272.やっと報告ができる
同時刻。
灯り一つない暗い部屋の中にて。
ボソボソ…
ボソボソ…
そんな声であるが声とも思えないくぐもった声が聞こえていた。
モゾ…
布が擦れて柔らかくも少し乾いた音が聞こえた。
その部屋はシンが泊まっている部屋だった。
ボソボソ…
ボソボソ…
くぐもった声はその布の中からだった。
しかも布は膨らんでいた。よく見れば下には敷布団が敷かれている。この事から布の正体は掛布団である事が分かる。
という事は当然、布団の中に誰かいる。その証拠に掛布団の隙間から僅かな光が漏れていた。
「スト・・テスト・・・」
声の主はシンだった。
どうやら通信テストを行っていた様だった。
「こちらアカツキ。どうぞ、ボス」
小声のシンの言葉にアカツキはすぐに応答した。当然音のボリュームはかなり小さめにしている。
「おお、聞こえるな」
思っていたよりもすぐに応答したから少し安堵に近い心境になったシン。対してアカツキは今のこの状況に疑問を持っていた。
「ああ。声もかなり抑えているみたいだが、今はどんな状況だ?」
シンの小声の上にアカツキのカメラでは真っ暗になっている。分かると言えるのは何かの隙間から光が漏れ出ている事位しか分からなかった。
「布団の中に潜っている」
「は?」
何故そんな事をしているのか。そう言わんばかりの疑問の一文字を口にするアカツキ。
「布団の中に・・・」
「いや、聞こえてる、聞こえてる。じゃなくて・・・」
シンは聞き逃したと考えてもう一度言おうとした時、即座にアカツキは否定した。
アカツキが何を聞こうとしているのかをすぐに理解したシンは理由をすぐに答えた。
「周りに誰かいる様だ」
正確にはこの部屋の外に誰かがいるのだ。恐らく自分の動向について探ろうとしているのだろう。だが自分の本来の立場を明かされるわけにはいかない。それ故に部屋を真っ暗にして声や音が漏れにくい様に布団を被ってアカツキとの通信を図ったのだ。
ただ何か不気味な独り言を呟いている様に見えてしまうという代償があるが・・・。
シンの説明が無かったが、理由を知ったアカツキはどうしてこうした事をしたのかについてすぐに理解した。
「なるほど、俺達の会話を聞かれない様にって訳か・・・」
小さな声で「うん」と答えて
「恐らく、3人程いる。余り声を張ると聞こえるから、この声量で会話するぞ」
と正確に答えた。
置かれている状況を詳細に理解したアカツキは本題に入った。
「OKボス、1から詳しく説明するが、何から聞きたい?」
漸く本題に入る事になってホッとするシンは今気になっている事についてを口にした。
「まず、何故エネルギー不足なんだ?」
アカツキからの第一報ではかなり衝撃的なものを突き付けられた故に印象に残ったのだ。
「一言で言うなら俺達が使うエネルギーが供給に追いついていなかった」
正直、これについては意外だった。
何故なら
「確か、地方都市4都市分位の電力だったように思えたが、それでも足りなかったのか?」
軍事基地で使われている電力は規模にもよるが地方都市分であれば十分すぎる位にある。しかもわがまま言う人間はシンただ一人の上にジンセキから離れているから実質ジンセキは無人島状態にある。その上大規模な軍事基地程度なら問題なく稼働できる位の電力だ。
だがそれでも足りないとなれば何が原因なのかが分からなかった。
「ああ。特に研究とグーグスの維持用の電力に大きく使ってしまっていたんだ」
一応アカツキなりにぼかしてそう答えるが、答えを耳にしたシンは眉間に皺を寄せた。
「・・・どっちだ?グーグスとリーチェリカどっちが電気を喰ったんだ?」
シンのこの質問にアカツキは「答えなきゃダメか」と諦め気味に
「・・・リーチェリカだ」
と答える。
正直驚きもしなかった。寧ろ想定通りだった。リーチェリカの事だから何かしらの実験にて大きくエネルギーを使う様な事を慢性的に行っていたのだろう。
容易に想像が出来る。
シンは小さな溜息をついて
「やはりか」
と呆れた声を漏らした。
呆れるシンにアカツキは更に重要な情報を口にした。
「それからもう一つ報告がある。ディエーグがドラゴンとの戦闘において不利に状況に立たされて最終的には一部破損という形で撤退を余儀なくしたんだ」
アカツキに報告にシンは思わず
「は?」
と声を漏らした。
「待て待て待て、確かディエーグは前にドラゴンとの戦闘した事があるだろ?それとはタイプが別なのか?」
以前ディエーグがドラゴンとの戦闘で問題なく制圧で来た時の事を考えると今回のドラゴンで撤退を余儀なくさせてしまう事態になった。事実上の敗北。
