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アンノウン ~その者、大いなる旅人~  作者: 折田要
一の代価から十の結果
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274.一瞬

 軋む金属音。

 稼働するエンジン。

 そんな音の中で更に音が増える。


 ガコン…!


 排出された56口径8.8cmの砲弾の排莢音がして


 ガン・ガラガラガラ…


 排出されて落ちたきた薬莢が狭い車内に響かせる。


 シュ~


 装填しようとすると発射による熱によって僅かな白い煙が出て来て、簡単に触れなかった。


「熱っち!」


 その熱により思わずそう声を上げてしまう声は少年の様な酷く若かった。そしてその正体は声の通りだった。

 内部の仄かな照明が黒髪で汚れた作業着を着た16~18歳位の少年が重たい砲弾を抱え上げていた。


「次弾装填!」


 そう声を掛けると


「おう!」


 と照準器を覗く少年が声を張った。


「!」


 照準器の向こうにいた存在に思わず声にならない驚きの声を上げた。


「どうした?」


 車長の席にいた歳は同じ位で眼鏡をかけていた少年がそう尋ねた。


「左ちょい辺りに槍を持った鬼がいる!」


 そう声を張ると機銃が備え付けられている所の窓からその存在を確認した。窓と照準器から見えたのは薙刀を持ったカナラの存在だった。


「・・・いるな。逃げる気配がないな」


 明らかに撤退していく鬼人族の兵士達とは違いカナラは仁王立ちして動かずにいた。その様子からすぐに只者ではないと理解する。


「・・・一発かますか?」


「おう、撃て」


 雰囲気からして強者であると理解した少年達は一先ず様子見で攻撃を仕掛ける事にしたのだ。


 ガコンッ!


 装填完了の音によって合図して


 キュリリリリリリリリリ…


 ピタッ…


 砲塔をカナラの方へと向けて止めた。照準器を覗いて狙いを定めていつでも撃てる様にした。対してカナラが薙刀で突きの構えをとった瞬間、姿が消えた。


「!」


 どこへ消えた!?

 そう考えた瞬間、操縦席の窓から見えたのは白い光だった。


 ドッゴンッ!


 激しい衝撃と共に縛の様な轟音が辺りに響かせた。


「・・・!」


 カナラが一気に戦車との距離を詰めて操縦席の窓を狙って強烈な一突きをそのまま入れ込んだのだ。


 バッガァァァァァァァァン…


 57tもあるはずなのに巨大な戦車が僅かながら浮き、揺らした。


 バラバラバラバラ…


 戦車を強く揺らし強い衝撃により打ち付けられた鋲が飛び出す様に外れ、装甲に使われている鉄板すらも5m程飛んでいた。


 ・・・・・・・・・・・


 中から小さな白い煙が上がり沈黙した。その様子を確認してカナラはズッと薙刀を引き抜き、残心を忘れずに一歩程後ろに下がった。


「・・・・・」


 他愛無い。

 そう言わんばかりの無言だった。

 戦車の中に人の気配が無くなった事に安堵したカナラの後ろから声が聞こえてきた。


「流石はカナラ殿!」


 それは撤退戦を行っていた鬼人族の兵士達だった。


「あの鉄の巨獣を一突きで屠るとは・・・!」


 彼らの口ぶりからして戦車との戦闘でもカナラの方が勝つと信じて疑う者はいなかった。それ故か、鬼人族は息吹を吹き返すかのように撤退しかけていた鬼人族の兵士達は敵軍目掛けて突撃を始めた。

 そんな鬼人族の兵士達に一瞥もせず、カナラは寂しそうな目で撃破した戦車の方を見て


「皆、この中を開くぞ」


 とボソリと言った。

 その言葉を聞いたカナラの近くにいた鬼人族の兵士は


「は?」


 と素っ頓狂な声で思わず聞き返してしまった。攻勢を強めて雪崩れ込む様に突撃していく鬼人族達がまるで小川が流れていくかの様に自然な風景に溶け込むかのように話を進めていく。

 はっきり言えばかなり異常な事を言っている。今は戦闘中だ。いくら優勢とは言え、こんなマネをしている場合ではない。それなのにこの得体の知れない鉄で出来た化け物の中をこじ開けようと言っているのだ。

 そんな唖然としている兵士に視線もやらずに


「開くぞ」


 と言い切る。声には妙に魂が籠った強い言葉だった。

 だから兵士は思わず


「は、はい・・・承知しました」


 と戦車の方へと近付いて行き、撃破した戦車をどうにかして開ける事にした。





 ギャッギャリッ!


 ギギギギギギギギギギイィ…


 カナラとのやり取り気が付き何となく近付いてきた5人の兵士達で戦車に登り、無理やりこじ開けた。そのせいで不快な金属音が鳴っていた。その場所は戦車で言う所のハッチだった。

 そのハッチをこじ開けて、内部を真っ先に中を覗いた兵士達。


「っ!」


 そこに兵士達の目に映ったのは変わり果てた黒髪、黒瞳の少年達だった。全身の骨がバラバラに砕けて穴と言う穴から血を拭いて事切れていた。特に酷かったのは操縦士に至っては誰が誰だか分からない位にまで上半身が破裂したかの様に吹っ飛んでいた。

