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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
一の代価から十の結果
313/396

311.娘?

 そこはマザーベースの最上階、ヘリポートがある場所だった。

 潮風からくる潮の香がサクラの鼻を擽り、ザザァ~という波音を耳にしているサクラは興味津々に周りを見渡していた。

 今いるマザーベースの周りにも幾つものプラントが建設されており、それぞれが何かしらのシステムが稼働されていた。


「・・・・・」


「ほな、始めましょか~」


 その様子を見ていたサクラを気を逸らす様にリーチェリカが声を掛けた。リーチェリカとサクラとの距離が5mほど離れていた。そんなリーチェリカの言葉に、サクラは気になる事があった。


「先程ワタシは承諾しましたが、どうしても手合わせする他ないのでしょうか?」


「あるにはあるで~?」


 リハビリするのにわざわざ手合わせする必要があるのかと訊ねたのだ。実際レンスターティア王国は医療が進んだ国だ。だからこうして手合わせしてリハビリするというのは変に感じたのだ。

 すぐに激しい行動をするのは返って悪化する場合もあるから、と言うのは医療面でも武道面でも良くないのはサクラは理解していた。そうであるのに手合わせを提案するリーチェリカに訝し気を覚えたのだ。

 あっけらかんとすぐに答えるリーチェリカの答えに、サクラはは「は?」と言わんばかりの顔になった。


「ならば・・・」


「若の話やとサクラお嬢様はすぐにでも動けるようにしたいんやろ~?」


「ええ。願っても無い事で」


 確かに事実だ。サクラはすぐにでも動きたい事の方が大きい。最もらしい理由と言えばそれらしい。しかし、何か違和感がある。そう考えたサクラは小さな溜息をついた。


「やったら~・・・」


「・・・では単刀直入に訊ねます。どういうつもりだ?」


 リーチェリカの言葉を遮ってサクラが最も聞きたい事を単刀直入に訊ねた。口調も言葉遣いも変わったサクラの様子にリーチェリカはニコリと笑って


「ウチと手合わせしてサクラお嬢様の事を知ろうと考えているんやで~」


「ほぅ?」


 正直に話した。同時にサクラは目元が鋭くなった。


「サクラ・・・はんは、その口調が似合おとるなぁ」


「誉め言葉として受け取っておこう。それよりも他にも聞きたい事がある」


「何で~?」


「何だその訛りは?」


 聞き慣れない言葉の訛りを指摘されたリーチェリカは意外そうな顔になって素直に答えた。


「京言葉や~。日本語やで~」


「京言葉・・・」


 言葉の訛りの理由の中で「日本」と言う単語にサクラは反応した。聞き慣れない「京言葉」と言う単語を口にしつつ、リーチェリカは日本人であるかもしれないと考えた。


「そや~。そんなんよりもや~、始めへん~?」


「お前は・・・」


「ウチはリーチェリカ~。リカって呼んでぇなぁ~」


 確かに名前の商会はしていなかったな、と思い返すサクラはフランクに言ってほしそうにするリーチェリカに合わせて


「・・・リカはシンの何だ?」


 シンとの関係性を尋ねた。その問いにリーチェリカは


「・・・・・」


 無言でサクラをジッと見つめた。


「・・・・・」


 睨み返す様に答えるまで待つサクラ。

 答えるまで動く気配がないと判断したリーチェリカは小さく頷いて答え始めた。


「そやな~、強いて一言で言うんやったらな~・・・」


 リーチェリカの重心が急に前に移動して


「娘や」


 答えた時には背を低くしてサクラの目の前に来ていた。


「は?」


 今の出来事になのか、それとも謎の答えに対してなのか分からない疑問の声を漏らすサクラにリーチェリカは


 スッ…


 掌底を一発入れようとしていた。


「!?」


 パシッ


 サクラは咄嗟にリーチェリカの手首を掴んで


「!」


 ギュン


 合気道の「投げ技」を繰り出した。


「・・・!(重い!?)」


 その時、サクラは「投げ技」を行ったのだが、リーチェリカを転がそうとした時、異様な重さを感じた。あり得ない。

 見た目の割に重い。重すぎる。

 只者ではない。


 トッ


 トッ


 トッ!


 勢いよく掌底を繰り出そうとした時のエネルギーが受け流されてしまってそのまま体ごと回転して、着地する度にそのエネルギーを流していた。そうしなければ体勢を立て直す事が出来なかった。


(軽快で見た目の割にリカの重さが釣り合っていない)


 体勢を立て直したリーチェリカの目がサクラの方をギョロッと向いた。


「!」


 その目を見た瞬間、サクラは確信に近いものを感じたと同時に、何かゾッとする者ものを感じた。

 今の手合わせをするまでリーチェリカに対して小さな違和感を感じていた。

 だが今改めて目を合わせた瞬間、違和感の正体が理解できた。

 リーチェリカの目が無機質な物、まるで人形の様に生気の無い目でこちらをジッと観察するかのように感じたのだ。

 要はリーチェリカは動いているのだが、生きている様に感じないのだ。


(まるで、あいつのようだな・・・)


 サクラの額に小さな汗を掻いた時


「いきますえ~」


 7m先にいるリーチェリカは体勢を整えていた。それを見たサクラはすぐに構え直す。


 ビュン!


