29.衛星
ギアがサクラの屋敷に向かってから2日経った頃の事。
時計が無いため正確な時間は分からないが、恐らく深夜の2~3時だろう。「草木も眠る丑三つ時」と言われる様に、大抵の生き物は眠っている時間帯だ。
月も星も無い真の闇。その上異様なまでに静かだった。
シンは起きていた。当然その頃の皆は訓練に疲れ果てて泥のように眠っていた。
「・・・・・」
本来なら懐中電灯等を取り出して灯りを付ける。だがシンは夜目が効くためあまり必要なかった。
(あの木の形、足元の草花、奥のフクロウ・・・結構見えるな)
シンはここまで夜目が効く事にちょっと驚いていた。色が分かるわけでは無いがシンと物との距離、形、生き物の種類等が分かる。夜目が効くとはこういう事なんだと実感しながら目的地に向かって行った。
「この辺でいいか・・・」
そこは皆がいるキャンピングカーから500m程離れた場所にシンは立っていた。やや開けていて堂々と大空を仰ぐことができる場所だった。
この世界に来て2日目の晩にシンは月を見てあるものを思い付き「自動開発」であるものを作った。それは、「人工衛星」だった。あの晩、「人工衛星」を開発し、衛星ナビゲーションシステム(自分がどこにいてどこに向かうのかをナビゲートできるシステムの事)を使って自分の行動にサポートが付くようにしたのだ。約1週間後に出来るはずだったがギアとの交渉で魔力を手に入れたおかげで、その魔力を使い、開発時間の短縮と様々な機能を搭載することができた。
様々な機能には通信、地球(この世界の)観測、暗視カメラ、GPS(全地球測位システム:人工衛星を利用して自分が地球上のどこにいるのかを正確に割り出すシステム)は勿論、荷電粒子兵器、粒子ビーム兵器、A.I(人工知能)まで搭載している。また、「ブレンドウォーズ」の時からある「自動開発」に辛うじて使える魔法を付与によって「摩擦無効」や「空間固定」等々の魔法で人工衛星自身の活動においてのサポートができるようになっている。
シンの目の前にはステータス画面が表示されていた。「自動開発」からその衛星を取り出した。
「出来具合は・・・」
そう言って「自動開発」の画面にある「人工衛星」と「完了」と言う文字があるアイコンらしきものを選択した。
シュンッ!
シンの目の前に人工衛星を出現した。
キィィィィィン…
ジェット機のエンジンのような音を出して空中に固定するかの様に浮いていた。
(おお、設計通りとは言え間近で見ると迫力があるな・・・)
夜目がきくシンの目に映っていたその人工衛星の大きさは直径100mもある球体型だった。太陽光発電で使われるソーラーパネル特殊なものに変えているが、黒色ではある。そのせいで全体が真っ黒だった。巨大な球体のあちこちに無数の可動式球体のカメラと、移動と姿勢を制御するための小さなジェット噴出口があった。その無数のカメラを一つ一つよく見るとレンズの横に粒子ビーム兵器が搭載されている。それも全部だ。さらに、その球体型の人工衛星の真ん中には30m程の大きなくぼみがあり、真ん中には5m程の大きな穴は荷電粒子兵器が搭載されている。
(これが通信機とカメラ、と・・・)
「自動開発」から赤い線が入った黒いワークキャップと30cm程で厚さ4mmの黒い平ったいヘッドホンのようなものと黒く15㎝程のペンのようなものを取り出した。
黒いワークキャップの額に当たる部分より上の部分に大きさ2cmで厚さ3mmの極小で平らなカメラが埋め込まれていた。
ヘッドホンのようなものは首の後ろのうなじより下の所に装着し骨伝導で通信が可能な通信機だった。
黒く15㎝程のペンのようなものは巻物の様に開いていくと薄いプラスチックのような表紙が現れる。これは触媒を活用した巻き取り式のタブレットPCだった。これらを早速シン自身に装着してみた。
「・・・・・・」
単に黒いワークキャップを被っただけ。たったそれだけの事だが、どことなく現実の世界に戻ったような懐かしい様な気分だった。
装着したシンは早速これらを活用してみた。
(何て言ってみようか・・・)
通信機に第一声は何て言おうか考える。
