298.対話手段
子連れのナマハゲを見ようとせずにただ只管周りにいるナマハゲの様子を見ていたシン達にナマハゲもこちらの様子をジッと見ているナマハゲ達。
・・・・・
好奇心・・・と言うべきかどういう人間かを知る為にと言う視線だった。特にシンとサクラに対しての視線が矢鱈と注目を浴びていた。
何故ここまで視線が集中してきていたのかについて考えていた時、カナラが
「念を押しておくが、ナマハゲはこちらの言葉を理解できるぞ」
と忠告に近い事をシン達に伝えた。
逸脱の民は人類の言葉を理解できる。その為変な事も言えない。だからジッと待つような空気になっていた。
そんな状況に痺れを切らしたかのようにサクラが
「何をすればいいのだ?」
と訊ねた。
「向こうから何か話しかけるのを待て」
と答えたカナラの言葉に
「は?」
と答えた。
当然の反応だ。
彼らは人類の言葉を理解できるとは言え、話す事が出来ない。恐らくだが、声帯の方が進化の過程で人類とは違う方に発達したから声を発せられないのだろう。
どうコミュニケーションをとるのか。目を頼っているのならばジェスチャーになる。
スッ…
予測通りだ。
ジェスチャーでコミュニケーションを図る様だ。
身振り手振りでお互いの意思疎通がある程度位なら理解が出来る。綿密な受け答えは流石に出来ないだろう。
そう考えていたシンの考えが次の身振り手振りの様なジェスチャーで大きく目を見開く事になった。
「え・・・」
シンが目にしたジェスチャー。僅かにしか見た事が無く、懐かしい思い出として記憶されている行動だった。
(これって・・・)
(手話!?)
エリーの目に映ったドラゴニュート達のジェスチャー。
それはエリーの前世の小学校、中学校の時に少しだけ習った手話だった。
(しかも、日本語・・・)
ドラゴニュート達の手話の速さで何を話しているのかは流石に分からなかったが、何の言葉で話しているのかはすぐに分かった。素早い手話の所々の手話の形を見てこれは日本であるとすぐに理解できた。
「何で・・・」
エリーがそう呟くと耳にしたジロウは
「あれが彼らの言葉だ」
と答えた。
「え?」
「普段は咆哮で語り合っているが、詳しい話等はああした行動、「手話」と言うので会話をしているそうだ」
どうやらジロウはエリーがドラゴニュート達が一体何をしているのかについて気になっていたから声を漏らしてしまったのだろうと考えた様だった。
だがそのお陰でこの世界にも「手話」の概念がある事が分かった。
「(やっぱり、アレは手話だったのか・・・)何の話かまでは・・・」
「すまんが分からん」
「そうですか・・・」
今の様子から察するに「手話」を確実に使いこなせて深く知っているのはドラゴニュートだけの様だ。
人類では手話に関して余り認知されておらず、ドラゴニュートだけの技術だと考えている様だ。
「・・・・・」
日本語の手話を操るドラゴニュート達。その事実にエリーは
スッ
自分の手で手話を軽くして見た。
内容は至極簡単な
『こんにちは』
だった。
エリーは何気なく、ごく自然に手話をやってみた。
その様子のエリーにジロウは
「やめておけ」
と注意した。
「え?」
「手話を知ろうと思ってやってみた所で彼らは心を開く事はせん」
確かに自分達の文化や言葉を知ろうとして言葉を覚えて会話に参加しようとする事に対しては好感は持てる。だが状況が状況だからそんな好感が持てるような状況ではない。
寧ろ会話方法を知ってこちらの意図を知って対策でも取られでもしたら困る面が多い、と考えるだろう。
だからこの状況下で手話をしようとするのはかなり拙いのだ。
そこまで理解したエリーだったが、ついぞ先程思わずやってしまった。そのせいでドラゴニュート達はエリーの方へと注目を浴びた。
エリーはやってしまった、と言う心境になり緊張が走った。
・・・・・
自分の方へと向ける視線を感じたエリーだが、そっとドラゴニュート達の顔を見た。
・・・・・
何かに驚いている様子だった。
しかも、喧嘩していた2頭のドラゴニュート達の内、1頭がこちらに歩み寄って来た。その1頭は仲間を止めようと動いたドラゴニュートだった。
スッ
