280.言葉を交わす
エリーの口からナーモ達の奴隷だった時とシンの事について以外の経緯を話した。シンの事については当然だが、奴隷だった事については自分達が本来輸送されるはずだった国が疑問を持って捜索している可能性があった。幸いにも自分達には奴隷の紋と言った奴隷だったという証明となる物は体には無かった。ただリストはあった。だとすればリストには自分達の特徴について書かれているかもしれない。その可能性もあったから奴隷だったとの事は伏せたのだ。
一通りの事について終始聞いたウルターはエリーが話し終えた時、小さく頷いて
「そうか、それなりに過酷だったのだな」
と労いの言葉を送った。
「ええ、まぁ・・・」
事実であるが相手が相手だからとても素直に「はい」とは言えない様な心境でそう答えるエリー。するとウルターはエリー達から見て意外な事を口にした。
「という事はそのエーデル公国で装備を揃えたという事だな?」
「はい」
もっと自分達の事について深々と知ろうとするのかと思っていたのだが、意外な所で食いついてきた。まさか自分達の武具や装備を揃えた国についてだとは思ってもみなかったからだ。
「・・・・・」
少し考えていたのか沈黙間が空く。そんな空気にエリーは遠回しに聴くよりも単刀直入に訊ねた方が良いかもしれないと考えた。幸いにもシーナもニックもいない。
ククとココは自分達の近くにいるし、足も速い。しかも少し離れているとは言え、周りには冒険者達がいる。
いざという時も何とかなるだろう。
だがら思い切って訊ねて聞いてみた。
「あの・・・」
「む?」
「ウルターさんは、何故私達の事を知ろうとしていたのですか?」
エリーが真っ直ぐな目で自分の方へ向けた事にウルターは
「お主達が気になっておったからだ」
と静かに即答した。
「私達が?」
意外と早く答えた事に少し意外な心境になるエリー。
こうした反応からして恐らく嘘は言っていない可能性が高いと考えた。流石に予め用意した嘘と言う可能性もあるが、ウルターの容姿からしてコソコソと動いてこちらの様子を窺いつつ尾行してきたというのは考えにくい。魔法を使っていると言う可能性もある。ここまでするとすれば恐らく狙いはエリーだろう。
だが今回の言葉を交わす限りでは明らかに関係のないメンバーについても知りたがっていた。
警戒する必要はあるが、エリーが考えている様な事ではないのは間違いなかった。
ウルタ―は具体的な説明をしようとした時、目の光を
「そうだな・・・例えばそこの少年」
「え、俺?」
ニックの方へ向けた。
驚いたニックは思わず自分で自分の方へ指を指してしまう。
「弓が得意な様だが、相手の意表を突かせる様な物を持っておるのか?」
「・・・・・」
ウルタ―の問いに思わず口籠ってしまうニックは地面の方を見た。この様子からしてどうやら自覚があった様だ。
実のところ最近自分の弓の命中精度が上がる程度だけでは限界がある様に感じていた。
的を射られて思わず口籠ってしまったのだ。
そんなニックから次にシーナの方へと目を向けるウルター。
「そっちの年長の少女よ」
「は、はい」
思わず体に力が入って緊張が走った。
「あらゆる武器を扱う事には長けている様だが、ある程度に絞らぬのか?」
「・・・・・」
内容自体はニックと同じ事を言われている。ウルターの言葉にシーナは理解できていた。シーナ自身かなり気になっていた面だ。確かにあらゆる武器を扱う事に得意だが、どの武器を主力武器にするのか決めかねている。あらゆる武器を扱う事が得意という事は普段から使う武器を絞り込む事が難しいという事だ。武器を買うにしても金が要る上に、旅する上では武器を沢山持つ事が出来ない。
今は暫定的に持っているがいい加減、絞る必要がある。
ウルターがその事を見抜いた事に思わず黙ってしまうシーナは持っている武器の方を見てしまう。
ウルターはそんなシーナから視線を切ろうと
「次に・・・」
周りの明るさがほぼなくなりつつある事に気が付いたウルターはシーナとニックを見て
「お主達は寝ろ」
と眠る事を勧めた。
意外な事を言われたニックとシーナは
「え」
「でも・・・」
意外な事言ったウルタ―に何か言おうとする2人だがウルターは言葉を挟む形で遮った。
「寝ろ。明日は早いかもしれぬのだぞ?残りの者も吾輩が行った後、すぐに寝させる」
ウルタ―の言う事は正しかった。早朝にて城壁都市の門は開く。それを狙って早くから並ぶものも少なくない。だから早く寝る必要があった。
正論故にニックとシーナは静かに頷いた。
「・・・分かりました」
「お、おやすみなさい」
そう言って城壁を背にしてシーナとニックは毛布を被って瞼を閉じた。
その様子を見たウルターは続きを話し始める。
