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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
一の代価から十の結果
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315.計らい

 乱暴に荷袋を背負って城壁都市までの旅に必要な物を手に入れようと動いていた冒険者の男は市場に行こうと足を動かしていた。

 乱暴に背負っているだけに歩き方も粗暴そうだった。こんな様子の男に誰も声を掛けづらくなっている。その男の頭の中では長旅になるからと必要な食料は干物やドライフードのような物を選んでおく必要があると考え、干し肉やドライフルーツといった物をどれだけ必要があるのかと学の無い頭で目分量で必要数を考えていた。

 その時


「君」


 彼に声を掛ける者がいた。声からして壮年の男性だった。


「あ?」


 苛立つ男はぶっきら棒に返事して振り向いた。そこに居たのはすぐさまに目を大きく見開いて言葉遣いを正して礼儀を弁えてしまう程の人物だった。


「!ギルド長・・・」


 グランツだった。

 エーデル公国支部ギルドのギルド長、グランツはジッと男の顔を覗き込む様に見ていた。

 その時、男は何故ギルド長であるグランツがここに居る理由を察した。


「確かに許可は下す事はできん。冒険者として動くというのであれば諦めるのじゃ」


「・・・・・」


 改めてギルド長、直々の言葉によって干渉してくる事に男は眉間に皺を寄せて強く噛みしめた。やはり許可は下りないだろうと考えてはいたが、直々に言われると諦めが込み上げてくる。

 簡単に言えば「やはりか」だった。

 そう考えていた男にグランツは続けた。


「そうして動く事が許されるのは現地の住人と何かしらの関係している事位しかない」


「・・・は?」


 意外な言葉に男は思わず間の抜けた声を発してしまう。この言葉には何か含みがあるそう感じた瞬間、グランツの次の言葉で確信を得た。


「冒険者としてではなく、義勇の団として動くのであれば問題ないという事じゃな」


「!」


 間違いない。

 グランツは一介冒険者である自分にこうした提案を出している事に目を見開いた。冒険者として活動は出来ないとは言え、現場は悲惨な事になっている。

 だから冒険者として動く事は出来ずとも、現場で義勇兵として動くのであれば冒険者ギルドの規律や命令には抵触しない。

 グランツはそう言っている。

 間違いなくそう言っている。

 そこまで考えに至った男にグランツは


「だから冒険者として動くのは諦めい」


 と諭す様な穏やかな口調で言った。

 この時のグランツの顔は穏やかな顔付きだった。


「・・・ギルド長」


 グランツの温情に男は思わずそう呟いた。


「分かったかの?」


 グランツの言葉に男は強く目を瞑って改めて大きく見開いて


「・・・恩に着るぜ」


 大きく頷いてそう言ってその場を後にした。

 今自分に必要な物を改めて確認してすぐにでも出立しようというプロセスが瞬時に出来上がり、即座に行動に移した。


「・・・・・」


 すぐに動いた男は改めてグランツに一礼してその場を後にした。


「・・・・・」


 男が自分の故郷へ戻れる口実方法を見つけ出した事で顔が明るくなってその場を立ち去った様子を見たグランツもその場を後にした。





 ギルドに戻り、そのまま裏口から入ろうとした時、声を掛けられた。


「ギルド長」


 声の感じからして若い男だった。


「む?」


 振り向くとそこに居たのは


「お手紙です。近々、総本部で報告会、との事です。詳細は・・・」


 ロビンフッドが被っている様な帽子に淡い緑色のズボンに黒い靴、胸にはスペードのようなマークのプレートが縫い付けれた茶色のジャケットを着て、肩から青いショルダーバッグを下げいる。そんな若い男が立って手紙を差し出していた。

 歳は10代、どんなに見積もっても20代前半の童顔の男だった。


「うむ、分かった。確かに受け取ったぞ」


 グランツは躊躇う事も無く受け取った。

 この人物、実はギルドから派遣されてきた重要な書類を通達の為に動く構成員だ。


「ありがとうございます」


 素直でいい子そうな返事する若い男はニッコリと笑っていた。そんな若い男の足をよく見れば薄汚れていた。その事に気が付いたグランツは


「遥々遠くからと・・・お茶でも用意するから、ゆっくりすると良い」


 とギルドで持て成しの言葉を口にした。

 若い男は首を横に振って断った。


「嬉しいですが、これから隣町まで向かわねばならないので・・・」


「そうか、それは仕方がないのぅ」


「すみません」


 肩から下げているショルダーバッグの方を目を向ける若い男は申し訳なさそうに言って説明した。その事にグランツは「まぁ、仕方がないか」と納得した。


「よいよい、またの機会での」


 ニコリと笑いながら手を振って見送るグランツを見た若い男は


「はい、失礼いたします」


 と笑い返してそう答えた。


「うむ」


 人当たりの良い返事を受け取ったグランツは本当に良く働きそうな若者だな、と感心して手紙を持ってそのままギルドへと入っていった。





 ギルド長室に入ったグランツは手にした手紙を見る。


「ふむ・・・」


 入ったと同時に手紙の内容を軽く把握する為、自分の机に向かいながら手紙の封を切って手紙を開いた。


「・・・・・・・・」


 手紙の内容を見たグランツは眉間に皺を寄せて目を細めた。内容は「城塞都市の近くの小さな国々や集落等が少なくとも小競り合いが起きて所属している冒険者達に通達する様に」との事と、「城壁都市では逸脱の民による暴走が起きている。人員の派遣」について記されていた。


「それにしても、小競り合いが多くて物騒じゃのぅ」


 小さな溜息をつきつつそう呟くグランツは引き起こしている連中に対する呆れと巻き込まれる住民達の事を思いに耽る。


「また、地図で確認する必要があるのぅ・・・」


 改めて地図で確認して立ち寄ってはいけない場所を確認する必要があると考えていたグランツは大きく溜息をついて改めて深く椅子に座った。


「お帰りなさい、グランツギルド長」


 丁度その時、副ギルド長のマリーが入って来た。マリーは幾枚の書類を持っていた。その書類のほとんどはギルド長が決めなければならない重要な依頼や本部からの通達の書類がほとんどだ。

 ただ今回の場合で張ればグランツが先に受け取ったからマリーが持っているのはギルド長が判断する必要のある依頼書がほとんどだった。


「うむ、すまんがお茶を頼んでも良いかの?」


 丁度入ってきたマリーに一服の為に高価なお茶を入れる様に言った。お茶はエーデル公国産の紅茶だ。その言葉を聞いたマリーは


「はい」


 と答える。

 自分の為のお茶も用意してちょっと高価な甘い茶菓子を用意しておこうと考えていたのはマリーだけがお茶菓子を食べれるから、と言うのは自分だけの秘密だ。

 グランツは甘いお菓子の類は好まない。だから用意されるお茶菓子のほとんどはマリーの腹の中へと消えていくのだ。

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