279.寄る事を許す
ナーモ達に「何か用か」と問われて思わず、黙ってしまった事にすぐに気が付いたシーナは
「あ、いえ・・・」
と断りの言葉を言おうとした。その時先に口を開いた・・・と言うより挟んだのは
「おとなり、いーい?」
ココだった。
「「「!」」」
ココの様子に思わずナーモ達は思わず空気が凍り付いた。そんなココに髑髏の騎士はジッと見ていた。
「・・・・・」
髑髏の騎士とココとの様子にシーナは声を荒げて
「ちょっと!ココ!」
と割って入った。
「・・・・・」
そんな様子を未だにジッと見ていた髑髏の騎士に気が付いたナーモはすぐに前に出て
「どうもすみません!俺達、別の場所を探しますので・・・」
と謝罪の言葉を述べてペコリと一礼した。
「・・・・・」
その時、髑髏の騎士はナーモの腰に下げていた小さな霊剣に視線を向けていた。
「では・・・」
ナーモはそう言ってそのまま立ち去ろうとした。あの恐ろし気な髑髏の騎士からは得体の知れない雰囲気から離れる事が出来るという安心感と共にこれからどうしようと考えていた時だった。
「待て」
酷く響く低い声がナーモ達を制止を掛けた。
「は、はい・・・何か・・・?」
音がギギギギギ…という音が聞こえてきそうなぎこちない動きで髑髏の騎士の方を見るナーモ。
何を言われるのか。
出来る事なら関わりたくない位に威圧感がある髑髏の騎士。そのせいか他の冒険者達も近寄る事も無かった。
こんな風に絡まれるならならず者の様な荒くれ者の様な冒険者達が集まっている所に行く場良かったな、と一瞬過った。
そう身構えていた時
「近うに寄る事を許そう」
と言った。
「え・・・?」
思わず聞き返してしまったナーモに固まるメンバー達。
そんなナーモ達に
「隣に来い」
と低い声でそう誘われた。
どことなく威圧のある声でそう言われて「いいえ、御断りします」とはとても言えない。ただでさえ気の強い者でも一瞬たじろぐ様な風貌に更に威圧された声でそう言われてしまうと
「は、はい」
と思わずそう答えてしまう。
ナーモはそう答えてしまったのだ。当然他のメンバーも同じ心境だ。
但しメンバー2名は違っていた。
「ありがと~おじちゃん!」
「ありがと~」
ククとココだ。この2人は髑髏の騎士に対して恐れていない。寧ろ自分の縄張りとなっているスペースを分けてくれている気の優しい隣のおじさんと言う様な人物に映っていたのだ。
その証拠にククは無邪気だが馴れ馴れしい言葉で感謝の言葉を述べていた。
そんな様子のククとココにシーナはグイッと頭を一礼させる様に動いて
「どうもすみません」
と非礼と感謝の意を込めた言葉を髑髏の騎士に送った。
シーナ達の様子に髑髏の騎士は首を僅かに横に振って
「よい」
と低い声でそう言った。
その言葉を聞いたナーモ達は安堵していた。
但し次の言葉でその安堵は一瞬消える。
「その代わりに・・・」
「「「・・・・・」」」
何を求められるのか。
金か?
労働か?
それともかけがえのない何かか?