「では」
そう言って今度はエリーの方へと向いた。
「・・・銀髪の少女よ」
「・・・・・」
ウルタ―の視線にエリーは身構える。
「お主には魔法の素質はあるが、まだまだ未熟。まずは想像する力を強く持て。必要とあらば新たな魔法も模索する必要があるのは理解できるか?」
「・・・・・」
エリーはコクリと頷いた。実際この件も事実だ。それ故にエリーは何か言い返す事も無く真摯に受け止めた。
その様子のエリーにウルターは頷いた。
「相手を見る時は相手を選ぶのだぞ」
「・・・分かっていたのですね」
そう言われた時エリーは目を細めた。ウルターが言っていたのはエリーが自分の能力を調べようとしていた時の事だ。
ウルタ―はエリーが自分の方へ魔法を向けられていた事に気が付いていたのだ。
「お主が未熟故でだぞ」
「はい」
何故気が付かれたのかについてを簡素に答えたウルター。
エリーはこの言葉にも真摯に受け止めた。
魔法はイメージと魔素の制御によって成り立つ。その内の一つでも欠けていれば今回の様にすぐにばれるという事に繋がるのだ。だからエリーはウルターの言葉を甘んじて受け止めたのだ。
「そして最後に年長の少年よ」
ウルタ―がそう言ってナーモの方へ向いた。
「はい・・・」
ナーモは身構え気味に緊張感を持った声でそう答えた。
「お主は腰に下げている物に耳を傾けよ」
「!」
ウルタ―の言葉に大きく目を見開くナーモ。驚きの様子を隠せずにいるナーモはそっと腰の霊剣に手を当てる。
この霊剣の事を知っている。
と言うよりもこの霊剣の存在が視認できている。
只者ではない。
瞬時にそう考えたナーモ身構えながら腰の霊剣について尋ねようとした時先に口を開いたのはククとココだった。
「おじちゃーん」
ウルタ―の声の低さからしてかなり年上で「おじさん」と言う単語に似合う年齢の声だ。それ故にククはそう呼んだ。
「む?」
ククの呼び方には少々失礼とも取れる事だが、相手が子供だからなのかそれとも気にしない性分なのか呼ばれた方へと向くウルター。
「ココは?」
ココがそう言って自分の方を指さしながらそう尋ねるとククも同じく自分の方に指を指して「うんうん」と頷いていた。
「・・・・・」
2人の事をジッと見つめて数秒程沈黙が流れる。
経った時、ウルターは
「好きな事をやって見せよ。そして何が得意で何を気に入るかを探せ」
と淡々と助言を2人に送った。
「「・・・・・」」
難しかったのか、それともいま一つピンと来なかったのか只々黙ってウルターの方を見ていた。そんな様子の2人にウルターは
「好きなようにせよ、という事だ」
と噛み砕いた説明で2人に納得できるように言った。
「は~い」
「わかったー」
ククとココは理解できたのか素直で元気のよい返事した。素直な返事を聞いたウルターはコクリと頷いた。
「分かったのならば、もう休め。先程申した様に朝は早かろう」
「「は~い」」
ウルターが促しの言葉にククとココは同じ具合の返事をしてシーナ達の元へ向かった。その様子を見ていたウルターはナーモ達の方へ向いて
「お主達ももう眠れ」
と言った。
「え?ですが、夜の番は・・・」
「この一晩引き受ける」
旅する上ではこうした野宿になる事になれば夜の番が必要になる。当然襲撃者がいるからだ。今でこそ城壁近くで人気がそれなりにあるとは言え、危険は危険だ。だから夜の番は必要になる。
だがウルターはナーモ達に眠る様に勧められた上に、ウルターが夜の番を引き受けようとしている。
流石に何かある。
そう勘ぐってもおかしくない。
「しかし、そんな重い鎧を着て行動してらっしゃったのでしょう?」
見る限りウルターの格好からして移動するだけでも相当疲れが来ていてもおかしくない格好だ。だから疲れを取る為に当然眠る必要があるはずだ。
「うむ。だが、話し辛い話をさせてくれた事へのお礼を思うて引き受けさせてくれ。よいか?」
丁重に断った上に夜の番を引き受けた理由も述べたウルター。
だがそれで引き受けさせても今日すぐに知り合った相手に夜の番を頼むのは気が引ける上に危険だ。
だがナーモの答えは
「・・・分かりました」
承諾してしまったのだ。
そんなナーモにエリーは思わず
「ナーモ!?」
と声を荒げた。
「・・・行こう」
だがナーモは冷静でどことなく諭す様な口調でエリーに言った事により何かあると判断して
「・・・分かった」
大人しく引き下がった。承諾した2人の様子を見たウルターは
「ゆっくり休むのだぞ」
と一声掛けた。エリーとナーモはペコッと軽くお辞儀して城壁近くにいるメンバー達の元まで行った。
「・・・・・」
その様子を見たウルターは先程迄囲んでいた焚火の方へ目を向けて一晩明かした。