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269.勧誘

 聞き捨てならない単語、「大陸側」。

 サクラの出身はレンスターティア王国、大陸だ。それ故に何かしらの危険が孕んでいる事に付いて口にしたカミコに向ける視線は疑惑と身構えによる鋭い細い目だった。


「大陸・・・?それはどういう・・・」


 事か、と訊ねる前に横槍を入れるかの様に先に聞こえてきた声の主は


「失礼いたします」


 カナラだった。


「苦しゅうない。入れ」


 カナラの声を聞いたカミコはそう返事をした。

 そして入って来たのはカナラだけでなく、シンとサトリも一緒だった。


「シン殿とサトリ殿を連れて参りました」


 そう答えるカナラに頷いたカミコ。


「大儀であった、カナラ」


 ニッコリと笑ってそう言うカミコにカナラは軽く頭を下げた。


「は」


 その様子のカナラを見たカミコは今度は神妙な顔つきで


「後に報告をせよ」


 と命令を下した。カナラは更に頭を下げて


「は」


 と答えた。

 その様子を見たカミコは頷いて


「うむ。下がれ」


 と下した。


「は、拙者はこれにて」


 カナラは他に何かいう事なくその場を後にした。シンとサトリはそのまま部屋に入り、サクラ達の隣に座った。

 座った事を確認したカミコはチラリとシンの方へ向いて


「シンよ」


 と声を掛けた。


「はい」


 答えるシンにカミコはフッと笑った。そんなカミコにシンは首を傾げる心境になりつつ耳を傾けていた。


「耳が飽きる程ではあるが、言わせてもらう」


 落ち着いた声で


「帥の此度の働き、大儀であった。美事(みごと)であった。褒めて遣わす」


 強く且つ深みのある声でそう感謝の言葉を贈るカミコ。

「心を込めた言葉」、と言えば「ありきたり」な表現だが、この声と言葉を耳にした時この表現が最もなもので今後決して「ありきたり」等と思わなくなる位の言葉だった。


「・・・・・」


 この言葉を聞いたシンは目を細めて


「有難き幸せ」


 と丁寧な言葉でそう答えた。

 カミコは「ホホホ」と小さな声で笑う。そんなカミコにシンは首を、現実で首を傾げた。

 シンが「え、何?」と言わんばかりの顔にカミコはクスクスと笑いながら


「許せ。帥の言葉遣いが慣れておらぬ事が余りにもはっきりとしておる故、可笑しくて(おかしゅうて)可笑しくて(おかしゅうて)・・・」


 と答えた。

 更にプクククと堪え笑いをするカミコにサクラも


「プ」


 と噴き出す様な笑いが聞こえた。


「(マジか・・・。俺一応軍に属していたから言葉遣いは問題無いはずなんだが・・・)お戯れを・・・」


 シンは嘗て軍に居た事がある。それもかなり規律や礼儀が厳しい所である所が多くあった為、礼儀は否が応でも覚えさせられた。だがそれなのにここまでの間、「慣れていない」や「苦手そうだ」と言う感想と共に「無理して丁寧な言葉遣いになるな」と言われてしまう始末。正直な所自信を失いそうになり始めてきていた。

