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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
旅の準備
30/396

28.その者について

「クヮァァァ・・・」


 大きな口を開けてゆっくりと口を閉じる。応接室で床の上で胡坐をかきながら待つギア。余程退屈なのか大きな欠伸をした。


「退屈だな・・・」


 どうやら退屈だった。そうポツリと呟いて数秒経った時応接室のドアからノック音が聞こえた。


「大変お待たせいたしました、バルドラ様」


 待たせていたギアにヘコリとお辞儀をして屋敷の主を連れてきた事を報告するステラ。そのすぐ後ろには館の主のサクラとそのすぐ後ろには執事のアルバがいた。


「うむ、久しぶりだな、サクラよ」


 ギアは床に胡坐をかきながらステラの言葉に返答し、サクラにも挨拶をする。サクラはギアを一瞥する。


「何だ?ソファには座らんのか?」


 ギアのすぐ近くにはそこそこ大きい長いソファがるというのに何故か床で胡坐をかいていたギアに尋ねる。するとギアはやや物悲しそうに答える。


「・・・壊れそうだったのでな」


 それを聞いたサクラは軽く溜息をつき納得したかのように肩をすくませギアの対面のソファに座る。ステラとアルバはサクラが座ったソファの後ろに立つ。


「また、つまらぬ事を相談しに来たのではないだろうな、バルドラ?」


 サクラは呆れたような顔でギアに訪問の訳を尋ねる。


「つまらぬとは、ちと酷いではないか?」


 苦笑しサクラの返答に異を唱えるギア。するとサクラはジロリとギアを睨み


「ほう?ここに来る度に後々つまらぬ厄介事を持ってくるのはどこの誰だ?」


 強めの口調で答える。


「ぐ・・・」


 ぐぅの音もでないとはまさにこの事だろう。サクラが言っていた事は間違えようのない事実だったからだ。ギアがここへやってくる度に何かしらの厄介事を持ち込んでくる。最早トラブルメーカーと言ってもいい程に。


 最も酷かったのは10年前のある国の紛争騒ぎでギアがこの事についての相談を持ち掛けて3日後、屋敷にどこぞの国の反政府勢力の連中が囲っていた。その時迎撃しその場を収めたが屋敷の一部が半壊していた。その時ギアにその事を問い詰めようとしたがギアは持ち前の巨大な翼で大空へ逃げてしまっていた。


「すまんが、もうお前の相談には付き合わない事にしたからな?まぁ、「アレ」が行われる時は別だがな・・・」


 サクラの言う「アレ」とはここにいるギアも参加する会議のような行事の事だった。


「・・・「アレ」は仕方が無いにしろ、我の相談を聞くだけでも良いのだが?」


「そうやって、ワタシが気を引くようにして厄介事を押し付ける気か?」


 サクラからヒシヒシと怒気の念を感じたギアは慌てて答える。


「き、聞くだけだ!聞くだけなら何も問題は無かろう!?」


 ジロリからギロリとなった目で睨み付けるサクラ。それを冷や汗を流しタジタジとするギア。負い目があるのだろうかいつものように屈託のない気さくな雰囲気で接さず一歩引くような形でサクラに接していた。


「・・・・・」


「・・・・・」


 無言の場の空気が辺りを漂わせる。



 サクラは「フ~ッ…」とため息をつき


「聞くだけだぞ?」


 半ば折れる方形でギアの訪問の訳を聞くサクラ。


「すまぬな・・・」


 ギラリと睨み付けながらギアの話を聞こうとするサクラ。サクラに睨まれてビクッと体を震わせるギア。サクラの雰囲気に押され気味ながらも本題に入る。


「で、では本題に入るぞ。サクラよ、「アンノウン」という事について何か知っておらんか?」


「「アンノウン」?」


 サクラは後ろにいるステラとアルバに目を合わせるが2人とも知らないと首を横に振る。2人も「解析」の魔法が使える。その為幾人の者を見て来た。だが、「アンノウン」と出た事が無かった。視線をギアの方へ戻す。


「そういえば、ギアには「解析」の魔法が使えるのだったな」


「うむ、それで「アンノウン」と出ていた者がいてな」


「・・・ほぅ?」


 興味を持ったサクラは上半身をやや乗り出すような形でギアの話を聞く。


「それでサクラよ、まず聞きたいのは「アンノウン」とは何なのだ?」


 よく似た音の単語こそあるが、この世界には英語は無い。その為「アンノウン」と言う単語は知らない。しかし、サクラは異世界の研究をしていた。ギアは研究の中に「アンノウン」という単語があるかもしれないと考えサクラに聞く。


