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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
一の代価から十の結果
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285.御伽噺

 

「・・・・・」


 拮抗した牽制による膠着した空気にナーモ達と爬虫類ゴリラ達は動かずにいた。だが流石に今の爬虫類ゴリラ達の数、10頭相手にどうにかして対処しながら退却するのは余りにも難しすぎる。

 唯一救いだったのは爬虫類ゴリラ達がナーモ達の戦力を侮っていたが、仲間が殺された事には予想外だった。だからナーモ達の力量を改めて見極める為に、ジッと見ていた。逆にナーモ達はこれ以上爬虫類ゴリラ達の動きに注視していた。

 そんな拮抗した空気が数秒続いていた時、事態は動いた。


 ガウゥゥッ!


 茂みの奥から大きな白い狼の様な生き物が爬虫類ゴリラ達の内の一頭の首筋に食らいついた・・・!


 ギャアアアッ


 堪らず思わず悲鳴を上げる爬虫類ゴリラは振り落とそうと暴れ始める。


 !?


 突然の事に状況が一瞬飲み込めないでいる爬虫類ゴリラ達は右往左往する一歩手前にいた。


「!?」


 ナーモ達も突然の出来事に一瞬ながら動きが固まってしまう。その時、ナーモ達を囲っている爬虫類ゴリラ達の左側面から


 ギラッ!


 白く光る一筋の光が


 ザシュ!


 爬虫類ゴリラの1頭を袈裟斬りにした。この瞬間も突然の出来事。だからこちらも対処できずにプチパニックに陥る爬虫類ゴリラ達。

 袈裟斬りにした原因の正体をエリーの目に映った時、意外な光景を見て思わず声を漏らしそうになる。


(え、あの恰好・・・)


 歳は15~17歳位の活発的な印象のある少年。白い羽織の上に赤い羽織を着ており、細くてスタイリッシュを感じさせる群青の袴、丈夫そうな長靴を履いていた。

 ポニーテールの様に髪を結んでおり、額にはハチマキをしていた。ハチマキには桃の様な紋が入っていた。

 まるで桃太郎と新選組の土方歳三の格好を足した様な格好だった。

 それだけでも奇抜で驚く様な格好だが、それ以上にエリーが驚いたのは彼の額には角が2本生えていた。


(桃太郎がいる!?)


 それは桃太郎と言われてもおかしくない格好だった。


 ザンッ!


 近くにいた爬虫類ゴリラを同じように袈裟斬りをして更に別の個体に斬撃を入れる。


 ヒュン!


 サッ…!


 流石にこれ以上斬撃を受けない様に動く。だから桃太郎風の斬撃を避けた爬虫類ゴリラはそのままジリジリと後退していく。


 クルルル…


 予想外の人間が入って来た事に警戒して一定の距離を取って様子を見る爬虫類ゴリラ達。

 その内の数体が


 ギャアアアア!


 桃太郎風の男に跳びかかって来た。


「!」


 襲い掛かって来た爬虫類ゴリラを見た桃太郎風の男はまた剣を白く輝かせて


 ヒュン!


 斬って捨てた。


 グアアアア!


 ギャー!


 斬られた事による悲鳴や仲間が斬られて酷く取り乱したかのような声を上げる爬虫類ゴリラ達。


 ズズン…


 襲ってきた爬虫類ゴリラ達の重い体が地面に沈んでいく大きな音を鳴らした時、残りの爬虫類ゴリラ達はナーモ達の方を見た。

 その事に気が付いた桃太郎風の男はナーモ達の前に出て


「どいて!」


 ザンッ!


 近くにいた爬虫類ゴリラを斬り伏せる桃太郎風の男はギラリと他の爬虫類ゴリラ達を睨みつけた。


「・・・・・」


 鋭い眼光の上に今までの桃太郎風の男がやった事を思い返せば流石にこれ以上戦うのは無理だと判断した。


 クロロロロロロロロ…


 仲間の爬虫類ゴリラ達を見合わせたリーダー格と思しき爬虫類ゴリラは


 キャカカカカッ!


 と鳴き声を上げた。すると他の爬虫類ゴリラ達は呼応するかのように


 クカカカカカカカッ!


