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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
一の代価から十の結果
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296.放棄

 自分の息子の訃報を聞いたお館様はそっと座り、目を細めて、すぐに目を強く瞑ってカッと大きく見開いて


「・・・避難民はどうなっておる?」


 と伝令兵に訊ねた。


「は、はい。避難民は現在ギルドの中。只今地下の方へ移動している最中でございます」


 すぐに答える伝令兵の言葉を耳にしたお館様はコクリと頷いた。


「・・・そうか、ならば我々も移動するぞ」


「は、はい・・・」


「・・・・・息子の事は放っておけ」


「・・・・・承知いたしました」


 自分の息子が原因で引き起こした。だから自分の息子を差し出す真似をすれば少なくとも自分の城壁都市位なら最小限の被害で押さえられると淡い希望を持った考えだった。

 だがそれも叶わなかった。

 最早ここまで。

 避難民を連れて城壁外に出て1から再建する他ない。

 これより城壁を捨てる。

 捨てざる得ない。

 捨てろ。

 捨てるんだ。


「向かうぞ」


 スッと立ち上がり、そのまま部屋を後にしようとしていた時


 ガッシャーン…!


 窓から何かが放り込まれた。

 一体何かが放り込まれたのかと思いそっと目を開いて()()を見た。


「「「!?」」」


 それはバラバラになった死体だった。頭部、腕、足、胴体、それぞれが強引に引き千切ってそのまま投げ込まれたようだった。

 体のサイズや特徴からして老若男女問わず平気で投げ入れられている。中には10代の少女や生まれて間もない赤子の()もあった。

 余りにも惨い光景。その光景の中に父として決して目にしたくないものが入った。


「っ!」


 それは愚かにも城壁都市を危険に晒し、かつ大事に育ててきた息子の頭部だった。それを目にして頭部以外の空間がグニャリと歪むのを感じ取り、自身の身体に膠着を感じた。


「・・・!お館様!」


 その時、1人の兵士が窓から身を乗り出さず、そっと覗く様に外の様子を見た。その時とんでもないものを目にした。

 それをお館様にもその光景を見せるべくして一喝に近い大声を出した。


「・・・!」


 窓の外にいたのは


 グルルルル…


 ドラゴニュート達だった。

 屋敷の周りには石壁が囲っていたのだが、どうやらそれを乗り越えてきた様だった。その証拠に石壁はバラバラと崩れかけていた。それなりに広い庭にはドラゴニュート達が持ち込んだであろう死体の山に、無数の石飛礫が転がっていた。手には武器である岩の棍棒を握り、いつでも潰すぞと言わんばかりに構えていた。

 そしてその表情は、怒りに満ちていた。まるで自分の親、子を殺されたかのような酷く怒りに満ちた様な。


「もうここまで来ておったのか・・・!」


 一気に攻め込まれているとは報告を受けていたのだがここまで早く来ていたのは想定外だった。

 このままでは拙い。

 ここで即座に移動する事にした。


「お館様、こちらでございます!」


 先行する兵士に促されて


「うむ!」


 お館様もそのまま足を進めていった。

 その数十秒後に


 ババババババババ!


 その部屋が消えていく音が聞こえた。





 窓の外、だけでなく城壁都市中にいるドラゴニュート達がキョロキョロと見渡していた。


 グルルルル…


 唸り声を上げて足元にある複数の死体の中で身形の良い兵士の遺体があった。それはお館様の息子の遺体だ。


 ・・・・・


 その遺体をジッと見てその後、すぐに破壊されたお館様がいた部屋を見て


 ギュオオオオオオオ!


 大きく咆哮した。

 その咆哮を聞いた都市中にいたドラゴニュート達はそれに呼応する様に


 ギュオオオオオオオ!


 と咆哮した。

 その瞬間だった。


 ドーン


 ガラガラ…!


 バキバキ…!


 都市中にいたドラゴニュート達は一気に破壊活動に乗り出した。

 屋台、木造、石造りと言った、建物と言う人工建築物であれば破壊に乗り出していた。


 棍棒で


 投石で


 腕力で


 尾で


 そして


 スゥ…


 ボオオオオオオォォォ…!


 火炎で城壁都市を完全に機能しなくなるまで破壊していった。

 当然


 ガラ…


「ヒッ…」


 スゥ…


 ボオオオオオオォォォ…!