そんな不安な要求が頭に過って来る。
そう身構えていたナーモ達とは裏腹に髑髏の騎士が要求してきたのは意外なものだった。
「お主達の話を聞かせてもらおうと思うておるが、良いか?」
「「「?」」」
意がない要求に思わず首を傾げるナーモ達。
頭の上に疑問符が浮かぶナーモ達に髑髏の騎士は
「どうだ?」
と訊ねた。
「え、は・・・はい・・・俺達若いので余り話す事はありませんが・・・」
代表してナーモがそう答えた。
実際自分達は見習冒険者の様な立場で経験等、全く無い等しい。他に経験があるとするならば自分達の暗い過去位しかない。
正直な話、そんな過去の話は出来ればしたくない。
だから必然的に話せる内容が限られてくる。
しかし、髑髏の騎士は
「構わぬ。それよりも早う陣を構えろ。他にも支度が必要であろう?」
「は、はい!」
と一蹴するかのようにナーモ達が自分の隣で一晩明かす事を前提に話を進めていく。ナーモ達はほぼほぼ髑髏の騎士に流されるままに買って来た物と持っていた物で一晩明かす用意を進めていく。
そんなナーモ達を遠目からじっと髑髏の騎士は見ていた。
「・・・・・」
視線の先にはナーモの腰に下げていた。あの小さな霊剣だった。
(あれはやはり霊剣か・・・)
髑髏の騎士は一目で霊剣の存在に気が付いていたのだ。
支度を終え、夜になった頃。焚火の日を取り囲む様に座り、食事と飲み物を用意して、ナーモ達は髑髏の騎士と話を始めていた。
「えーと・・・旅の流れで何となく出会った縁に・・・乾杯・・・?」
「「「か、カンパーイ・・・」」」
ぎこちない乾杯の音頭を取るナーモにメンバー達はそれぞれに持っていた薄い果実水が入った木製のジョッキを片手に乾杯をした。
対して髑髏の騎士はそのジョッキに持たないどころか触れもしなかった。
「・・・・・」
触れもしない髑髏の騎士にニックが
「あ、えーと・・・飲まないのですか・・・?」
と訊ねる。
「不要だ」
淡白な答えを口にする髑髏の騎士。
ジョッキには気を使って安いが酒を振舞っていた。
だが「不要」の言葉に
「あ、そうですか・・・」
としか言えなかった。
そんなニックの様子に髑髏の騎士は
「すまんな。一言言えば良かったな」
と気を使っていた事に対する感謝の言葉と必要でなかった事を言わなかった事に対する謝罪の言葉を述べた。
「ああ、いえ・・・」
ニックがそう言って、「確認しなかったこちらも悪い事」に対する事を言おうとした時
「それよりもお主達の話を聞かせてくれ」
とナーモ達の話を催促する。
そんな髑髏の騎士に代表してナーモが答えようとする。
「え、えーと・・・」
緊張のせいか何ともぎこちなく歯切れが悪そうな話になりそうだった。
そんな時、ククが真っ先に
「はいはーい」
手を挙げた。
「む?」
気が付いた髑髏の騎士はククの方を見た。
注目を浴びたククは臆する事なく
「変な人に捕まって荷車に載せられたところ、黒い人に助けられて旅の仕方教えてもらって、武器を貰ったの~!」
と答え切った。
ザックリとした自分達の話を。
「・・・・・」
ナーモ達の話がザックリとした内容に思わず唖然・・・恐らく唖然として思わず黙っていた髑髏の騎士。ククとココの話にナーモは少し苦悶の表情を作って
「大体合ってる。合ってるけど・・・」
「省きすぎ」
ナーモの言葉に続けて答えたのはシーナだった。まるでツッコミを入れるかの様な物言いでそう答える。そんなナーモ達とは別にエリーはニックの後ろからそっと立って聞こえるか聞こえないか位の耳元に囁く様な小さな声で
「ステータスアイ」
と口にする。
その時だった。
「・・・・・」
「っ・・・!」
髑髏の騎士の不気味な双眸の光がエリーの方へと向けらていたのだ。それに気が付いたエリーは思わず息を飲んでしまった。
髑髏の騎士はエリーの存在に気が付いて
「娘よ、名は何と?」
と名を訊ねた。
エリーは戸惑いつつも
「え、エリー・・・です」
と名乗った。
名乗ったエリーに静かに頷いて髑髏の騎士は
「では話を聞かせても良いか?」
と訊ねる。
グロテスクな髑髏の兜からは表情が分からない。それ故にどういった意図で自分達の事について尋ねるのかについて疑問が大きく膨らんだ。
ここで変に断っても、何かしらの方法で接触するかもしれない。下手すれば執拗に追いかける、若しくは魔法が使える可能性も考えれば魔法で何かする可能性も十分にある。
探るべきか。
何故自分達をここまで知ろうとするのかを。
エリーはここで断らず
「・・・はい。沢山は語れませんが」
と話す内容を考えつつ髑髏の騎士が納得が出来る様な話をする事にした。
「構わぬ」
髑髏の騎士は納得し、改めてナーモ達の会話に交わる事にした。
「ところで・・・貴方の・・・」
名前は?
とエリーがそう尋ねようとした時
「これは申し訳ない。吾輩の紹介が遅れたな」
すぐに察した髑髏の騎士は胸に手を当てて自己紹介に入った。
「お初に目にかかる、吾輩は「ウルタ―・ライツァイ・トーテンコップ」と申す」
と名乗った。
その名前を聞いたナーモ達はやはり只者では無かったと頭に過って再び身構える心境になった。