313.どうしているのだろうか
「なるほど・・・造られた人間という事か」
手をギュッパ、ギュッパして自分の動作を確認して問題ないかを確認するサクラはリーチェリカの方をチラリと見てそう尋ねる。
「そや~ウチ、これでも1歳にも満たへんねんで~」
自分の両頬に両手で人差し指で物を指す形をとり、自分の頬を指さす動作を取っていた。所謂可愛い子ぶるあのポーズをとっていた。
「リーチェリカ、言い方が拙い」
溜息交じりにそう言うシンの言葉には呆れの色が窺えた。
「そ~や~、せやさかいに油断を誘おうとしたんで~」
「油断?ああ、そう言う事か・・・」
サクラにとって予想だにしない答えと言うのがシンとリーチェリカの関係性だ。その関係性はまさか親と子の関係である事は流石に驚く。
こうした事実を知った時、人は動揺して体が一瞬ながらも膠着してしまう。
リーチェリカはそれを利用して先手を打ったのだ。
リーチェリカの言い方にムッとしたサクラは
「だがそれでも引き分けにまで持ち込んだ」
と自慢気にそう答えた。
確かに引き分けに持ち込んだ。驚きに事実を知って体が膠着して油断していても、リーチェリカとの手合わせを引き分けに持ち込む事は早々出来る様な話ではない。むしろ至難の業だろう。
「(こうして見れば対人戦面ではかなりの実力を持っているな・・・)リーチェリカと手合わせしてどうだ?」
「手強かった、とだけ言っておく」
リーチェリカはフフンと鼻を鳴らす。どうやらリーチェリカとの手合わせをして引き分けに持ち込んだ事に対して自信を持っていた。
確かにリーチェリカはこの世界の人間はおろか、現代でも戦闘においてはかなり異質だ。対人戦面でも相当苦戦を強いられる上に、アンドロイドだ。この世界では言えばゴーレムとかホムンクルスと言った人造人間と言う部類に当たる存在だ。
サクラはリーチェリカを見た時、何か違和感を感じて手合わせして漸くその違和感の正体を薄々ながらも気が付いたのだ。
こうした観察視力と洞察力、戦闘向きではないとは言えあのリーチェリカとの模擬戦闘を引き分けに持ち込ませる事が出来た。それも実力をまだ見せずに。
この事からしてサクラはこの世界においてどういった実力を持ち合わせているのか、と純粋にそう思ったシンはシン質問をした。
「手強いで思い出したんだが、サクラは王族だろ?だったら狩りとかするのか?」
自然な流れでそう尋ねるシンにサクラは
「する。魔法ありきであればクマどころか、群れている様な危険な動物でも一気に狩る事も出来る」
すんなりと答えた。この答えからすると例の糸の魔法で一気に縛り上げたり、そのまま切断するのだろう。
「それはすごいな」
そこまで想像できたシンは素直にそう答える。だがそうした答えにサクラは少し溜息交じりに苦笑気味になる。
「だが、他の貴族連中にも手柄を渡す必要があるからとか捕り過ぎても問題があるからほとんどしない」
サクラの言葉を聞いてシンは王族と貴族の関係の事を考えて、出来るには出来るが貴族の関係性や一定量の獲物を捕るのはしないという考えの本によって狩るのはそんなにしないという事が分かったシン。その時、危険な動物でドラゴンを連想した。
「・・・危険な動物って例えばドラゴンとかか?」
「・・・いや、ドラゴンといった「逸脱の民」に当たる動物は手を出す事はしない。「逸脱の民」を見たら基本的には戦わずしてその場から去るのが最も安全な対処だ」
「つまり戦う事をしないのが基本という事か・・・」
「そう言う事だな」
首を横に振ってそう答えるサクラの言葉は酷く説得力があった。と言うのはドラゴンに対してどことなく恐れを感じさせ、畏怖の念も感じるものがあった。普段からあんな態度をとっているサクラからは想像がつかない位に態度と言葉の色で理解させられる。
