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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
一の代価から十の結果
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294.侵入

 指示しようとしていた兵士の後ろにドラゴニュートが登り切って立っていた。


「・・・!」


 目を見開く兵士の視界には右端から何かが一瞬見えた。それが何かと目で追う前に


 ヒュォッ!


 パァァァンッ!


 兵士の頭部が破裂した。


「・・・ひ」


「「「ワアアアアァァァァァァ…!」」」


 その瞬間を目にしてしまった兵士達は思わず絶叫を上げた。

 最早パニック状態だ。

 これではどうしようもない。

 そう判断した兵隊長は小さな声で「最早ここまでか」と呟き


「ここは捨てろ!町にいる避難民を避難させる為に街中に入れ!」


 と指示する。

 ドラゴニュート1体がここまでやって来てしまったのであれば対処しようにも無理がある。ここで対処するにしても時間と人員が多く必要になる。

 ここで時間を取る様な真似をすれば間違いなく他のドラゴニュート達が登ってきてしまってどうにもならない状況になってしまう。

 それならばここで対処するよりも、逃げ遅れている避難民の誘導や避難民の死守する為に動く事の方が良いと判断したのだ。


「あいつらが入って来ても身動きが取れない様な場所に入れ!襲われる事が少なくなる!」


「知っている奴は先に行け!」


 城壁都市では入組んだ場所が多くある。その為、身体の大きいドラゴニュートはその場所に入り込む様な事が出来ない。それを利用して避難民を引き連れていく事にしたのだ。

 この町出身であれば知っている人間は多くいる。だから率先して動いた兵士は多くいた。


「俺達は、殿に努める!」


「我ら守るべき者の為に死兵とならん!」


 そうして先行した兵士達の後ろにいた兵士達は数が減っていく運命は変える事は出来なかった。





 城壁内の街角にて。


「ひ、ひいぃぃぃぃぃ!」


 悲鳴を上げて逃げる中年男性。


「まっ魔物が入ってきているぞー!」


 パニックになっている青年。


「いやああぁぁぁぁぁぁ!」


 ヒステリックな悲鳴を上げて扱けそうになりながらも逃げる若い女。


「おかーさん…おかーさん…」


 親とはぐれて泣きじゃくる5歳位の少女。


「どけっ!」


 我先にと言わんばかりに乱暴に逃げる男。

 城壁内では悲惨な喧騒が響き渡っていた。城壁内ではあちらこちらでパニックのせいで黒煙が立ち上り、市場だった場所は物が散乱して商品として売られていた食品は地面に叩きつけられて生ゴミになっていた。酷い所であれば屋台そのものが半壊されており、馬はパニックになって近くにいた人間を蹴り殺していた。道と言う道では人々が逃げ惑っていた。それに乗じて建物に侵入して悪事を働く等の火事場泥棒紛いの犯罪が行われていた。

 だが人々の中で共通していたのは如何にして自分の命を助けられるのかという事だった。

 そんな喧騒がある中、城壁から複数の大きな影が見えた。


「・・・・・」


 人々が何の影かと思い城壁の上を見た。


「・・・・・!」


 それは城壁の上まで昇って来たドラゴニュート達だった。


 スゥ…


 ドラゴニュート達は大きく息を吸って


 ゴアァァ!


 怒りの咆哮を上げた。

 咆哮を上げるドラゴニュート達を見た人々は


「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア…!」」」


 パニックになった。


 グルルルル…


 パニックになって更に大きい悲惨な喧騒が聞こえる方向へ向いたドラゴニュート達の内、登った城壁のレンガを崩してそのまま握って


 ス…


 投げるモーションに入り


 ビュンッ


 喧騒がある方向へ投げた。


 バババババババババババ…!


 投げた投石は散弾。

 だから集団に対して効果的な攻撃により、更に悲惨な結果になった。

 漂っていた土煙が晴れた時


「「「ウアアァァァ…」」」


 逃げ惑っていた人々半数以上は死傷者を出す結果になった。飛んでいたレンガによって頭部や胸部が貫かれて即死する者が多くいた。だが、そうでない者は味わった事の無い地獄が待っていた。致命傷を避ける形鳴ったとは言え、腕や足を無くすと言った取り返しのつかないダメージを負った者達は呻き声や悲鳴を上げていた。

 人間の軍属に身に置く者達であれば躊躇いが生まれる。

 だがドラゴニュート達はそうではなかった。

 何故なら彼らが行っているのは飽く迄「駆除」に過ぎないからだ。


 ス…


 ビュンッ


 バババババババババババ…!