 戦車の内部にある機関や機器が衝撃の影響でへこみやキズ、酷ければ鉄板が剥がれていた。


「・・・やはりか」


 カナラも登り、この言葉を零す。

 内部の様子がどうなっているかについての言葉ではない。

 戦っている相手がどの様な人物なのかについての言葉だった。


「・・・・・」


 カナラは目を細めて唯々静かに戦車の内部の様子を眺めていた。周りの声は妙に活気づいていた。その声は鬼人族の兵士達だった。

 そんな活気づいた声が敵軍の方から聞こえて来ていたが、カナラはその音すら自然な音の様に気にも留めずそのまま戦車の内部を眺めていた。


「ここにいらしたのでありますか、カナラ殿・・・」


 敵軍が退いた方角から鬼人族の兵士一人がやって来てカナラの方へ向かって声を掛けよう戦車に登った。


「・・・!」


 カナラに声を掛けようとして戦車の内部を思わず覗き込んでしまった兵士は思わず絶句してしまった。この世界においての成人年齢は15歳からが多い。

 それ故からか、鬼人族の兵士が目の当たりにした黒髪の少年達の変わり果てた姿を見てしまって色々思う所が出てくる。

 そんな鬼人族の兵士達にカナラは


「この者達を丁重に・・・頼む」


 とボソリと呟く様にそう命令を下した。


「・・・は、承りました」


 命令に静かに承諾した登っていた兵士はそのままそっと戦車から降りていった。

 カナラは静かに目を閉じて


「・・・・・」


 スッ…


 静かに手を合わせた。

 それは亡くなった者への供養する為の祈りを捧げている合唱と同じだった。





「それからその遺体をオオキミ武国(本国)へと輸送したのであったな・・・」


「は」


 時は現在に戻る。

 カミコとカナラが話していたのは過去の戦争体験の話だ。

 その戦争は大陸では「ナーラム事変」と呼ばれていた。それはラッハベールの赤面が起きてからおよそ160年後の事だ。再度外征に出る事になったオオキミ武国は交流のあるアスカールラ王国を通じて渡来していた。当時も大陸内では小規模の内戦や国家間の大規模戦闘が繰り広げられていた。当時のアスカールラ王国は護国防衛の為に注力はしていた物の、狙われる国の方が多かった為、不定期的にオオキミ武国に共同訓練を持ちかけた。オオキミ武国も大陸の情報が欲しかった為、快く承諾した。無論アスカールラ王国の目的は「共同訓練」と言う名の遠征派遣による一時的な軍備拡張が目的だし、オオキミ武国も承諾していた。

 当時はアスカールラ王国を狙う隣国に度々紛争が頻発していた。そんな紛争の真っ只中にある傭兵団が敵国に雇われて活動していた。その傭兵団は「パンツー」と呼ばれており、幾度も劣勢になっていた軍勢を一気にひっくり返してきたとされている当時話題になっていた。傭兵団は5人で構成されており、鉄の巨獣がいると噂されていた。

 そんな傭兵団を相手にカナラは快勝を果たしたのだ。そして、その戦後にて来訪者と思われる少年達の遺体を引き取り、法術師によって氷漬けにしてオオキミ武国に帰還したのだ。

 そんな思い出話を花を咲かせる様に語り合う2人の手には酒が入った御猪口を持っていた。


「妾がまともに来訪者を目にしたのはあの時だけであったな・・・」


「は」


 当時カミコは来訪者とされている少年達の遺体をまともに目の当たりにして、恐らく来訪者と言う存在を始めて視認したのだ。


「そしてオオキミ武国(我が国)の軍事増強の大きな切欠となり、成功した」


「は、その上、大陸側で何やらきな臭さを感じた、切欠でもありました」


 戦車による戦術や戦車にしかできない攻撃方法や能力を目にしたカナラの報告により自国の軍備強化に乗り出して成功に納めたのだ。

 来訪者がこの世界に齎した影響でオオキミ武国の様に積極的に研究して軍備拡張や強化に繋がったのだ。つまり来訪者や転生者の知識や技術がこの世界においてどれだけの影響を齎すのか等未知数なのだ。今回の場合は敵となっていた来訪者は死亡し、戦車は大破した。それ故に戦車そのものを作ろうとする考えは無かったとはいえ、戦術や性能を目にしただけで今後の進化した戦闘の大きなヒントとなるのだ。

 隣接している国こそ無かったからよかったものの、大陸内であれば明らかに軍事バランスを崩しかねない事だ。

 シンはこれを恐れているのだ。


「・・・未だにどこのどの国がと言うのは分からずじまいじゃな」


「現段階では思う様に手掛かりが掴めておりませぬ」


 この紛争においていくつか妙な点が多くあった。まず何故()()()程度で未知のそれも明らかに最新鋭の兵器とされる物を所有しており、堂々と活動が出来たのか。

 資金源は?

 資材は?

 運用は?

 こうした数々の疑問が浮上するが、何故か尻尾すらも掴ませられなかったのだ。


「歯痒いのぅ・・・」


「歯痒うございますなぁ・・・」


 疑問が払拭できずにいる故にもどかしい気持ちがユラユラと己の内で揺らめていた。その揺らめきを体現するかのように大きく溜息をつくカミコとカナラ。

 だが現状の事を思い返して小さく頷くカミコ。


「まぁ、今はそれとは別じゃがシンが居るからのぅ」


「は」


 確かに自分の膝元にはシンが居る。シンは来訪者だ。大陸内の情勢こそ知ること出来ないが、シンが居た世界の文明の記憶をオオキミ武国(この国)に反映してくれれば少しは和らぐと言うもの。上手くいけば大陸内のきな臭さに対抗できる手段も出来る可能性も十分にある。

 その為にはシンを僅かながらの時間でも良いからオオキミ武国(この国)に留まらせる様に画策せねばならない。

 その大役を命令するカミコは勿論


「任せたぞ?」


「は」


 カナラもそうだ。現時点でシンの強さはカナラよりも少し下だ。ならばシンが何かしようとした時に備えも十分にある。

 それ故に任命したのだ。

 だからカナラの返事もどことなく力強く決して曲げる事をしない芯の通った声だった。

 全ては、大陸側の得体の知れない動きとその影、きな臭さを払拭する為。


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