 サッ!


 サクラ目掛けて手を伸ばした7m先にいるリーチェリカ。

 サクラは即座に避けた。


「!」


 あの蛇の様に伸ばした手を避けたサクラに驚くリーチェリカは目を大きくした。


 トッ


 トッ


 一歩一歩を大きくして独特の足運びで


(このまま間合いを詰める!)


 リーチェリカとの距離を詰めるサクラ。


 ビュン!


 サッ!


 片方の手を蛇の様に瞬間的に伸ばすリーチェリカだが、サクラはそれすらも避けてしまう。


「・・・!」


 移動中でも避けるか。

 そう言わんばかりに目を開くリーチェリカの口元は


 二ヤ…


 三日月の形に歪んでいた。


「!」


 その顔を見たサクラはすぐさま


 サッ


 身を屈んで


 シャッ


 リーチェリカの前で止まって


 クルリ


 そのまま身を反転して後ろに回って


「!」


「これで終わりだ・・・!」


 グイッ!


 リーチェリカの白衣の襟元を掴んで重心を崩してそのまま


 ドサッ


「よし・・・」


 地面に伏せた。

 地面に伏せる事に成功したサクラはそのセリフを吐く。それを耳にしたリーチェリカは未だに三日月の口元が崩れていなかった。


「甘いで~」


「・・・?」


 フラ…


 どういう事だ、と訊ねようとしたその時だった。突如としてサクラの全身の力が抜け始めてふらつき始めた。


「何・・・!?」


 何をされたのかが分からず、そのまま片膝をついてしまうサクラにリーチェリカはそのまま立ち上がろうとする。


「・・・!」


 それを見たサクラはすぐさま両手の指を動かした。


 キュリッ


 ピン…


 キリキリキリ…!


 聞き慣れない音だが、それは糸の音だとすぐに理解できたリーチェリカだったが、どうする事も出来なかった。糸が張ったとされる音の時には既に自分の周りには無数の張った糸の牢獄に居り、その中心が自分出る事に気が付いた時はもう既に遅かったのだ。


 ドサッ


「!?」


 キリキリキリと言う音の時には全身に糸に巻き付けられて動く事が許されない身体になり、バランスを崩したリーチェリカの身体は再び地面に伏せる事になった。


「・・・・・」


 常人どころか華奢な見かけではありえない力でどうにかしてサクラの糸の魔法を脱出しようと動くがどうする事も出来なかった。

 同じく何をされたのか分からないが、どういう訳か力が入り辛く思う様に体を動かせないサクラは未だに跪いていた。


「・・・お前、何をしたんだ?」


 こうした状況に先に疑問を口にしたのはサクラだった。


「体を動けへん様にガス・・・瘴気を出したんやけど・・・こっちも動けへんな~。何したん~?」


「・・・糸でお前の動きを封じたんだ」


 この世界では恐らく知ら無さそうな単語である「ガス」を使わず、それに近い言葉を選んで簡単ながらもすぐに理解できる説明するリーチェリカ。実は最後にサクラが接近した時に一気に呼吸の吐き出しの時に吸わせたのだ。

 対してサクラは自分の魔法、手の内を明かすわけにはいかないからかかなりぼかしながらそう答える。


「そうなん~?結構なお手前やな~」


 何をどうしたらこうなったのかは分からずとも、全体的に分析して何が同起きたのかをすぐに把握した。しかもその把握内容は現に起きた事実と同じ事だった。


「リカこそ中々のものだな・・・」


 リーチェリカの能力や体の状態から見て只者どころでは無い存在であるという事をこうした言葉で表現するが、内心は相当驚いていた。

 何故なら知らない技術がテンコ盛りの手合わせだったからだ。


「体の調子はどないどす~?」


「動けそうにない」


「体動くようになるんは物の数分で動けるで~」


 筋弛緩ガスを効果は自分で調節する事が出来る。だから今回の手合わせでも問題が無い様に本来ならば何時間レベルの効果を数分程度の効果になる様にしたのだ。

 そのせいなのかそれともサクラが吸血族だからなのか常人ならば地面に伏せて指すらも動かせない程の効果が発揮されなかったのだ。

 だから結果としてリーチェリカは全く動けず、サクラは無理をすれば動ける事が出来る状況になったのだ。


「そうなのか。ならば、その後にでもその魔法を解除する。それで身体は動かす事が出来るから」


「分かったわ~」


 想像していた通り、サクラが言っていた「糸」と言うのは魔法によるものだと確信を得たリーチェリカはパズルゲームを解いた時の高揚感が湧き上っていた。


「それで・・・お前がシンの娘と言うのは?」


 サクラはお互い動けない状況にここぞとばかりに改めてそう尋ねる。因みに後で糸の魔法を解除する事にしたのはリーチェリカを先に解除すると何か碌でもない事になると感じたからだ。

 そしてその判断は理解あるものならば正解だと答えるだろう。


「ほんまやで~」


 そう答えるリーチェリカにはサクラは


「・・・・・」


 無言になるしかなかった。

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