 もう一度投げた散弾が人々に突き刺さった。そのせいで晴れていた土煙が再び上がる。この様子を見れば間違いなく人々の生存は絶望的だ。

 ドラゴニュート達は漸くこれで城内に入って虱潰しに人間狩りをするだけになる。

 こうした結果を思っていたドラゴニュート達の目に映っていたのは期待していたものとは違う結果だった。


「っ!」


「・・・!」


 !


 人々は無事だった。

 倒れている人々の前には杖を持った城壁都市の兵士と同じ制服を着た者達が立っていた。中には制服を着ておらず、杖を持つ者がいた。そんな者達に共通していたのは杖を翳して僅かに光る巨大な透明の盾の様な物が現れていたのだ。

 この事からして彼らは魔法が使える者達である事がこの世界の住人ならば一目ですぐに理解できる。因みに制服を着ていた者達はお館様お抱えの魔法が使える兵士で、制服を着ていない者は冒険者や魔法を齧った一般人と言うなれば義勇兵みたいな者達だ。

 そうした者達が駆けつけてきた事により、まず先にドラゴニュート達の投石を防ぐ為に人々に前に出てバリアを張ったのだ。

 各々違う魔法の発現方法や術式だが、投石には非常に効果的だった。


「もう大丈夫だ!そのまま逃げろ!」


「は、はい!」


 そう言って駆け寄って来た男は恐らく冒険者なのだろう。私服に物々しく革鎧を身に付け剣を携えている点からしてそうなのだろう。


「嬢ちゃん!こっちに!」


「パパァ!ママァ!」


 少女を抱き上げて避難を始める兵士。


「助かった!」


「来いよ!」


 誘導する兵士達と手を貸す冒険者達。公権側の者と市井側の人間と自然と協力して事態の対処に当たる様になっていた。


「我らに温もりを与えし恵み炎よ、その力を示せ・・・!」


「えーと・・・踏まれるが常である土よ、石よ、岩よ、手に取られてその力を示せ・・・!」


 前線にいた魔法が使える者達の内の何人かが恐らく攻撃する為の呪文を口にし始めていた。その様子に気が付いたドラゴニュート達は


 スゥ…


 大きく息を吸った。

 その様子を見た駆けつけてきた冒険者達の内の1人が


「来るぞ!ブレス!」


 と叫んだ。

 すぐさま攻撃する者たち以外の魔法が使える者達が更に前に出て


 ゴアァァ…!


 炎のブレスと同時に再び透明の魔法の盾を張った。


「ッ・・・!」


 ギリギリだったからか、大量の炎のブレスを受けて顔が険しかった。だがそのお陰で人々の避難がほぼ完了した。だからなのか、険しかった顔はどことなく安心した顔つきになっていた。

 そんな中攻撃する為に呪文を唱えていた者達は魔法が完成させて各々の魔法が発言した。


「フレイムアロー!」


 ボボッ!


 5本の炎の矢が浮かび、それが複数人であれば5の倍数分に増えていた。


「シュタインウォーフ!」


 フワッ…


 地面に落ちていた石や岩が浮かび上がり、それが複数人であればその分に増えていた。


 ボンボンボンッ


 ババババババババ!


 魔法の火の矢と魔法の投石がドラゴニュート達に向けて飛んで行き、被弾した。そのせいで火の矢の爆発によって一瞬見えなくなった。


「どう?」


「やったのか!?」


 少し期待を込める声が聞こえてくる。

 だが悲しいかな、こうしたセリフや文句は映画や漫画であればお約束と言って良い程の結果になる。


 グルルルル…


 無傷のドラゴニュート達がそこに立っていた。そしていつの間にか


「!左から・・・!」


 左に回り込まれて


 ビュンッ


 バババババババババババ…!


 散弾の投石によって


 ビチッ…!


 その街角は土煙と共に赤い水溜りと飛沫によって染まってしまった。

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