 しかもサクラの笑い声を耳にすると少しムッとした心境になったシンが苦言を呈すると


「よい。好きな言葉遣いで話せ」


 ニッコリと笑いながらそう言ったカミコ。

 少し考えて普段の口調のままで話した方が良いかと判断したシンは


「・・・・・分かった、このままでいかせてもらう」


 と普段の口調で答えた。


「それでよいよい」


 ニッコリとした笑顔でそう答えたカミコはついでと言わんばかりに別の話題を口にした。


「此度の件での委細詳細の報告書に目を通したが、中々に面白い」


 ギュウキ事件でまとめた報告書改めて目を通したカミコは何か気が付いた様だった。

 何についてかこそ分からないが相手は油断ならないカミコだ。


「面白い?」


 それ故に目を細めてそう尋ねるシン。そんなシンにカミコはそう警戒するでないと言わんばかりに


「ギュウキがここまで知性があるという事じゃ」


 とはっきりと答えた。

 安堵と同時に疑問が浮上し


「・・・俺が倒したのは操られていたからでは?」


 と訊ねた。

 確かに今回のギュウキは「フッタチ」によって能力が上がっていた。しかも人間の言葉位なら理解できる位にまでの知能が発達していた。

 だがカミコが言及したのは()()()のギュウキでは無かった。


「確かに、「フッタチ」のギュウキは能力が上がっていたが、他のギュウキもそれなりに知性ある行動をとっておった」


 その言葉を聞いた時、確かにギュウキの群れの行動には「フッタチ」程ではないが、かなり知能高い事が窺える行動が多く見られた。

 それこそ言葉こそ理解できなくとも、どれがどの敵で我々の敵がどれなのか位すぐに理解できる位の知能だ。

 その事を思い出したシンは目を細めた。


「つまり、「フッタチ」がなくとも元々の能力・・・知性があったと?」


「そういう事じゃ」


 シンはカミコが何を言わんとしているのかをすぐに理解できた。


「なるほど、今回のギュウキ事件で能力が高い事が分かれば今後の対策が取れるという事か・・・」


 知性があるという事はそれなりの行動をとる事が出来る。例えば同じ鳥類のハトとカラスで対処が大きく異なってくる。

 それと同じ様にそれなりの対処が出来るという事になる。だがカミコはニヤリとし笑顔になった。


「それだけではない。あれだけギュウキに知性があるという事は対話も取れる可能性もあるという事だ」


 カミコの言葉にシンは眉を顰めた。


「・・・今回の「フッタチ」で大きな被害があったというのにか?」


 半端な知識と技術で付け焼き刃程度に行ったせいとは言え、「フッタチ」を使用してこんな事件があったというのに「フッタチ」を使用する気かと考えてしまったシンは低い声で食って掛かる様に訊ねた。

 シンの問いにカミコは横に頭を振った。


「そうではない。そもそも「フッタチ」等使わぬ」


「使わない?」


 意外な答えに思わずオウム返しに訊ねた。


「そうじゃ。使わなくともそれなりの対話が取れるかもしれないという事じゃ」


 自信満々の答えに


「対話が出来る・・・」


 マジかと言わんばかりのオウム返し。

 どうだと言わんばかりに


「想像がつかぬか?」


 と訊ねるカミコ。


「つかないな」


 首を横に振ってそう答えるシン。

 そんなシンにカミコは扇を広げて


「ふふ、やはり・・・」


 と何か確信を得たような口振りになった。


「?」


 そんな様子のカミコに少し嫌な予感がしたシンにカミコは言葉を続けた。


「いや何、帥が・・・」


 扇を閉じたと同時に


「日本人である事が確信を得ただけじゃ」


 と言い切る様にして答えた。

 そんなカミコにシンは思わず


「・・・!」


 短く息を吸った。

 まさか「自分が日本人である」というピンポイントに言い切ったカミコに思わず驚いたと同時に、シンは観念したのか思わず


「対話が出来るという話は常識なのか・・・?」


 と自分が日本人である事を認めるような事を口にしてしまった。だがこれはどうしようもない事だ。カミコはキッパリとシンに対して日本人と言った。

 しかしカミコの次の言葉でシンは後悔してしまう。


「いや、その道の者であってもごく少数じゃ」


 シンは思わず「はぁっ!?」と叫びそうになった。ごく少数という事はギュウキの様な生き物が対話できる可能性がある生物がいるのは一般的ではなかったからだ。

 つまりシンは


「試したのか・・・!?」


「許せ」


 試されていた。

 しかも事実だった。


「・・・・・」


 最早何かしらの言い訳や言い逃れと言った方法も、はぐらかす方法も無い。


「・・・カミコ様の見立て通りだ」


 もう誤魔化す事が出来ないと考えたシンは概ね認める事にしたのだ。


「ほう?認めるのか?もう少しごねるかと思うたが?」


 悪戯好きな笑顔になってそう尋ねるカミコ。


「今までの事を考えれば何か確信があって俺を試していたのだろ?」


 内心ムッとしているがやむを得ない事情が事情なだけに正直に答えるシン。


「その通りじゃ。妾は帥は来訪者であると考えておる」


 そんなシンに悪戯好きな笑顔を止めて見守る様な笑顔で答える。

 カミコの答えにシンは小さな溜息をついた。


「正解・・・と言いたいが、カミコ様が考えている様な来訪者ではない」


 意外な答えにカミコは眉を顰めた。


「どういう事じゃ?」


「・・・上手く言えないが、恐らくカミコ様が知っている様な平和な時からやって来た来訪者ではない」


 一瞬どう答えようかと考えたが、変に嘘を言うよりも事実を言った方が良いと考えたシン。そんな答えにカミコは目を細めて


「・・・帥の時代は戦が常か?」


 と訊ねた。


「日常だった」


 シンは頷きながらそう答えた。


「そうか・・・」


 シンの答えに呟く様に答えるカミコは少しの間だけ考え込んだ。

 そして口を開いた時、神妙な顔になった。


「シンよ」


「何だ?」


 シンがそう尋ねた時、一拍空けて


「帥はこの国の民にならぬか?」


 と真剣な口調でそう尋ねたカミコ。


「「・・・!」」


 そん言葉を聞いたサクラとサトリは思わず、驚きの心境になる。

 そしてシンはただジッとカミコの方を見ていた。


「どうじゃ?」

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