「それは「正体不明」と言う意味だ」


「・・・「正体不明」?」


 ギアは眉間に皺をよせオウム返しをする。サクラは続ける。


「異世界の別の国の言葉だそうだ」


「うぅむ、そうか・・・」


 納得したかのような声で唸るギア。サクラはシンについてを深く聞いてきた。


「それよりも、「アンノウン」と出た者はどういう経緯で?」


「む、その者は数日前にこの世界におそらく転生し、今ある森の開けた場所にいる」


 サクラは静かに聞いている。ギアは続けて話す。


「その者は言葉が分からずにいた」


「待て、「言葉が分からない」だと?翻訳魔法があるのにか?」


「うむ、何故か翻訳に関する魔法を持っておらんそうだ」


 サクラは言葉が通じなくて困っている。その者を見てギアから自分に頼ってきたのだと思い、幾つか提案する。


「ならば翻訳が使える者を「雇う」、「頼む」、「攫って」通じるようにでもすればよいだろう」


 サラッと物騒な単語を言うサクラ。だが、ギアは否定する。


「その必要が無いのだ」


 それを聞いたサクラは眉をピクッと動かし


「どういう事だ?」


「言葉を教わって2日も経たずに日常会話ができていたのだ」


「・・・・・」


 サクラは目を細め鋭くなった。言葉を学んで日常会話までできるかかる苦労と時間の事を知っていた。だからこそ疑問の無言となっていた。そんなサクラの様子を知っていてかいないかギアはお構いなく話を続ける。


「我はその者にあって初日に「仕合」を申し込み「勝ち」を譲った」


「・・・その時のそいつはどうだった?」


「身体能力が異常に高く、魔力を吸い取る妙な人間と思っていた」


 言葉の最後に過去形になっていたのを気づいたサクラは


「魔力を吸い取るとは何だ?それに「思っていた」?今は?」


「まず、「魔力を吸い取る」だが、これは我にも分からん。分からんまま魔力を奪い取られたのだ。」


「魔力を奪い取って自分の物にするのか?」


「それも分からん。魔法を使った様子だったのだが、詠唱をしておらぬ。ただ、奴は無言で我の魔力を奪い取られた。それだけしか解らぬ。ただ・・・」


「ただ?」


 ギアはシンのキャンピングカーの事については他言無用である事を思い出していた。そこで「ショップ」の事を話してしまった。


「その者がいう「ショップ」という魔法のようなもので異世界の物を手に入れるのに吸い取った魔力を使うそうだ」


「ほぅ、それで「ショップ」で手に入った物をもらったのではないか?」


 サクラは鋭い眼と意地悪な厭らしい表情を作り、ギアに送る。ギクリと体を震わせる。


「ソッソソソ、ソンナモノモラッテナイゾ?」


 冷汗を垂らし、目が泳ぎ、言葉が片言になっていた。誰が見ても怪しかった。


「・・・・・」


 だが、サクラはこの事について追及はしなかった。


「(この様子だと一部の事について言いふらさないよう何か貰ったな・・・。まぁ後々どうにかできるだろうが今は・・・)まぁいい、もう一つの「思っていた」とは?」


 サクラの読みは鋭かった。ギアはキャンピングカーの事については言わなかった。だが、シンから「ショップ」の口留めが無かった事を思い出しペラペラと話してしまったのだ。


「・・・言葉が上達した事に気になった我はもう一度再戦を申し込み、負けた」


 サクラは驚いたように更に目を見開いた。それを聞いたステラとアルバは目つきを細め鋭くした。信じられなかったのだ。ギアの戦闘力はここにいる誰もが知っている。魔法を使わなかったとは言え、あのギアをまず負ける等とありえなかったのだ。


「・・・どうやって負けた?」


 サクラは恐る恐る聞く。


「・・・我を仰向けに倒し腕を取られ、両の足の間で腕を挟み込む技を掛けられた」


 その事を聞いたサクラは冷静に分析する。


「それは「腕挫十字固」という技だな・・・」


「そう言えば、奴が言うには「ジュードー」とう武術の類とか何とかと・・・」


 付け足すように話したギア。

 どういう訳か「柔道」や「腕挫十字固」という言葉も意味も知っていた。その為「奴」事シンは異世界の者だと、ほぼ確信を得たサクラ。一人で納得しているサクラの横目にギアが


「・・・その技から抜け出す方法はないのか?」


 と聞いてきた。悔しかったのか今度はギアから問いを投げかけて来た。サクラは冷静に答える。


「ギア、本来なら技を掛けられたお前なら単純に力でねじ伏せ脱出出来ただろう?だが、お前はその力技で脱出しようとしたが「負けた」。違うか?」


「ぬ・・・」


 今度は「ぐぅ」の音ではなく、「ぬぅ」の音になりかけて「ぬぅの音も出ない」状態のになっていたギア。サクラが言っていた事は概ね当たっていた。そのせいか、悔しそうに眉間に皺をよせるギア。そんなギアを無視するかのようにサクラはギラギラとした鋭い目でギアを見て尋ねる。


「・・・そいつの名前は何て言うんだ?」


 ギアはそんなサクラの様子を見て悔しそうな苦々しい表情から真剣な顔になる。


「「シン」と名乗っていた」


 サクラは獰猛な笑みを浮かべた。


「「シン」について他にもあるか?」


 サクラは確実に「シン」に対してついに興味を持ってしまった。


 サクラの後ろにいたアルバとステラはサクラの様子を見てまんまとギアの言葉に乗ってしまったなと呆れた顔をする。だが、サクラはその事に気が付いていなかった。

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