276.恐ろしい発言
時は現在に戻り
「・・・飛行能力は問題なかったからそのままフリューと合流してそのままジンセキに戻ったという訳だ」
と今の今までの経緯を全て説明したアカツキはそう締めくくった。
全ての経緯を聞いたシンは目を細めて
「そうか・・・。前に対処したドラゴンとは別種だったんだな?」
と重い口調でそう尋ねる。
「ああ大きく違っていた。知能が高い上に異様に戦い慣れていた」
その場にいれば間違いなく頷くであろう答えを口にするアカツキから出た単語で
「戦い慣れていた?」
これが気になった。
知能が高いのは理解できていたが、まさか経験則で行動しているという分析と考察にドラゴンに対する見解が大きく変わり始めた。
「ああ。自分よりも小さくも脅威となる存在との戦いに慣れていた」
アカツキの結論に
「そうか・・・」
と鋭く目を細めて静かにそう答える。まるで深く考えている為の間を置いているかのような答え方だった。
そんなシンに更に判断材料を差し出す様に
「それに火に強いな。ディエーグの火炎をまともに喰らっていたはずなのに顔の部分を守って突進してきたし」
と説明を続ける。
「という事は・・・」
「ああ。熱や酸による攻撃方法、おそらくだが冷気も効かない可能性も十分にある」
それを聞いたシンはすぐに思い付く事柄が浮かび上がって口に出そうとする。
アカツキはその場にいれば頷きつつ、シンが言おうとしている事を代わりにと言わんばかりにそう答える。
「あの時のドラゴンは偶々ディエーグとの相性が悪かっただけだったんだな・・・」
小さな溜息をつきつつ、そうぼやく様に答えるシン。
「運が良かったんだ」
ディエーグに追い打ちを掛ける様にそう言うアカツキ。本人がいない事に好き放題に言うシンとアカツキは今までの事柄を纏めてドラゴンに対する認識を改めた言葉を口にする。
「想像以上に脅威的な存在だな、ドラゴンってのは」
「下手すりゃあれ以上に脅威的な存在もあり得る」
今回ディエーグが遭遇したのは飽く迄もディエーグよりも強かったドラゴンだったという話だ。あのドラゴンが戦い慣れていたとすれば、あのドラゴンと同じ力量を持った存在、若しくはもっと脅威的な力量を持った存在もいる可能性も十分にある。
だとすれば、今のディエーグどころかジンセキのスタッフ、シンの今の力量では到底敵わない。
「それなりの対策は必要になるか・・・」
対策を立てるにはやはり地道な調査がどうしても必要になる上に、個の力量だけではなく群のシステムを確実に構築する必要がある。
「ああ。だから現在、エネルギー不足の解消と共に対処方法も探っている最中だ」
「そう言えばエネルギー不足についてはどうなっているんだ?」
「実は新素材を考案して開発中だ。上手くいけば永久的にエネルギーを供給できるようになる」
「エネルギーを永久的に?太陽光発電か?」
エネルギーに関しては実の所リーチェリカが原因だ。はっきり言えばリーチェリカが自粛すれ一番問題ないのだが、現状個の力量でトップクラスだったディエーグがあの様であれば強く言う事が出来ない。
ならば変に自粛するよりも新たなエネルギー、特に再生エネルギーと言ったほぼ無限に生み出す事が出来るエネルギーをを模索する必要がある。
「いや、そうではない。確かに現状はメタンハイドレートによる火力発電とか太陽光に頼っているが、将来はそれらは必要としなくなるらしい」
メタンハイドレートとは、低温かつ高圧の条件下でメタン分子が水分子に囲まれた、網状の結晶構造をもつ包接水和物の固体である。およその比重は0.9 g/cm³であり、堆積物に固着して海底に大量に埋蔵されている。日本の海域において世界でトップクラスで埋蔵されているとして次世代エネルギーとして考慮されている代物だ。
現在ジンセキの近海にてメタンハイドレートが大量に埋蔵されているのが最近確認されて、採掘して火力発電用の燃料として活用している。
だがいくら大量にあるからと言っても無限ではない。いつかは切れてしまうし、燃費面やコスト面でも正直な所、他のエネルギー開発の事を考えればそれほど優秀とは言えない。
だから飽く迄も食い繋ぎで利用しているだけに過ぎない。早めに別のエネルギー開発を進める必要がある。
「らしいって・・・詳しい事は知らないのか?」
「ああ。ほぼほぼ一方的に提案して実験しているからな、あのマッドサイエンティストは」
アカツキの苦言にどことなく皮肉が混じっていた。何故なら事実だからだ。リーチェリカの性格と言うべきか、性質と言うべきか、こうした事情によりほぼほぼリーチェリカの単独で提案してすぐさまに実験に移っているからだ。
半ば勝手に実験をしていると言っても過言ではない。
「ああ、そう。まぁ、何にせよ進捗状況が良いのであればそれでいいんだけど・・・」
「まぁな」
だが実際リーチェリカのこうした節操のない位にまで即時実験行動には助かっている部分が多い。今回の様にエネルギー開発面ではすぐに提案してすぐに研究を進めている。
エネルギー面で問題が起こっている現状ではかなり助かっている。
それ故に余り強く言えない分が大きい。
そこまで考えに至ってシンが何か言おうとした時
「・・・・・」
気配を感じた。
僅かながらこちらにジリジリと近付いて来るような気配だ。
殺意や害意はない。
だが怪しい。
考えられるのはシンがボソボソと布団の中で呟いている事に気が付いて、その内容を確認しようと動いた、が最も考えられる。
途中から聞かれてもそれ程問題は無い。何故なら聞いても知らない単語が多い上にチンプンカンプンな内容だからだ。
このまま話を続けて問題ない。
だがこの国は来訪者との関わりが深い。だとすればこうした専門的な単語ですらも知っている可能性もある。また例え知らなかったとしても効かれた内容を一字一句間違わずにオオキミの息が掛かった来訪者や転生者に伝わる事になればこれは問題ある。
シンがこれ以上の会話は流石に問題あると判断した瞬間
「そろそろ切るか?」
と先にアカツキが提案してきたのだ。
「ああ、通信終了」
当然その提案に乗るシンは即座に終了した。
「ああ、通信終了。お休みボス」
アカツキも挨拶と共に終了をした。シンはそのままそっと通信機となる物を外して枕元に置き、仰向けに寝直した。
「永久的か・・・」
見える何も無い木製の天井を眺めてか細いと表現してもいい位に小さな声でそう呟くシンは目を細めた。
「恐ろしい事言うな・・・」
思い返せばリーチェリカの口から飛び出たとされる単語にそう感想を述べた。
永久的。
実現すればかなり恐ろしい話だ。これを狙って来る者もいるだろう。
その事を考えればここで通信を終了して良かったと考えたシンは静かに目を閉じた。
だがこの恐ろしい発言、違う形で「恐ろしい発言」であったと思い知らされるのはそう遠くない未来だった。