何故こうなったかについて理由を訊ねられずにいられなくなったシンは即座に質問をした。
「ああ。雲泥の差がある位に、な」
質問に対してこう答えるアカツキにシンはやはりタイプが違うかったかと覚り、考えられる事を口にした。
「・・・デカかったのか?」
「いや、そうではない」
シンの問いかけにアカツキはすぐに否定した。シンは意外な答えに少しの間、唖然としていた。
「じゃあ・・・」
僅かな間ながら、漸く口を開いた時、口を挟む形で先に口開いたのはアカツキは一言だけ
「ギュウキと同じだ」
と答えた。
それを聞いたシンはすぐに電線が繋がったかのような閃きを覚えた。
「!それって・・・」
すぐに頭に過った事を口にしようとした時、この場に居れば間違いなく頷いていただろうとされる言葉を口にするアカツキ。
「ああ、戦闘になったドラゴンは動きからして知性あるものと推測される」
以前戦ったドラゴンは騎手の指示で動いていた。それなりに知性がある事は間違いなかったが、驚異的ではなかった。言うなれば人間程の知能では無かったのであれば、それなりの戦い方になる。だから対処しやすいのだ。
だが今回の相手は違った。
「かなり苦戦を強いられたのか?」
シンが恐る恐るそう尋ねると
「ああ、俺達の知らない事の方が多かった」
とアカツキは反省するかのようにそう答えた。
この口調からして何かジンセキ側にとって想定外の事が起きたのだろうとすぐに理解したシンは
「・・・更に詳しく」
と言った。
アカツキは
「OKボス」
と答えて詳細な報告を始めた。
同時刻。
暗い空には本来月が出ているはずなのだが、今夜に至っては雲によって遮られていた。それ故に光を必要とする者にとっては更に不便さを感じる夜だった。
暗い草原の真ん中で小さくも不気味な青白い光2つがゆらゆらと動いていた。
ガシャ…ガシャ…
草を踏み枯れ枝を折る音と共に金属音が聞こえていた。
ガシャ…
動きを止めてある場所に止まった様だ。
「・・・・・」
風が吹き、雲が吹き飛ばされて月が見えた。それ故に月明かりが徐々に辺りを照らして光を受けた対象物の全貌がある程度見えてきた。
それは魔王と呼ぶべき存在。
そう言われてもおかしくない格好だった。
額から3本の角が生えた暗めの黄金色の髑髏を模した兜。その兜は少し特殊で、上顎部分がバイザーとなっており、開けば大きく口を開ける様な見える変わったデザインの兜だった。髑髏の目には不気味な青白い光が帯びていた。
黄金の頭部と首部分より下は黒い金属によって構成されたプレートアーマー。よく見れば上半身は男性の鍛え上げられた裸体を模したデザインであり、下半身は西洋騎士で見られるデザインのものだが、所々の淵に不気味に輝く暗めの黄金の輝きが煌めかせている。上半身を脱ぎ、下半身が西洋の鎧を装備しているという独特のデザインの鎧だった。
手にはグリップとなる部分には暗めの黄金色の金属で丸い王冠に模したメイスの様なデザインになっており、それ以外は黒い金属によって構成されて、石突部分が一般の物よりも更に鋭さを帯びた、明らかに戦う事を前提の杖を握っていた。
首元には暗めの紫のマントを羽織っていた。
「これか・・・」
鎧の中から話しているせいか、低い声が響いていた。声からして男だった。それもかなり経験豊富さを窺わせる様な雰囲気が漂っていた。
そしてその髑髏の騎士はある物に視線を向けていた。
酷く朽ちかけているがそれは高さ3m全長8m程の金属製の何かだった。赤い錆びに支配されるかのように覆われて、金属特有の美しい光沢は全く無くなっていた。
折れた長い円筒状の物体が取り付けられた金属の箱。
所々には平たい丸鋲が打ち付けられており、手摺なのかパイプの様な物が取り付けられていた。
切れた履帯。
よく見れば錆びた表面に所々に苔の様な物が付いており、大きな疵や破裂したような跡があった。
そんな大きな物体を見ていた髑髏の騎士から
「ノーディブランの獣か・・・」
とボソリと言葉を零した。
その物体は第二次世界大戦にてナチスドイツが誇る戦車VI号戦車ティーガーE型の朽ちかけた姿だった。
一先ずですがこの章はここで終わります。
次回からは別の章に突入します。
少し変な形でこの章は終わりますが少し進めて話を確認し、少し考えた所、変に伸ばすよりもここで斬る事の方がスッキリすると判断してここでここで終える事に致しました。
次回は新章になりますので、ご期待くださいませ。
今後ともよろしくお願いいたします。
お楽しみに!