291.駆除
時は少し遡る。
森の最奥にて。
「ジロウさん!これは何ですか!?」
「分からぬ。ただ一つ言えるのは彼らが拙者達の事を怪しんでいるのは間違いない」
少し移動した瞬間にナーモ達はドラゴニュートの群れに囲まれたのだ。ドラゴニュート達は武装しており、殺気立っていた。この様子からして自分達に敵意を持っている事は明白だった。
「どうすれば良いのですか!?」
突然の上にこうした状況にどうすれば良いの分からず経験ありそうなジロウにそう尋ねる。するとジロウはすぐに
「全員何もするな!絶対に手を出すような真似はするな!」
と指示を出した。
この指示から察するに敵対行為を取るような真似をすれば間違いなく全滅するのは間違いなかった。しかもすぐにドラゴニュート側から手を出してこない事から鑑みるに恐らく、人類の戦争事情における検問の様な事だろう。
ナーモ達は少なくともドラゴニュート側は何かを調べる為にこうした事をしたのだろうと判断した。
グルルルルルル…
フ~…
すぐ近くで唸り声を上げて大きな呼吸音が聞こえる。
「・・・!」
どうやら自分達を近くまで来て観察する様に見ている。
「怖い・・・」
相当近くまで来ている。だからすぐにでも食べられるのではないのかと錯覚を覚えてしまう。そのせいでココが思わず怖気の弱音を吐いてしまう。
「・・・・・」
ニックはココの前に姿を隠す様にそっと出た。
グルルルルルル…
未だに唸り声を上げつつ、ナーモ達の様子をジッと見ていた。そんな状況が10秒ほど経った時、ドラゴニュート側が動いた。
グオオオオォォォォォン…!
突然こちらの様子を見ていたドラゴニュートが咆哮した。その咆哮に呼応するかのように他のドラゴニュート達も
グアォン
ギュルルルルルル…
と様々な鳴き声を辺りを響かせた。
こうした行動に戸惑うナーモ達にジロウは冷静にドラゴニュート達の様子をジッと観察していた。ジロウは実は先程から自分に従っていたシロウ、ゴロウ、ロクロウには離れた位置に待機させて万が一の事があった時、彼らが動いてナーモ達と共に安全な場所まで非難するという避難計画を考えていたのだ。
だがこれは本当に動いてもいいのか、それとも今動くべきなのか。それを見極めなければ自分達の命運もここで変わってくる。下手な判断で出来ない。
そう迷っているジロウと戸惑うナーモ達にドラゴニュート達の一部が先行して先に進んで残ったドラゴニュート達はナーモ達の後方へと移動した。
「・・・ジロウさん、これは?」
こうした様子にナーモはそう尋ねるとジロウはドラゴニュート達は何をしようとしているのかをすぐに理解した。
「付いて行くしかないな・・・」
ドラゴニュート達のこうした行動は「お前達をある場所まで連れて行く」という意味の様だ。変に逆らってもドラゴニュート達の怒りを買う恐れがある。これは従う外無かった。
「「「・・・・・」」」
ナーモ達も渋々ながらもジロウの言葉とドラゴニュート達の行動に従った。
ドラゴニュート達の行動に従って付いて行った先は森から少し離れて城壁都市が遠目から見える崖の上だった。奥の城壁都市の周りにはドラゴニュート達の軍勢が城壁都市を取り囲んでいた。しかもドラゴニュート達は武装しており、今にも戦争をおっ始め様としていた。
逃げ惑う人々にはドラゴニュートの口から出る火炎によって焼かれたり、持っている棍棒によって叩き潰されたりと凄惨な状況になっていた。
「「「!?」」」
こうした光景にナーモ達は思わず息を飲んでしまう。
「ジロウさん、これは!?」
今見ている光景に思わずそう尋ねるナーモ。
「恐らくだが、あの城壁都市で誰かがドラゴニュートの怒りに触れた様だ」
「怒りに触れた?」
推測を口にするジロウの言葉に何に対してと言わんばかりにそう尋ねるナーモ。
「・・・ドラゴニュートの子供を誰かが殺したのであろう」
ジロウは冷静にそう答える。
「たったそれだけで・・・」
「たった・・・どころでは無い」
「え?」
ナーモの無理解の象徴と言わんばかりの言葉にジロウは少し口調を強くしてそう答える。雰囲気が明らかに変わった事にナーモは思わず疑問符が付いた言葉を投げかけてしまう。
分かっていないナーモにジロウは諭す様に語り掛けた。
「人間でも自分の子供を殺しに来た動物をむざむざ見逃すとでも思うか?」
「あ・・・」
「そう言う事だ」
ジロウの説明に漸く理解できたナーモ。
ドラゴニュートからすれば人間に対して「戦争」しに来たわけでも「殺し」に来たわけでも無く、自分達に害する存在を「駆除」しに来たのだ。
だがここで一つ疑問がある。
それは何故自分達は聞かされているのか、だ。今までの事を考えれば人間であれば「駆除対象」に当たる。という事は自分達もそうだ。それなのに決して向こうから手を出してこず、ただ軟禁に近い形で拘束されていた。まるでこちらを監察するかの様に。
「え・・・でも俺達・・・」
「生かされている」
「え・・・」
「正確には拙者達が自分達に害する存在かどうかを調べる為に城壁都市の様子を見させているんだ」
ナーモがその事を口にしようとした時、ジロウは即座に答えた。そして「まるで」ではなく「本当」に自分達を監察していたのだ。
本当にこんなマネをしていたとは思わずゾッとするナーモはどことなく怯えの色が窺える声でジロウに訊ねた。
「どうすれば・・・」
「ただ黙ってあれを見ていろ。そして何もするな。手を出すな」
ジロウは飽く迄毅然とした態度で臨んでいた。だから淡々とした受け答えにナーモは少し落ち着きを取り戻した。
「唯々俺達は黙って、ドラゴニュートとの戦いを見ているだけでいいのですか?」
「「戦い」等・・・そのような生易しいものではない」
ナーモの言葉にジロウは目を細めた。そしてジロウの言葉に
「・・・・・」
ナーモは思わず絶句する様にただ黙ってしまった。
「投石用意ー!」
「弦を張れー!」
「バリケードを作れ!何でもいいから塞げ!」
只管防衛の準備に追われている城壁都市の兵士達は壁沿いに張り付いてバリスタの弦を引き始めた。
キリキリキリ…
弦がしなる音を鳴らしながら狙いを定める兵士達は有効射程範囲に入るのを待っていた。
「・・・・・」
グルルルルルル…
唸り声を上げながら兵士達の様子を眺めて何かを決めた1頭のドラゴニュートは
グオオオオォォォォォン!
一際大きい咆哮した。
すると他のドラゴニュート達は
ズオッ…!
橇に乗っていた岩を持ち上げ
グググググ…
振り被って
ガアアアアアアァァァァァァァァ!
その咆哮を合図に
ブォン…!
一斉に投げた。
「・・・!」
ドラゴニュート達が投げるモーションに入った事を知った兵士達は即座に物陰に身を隠した。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…!
一斉に投げた投石は一気に城壁都市の城壁に吸い込まれる様に被弾した。