 人間は例外なく殺害。





 暗い道。

 外の光が入ってこない暗い道。その場所は埃っぽくカビ臭い。その道なりに辿って歩く者達の頼っている光は先頭の人間、武器を持つ者達、最後方にいる人間が持っている。松明の灯りだけだった。

 この事からこの道は地下道である事が理解させられる。

 彼らが通っている道はギルドの地下から来ていたのだ。実はこうした非常事態に備えて地下道を掘っていたのだ。


「「「・・・・・」」」


 ゾロソロと歩くその道なりに行くと


「!」


 奥の方から灯りが見えてきた。


「誰だ!?」


 こんな事態だ。

 火事場泥棒と言った弱っている時にこそ漬け込んでこういった見えない所で犯罪者が出て来てもおかしくない。

 だから松明を掲げて武器を持つ者が前に出ていつでも戦闘が出来る様に構えた。


「・・・・・」


 持っていた松明の灯りと相手が持っている松明の灯りによって相手の顔が見えた時、すぐに構えていた武器を引いた。


「っ!お館様!」


「領主様!」


 相手が味方、それも自分達よりも身分が高い人物に思わず身を引いてしまう。


「皆無事か?」


「ええ」


「何とかここまで・・・」


 だがお館様はこういう状況だからか、そんな事等気にしなかった。

 そればかりか自分達の事を気に掛けていた。それがどこか安心感を持ってしまう。


「そうか・・・。お前たちはギルドからか?」


「はい」


 その返答を聞いたお館様は、やはりか、と確信を得た様な頷き返した。今いる地点で、ここまで来る道筋はギルドからしかなかったからだ。


「驚きました。まさかギルドの地下にこんな道が掘られていたなんて」


「いざと言う時の為に、ギルド長と話してこうして造られたものだ」


「そうだったのですね」


 詳しく聞けばこの城壁都市を更に拡大する時にいざと言う時の為に公共の場所やギルドと言った民間では親しみのある施設に地下道を設けて非常時に避難できるようにしたのだ。

 そして今回これが功を奏した。


「しかし・・・」


「ここから先はどう行けばよいのか・・・」


 だがこうした地下道の事について詳しく知らない者達からすれば、ここからどう行けばいいのかが分からない。

 実はギルドから来た者達の中に詳しい道案内できる者は誰もいなかったのだ。詳しいはずのギルド長と副ギルド長は実は総合報告会があるから呼び出されて不在だったのだ。


「それならば私に任せたまえ」


 だからここまでこうしてきたお館様しか詳しい者しかいなかった。


「「「・・・・・!」」」


 そう発言したお館様の存在が更に頼もしい存在に見えたのだ。


「では向かうぞ」


 更に頼もしい言葉を口にして自分が先頭切って歩みを進めようとした。

 その時、向かおうとしていた奥の方から


「やめておけ」


 と低い声が響いてきた。

 声からして男だった。それもかなり経験豊富さを窺わせる様な雰囲気が漂っていた。鎧を着ていいるからか、どことなく籠っている様に感じる。

 声の様子からして武装している可能性がすぐに窺えた。


「何奴っ!?」


 だからすぐに腰に携えた剣に手を掛けるお館様。他の者、主に武器を持っている者達もほぼ同時にいつでも戦えるように構えた。非武装の者はすぐにでも逃げられる事が出来る様にしていた。

 奥の方からガシャーン…ガシャーン…と言う乾いた金属音が聞こえてくる。よく見れば2つの小さな不気味な青白い光がユラユラと揺らめていた。

 この光景を見て尚更警戒しないわけにはいかなかった。余りにも不気味な光景だからだ。

 不気味な光の正体が持っていた松明の光によってあらわした時


「これより先、進めば落命するぞ」


「「「・・・!」」」


 思わず息を飲んだ。


「貴様は・・・」


 上顎部分がバイザーとなっており、開けば大きく口を開ける様な見える変わったデザインの額から3本の角が生えた暗めの黄金色の髑髏を模した特殊な兜、黄金の頭部と首部分より下は黒い金属によって構成されたプレートアーマー。首元には暗めの紫のマントを羽織り、暗めの黄金色の金属で丸い王冠に模したメイスの様な明らかに戦う事を前提の杖を握っていた。

 その者は不気味な鎧を纏っていた。

 どういう訳かそこに居たのはウルタ―だったのだ。

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