「意外やな~。頻繁にドラゴンとか戦って鱗とか牙とか欲しいもん手に入れているかと思うたわ~」
「自身の命張る、張らないと言うような問題じゃないからだ。下手をすれば国ごと亡びるといった問題になり兼ねないだ。だから基本的にドラゴンと言った「逸脱の民」を見かけたらすぐさまその場から去るんだ」
「なるほど」
危険を冒してまで手に入れる理由が自分の命だけの問題ではない。
そう感じたシンがドラゴンから感じ取ったのは「報復」だった。つまりドラゴンは敵対した時、報復行動を行うのだろうと考えた。でなければ王族が「国ごと亡びる」なんて言わないだろうからだ。そしてドラゴンは「逸脱の民」だという事も発覚したシンは目元が細くなった。
「戦ってくれた方がデータ取れるんやけどな~」
正直な所シンもこうしたデータは欲しいと考えていたが、サクラの様子からしてそれは敵わない。リーチェリカのこうした発言は見ていないからこその侮っている発言とも取れるが、実際は純粋な疑問から出てくる言葉だった。
「あまり「逸脱の民」の事を甘く見ない方が良いぞ?転生者や来訪者ですらも生き残る事が至難の話だ」
サクラは侮っていると受け取った様だった。同時にシンは何となくシン達が考えているような攻撃方法についても言及していた。恐らく過去に来訪者がやって来て同じ事ををしていたのだろう。その上、シンは変だい技術をサクラに見せている。それなのにこの発言だ。恐らくどれもこれも逸脱の民の逆鱗に触れる様な事をして結果、ただでは済まない事になったのだろう。
「・・・そうなのか(この口振りからして俺達が考えている様な事は通用しない可能性が十分にあるな)」
その事を意を汲んだシンは改めて今までの戦闘手段では倒す事はおろか戦いにすらならず、生き残る事も不可能と考えた。
最早いよいよBBPを使わなければならない時が来たのかもしれない。そう実感した。
「それに民族や種族によっては逸脱の民は神聖視して崇拝している事もある。尚更手を出すような真似はするなよ?」
確かに逸脱の民は自然と共に生きている面の方が多い事を考えれば、種族や部族によっては神聖視してもおかしくない。変に逸脱の民を潰すような真似をしても部族や種族が黙っていない。その事を考えれば戦って勝つメリットの方が少ない事の方が多いかもしれない。
そこまで考えたシンとリーチェリカは頷いた。
「わかったよ」
「分かったで~」
「「・・・・・」」
「何で~その目~?」
シンの返事に続いてリーチェリカも返事する。その時、シンとサクラはリーチェリカの方を疑いの目を向けていた。こいつ本当に分かっているのかと言わんばかりの目だった。
「・・・あれから2日も経っているのだな」
「ああ、アルバとステラは心配しているだろうな」
サクラが気を取り直そうと何気なく海の方を見た。その時、太陽を見た時何となく時間が過ぎている事に気が付き、自分がこんな事になっている事に慕っている者達や仲間の事を頭に過った。
サクラのその一言にシンはアルバとステラの事を連想した。シンがその一言を口にした途端サクラは遠い光景を眺めるような目になった。
「確かに心配をかけてしまっている・・・」
声に張りがなく、どことなく会いたそうにしている様に感じる。その事に気が付いたシンはそっとサクラに声を掛けた。
「近々会える。サクラ自身がここまで回復で来たしな」
シンの言葉を受け取ったサクラはフッと笑って
「うん・・・」
と少し安堵したような声でそう答えた。
「しかし、いつになれば動けるのでしょうか?」
「分かりません。ですが、少なくとも現状ではお嬢様とシン様をお探しになるのは困難の極みと言えるでしょう」
所変わってオオキミ支部ギルド。