パッパッパッと手話で何かを伝えようとしていた。その様子を見ていたエリーは今の手話の内容を見て目を見開いた。
何故ならドラゴニュートが伝えようとしていた内容は
『日本人』
だったからだ。他にも手話があったのだが、分からなかった。だが恐らくエリーの事を日本人かどうかを確かめたかった様だった。
だがエリーは簡単な挨拶しかできない。
すぐに「どうしよう」という気持ちでいっぱいになる。
・・・・・
変に時間を掛けるわけにはいかない。変に時間をかけてしまえば真似されたと判断されかねない。
そこで
『ごめんなさい』
と手話で伝えた。
エリーの拙い手話を見たドラゴニュートは目元が細くなった。
・・・・・
ジッとエリーの様子を見ているドラゴニュートの目は観察の目だった。こいつは手話をやったがそれは手話の存在を「日本人として」理解していたからか、それともこの世界の学者と言うたちでと目でこうした手話を行ったからなのか。
それを見極めようとする目だった。
その目にエリーは兎に角手話が出来るが決して詳しく手話ができない事をアピールする為に
『ごめんなさい』
ともう一度手話で伝えた。
・・・・・
しかし、目は未だにエリーから外さなかった。
そればかりか、この娘は対話を取る為に「手話」を見よう見まねでして、こちらに敵意は無い事を示そうとしているのではないかと考え始めた。
「・・・・・」
これは流石に拙い。
そう考え始めたエリーはもう一度手話をする。
だが伝えた言葉は『ごめんなさい』ではなく
『ありがとう』
と伝えた。
同時に
スッ…
頭を深々と下げた。
その行為をドラゴニュートが見た時、目をすぐに大きく見開いてすぐに目を細めた。
それは1秒程経った時、ドラゴニュートは手話で
『おはよう』
と伝えて軽く頭を下げたのだ。
それを見たエリーはすぐに
『こんにちは』
と手話で伝えた後すぐに頭を下げた。
その行為を見たドラゴニュート達から敵意が一気に引いた。
「・・・!?」
敵意が一気に引いた事にジロウは驚いた。エリーの行為は下手をすればすぐにドラゴニュートの怒りを買って身を亡ぼす愚かな行為だ。
ジロウの目にはエリーが適当に手話をしてドラゴニュート達との対話を試みていた様に映っていた。
だがそれなのにドラゴニュートはエリーの行為を見て敵意が一気に引いた。
つまりそれはエリーはドラゴニュート達と対話が出来るという事に他ならない。
(驚いた・・・。エリー殿はドラゴニュートとの対話に成功したというのか・・・)
マジマジと見ているジロウを余所にエリーはそれ以降手話はしなかった。
ドラゴニュートはエリーの手話と行動を見て、何かを納得して
クルッ…
踵を返して
ギュオン…!
と一鳴きした後ドラゴニュート達を引き連れてその場を後にした。
ズン…ズン…ズン…
その場を後にして彼らの姿が見えなくなった事を確認したエリー達は
「「「フ~ッ…」」」
と緊張から解放された安堵の深呼吸をした。緊張から解放された各々の反応は様々だった。
エリーはその場に尻餅をついた。
(「日本人」と言った時にもしかすれば、と思って一礼したのが良かった・・・)
実はエリーはドラゴニュートが伝えた『日本人』で日本人でしか知らない行為をすれば身を引いてくれるのではないかと考えたのだ。
それが挨拶と同時に行う頭を下げる行為だ。
これは日本でしかない行為だ。
欧米人では握手を求めるし、国民性や民族性によっては挨拶と同時に行われるジェスチャーは様々だ。だからそれに懸けて挨拶と同時のあの行為だったのだ。
そしてそれが正解だったようだ。
「良かった・・・」
そう呟くエリーにジロウはジッと見ていた。
そしてナーモは自分の腰に携えている霊剣に手を当ててジッと見ていた。
少しここで近況を報告させて頂きますと、少し落ち着き始めてきました。という事ですので3月くらいから投稿頻度を徐々に増やそうかと考えています。ここ最近までは1ヶ月に3話程度でしか投稿できずにいた事に読んで下さっている方々に大変なご迷惑をお掛けしました。
少しずつですので投稿頻度が僅かにしか上がりませんので、未だにご迷惑をお掛けするかと思います。
こんな作者ですがお付き合い下さると嬉しく思います。
よろしくお願いいたします。