 と一斉に鳴き出した。そしてナーモ達をジッと睨みつけながらジリジリと後ずさりをして


 ・・・・・


 一定の距離を置いた事を確認した爬虫類ゴリラ達は一斉に


 ダダダダダダダダ…


 その場から素早く後にした。

 残心を忘れない様に鋭い目で辺りを確認し、漸く場が落ち着いた事を確認が取れたナーモ達と桃太郎風の男はお互いに顔を見合わせた。


「大丈夫であったか?」


 先に声を掛けたのは桃太郎風の男だった。

 通りすがりの人に声を掛けるかのような人当たりの良い印象の声だった。この事からこの人物は問題ないと判断したナーモ達。


「は、はい・・・」


 とは言え桃太郎風と言う独特の格好からして警戒しない方が珍しいだろう。更に言えばエリーに至っては「桃太郎」と言うものを知っているがつい奇妙な目で見てしまう。


「ん?ああ、この格好か?これは我が国に伝わるマンガ・・・本に登場する英雄の格好を模したものだ。如何だろうか?」


 視線に気が付いた桃太郎風の男はそう説明に入った。この時に口にした単語、「マンガ」にエリーは少しだけ眉を顰めた。

「マンガ」と言う単語は少なくともこの道中では聞いた事が無かった。元々現代日本人として生きていたエリーからすれば「漫画」はありふれた単語だ。中世程度の大陸の文明ではまず聞かない単語だ。それがここで口にしている事にエリーはこの男は少なくとも日本人と繋がりがあるのではないかと考えた。

 対してナーモとシーナは桃太郎風の男の格好を見て


「え、ええ・・・まぁ・・・」


「かっこ・・・いい?」


 と煮え切れない途切れ途切れの答え方をしていた。正直な所どうと言われても異国の文化に対して知らない事の方が多い上にこんな衣装など見た事も無い。だからナーモとシーナは「如何だろうか?」と言われても・・・と言うの心境になっていた。

 ククとココは桃太郎風の男の方をジ~ッと見ていた。


「「・・・・・」」


「む?」


 ククとココの様子に気が付いた桃太郎風の男は首を傾げて2人の方を見た。

 丁度目を合わせた瞬間、ココが気になっていた事を口にした。


「ねぇ」


 ココの言葉に反応してそちらの方へ向く桃太郎風の男。


「何で頭の所、お尻のマークが入っているの?」


 どうやら鉢巻きに描かれていた桃の絵が尻に見えた様だ。

 ココの言葉を聞いたエリーは思わずブフッと噴き出してしまった。

 桃太郎風の男はその事に怒りもせずに


(わっぱ)よ、これはこれは断じてお尻と言うものではない。これは「セントウ」という果物だ」


 と丁寧に教えた。


「「セントー」?」


 ククとココが一斉にそう尋ねると首を横に振る桃太郎風の男。


「違う違う、「セントウ」だ。皮ごと食す事が出来る甘くて瑞々しい果物だ」


 首を傾げるココに更に説明を入れる桃太郎風の男の言葉にココは


「甘い・・・」


 と呟き口から涎が出かかっていた。

 その様子のココにフフッと笑いながら更に補足説明を入れる。


「うん。セントウは甘いだけでなくこれ一つ食すだけで腹いっぱいになる上に、続けて食べれば病知らずになるのだ」


「「おお~!」」


 更なる説明にククとココは戦闘と言う食べ物に非常に興味を持って思わず声を上げた。同時にお互いの顔を見合わせて「どんな食べ物だろう?」とか「大きなものかな?」とか言い合って燥いでいた。

 ククとココがキャッキャッと騒いでいる最中、ナーモが桃太郎風の男に近付いて


「先ほどはありがとうございました」


 とお礼を申し上げた。

 そんなナーモに首を横にフルフルと振る桃太郎風の男。


「いやいや、何の何の!」


 桃太郎風の男は小さな声で「あ、そうそう」と言って


「我が名はジロウ・センノと申す」


 と思い出した様に自己紹介をした。確かにここまでの間自己紹介等していなかった。

 エリーは「そこは太郎じゃないの・・・!?」と言わんばかりの心境になっていた。と同時にジロウの名前にエリーは親近感が湧くと共に、シン以外の日本人に接触が出来たのではないかと考えた。

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