窓の外を見ているアルバとステラは自分の主であるサクラが見つけられない事に焦燥感に駆られていた。特に年若いステラは早く捜索したい一心がある故に逸る心が急いていた。
対して壮年のアルバは冷静に現状を見てステラの逸る心を穏やかに抑えていた。同時に自分の逸る心も押さえていた。これは年相応で経験積んだアルバだからこそ、出来たのかもしれない。
「・・・・・」
ステラはサクラの捜索活動を衝動的に起こさない様に別の風景を見て何とかしようとした時、慌しい国内の民間人達の様子を見ていた。
「逸脱の民が慌しく動いているというのは初めて見ましたが、ここまでとは・・・」
「私も生涯においては初めてでございます」
逸脱の民は古の民と言ってもいい程に古くから存在してきた者達だ。それ故に彼らの危険性については大陸はおろか島国国家であるオオキミ武国でも十分に知れ渡っている。だから生涯において逸脱の民によってこれほどまでに慌しい喧騒になる事はあまりない。
今の喧騒の具合を見ていたステラはジッと見ていてボソリとアルバにある提案をした。
「アルバ様、ここで動くという訳には・・・」
今の喧騒具合は慌しくもパニックになっているとまではいかなかった。とは言え、武器持つ者は慌しい動きをしており、関係者と思しき者達は荷運びや早馬をしており、行商人はいつでも逃げられる様に茣蓙を巻いてすぐにでも動ける様にしていた。
こうした光景を見てステラはここで捜索活動しても喧騒に紛れて自分達独自に動く事は出来る。
アルバはステラの心はちゃんと汲み取っている。だが、だからと言ってこのまま動く事は許すわけにはいかない。そう提案するステラの心に静かな一喝をしようとした時
「申し訳ござらんが、そうはなりませぬ」
「「!?」」
別の誰かが一喝を入れた。
サクラの事に気を取られていたとは言え、気配もなく近付いてきた者に思わずバッと振り返る2人。
2人の目に映ったのはマエナガだった。
「先程申し上げたように、ここで変に動けば巻き込まれてしまいまする。変に関わってしまえば敵対関係を作ってしまい、最悪国絡みになってしまいます!」
「「・・・・・」」
近付きそのまま即座に首を垂れるマエナガの様子に思わず黙ってしまう2人。
無理もない。
マエナガはギルド長として動き、飽く迄優先しているのはこの国に、国民に被害が被らない様にする事だった。いくら王族の人間であるサクラを捜索する事が出来ないのは「逸脱の民」が絡んでいるからだ。当然大陸にも逸脱の民は存在する。他国でサクラと同じ様な立場になったとしてもこうなるのは明白だった。
だから今回サクラがこの件に関わったのは自己責任、本当の自己責任として動いた結果なのだ。
2人はその事についても理解していた。けれども心がそうはさせてくれない。
「申し訳ございませんが、どうかここで・・・ここで・・・!」
「・・・承知いたしました」
「致し方ありませんね・・・」
深々と頭を下げて腹の底から出すマエナガの声に2人は思い留まる。
もし自分達の主であるサクラが同じ立場であったとしても、こうしていたに違いないからだ。
漸く心すらも納得できた2人は再び窓の外見た。
「しかし、せめてどこでいらしているのか、当たりを付ければいいのでございますが・・・」
ポツリとそう悩みの一言を零すアルバの言葉に答えたのは
「話は聞いたよ」
「アンリ様!」
飴をボリボリとかっ喰らうアンリの姿と周りの喧騒ぶりに物珍しそうにする飄々としているサトリだった。
今のこうした登場であれば知らない者であれば「大丈夫なのか?」と不安を持つ。だが知っている者であればアンリがいかにこうした状況でどれだけ頼りになるのかを存在の大きさに実感する。
「詳しく」
アンリはゴクリと口に含んでいた飴玉を無くしてから2人にそう尋ね、サトリはコクリと頷いていた。