303.初めての
翌朝。
持っていた保存食で軽く朝食を済ませていた。
「髑髏の騎士・・・」
昨日の出来事についてを各々に知らせたナーモの話で気になる単語を呟くジロウ。その事に気が付いたニックは
「ウルターと言っていました」
と少し詳しく答えた。
「・・・・・」
特徴の「髑髏の騎士」と名前の「ウルター」で何か引っ掛かりと何か連想する様な物が過ったジロウは思わず黙ってしまった。
そんな様子のジロウにニックは気になった。
「あの・・・」
その一声に我に戻ったジロウは
「ん、うんにゃ。何でもない」
と首を横に振った。
その様子にニックは「そうですか」とこたえた。その時、ナーモに声を掛けられてそっちの方へ向かった。
「まさか・・・な」
ジロウは目元を細めてウルターの事について連想した。
それは嘗て高らかな笑い声と共に大軍を率いていた大王の姿を・・・。
だがそれはないと否定した。何故ならそれは古い話でその大王はもういないからだ。
否定していたジロウの耳に
「それよりもこれからどうする?」
と言う声が聞こえた。
「どうするってなぁ・・・」
「正直分からないよな」
「せめて集落でもあれば落ち着けれるんだけど・・・」
それはこの先の事についての話だった。金策目的と腰を落ち着ける目的の為にやって来た城壁都市は壊滅。しかも未だにドラゴニュート達がうろついていた。今城壁都市へ向かう事は命を捨てる事になる。
だから人が集まっている所、せめて集落でもいいからそこへ向かいたい。急務ではないものの金策と装備調達が必須である事は変わりない。
だが、この辺の地域は知らない事の方が多い。頼みの綱となるこの辺を知る者達、城壁都市の人間はいない。ドラゴニュート達に襲われる事は無いとは言え、このままという訳にもいかない。
さてどうするか。
そう考えていた時、ジロウが一つ提案した。
「ふむ・・・。ならば私と共に行くか?」
「え?」
意外だった。彼は付き従っている獣の事を考えれば食糧等に余裕等ない。ましてや他の者を構う事すら余裕のない状況だ。それなのに道中共にするという提案を彼からするのは本当に意外だった。
「当てはある。大きな山5つ程と、少し遠いがある国へ向かう」
しかも、目的地が国だった。願ってもみない事。
「どういう国ですか?」
「学問について重きに置いている国でな、魔法が発展していると聞く」
ジロウが答えた単語に真っ先に反応したのは
「魔法!?」
エリーだった。エリーは転生者だ。だからなのか魔法には興味があるのだろう。
「う、うむ、そうだ」
グイグイと言わんばかりに押してくるエリーの様子に少し気圧されながらも答えるジロウ。
「どうする?」
「う~ん…」
悩むナーモ達。
そんな彼らにジロウは
「案ずるな。狩り位ならシロウ達に任せられるし、セントウもある。兵糧には困らぬ」
確かに提案者のジロウに付き従っている獣達は狩りや食べられる実を見分けられる能力を持っている。その上、何やらジロウには「セントウ」に関わる奥の手の様なものを持っているようだった。これらの事を考えればそれほど大きな不安はない。戦闘面では少し心許無い面もあるからここですんなりと頷くのは少し楽観的だ。だが、何も無い様なこの状況は早めに打破したい。ならば・・・
「ナーモ!」
「・・・そうだね。行こう」
行く他なかった。
このまま留まっても貧すれば鈍する事になる。不安な面が多く残っているが、進むしかない。
そう決めたナーモの言葉にエリー達は異論無く頷いた。
「どうやら決まった様だな」
それにいざとなればジロウがいる。腕が立つのはこの目で見ている。問題があるとすればジロウがどこまで心を許していいのかが分からない事だ。
そうした不安要素が残りつつも目的地まで進む事になったナーモ達は足を動かし始めた。
「では向かうとしようか」
「「「はい!」」」
そうしてそのままジロウが案内する形で歩いてその国まで向かう事なった。
(そう言えば、初めてかも・・・私達以外の人を入れての行動って)
エリーはそう考えながら歩いて行った。
同時刻。
「んん・・・」
呻き声と共に目を覚ましたのはサクラだった。白いベッド、白いシーツ、白い掛布団、白い天井。
そんな白尽くしの世界を見たサクラの起床第一声が
「白いな・・・」
率直な感想だった。
真っ先に見た白い天井を見て、起きて白尽くしの部屋を見ればそう呟いてもおかしな話ではない。
「・・・・・」
ボ~とする頭で周囲を見たサクラは何気なく自分の服を見た。
「ん?」
いつも着ているセーラー服モドキのドレスではなく、病院患者が着るピンクの入院服になっていたのだ。
しかも額に違和感がある事に気が付いたサクラは額部分を触った。触れると布のような物が巻かれていた。
これらの事からして自分は誰かに治療されたのだとすぐに理解した。
だから第ニ声が
「どこだここ?」
自分がいる所についての疑問だった。そんな疑問に答えたのは
「気が付いたのか?」
シンだった。シンは白い扉からサクラがいる部屋まで入ってきた様だった。その扉は少なくともレンスターティア王国では見た事の無い扉だった。白く塗られてシンプルで金属の様に無機質な印象があるドアで、蝶番の音が金属同士が擦り合う音が響いていた。
「あ?ああ・・・」
この状況に少し素っ頓狂な声を上げてしまうサクラにシンはそっと近づいてベッドの傍まで来て屈んだ。
「昨日の事覚えているか?」
「昨日・・・あ」
昨日、それはナマハゲ達が手話で会話している最中の事だ。シンが手話で会話しているナマハゲの様子を見て驚いている時に事件が起きた。
「低体温症・・・体が冷え切ってほとんど気絶に近い感じの眠りに入っていたんだぞ」
サクラはその事件に巻き込まれてかなり危険状態になっていた様だった。
「そ、そうだったのか・・・」
自分が置かれていた状況を思い出したサクラは前進の力が抜けてしまってそのままベットに倒れ込んだ。
「ところでここはどこだ?」
話せる元気があるから今いる場所について尋ねた。
するとシンはどことなく答えづらそうな沈黙を出して
「・・・ここはマザーベース」
と答えた。
聞いた事の無い単語。当然
「ま、まざぁ?え、何?」
困惑気味にオウム返しをして訊ねる。シンは少しの間だけ黙ってしまい、何かを観念したのかすんなりと答え始めた。
「要するに俺の生活拠点となっている場所だ」
「!?」
シンの言葉を聞いた瞬間、力が抜けていたはずの全身に息を吹き返す様に力が入ってベッドから跳び出した。
「あ、おい!」
追いかけようとするシンにサクラに掛けていた白い毛布が覆い被さりそうになって避けるというタイムロスが発生していた。そのお陰でサクラは白い扉を開ける事に成功したのだ。
「何だこれ・・・」
開けたその先の光景は信じられないものだった。
それは海。
しかも鉄骨で出来た建造物が海の上に建てられてた見慣れない大きな塔が幾つも聳え立っていて、自分がその塔の上に立っている事に気が付いたのはすぐだった。