギルド長として副ギルド長として相応しい人間であるかどうかを定期的に目視して判断する必要があるからだ。

 と言うのは直に本人を見てギルド長としての実力や力量を計る。確かに書類との格闘と言う面も必要ではあるが、少なくとも体力面も必要だ。一般からギルド長になる事もあるが、冒険者からギルド長になる事が多い。

 その為、本部長が目視してギルド長としてこれからも務まるかどうかを判断する必要がある。


「タイミングが悪かったですね・・・」


「・・・・・」


 確かにタイミングは悪かった。

 本部からの呼び出しは必ずある事なのだが、誰がどのタイミングで呼び出されるのかまでは分からない。これに関しては本部長しか知らない事だ。

 ギルド本部からの呼び出しに、周辺国の紛争や流血沙汰の事件。こうした事から考えればギルド長を呼び出しのタイミングは恐らくギルド長との面会を早める為に早い段階で動いたのだろう。しかも城壁都市の領主の息子が愚か者であった事も含めれば猶の事だ。


「周辺国のゴタゴタがあるというのに何故こうも限って・・・」


「!」


 マリーがそう口にした時、グランツは夢から覚めた様な感覚に見舞われた。


「どうかされましたか?」


 夢から覚めた様な感覚になっているグランツの顔は険しかった。そんな様子のグランツにマリーは動揺した。こうした顔になるのは決まってあまり良くない時だったからだ。


「資料室へ行く」


 そう言って徐に立ち上がって部屋を後にしようとするグランツ。


「それでしたら、私も・・・」


「いや、儂だけにしてくれ。誰も経ち入れさせるでない」


「は?」


 マリーも付いて行こうとすると首を横に振ってすぐに断った。しかもそればかりか、資料室に誰もいれさせない様に言いつけるグランツの言葉にマリーは首を傾げた。


「すぐに戻る」


「・・・わかり、ました」


 疑問と不安に駆られつつあるマリーにグランツは安心させる様にそう言って部屋を後にした。承諾したマリーは用意した茶菓子を頬張る事も無く、グランツが戻って来るのを待った。





 薄暗い資料室。

 キチンと整えられたはずの本棚の本は机の上に欄脱に積み上げられて、机の大部分は大きな羊皮紙で作られた地図が広げられていた。


「ここがギルドの最初の場所・・・」


 そう言って指差すグランツの片手には分厚い本を持っていた。タイトルは「大陸歴史書」とあった。タイトル通り超大陸における出来事を大きくまとめている歴史書だ。その歴史書をあるページを開けていた。

 それはギルドが初めて設けられた所、本部がある国の都だ。


「・・・3年後に国境戦線」


 そう言って次のページに書かれている事を目を通してその場所を目を通した。


「次に「赤の事変」・・・」


 そう呟き、ページに目を通して指差すグランツは眉間に皺を寄せていた。


「その次に王切り事件・・・後に大規模な戦争になる・・・」


 またそう呟いて次のページに目を通して指差すグランツは次第に手に力を入れ始める。


「アスカールラ王国滅亡後にアイトス帝国の誕生・・・その周辺は小競り合いが絶えない・・・」


 今度は本を閉じて最近の出来事を呟き、視線をアスカールラ王国とアイトス帝国の方を向ける。


「レンスターティア王国の王位継承による大規模なお家騒動・・・周辺の小国や領との睨み合いと小競り合いが起きておる・・・」


 視線をレンスターティア王国に向けて目元が鋭くなったグランツは再び本を開いた。


「100の集落による潰し合い・・・僅か5つ残った集落は後に奴隷狩りに合う・・・」


 再び呟いた後、すぐに指を指すグランツの言葉には何か鬼気迫るようなものを感じさせるただならなさが醸し出していた。


「三国切り取り・・・これも後に国が疲弊して滅亡に至る・・・」


 この出来事は先程の件から僅か5年後にこうした事件となっている事に気が付く。


「・・・・・」


 地図に示す指先をゆっくると動かした。


「そして・・・」


 その先にあるのは


「今回の城壁都市の逸脱の民による国家崩壊・・・」


 関係の無い様に見える大陸内における紛争や戦争、流血が伴う大事件。だが指差す先の場所はギルドのすぐ近くから始まって広がる様に大きな事件となって起きている。

 まるでインクを零してそのまま広がっていく様に。


「どういう事じゃ・・・?これらの所が流血沙汰になっている地域がこちら側が多い様に見える・・・」


 しかもギルドから見て東へ東へと、どんどん広がっている様に見える。

 何か変だ。

 何か引っ掛かる。


「それに・・・」


 まだ引っ掛かりを感じるグランツは改めて指差した場所を見た。


「これらの事件・・・何か・・・」


 ギルド長であるグランツは自分の立場上についてで何か連想する。

 ギルド長は本部に向かって面談する。同時に会議に参加して、戦争や怪物が出現や豊富な採取物等の関係で、どの地域で冒険者を立ち入ってもいいか、立ち入り禁止するべきかを決める必要がある。その時地図を見るのだ。

 その瞬間が頭に過った時、グランツは


「・・・まさか!」


 何かが繋がった瞬間だった。


「失礼しますね」


 聞き覚えのある声だった。


「!?」


 振り向いた先にいたのは


「お前は・・・!」


 ロビンフッドが被っている様な帽子に淡い緑色のズボンに黒い靴、胸にはスペードのようなマークのプレートが縫い付けれた茶色のジャケットを着て、肩から青いショルダーバッグを下げいる。そんな若い男が立って手紙を差し出していた。

 歳は10代、どんなに見積もっても20代前半の童顔の男だった。

 見覚えのある恰好。

 あの若い男だった。


「先程ぶりです。それとも「さよなら」がよろしいでしょうか?」


 挨拶がてらに明かな殺気を放った若い男の目は酷く冷たい。


「っ!」


 確実に殺しに来ている。

 そう察したグランツはすぐさま臨戦態勢に入った。

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