(「もしもし」?いや、電話じゃないんだし・・・思い切って名m・・・)
「名前を呼ぼうか」と考えそうになった時だった。
「ボス」
「!?」
若いが渋みのある男の声だった。明らかに通信機から「ボス」という単語が聞こえた。
いきなりの通信機からの声に戸惑ってシンは思わず
「も、もしもし!?」
電話でもないのに思わずこの言葉を使ってしまった。
すると、向こうから「はっはっは…」と笑い声が聞こえてくる。
「ボス、電話じゃないんだ。もっと気軽に話しかけてくれよ」
ツッコまれた。人生で初めてA.Iにツッコミを入れられてしまったのだ。しかも、シンが第一声の事を考えている時に「いや、電話じゃないんだし・・・」と自分で否定した考えをそのまま言ってきたのだ。
「あ、ああ。じゃあ、「アカツキ」聞こえるか?」
表情にこそ出てはいなかったものの心の中では恥ずかしさか照れてる様な心境になった。
「アカツキ」。それは人工衛星の名前だ。「アカツキ」とは漢字で書くと「暁」と書く。意味は日の出前の仄暗い時刻・情景、明け方の事を指す。自分が暗い闇の中で迷っても明け方が見えれば光明が見え、自分が行くべき道を明るく照らす。そういう意味をこめてこの名前にした。
「ああ、聞こえるぜ、ボス」
このA.I搭載人工衛星、「アカツキ」はどういう訳かシンの事を「ボス」と呼ぶ。
「ボスって・・・まぁいいか・・・」
本当は気軽に話しかけてくる良き相棒のつもりでこういう性格にしてみたのだが「ボス」という単語で話しかけてくるとは思ってもみなかったのだ。どうしてアカツキがシンの事を「ボス」と言うのかについては深く追求しなかった。シンにとってアカツキが「気軽に話しかけてくる良き相棒」でさえあれば何と呼ばれても気にしなかった。
シンは取敢えずこの世界の地形の事を知りたいから早速「命令」する。
「アカツキ、早速で悪いがこのまま上昇して世界の様子をこのタブレットに送って貰いたい」
「O.K、ボス。ただ今より「アカツキ」は上昇する」
そう言った瞬間…-
キィィィィイイイイイイイイイイイイイイイ…-
と大きな音になっていき、ゆっくりと空中に固定したままスライドするかのように・・・
キィィィィィン…-
見えなくなるまで夜空へ昇って行った。
「意外と速く昇って行ったな・・・」
その呟きを最後にシンはそのままアカツキからの通信を待った。
それから10分後アカツキから通信が入った。
「ボス、この世界の地形を確認した。ただ、今は深夜2時37分だから、分かるのは地形のみだ。どこに森があり、山があり、谷があり、砂漠等があるのかは明るいときじゃなければ確認はできない」
A.Iである為、惑星の自転を計算して現在の時間をさり気無く読み上げたアカツキ。また、月も星も無い真っ暗闇だというのにも関わらず、地形が判明出来た。これらの事にシンは少し驚いた。
「OK。取敢えず、夜が明け次第、画像をこっちに寄越してくれないか?」
「了解、ボス」
そう言って通信は終了した。
「・・・少し寝るか」
シンは明け方まで寝る事にした。
「ん・・・?」
空は濃い藍色から徐々にスカイブルーになりつつあり、山の向こうから徐々に上がっていき暗い夜に終わりを告げるかのように光を差し込んでいく太陽。今は恐らく朝の5時か6時。空は朝焼けの色になり周りが明るく夜の時と違って見えやすい。
ブゥゥッ・ブゥゥッ・ブゥゥッ・
送信されたのか、ペン型のタブレットが振動する。
「もう来たのか、早いな・・・」
タブレットを開くとメールのマークがあった。メールのマークをタップすると鮮明な世界地図らしきものが表示された。
「おお、すげぇ・・・」
巨大で大半が緑の大陸や青々としている大海、白くなっている所は寒冷地帯であろう場所等の様子が映し出されていた。
「これは、思ってた以上に高性能だな」
シンは改めて人工衛星の素晴らしさを噛み締めていた。
取敢えず今回は4話まで執筆しました。
さっきも書きましたように勢いで書きましたので、後に改稿を行います。
また次話のプロットもまた考えていない部分がございますので次話投稿は未定です。
こんな小説ではありますが今後ともよろしくお願いします。